[2006/5/26]

 初恋

 

 


 「初恋」


 恋というのは人とお酒との関係に似ているような気がする。

 だからさしずめ初恋というのはその人の初めてのお酒体験になるんだろ
うか。生まれて初めてお酒を飲んだときの、身体がポッと熱くなって何となく
気持ち良くなって気分が高揚して心臓がドキドキして、ちょっとハイになった
りするあの状況。まあ人によっては泣き上戸になったりするけど。

 最初のお酒体験というのは人によって様々だけど、生まれて初めて飲ん
だお酒がかなり強烈なものだった場合、たとえばアルコール度数がやたら
高いウイスキーとか、度数が低くても身体に入ってくる量がハンパじゃなか
ったりした時なんてけっこう大変なことになる。頭はクラクラ、身体はフラフラ
の酩酊状態、自分が自分じゃなくなるというか、明らかに普通の状態じゃな
くなり、今思えば赤面するようなことを言ったり、しでかしてしまったりもする。

 そして次の日はお決まりの二日酔い。特に生まれて初めての二日酔いは
ダメージが大きい。目がグルグル回って倒れ、しばらくは起き上がる気力も
失せる。もう二度とこんな苦しい思いはしたくない、もう二度と酒なんか飲む
もんかと決意したりもする。

 同じように、もう二度と恋なんてしない、もう二度と誰かを好きになるもんか
と決意するのは本当の意味での初恋が破れたときとか、まだ恋愛に慣れて
いない時とかが多い気がする。

 が、お酒も恋愛も喉元過ぎれば何とやらで、時間が経つうち徐々に元気
を取り戻し、気が付けば懲りもせず意気揚揚と飲みに行ってふたたび後悔
したりするのだ。

 そしてその回復の仕方も人によりけりで、すぐに立ち直りその日のうちに
飲みに行く人もいれば、最初の二日酔い体験で懲りてしまい、それから
長い間飲むのをやめてしまったり、本当にお酒そのものをやめてしまう人
もいる。

 まあ最初から酒に強い人もいて、そういう人はもうしょっぱなから強い
お酒をガンガン飲んでも平気だろうし、泥酔するのがイヤで最初は弱いお
酒から恐る恐るという感じで入る人もいて、この辺も恋愛に似てるかも。

 あと、最初はビール党だったのがだんだん好みが変わってウイスキー党
になったり、焼酎の独特の癖が苦手で飲めなかった人が年を重ねるにつれ
逆にその癖が癖になってしまって大の焼酎好きになったり。

 また最初はただ憧れで飲んでいたり、いい気持ちになれるんだったら何
でもいいからと手当たりしだい飲んでいたのが、年を取るにつれて自分の
飲み方が分かってくると、量を調節したり、お酒の種類を限定したりして
スマートに飲む知恵がついてきたりする。でもどれだけ慣れても時には
ハメを外して飲んでやっぱり失敗することもあって、やっぱりそのへんも
恋愛に似ているかもしれない。

 アルコールなしでは生きていけないアルコール依存症は、恋愛なしでは
生きていけない恋愛依存症にかぶるし、酒に強い体質、弱い体質がある
ように恋愛体質というのもある気がする。

 私の場合、お酒を意識して飲み出すようになったのは高校時代だっただ
ろうか(ほんとはイケナイんですよ、未成年の皆さん・汗)。

 このメルマガにもよく登場してくれる旧友のY沢君と、学校帰りの川原で
缶チューハイや缶ビールをよく飲んだりしてたんだけど、そんなもん、ア
ルコール度数も量もたかが知れていて酒を飲んだうちに入らなかった。
それは中学高校のときの恋愛と同じで、その濃さも量も、恋とも呼べない
ような恋だったように思う。まさにチューハイサワーレベル。

 私がはじめて前後不覚のヘベレケ状態、二日酔い状態になったのは大学
に入ってすぐだった。新歓コンパで30分くらいの間にビール3リットル、日本酒
をお銚子に3本、ウィスキーのロック2杯を一気に飲まされ、2次会のクラブ系
の飲み屋で人間噴水と化した。

 トイレに続く細く暗い通路の両側でカップルが抱き合ってキスなんかして
いるところを酩酊千鳥足の私が豪快に蛇行しながら彼らにぶつかり、時々
思い出したようにシャーっという音を立ててゲロを吐く(笑)。そのときのカッ
プルの罵声や悲鳴は今でもよく覚えているもん。

 で、それから2日間くらい酒が抜けなくて、ひどい二日酔い。二度と酒なん
か飲むかと思った。

 同じように私の“本当の意味での”最初の恋愛は大学のときで、それは
前に笑い話として書いた。彼女というお酒はその当時の私にとってかなり
強烈なもので、「恋愛ヘベレケ状態」も「恋愛二日酔い状態」も相当ひどく
長引いた。

 でもそれからは自分の飲み方も分かり、そこまでひどい二日酔いはなく、
社会に出てからも普通に酔っ払い、普通に気分よくなり、時々普通に吐い
たりを繰り返した。それでも時々ココでは書けないような失敗もしたりした
んだけど^^;。まあそれは私だけではなくてたいがいの人はそうなんだろう。

 で、なぜ今号でこんな話をしたかと言うと、次号からある男の「恋愛ぐ
るんぐるんヘベレケ状態」の実話を書こうと思っているからだ。

 話としてはアホ話の体裁をとっている恋愛話である。それも初恋系の話。
だから先に書いたように“明らかに普通の状態じゃなくなり、今思えば赤面
するようなことを言ったり、しでかしてしまったりする”男の話だ。それも並の
“普通の状態じゃなくなり”方じゃない。

 そうそう余談だけど書いてて思ったのは、恋愛話というのは、するにし
ても聞くにしてもたいがい同じような陳腐さを持っているものなんだなと
いうこと。でもそれは決してネガティブな意味ではなく、人が人を好きに
なる気持ちというのは、古今東西、普遍的なものだからなんだろうと思う。
 それは不倫の恋だろうと女性同士の恋であろうと同じだと思う。一見、
特殊に見えてもその根底にあるものはいつも変わらない。どっしりとした
真理の上に人それぞれに違う事情がある。総論は普遍的だが各論はどれ
一つとっても同じものはなく、当事者にとってその恋愛は常に特別だ。
だから恋愛話というのは常に「特別な陳腐さ」を抱えているものなんだろう。

 


つぎ

 

          
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