「いたずら仙人」
夏が来れば思い出す。イタズラに狂ったあの熱い日々を。
自分の中でなぜかイタズラがマイブームになった時期がある。中学時代だ。
小学生の時、私はとてもおとなしい子供だった。その反動からか、はたまた
これではイカンと思ったのか、私は中学に入ってイタズラ坊主となった。
そう、夏と言えばプール。舞台は学校の水泳の授業。その自由時間のことだ。
私はよく水戸黄門ごっこという遊びをした。
私が水戸黄門役で、私の横には助さん、角さん役の友達が立つ。そして
彼らが頃合いを見計らってこう叫ぶのだ。
「えーい、控えい、控えいっ。このお方を誰と心得るっ。この陰嚢が目に
入らぬかっ」
その瞬間、私が海パンの横から陰嚢をニョロリと出すのだ。
すると私の前にいる男子が「ハハアーッ」と私の陰嚢に向かって土下座
するのだが、うーむ、ここまで書いて気づいた。こうして冷静に文章にして
みると、バカだな。俺はどうかしてたんだな(笑)
これは印籠と陰嚢を掛けたギャグなのだけど、当時はその発見がまるで
世紀の大発見といった感じで、皆このギャグにはまり、こぞって黄門役に
なりたがっていたのだからやっぱり訳が分からない。
一種の集団ヒステリーか。
他にも、ある日曜の夜。全ての部活動が終わり誰もいなくなった夜の
中学校。
校舎の全ての戸や窓は当然カギが掛けられているのだが、1ヶ所だけ
カギのゆるい窓があった。
私たちイタズラ仲間はその窓から侵入、トイレから集められるだけの
トイレットペーパーを集めると、教室に向かうのだ。
そして教室の窓という窓からトイレットペーパーを垂れ幕のように地面
まで垂らす。それを校庭に面している全教室からやるのだ。
すると校庭から見ると、まるで全ての窓が白い涙を流しているような、
または校舎全体から滝が落ちているようなとても圧巻な光景ができあ
がるのだ。
で、翌朝、早朝から学校に繰り出してみんなの反応を楽しむのだが、
とにかく先生や用務員のおじさんが大わらわ、生徒たちも大騒ぎ。
そしてすぐに月曜の朝恒例の全校集会。
校庭に整列した全校生徒を前に、壇上に上がった校長先生が開口一番、
「昨日、この学校でとても残念な出来事がありました」
と話し始めるともうダメ。仲間と目配せしながら笑いをこらえるのにどれ
だけ苦労したか。
その一方で、
『俺だよ! あれは俺がやったんだ』と“自分の仕事”ぶりを吹聴したく
てしたくてたまらなかった。
他にも私たちが考えたんじゃないけど、友達の首を後ろから羽交い絞め
にして「半気絶状態」にする遊びも流行った。
だけどある日、フラフラになった友達がそのまま教室の戸のガラスに突
っ込んで大ケガをしてしまったから、さあ大変。
再び校長先生が今度は全校放送。しかもこれ以上ないくらいの大マジメ
な口調で、
「みなさん、むやみやたらに友達を気絶させるのはやめましょう」
私たちは、わざわざ気絶禁止命令を出す中学校なんてあるか? とか、
じゃあ、時々なら気絶させてもエエんかい、と腹を抱えて笑った。校長の
放送は笑いに油を注いだだけだった。
夏だけじゃなく冬だってイタズラはあった。学校帰りに友達の上履きの
中にたっぷり水を注いでおくのだ。すると翌朝、カチンカチンに上履きが
凍ってしまいそれは悲惨な物体と化す。
私たちはこれをガラスの靴と呼んでいたが、油断すると自分の上履きを
やられてしまうので、毎日わざわざ自分の上履きを家に持って帰っていた。
ホントにめんどくさかった(笑)。
しかし子供というのは役に立たないことしかしない、とはよく言われるが、
ホントに何であんな非生産的なことばかりやって喜んでいたんだろう。
まるで熱にうかされてるような、はしかにでもかかった感じだった。
高校に入るとめっきりイタズラの数は減ったのだが、夏ということで強烈
に思い出したことがあるので最後に書いておこう。
高校2年の夏のことだ。私には高校、大学、社会人と続く友達がいる。
このメルマガでも時々登場するY沢君だ。vol:036「Y沢君のバンカー」
で頭から黒い汗を流したあの男である。
Y沢君はすごくカッコ良くて、しかもウケ狙いの好きな奴だったのだが、
彼の当時の不満は自分が色白だということだった。
で、その夏、Y沢君が「とにかく俺は黒い男になりたい」としきりに言う
ので、友達数人と地元の川へ体を焼きに行った。
私の地元は鵜飼いで全国的に有名な清流が流れている。
私たちは川原に寝そべりながら女の子の話とかに花を咲かせていた。
そして当たり前のようにエロ話に移行していったのだけど、ムズムズして
きたのか、突然Y沢君が「あー、もうたまらん! 」と、ジャブジャブ川の中
に走り入って行ったのだ。
何事かと私たちが目を見張っていると、Y沢君はいきなり海パンを膝ま
でズリ下げ左手を腰に当てた。そして次の瞬間、向こう岸に向かって「F
ちゃ〜ん! 」と、夏休み前に付き合い始めたカノジョの名を叫びながら、
腰のあたりで右手をシャカシャカ動かし始めたのだ。
夏の燦々とした太陽の下、キラキラした川面に映えるY沢君のまばゆい
ばかりの白い尻、そして突然始まった彼の一人Hに、私たちは大爆笑。
川原の石が体中に食い込んで痛いにもかかわらず、転げまわって笑った。
そして本懐をとげて満足げに戻ってきたY沢君に私たちは、「しかし最悪
な奴やなあ、Y沢」とか「Fちゃんに見せてやりたい」とか言ってはやし立てた。
そのうちの一人は「おい、Y沢、この川にはたくさん鮎がいて、たくさんの
卵が産み付けられてるんやぞ。今、お前の精子がふりかかって受精して
もうたぞ」とギャクをかまし、私たちは大笑いした。
そのギャグに一瞬真顔になったY沢君であったが、すぐに「アホか、お前」
と私たちと一緒になって笑った。
それからはまた別の話題になって10分くらいしゃべってたんだけど、
その話題もなくなってひとしきり沈黙の時間ができた。
私たちはしゃべり疲れた体を川原に横たえ、濃い緑をたたえた山々、
その稜線から湧き昇っている入道雲なんかを見るともなく見ていた。
そんな中、Y沢君が急にポツリと言った。真顔だった。「なあ、ホント
に大丈夫かな」
「え、何が? 」と私たち。
「いや、その…、受精」
「…」
ギャハハハハハー! みんな一瞬の後、大爆笑。
わ、Y沢君、実はけっこう気にしていたのだ(笑)。カワイイ。
それからはもう皆、口々に絨毯爆撃。
「いや、大丈夫じゃないやろ」とか「受精完了ぉー」とか「1度でいいか
ら鮎人間見てぇー」とかはやし立て始めた。
するとY沢君、何かすごく思いつめたような顔になって急いで川の中
にまた走り入って行くと、一人Hをした場所で水をかき回し始めた。
その姿がまたバカ丸出しで、私たちは転げまわって笑った。
「Y沢、だからもう流されてるって。もう無駄やって」
「そうそう、今ごろ下流のほうで受精かんりょー♪」
「Y沢鮎蔵、誕生―♪」
だがもうすでに何も耳に入ってこないY沢君は、両手両足、体全体を
使って川と格闘していた。なにか川の中でエアロビクスを踊っているみた
いだった。
その時はもうまばゆいばかりの白い尻は見せていなかったが、必死に
なって川をかき混ぜ続ける彼の白い背中は今でもはっきり覚えている。
ああ、それにしても夏が来れば思い出す。イタズラに狂ったあの日々を。
って、これはイタズラだろうか?(笑)
それに夏が来れば思い出すって、こんなことしか思い出さんのか俺は。
☆ ☆ ☆ あとがき ☆ ☆ ☆
みなさん、お盆休みはどうでしたか?
私は生活が危機なので休みなどもなくヘロヘロでした。
配信間隔が開いてしまってごめんなさい。
今日、明日と久しぶりに時間が空いたので頑張って書きためようと思って
います。
しばらく連続配信できるかも。お楽しみに。