ガレージシャンソン歌手山田晃士の 『嗚呼、泥沼回顧録』 其の参拾六 〜明日よりも今日〜 |
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九月、十月とガレシャンは横浜公演を行った。 九月は猥雑で混沌とした長者町にあるLive Pub『FRYDAY』 十月は整然とした関内のオフィス街にあるJazz Bar『Bar Bar Bar』 歩いても十五分程の近さだというのにまるで対照的な世界であった。 そう、横浜の良さってそこなんだ。 お上品なモノとお下劣なモノ、エレガントさとジャンクさが隣り合わせに存在する。 それが最も端的に表れているのが<元町>と<寿町>。 方や横浜を代表するおしゃれな街並。 方やホームレス溢れるドヤ街。 石川町駅付近を運転しているとキレイなおねいさんに遭遇する。 だがしかし見とれていようもんなら”当り屋”されてしまう事必至。要注意なのである。 以前そんな事知りもしない私の友人が、案の定”当り屋”された事があった。 「おい、にいちゃん。どうしてくれるんだ!」 どうやら腕をボンネットにぶつけたらしく、手の甲がパンパンに腫れ上がっている。 まるでグローヴみたい...。おそらく骨の一本やニ本折れてるに違いない。 「治療費出してもらおうかい!」 しかし私の友人はその頃超貧乏で、持ち合わせが三百円しかなかった。すると 「全額もらおうか!」 と百円玉三枚を奪い取り、ホームレスは満足そうに去っていった。 おい、ちょっと待て、いいのかよ、きっと骨折れてるぜ。 グローヴみたいに手をパンパンに腫らして、たったの三百円をゲットする。 明日もらえる保証よりも今日飲める一杯の焼酎。 そうなのだ。 これが正しきルールだ。 我々芸人も見習うべき姿勢ではないだろうか。 一本道を隔てれば雑誌から飛び出した様なキレイなおねいさん達が闊歩している。 私は横浜という街が大好きである。
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