ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の壱百弐拾九
〜アヒルと白鳥〜


湖のほとりのテントサイト。
涼しげな風、微かな波音、木陰に潜んで、ワインを傍らに、何もしない。
これぞガレージシャンソン歌手の至福の時。

突如その世界が破られた。
奴らが岸辺から現れたのだ。
グァッ、グァッ、グァッ、グァッ、グァッ、グァッ。
二羽のアヒルと二羽のカルガモ。どうやらチームらしい。
四羽で徒党を組んで湖から上陸、テントサイトを練り歩き始めた。
かなり慣れており、まるで人間を恐れない。
ためしにチッチッチッと口を鳴らしてみると、私に向かってまっすぐ近づいて来た。
グァッ、グァッ、グァー!
私の目を見て何かを訴えている。
パンを一切れ与えてみる。
ブガガガガァー!
一瞬にしてパン切れは彼らのくちばしの中へ。
そして私のつま先をくちばしでつつき始めた。これがかなり痛い。
仕方が無いので残りのパンを全部与えた。
ブガガガガァー!グァッ、グァッ、グァッ。
結局、パン、トマト、冷ご飯、全て平らげて、
四羽は満足そうにおしりをフリフリしながら湖に戻って行った。
ギャングみたいだった。チームとしてのグルーヴがあった。勢いがあった。

その後、湖畔を散歩していると一羽の白鳥に出逢った。
他の白鳥は見当たらず、一羽のみ。
優雅に己の羽づくろいをしている。何物をも近づけない雰囲気である。
ためしに近づこうとしてみると、すぐさま威圧された。
今にもかかって来そうな勢いだ。
遠くから写真を撮らせてもらう。
その間も、奴は一瞬たりとも気を抜かない。威厳が漂う。
独りの時間を邪魔して悪かったな、立ち去るよ、
私の姿が見えなくなるまで奴は緊張を解かなかった。
まさしく孤高である。誇り高き孤独だ。


その晩テントの中で夢を見た。
バンドマンとして、音楽家として、媚を売ったり、断ち切ったり、
私はアヒルになったり、白鳥になったりしていた。

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