ガレージシャンソン歌手山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の伍拾

〜首輪に繋がれる



私が六歳から二十二歳までの十六年間、 我が家では雑種の雌犬を飼っていた。
名前は“ブラッキー”、勿論黒毛。一見するとコッカス パニエルみたいな中型犬。
可愛く頭の良い犬であった。
実家は庭が広かったのでまったくの放し飼い状態。
ブラッキーは屋内外を自由に行き来し、私や兄の後をつ いて廻った。
友達と公園に遊びに行く時も、駄菓子屋に買い食いに行 く時も、
母に頼まれておつかいに行く時も一緒だった。
首輪なんてしない、つながない。
所謂“犬の散歩”はした事がなかった。
それでも誰にも文句は言われない、平和な時代であっ た。
小学五年生の時、二時限目が終わった休み時間に
“あれ?ブラッキーがいるよ!”と友達が発見。勝手に 登校してしまったのだ。
どんなに“帰れ!”と叱っても遊んでいるつもりなの か、逃げるフリをしては
戻って来てしまう。終いには校舎中を猛ダッシュで走り 廻る始末。
先生も困り果て、仕方なく私が家まで送っていった。授 業中なのにね…。
又、よくバス停まで送ってくれたのだが、ある時車内ま でついてきてしまい、
何本もバスを乗り損ねた思い出がある。
二〇〇六年、戌年。“首輪で繋がれるのは御免だぜ!”
今年はブラッキーの様に走り抜けたいと思っている。
御機嫌よう。


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