[2002/23]

なにげない一言

 



「なにげない一言」

 前号に続いて言葉についてちょっと取り上げてみます。

 去年の自殺者の数が3万人を超えたそうである。痛ましいことだ。

 テレビや新聞、雑誌などで特集が組まれたりしているので読んだり見た
りした人も多いと思う。

 と言っても今日は自殺について書こうと思ったのではないよ。

 記事は「自殺者は40代50代の働き盛りの男性に多い」みたいな感じで
紹介されることが多いのだが、私がふと気になったのはこの「働き盛り」
という言葉である。

 確かに40代50代というとまさに仕事人として脂が乗り切った年代だ
ろうと思う。だけど「働き盛り」という言葉しかないのかな、そういう顔
しかないのかな、とふと考えたりするのだ。

 例えばその人たちが結婚している場合、妻にとってみれば「夫ざかり」
というふうにも言えるはずである。

 それからその子供たち。子供たちにとってはまさに「お父さん盛り」の
年代であろう。

 それから地域社会ではどうだろう。「隣のおじさん盛り」であってもい
いはずだ。何しろ経験も知恵も体力もあるのだ。W杯でも分かるように
これから移行していくであろう地域還元型社会に、その中心を担っても
いい年代である。

 それから本来、日本の娯楽市場、趣味市場を支える「遊び盛り」の年代
でもあるはずだぞ。

 そうそう、風俗大好き男はどうだろう。「風俗盛り」の男。

 だけどテレビレポーターに「また風俗盛りの男性の自殺です」とか言わ
れたらメチャ悲しいな。というか“哀しい”か(笑)

 このように本来40代50代の男性というのは、「働き盛り」という顔の
他にも色々な顔を持っているはずなのだ。しかもどれも小さくないデカイ
顔だ。それにもっと言えば20代30代だってそうだろう。

 だけどマスコミに登場する時は労働力としての顔を代表する「働き盛り」
という言葉だけでひとくくりにされる。

 もちろん、「働き盛り」という言葉は社会人の男をを表す慣用句として
使われてるだけだし、これを「夫ざかり」に変えなさいとか、国や企業は
男を労働力としてしか見てなくてケシカランと言うつもりは毛頭ないです。

 そんな重箱の隅をつついてたら生きてられんよ。

 そうではなく、最初に挙げたようなあまり深く考えず使っている言葉と
いうのは、知らず知らず本音を表してるようでおもしろいなあとよく思う
のだ。

 例えば恋人関係でも夫婦関係でもどんな人間関係でもいいのだけど、
腕によりをかけた言葉や考えに考え抜いて紡ぎ出された言葉よりも、
相手のなにげない一言や生返事の方が気になったりすることはないだ
ろうか。

 それはやはり“本音”というものが、あまり深く考えず言ってしまった
一言とか返事に隠されていることが多いからだと思うのだ。

 企業や国にしても男性の子育て参加とか男女共同参画社会とか、腕に
よりをかけた言葉が勇ましい。

 でも考えてみれば自殺者の中には40代50代、それに20代30代の女性
もいるはずなのに、そして今や中間管理職はおろか企業経営をしている
女性もたくさんいるはずなのに、なぜか彼女たちは「働き盛りの女性」と
は呼ばれない。

 言葉がすべてではないとは思う。でもやはり言葉というものには一つ一
つ魂が宿ってると思うし、口にすれば自分や他人に小さくはない影響を及
ぼすことも確かだと思う。

 だからもし何か事を起こそうとするなら、そして何かを変えようとして
いるなら、まずは普段なにげなく使っている言葉から考えていってみたら
どうかなあと思うのだ。

 働き盛りの女性とか、お父さん盛りの男性という言葉が普通に出回るよ
うになったら、その世の中は今とは全然景色が違ったものになるんだろう
なあと思う。

 そしてそれは社会とかいう大きな単位だけではなく、個人にも言えること
だろう。

 なので私は「あーあ、どうせ私は」とか「普通はこうでしょう」とか「こんな
に私は〜なのに」など、言えば言うほど自分の中からエネルギーがしゅる
しゅるしゅる〜となくなっていきそうな言葉はあまり使わないようにしてるん
ですが。

 たかが言葉、されど言葉。

 普段、何も考えずに使う“なにげない一言”にも、というか、そういう
言葉にこそ真実とパワーが宿っている、そう思う仙人なのでした。


☆ ☆ ☆ あとがき ☆ ☆ ☆ 

先日ようやく気づいたんですが、本メルマガが発行サイト『めろんぱん』
で、去年に引き続き2回目のお薦めメルマガに選ばれてたんですね。

わしゃ、最近の日々の苦しさに追われて全く気づきませんでしたよ。

これも読者の皆さんのおかげです。どうもありがとうございますm(__)m

それから再び選んでくださった『めろんぱん』さん、遅ればせながらあり
がとうございました。m(__)m

で、これをキッカケに新たに読者になってくれた皆さん、これも何かのご
縁、よろしくお付き合いください。

この「東京仙人の思案生首」は、アホな笑い話からしんどかった暴露話、
それで感じたこと、エッセイ、コラム、大体何でも書いています。
ここんとこは言葉に関して書いてますが、たまたまですね。

発行も不定期で連続で出せる時があったり、ちょっと日が空いてしまった
りなんですが、頑張って書いていこうと思っています。

ということでこれからもよろしくお願いします (^o^)丿

 

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