11.照明
自然界に生息する珊瑚は、種類によって生息する水深が違います。水深が浅い所(5m迄)に生息する珊瑚は太陽の強い光を受けて、また深場(20m)に生息する珊瑚は、弱い光を受けています。こんな広域に生息する珊瑚を水深45cm〜70cm程度の水槽で一緒に飼う訳ですから、私達はある意味無謀なことをしているように思えます。私はこの厳しい環境で生きようとする珊瑚の適応能力と生命力に脱帽し、感謝の気持ちを持たずにいられません。このような意味からも、できるだけ珊瑚に良い環境で育ててやりたいと思っています。
珊瑚を大きく分けると比較的強い光を必要とする「好日性コーラル」と、強い光を必要としない「陰日性コーラル」に分けられます。
陰日性コーラルは、蛍光灯で飼育できる種類が多く、給餌の必要な場合がほとんどです。このため、給餌によって水が汚れやすく、水質管理が大変で長期に渡る飼育は難しいと思っています。好日性コーラルは、強めの光があれば、ほとんどの場合給餌の必要はありません。これは体内に「褐虫藻」と呼ばれる単細胞藻類を共生させているからです。この共生とは、「珊瑚は二酸化炭素,窒素化合物などの老廃物を排出して、栄養塩を褐虫藻に供給します。褐虫藻はそれらの栄養塩と太陽光を利用して、光合成を行うことによって作り出すエネルギーを、珊瑚にも提供している」という持ちつ持たれつの関係です。珊瑚の中でもミドリイシやハナヤサイサンゴなどのSPS(Small
Polyped Stony)は、褐虫藻に依存する割合が多いようです。SPSは、光が弱いと自身にエネルギーを供給する褐虫藻を増やして、必要なエネルギーを確保しようとします。この結果SPSは、褐虫藻に覆われ褐色化します。
この褐虫藻が光合成を行うには、太陽光に近い強い光が必要です。水槽を太陽光の当たるサンルームへ置ける方は少ないと思われますから、照明を用意することになります。現在は、この照明としてメタハラ(メタルハライドランプ)が使われています。メタハラには、70W,150W,250W,400Wなど各メーカーから販売しています。メタハラの選択は、メタハラ球と反射板が重要です。珊瑚の飼育に実績のあるメタハラを選ぶ必要があります。
メタハラの性能で珊瑚に影響を与えるパラメータは、「光束」,「照度」,「色温度」,「波長」,「演色性」があります。私は専門家ではないので難しいことはわかりませんが、ベルリン式でメタハラの性能を話す上では、「照度」と「色温度」と「波長」が良く使われています。(詳しいことを知りたい人は、だにやんのHPを参照。)
「照度」は、「光があたっている表面の単位面積当たりの光束の量」のことで、つまりその場所にどれだけの光が届いているかを示しています。単位は、lx(ルックス)で表します。例えば250Wのコーラルグロウ球と150Wのコーラルグロウ球の大きな違いは、「照度」と考えれば良いです。
「色温度」は、光源からでる光の色合いを示して単位はK(ケルビン)で表します。この値が小さいと赤みをおびた温かみのある色で、高いと白くなり、さらに高いと青みのある色になります。
「波長」は、電磁波の波長の長さで、単位はnm(ナノメーター)で表します。380〜780nmの範囲が人間の目で感じられる範囲です。
ベルリン水槽を立ち上げた当初の私は、メタハラを購入する際、6500k,10000k,20000kとかの「色温度」を重視して選択しました。特に海のイメージを出すために、青い光を出すメタハラを好んで選んでいました。そういう意味では、水槽内が青い海に観えるような光を好む「演色性」を重視していたのかも知れません。
そして、いろいろな情報を収集すると、ミドリイシの成長,色揚げには、6500k,10000kの色温度が良く、その補助球として、青球,赤球を付けることで多くの方が、良い結果を出しているようでした。でも珊瑚によっては、アストロビームのように青球のメタハラの1種類だけでも、珊瑚の飼育に良い結果が出ている評価が多くありました。何故だろう?確かに20000k以上のメタハラは、青く見えて赤い光は見えません。しかし、これは人間の目での見え方であって、光は、「青,緑,赤」の3つの色を元に構成されて、「色温度」の高い青みがかった光に、赤系の波長が入っていない訳ではありません。つまり、メタハラの光を決めるのは、「色温度」よりも「波長」の方が重要で、光の見え方に頼らずに珊瑚の成長に必要な波長を多く持ったメタハラを選ぶ必要があります。
珊瑚を育てる上では、太陽光に勝てるメタハラはないと思います。この太陽光にできるだけ近い光を放つメタハラが、良いモノの分類に入ると思っています。
地上に届く太陽光は、紫外線(UV-B:280nm〜310nm,UV-A:310nm〜380nm),可視光線(380nm〜780nm),赤外線(780nm〜2500nm)に分けられるそうです。この光の中で人間を含め生物に有益なものは、「可視光線」です。特に紫外線は、人間の肌にも良くないですが、珊瑚にも良くないです。ただ浅場に生息するミドリイシについては、紫外線を受けており、色揚げには紫外線も必要です。深場に生息する珊瑚は、海水によって波長の短い紫外線のほとんどが吸収され、珊瑚まで届く紫外線は微量になります。このため、深場の珊瑚を飼育する場合は、紫外線を放つメタハラ球より、紫外線カットを施した球・灯具を選択します。
「可視光線」の波長である380nm〜780nmを、太陽光と同じように連続した波長で放つメタハラ球が存在すれば理想的ですが、残念ながら現在そのようなメタハラは開発されていないようです。現在は、可視光線の波長の中から珊瑚に良いとされる波長を抜き出して、その波長にピークを持たせるようになっているようです。この珊瑚に良いとされる波長を、多く放出するメタハラ球が珊瑚の飼育に良い結果を出しているようです。実際には、1種類のメタハラ球で複数の波長を出すことが難しいため、種類の違うメタハラ球を多灯することによって、いろんな波長の光を珊瑚へ当てることが良い結果を得られると思っています。
メタハラ球で珊瑚に良い光を作り出したとしても、その光が珊瑚へ届かないと意味がありません。このため360度四方八方へ散らばるメタハラ球の光を集めて、珊瑚を効率よく照らす灯具の役割が重要になります。灯具の中でも反射板の集光能力が重要です。好日性のソフトコーラルを飼育するのであれば、ほぼ均等な配光になる反射板で済むため、比較的容易に作れます。しかしミドリイシのような強い光が必要な場合は、集光能力の高い反射板が必要になりますが、メーカーでも簡単に作ることはできません。この反射板の性能差が、灯具メーカーの技術・経験の差になっているように思います。灯具の選択は、先輩アクアリストの使用している灯具・メタハラ球を見れば参考になると思います。
【参考】
・私の使用したメタハラを具体的に上げると、150Wだとスーパークールマリンブルー(散光),250Wで浅場のミドリイシ専用だとエムズワンのMT−250D+コーラルグロウ,深場・中場ミドリイシと好日性ソフトコーラルだとデルフィスのアストロビーム250W NDX−2500を使用していますが、自分なりに効果があったと思っています。(使用感はここ参照)
・使ったことのない組み合わせですが、MT−250にアストロビーム球の組み合わせも面白そうです。MT−250の反射板は、集光能力が高く、照度の弱いアストロビーム球の光を効率良く、SPSへ当てることができるので、SPSの成長と色揚げに効果ありそうです。(ただアストロビーム球が高価なので実現に至っていません。)
・以前色揚げに絶対的な効果があった10000kの球は、AB製のモノが評価が良いようです。しかし、現在では製造中止となって、手に入りにくいようです。このため、コーラルグロウ球を使う方が多いようです。
・色揚げを狙う場合、照度にも注意が必要です。10000kの250W球とコーラルグロウ250W球では、明らかに照度が10000kの方が強いですから、コーラルグロウ球で色揚げを狙う場合は、2灯あった方が色揚がりしやすいと思います。これはあくまでも色揚げを狙う場合の話ですから、普通に飼育する場合は、1灯で可能と思います。
・スーパークールの場合、色揚げを狙うなら単灯だと照度が弱いため、多灯にすることで照度を補う必要があると思います。スーパークールは、球毎に放す光の波長が多少違うようです。この違う光を多灯にすることで、さらに多くの光(波長)をミドリイシへ当てることができ、独特の色揚げ効果があります。ただ球の寿命が短いことがデメリットかと思います。SPSを飼育・成長させる目的なら多灯にしなくても、十分使えるメタハラだと思います。
これまで記述した内容は、私が使用したメタハラの話です。世の中には他のアクアリストの方が使って、成功している素晴らしいメタハラが他にもあると思います。ここに書いてあることに捉われずに、自分で調べて実際に体感してみて下さい。
<追記>
2003夏:飼育する珊瑚が浅場ミドリイシメインになったことから、NDX−2500を撤去しました。そして、ミドリイシのさらなる色揚げを狙って、MT−250多灯(3台)とスーパークール多灯(3台)に変更しました。深場〜中場のミドリイシ及び、好日性ソフトコーラルを飼育するのであれば、NDX−2500+アストロビームの組み合わせは最高だと思いました。また浅場ミドリイシを中心に飼育して色揚げするのであれば、MT−250が良いと思いました。MT−250に使うメタハラ球は、コーラルグロウを現在使っていますが、PL14000も試してみようと思っています。また、スーパークール多灯で、ハナヤサイ,ショウガ,ハイマツ,ツツハナガサなど赤・ピンク系が独自の色揚りをしています。また、クシハダ等の黄色系は緑にならずに黄色を維持しています。
私が、メタハラを多灯しているのはミドリイシの色揚げを狙った私の飼育スタイルです。ですから、ミドリイシを飼育される方へ、メタハラを多灯しないと飼育できないと言っている訳ではありません。メタハラを多灯しなくても、ミドリイシは飼育できますから、みなさん自分に合った飼育スタイルを探して下さい。