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アマゾンへ  『女が映画を作るとき』
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* 『女が映画を作るとき』  浜野佐知 著 ― 平凡社新書 ¥777 (税込)

ISBN: 4582852580 ; (05/01) ― 2005. 1. 24 記

  故・深作欣二監督は、「浜野佐知の映画を撮りたい」と考えていらしたそうです。
  やっぱりなぁ. . . 。 深作監督がなぜそう思われたのか、わかるような気がします。
  実は、数年前に浜野さんと知り合ってから、私も同じように思ってきたのでした。
  「浜野監督のこと、誰も書かないなら、私が. . . 」なんて。
  映画のことなどまったく知らないのに、「深作監督と一緒にすなーっ!」 ですけれど、
  浜野さんって、それほどにチャーミングなのです。


浜野佐知 ―― 1948年生まれ。とにかく映画が撮りたくて、二十歳でピンク映画業界〈* 1〉に入り、70年監督デビュー。以来300本以上の映画を撮り続ける。86年「旦々舎」設立。
  初の自主制作作品、『第七官界彷徨‐尾崎翠を探して』(98年)では、薄幸の女流作家と言われてきた尾崎翠を、晴れやかで意志的な人物として描き、それまでの「翠、はかなげ伝説」をひっくり返す。
  続く『百合祭』(01年)では、老齢の女性たちの性と友愛をみごとに映像化し、その作品は今なお海外の映画祭から引っぱりだこ。高い評価を受けている。(詳しくは旦々舎のサイトで)


  「女にはできない、女に用はない」
  35年前、映画制作は、いわゆる「男だけの聖域」. . . 。凄まじい嫌がらせや、セクシュアルハラスメントの嵐の中で、浜野さんは、倒れても倒れても立ちあがってきました。そして今や、莫大な借金を抱えても、撮りたい映画を撮っちゃうんです。あの小柄できゃしゃな体の、いったいどこに、そんな力があるのか. . . 私には不思議でなりません。
  そんな浜野さんが、映画制作の悲喜こもごもを、そして多くの映画人との交流のことを、自ら綴った本ですから、面白くないわけがありません。読みながら、私は泣いて、笑って(クリーシェだけど、ほんとに抱腹絶倒!)、"セクシー" や "エロス" についても考えたり. . . 。


  『女が映画を作るとき』   ―― 映画のお好きな方に、お薦めします。そして、現代の二分法みたいな男女の在り方に、違和感を抱いている方にも. . . 。
  どの章も、ほんとうに楽しい、です♪
  中でも、岩波ホールの高野悦子さんのインタビューには、ため息が出ちゃいました。高野悦子さんとジャンヌ・モローが励まし合って、その高野さんと浜野さんが励まし合って. . . 。(ああ、なんというゴージャス!)

ジャンヌ・モロー いわく:
  「真の人間文化を創るためには女性と男性の両方が必要です」
  「この世の中に、女性だけの問題はない。それは男性の問題でもあるのです」
    ―― ジャンヌ・モロー、1928年生まれ。あの仕草で(髪を掻きあげながら)言ってるぅ。 きゃ〜!

高野 悦子 いわく:
  「女性に開かれていなかった道に切り込んできたんですから、人生に甘えず、自分と戦って作品を作っていただきたい。……選んだ職業に責任を持ってやっていただきたい、応援したいから」
  「刺すなら心臓!」
    ―― 高野悦子さんは1929年生まれ。凛として. . . すごーく格好いい!


  また、ヨーロッパで映画祭を主宰してきた女性プロデューサーや監督たちの言葉も、続けてきた人にしか言えないものばかり。―― 欧州でも、女性や、セクシュアル・マイノリティー〈* 2 〉の置かれた状況はやはり厳しく、変革を望む大きな波には、同じくらいに大きな揺り戻しがあるそう. . . 。(私は、フランスやドイツは、日本よりうんと進んでいるんだと思っていて. . . 無知でした)

  吉行和子、白川和子、白石加代子、宮下順子. . . さすがは浜野監督が惚れこんだ女優さんたち。音楽の吉岡しげ美さんも素敵。 浜野映画にかかわるようになったそれぞれのエピソードも、めっちゃクールで、あたたかく、美しく. . . 。

  『女が映画を作るとき』は、現代のハンサム・ウーマン列伝とも言えそうです。

  そうした先輩女性たちの深い想いや、数々の挑戦を知って、ちょっぴり辛くなり、胸が痛みました。
  「私って、なんてぬるく生きて来たんだろう. . . 」
  「彼女たちが作ってくれた流れを、せき止めるようなこと、してないよね?」

  私はきっとハンサムにはなれなくて. . . だけど、彼女たちの生き方を、そしてその仕事を、妹たちの世代に伝えることは、責任を持ってやっていきましょう! と、きっぱり思う2005年. . . 。

  どうやら、浜野さんをはじめ、たくさんの素敵な女性たちに、ハートを刺されちゃったみたいです。^^




くわしくは旦々舎のサイトで

−キャスト−
 吉行和子 ミッキーカーチス 
正司歌江  白川和子 
中原早苗 原知佐子 
 大方斐紗子 目黒幸子 ほか


In the ebb and flow of reform and reaction . . .






*  追記:

  浜野佐知さんや、浜野映画の脚本家山崎邦紀さんと、私を引き合わせてくれたのは、「むべさん」という友人でした。
  むべさんと私は、乳がん患者の自助グループ「TEDDY BEAR」のメーリングリストで親しくなりました。最初に話したのは、たしかインドの雑貨のこと、それからレスリー・チャンの映画のこと. . .
   好きなものやことや、大事に思うものが、とても似ていました。

  彼女の映画の話が、いつでも素晴らしいので、ある日私は、思い切って言ってみました。
  「むべさんの映画の話、すごーく好き。 ねえ、映画の雑誌に送ってみたら?」
  「実はね、キネマ旬報や. . . すこしだけ映画評を載せてもらったりもしてるの」
  「…… ? ? ? ……
  ―― なんと、彼女は、映画評論家の石原郁子さんだったのです。

  「私、『菫色の映画祭』や『リヴァー・フェニックス永遠に』 持ってる. . . 」
  「ほんとうに?   . . .  とても、とっても嬉しい. . . 」

  その、むべ・郁子さんが誘ってくれた映画が、浜野監督の『百合祭』でした。
  そして、私が大島弓子や高野文子の漫画を好きだと知ると、「わぁ、私も! それなら翠もよね?」と、紹介してくれたのが、やはりTEDDYのメンバーだった「にゃん吉ちゃん」(塚本靖代さん)。尾崎翠の研究で、浜野組の『第七官界彷徨‐尾崎翠を探して』に深くかかわった人です。

  「いつかみんなで上映会♪」
  それが、私たち三人の合言葉になりました。


  2002年5月27日に郁子さんが亡くなりました。29日には靖代さんが慕っていた矢川澄子さんも。
  そして6月14日、二人を追いかけるようにして、靖代さんも亡くなりました。
  あまりにも大きな喪失感の中で、浜野さんや山崎さんと、私は出逢うことになりました。


  『女が映画を作るとき』の中には、石原郁子・塚本靖代・矢川澄子という名が何度か出てきます。三人の名前を見るたびに私は少し泣いて、でも、それはもう、ただ悲しいだけの涙ではなくて . . .


  浜野佐知さんの映画制作と上映会にかかわってくださった、すべての方に感謝します。






用語 ― 注 1  
ピンク映画
  成人向け(セックスシーンの多い)商業映画。ソフトコア・ポルノ映画とも呼ばれ、平均300万円程度の予算で、クランクインからアップまでが約3日間という厳しい条件の中で制作されています。

  (昔あった)にっかつロマンポルノとの違いは、独自の製作体制と配給ルートを持つこと。また、1/10ほどの低予算(ロマンポルノの制作費は3000万円くらい)であること ―― たとえば、ピンク映画では、音声はアフレコ(アフターレコーディング=後から出来た画面をみながら声や音を入れる)。撮影とシンクロで録音するためには、カメラなどの機材費が高く、制作日数もフィルムも余計に必要になるからだそう。

   AV=アダルトビデオとの決定的な違いは、ピンク映画や日活ロマンポルノは、映倫(映画倫理規定委員会)の審査を受け、劇場で公開されること。 制作行程や、フィルムとテープなど、技術的・質的な違いも大きいそうです。

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注2
セクシュアル・マイノリティー
  社会的に少ないと言われてきた「性的少数派」、という意味で使っています。(私自身は、それほど少なくはないと感じていますが. . . ) 具体的には、同性愛(レズビアン・ゲイ)、両性愛(バイセクシュアル)、性同一性障害(トランスジェンダー・トランスセクシュアル・トランスヴェスタイト等)、半陰陽(インターセックス)などの人たち。

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