[2001/5/1]

実録 ある愛の詩 20歳編 その1

 



☆ ☆ ☆ まえがき ☆ ☆ ☆ 

 先日、配信スタンド「めろんぱん」から、おめでとうございますとメールが
届き、何事かと思って開けてみると、この「東京仙人の思案生首」を、お薦め
メルマガに選定したとの知らせであった。これから1ヶ月、サイトのトップ
で紹介し続けるという。

 こういう場合、励みになるタイプとプレッシャーになるタイプがいると思う
んですが、自意識過剰な私は思いっきりプレッシャーになるタイプです。

 メルマガに限らず、勝手に自分で期待を作りあげてしまって、その期待に押
しつぶされるというマヌケを、今まで幾度となく繰り返してきました(笑)。
なので、あまり自分に期待せず、今まで通りのペースで頑張りたいと思います。
ていうか、それしかできないんだけど。

 ホント毎回読んで下さってる方には感謝感謝です。一人でも読んでくださる
方がいる限り、頑張って発行していこうと思っています。

 今回は、「実録 仁義なき戦い 健康ランド編」以来の実話をお送りします。
タイトルに、「実録」と付く時は基本的にすべて実話です。たまに何も考えず
実話をオモシロおかしく延々と書きたくなることがあって、自分の中の順番と
して今日がたまたまそういう日になりました。

 今回の話は今から13,4年前、私が大学1回生の頃の話です。
ちなみに登場人物の一人として出てくるY沢君(その2で登場予定)は
「実録 仁義なき〜」と、「バール〜」に続く3回目の登場ですが、彼がこの
メルマガを読んでないことを祈るばかりです(笑)。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


「実録 ある愛の詩 20歳編 (その1)」

 仙人は思い悩んでいた。そして焦り狂っていた。
この1ヶ月あまりというもの、それ以外のことは考えられなかった。
明日、1月23日は、彼女とのデートの日だ。彼女と言っても付き合ってる
わけじゃない。4ヶ月前私が一目ぼれし、以来、夢に現(うつつ)に恋焦が
れてきた女性だ。しかも、明日は単なるデートではない。初デートなのだ。

さらに誕生日デートでもある。もちろん彼女の誕生日だ。初めて2人きりで
会い、飯を食い、話をする。そこで本格的な私の印象が決まるといっても
過言ではない。一世一代、大勝負の日だ。

 ちなみに彼女の誕生日は、今日1月22日である。なのに私は今日の
デートの約束を取り付けられなかった。理由は分かっている。彼女には
彼氏がいるからだ。今頃、その彼氏に誕生日を祝ってもらってるはずだ。
そう、私は恋人がいる女の子を好きになった。彼女は私と同じく1回生、
彼氏は2回生だった。

 彼女に初めて会ったのは去年の10月だった。いや、正確に言えば7月に
会っていたらしい。それも裸で。

 京都の大学に進学し、私が入ったサークルは、部員数100名という映画
サークルにしては異常な人数を誇っていたもので、夏は夏合宿と称して海
水浴に、冬はスキー合宿に行きながらも、学園祭の時には総員で(人数が
多いので3班に分けた)映画をバリバリ撮り、普段も誰かが必ず映画を撮っ
ていたというけっこうアクティビティあふれるサークルだった。

 そして10月の初旬、学園祭用の映画のクランクインの日、同じ班になった
彼女を初めて確認したのだ。
 確認というのは、7月の夏合宿に彼女も参加していたらしいのだが、私は
全く気が付かなかったのである。気付かないどころか3日目の夜の芸大会で、
私は彼女の御前で全裸踊りを披露するという痛恨の大失態を演じていた。

 そのことを、初日の撮影が終わり繰り出した四条河原町の居酒屋で聞か
された私は、口から泡を吹き、手が付けられないほどの錯乱状態に陥るや
最後は病み犬のような目になって四条大橋からダイブしようとしたが、この
ままこの後輩を生かしておいて、もうしばらくオモシロおかしい他人の色恋
沙汰刃傷沙汰を観察していたいという残酷なヤジ馬根性丸出しの先輩達に
よって抱き止められ、何とか一命を取りとめたのだった。

「お前がチ○ポ丸出しの時、彼女は下向いてたで。大丈夫や。イケる、イケる」
という何のフォローにもなっていない先輩の慰めを無理矢理に飲み下した私は、
さっき聞いた彼女のカレシと自分との無残な比較を始めていた。

 彼女のことをまだ知らなかった頃の私は心優しき諸先輩方のご指導と自ら
の鍛錬もあり会得した、1秒で一糸まとわぬ生まれたままの姿になる「早脱ぎ」
という技を引っさげ、サークルの女の子の悲鳴や店の従業員の怒号の中、
イチモツ丸出しで踊り走るという恋人を作るのには致命的ともいえる荒行を、
コンパの度ごとに自分に課している類まれなるお調子者であった。

 それに比べ、彼女の付き合っている男はとびきりカッコ良く、すべてを手に
入れている男だった。彫りの深い顔立ちを持った180センチの身の丈をDC
ブランドで小粋に包み、彼女の通う女子大前にスマートな外車を横付けに
する、そんなタイプらしかった。彼女は2つのサークルに掛け持ちで入っており、
付き合っているのは向こうのテニスサークルの男だった。

 元々この私などは金がなく身なりも貧しく、自転車しか持っていなかった。
身長こそ179センチあるものの体重が60キロあるかないかくらいで、強制収
容所帰りのような身体、風体をしていた。

 だが、神の与えてくれていた僥倖か、夏合宿を除けば私が錯乱行動を
とっていたコンパに限って、彼女は参加していなかったみたいなのだ。
というか彼氏のいるサークルを優先しているみたいなのであった。

 本当に奇跡みたいなものだった。だってコンパの度に、とにかく服を着ている
暇がないほど脱ぎ、消化する暇がないほど吐いていたのである。
別に露出狂でもないのだが、たぶんサークルのノリもあったと思う。

 とにかく先輩たちはそれがないと夜も日も明けないほどイッキ飲みが好きで
まだ呼ばれてもいないのに、自分の名前がコールされる「予感」がするだけで
ジョッキ片手に中腰になる人ばかりであった(笑)。

 服脱ぎに関しても少なからずの先輩が常行し、数ヶ月後にはそれを継承
するばかりか神業の域にまで高める後輩の入学まであった。

 朱に交わったのだと思う(ホントか?笑)。

 一度、2次会のカラオケ屋で(この頃はまだカラオケBOXはない)、他のグル
ープが歌っている沢田研二の「ストリッパー」に乱入するや否や「早脱ぎ」を
敢行してしまい、激怒した店のオーナーに曲を突然止められ、明るくなった
ステージに全裸の私が一人取り残される事態になったこともあったが、その
時も彼女は現場にいなかった。

 一切合切の音がなくなった店内の衆目を一身に集める中、誰かが投げ返し
てくれた自分のブリーフに一人オズオズと足を通している私は、運もバツも
悪かったが悪運は強かったようだ。

 さて、それから撮影が進み寝食を共にするにつれ、私は彼女にドンドン惹か
れていった。それまで彼女ほど美しい女性に出会ったことがなかった。恋する
人間は異様に視野が狭くなることを除いたとしても、彼女しか見えなかった。

 彼女の‘在りよう’や仕草一つ一つなどが、彼女の外見と絶妙なハーモニー
を奏で、私の中で例えようもない美しさに紡がれていった。

 そして彼女は、適度にワガママで、適度にガサツで、適度に食いしんぼうで、
適度に貧乏で、しかも私と同じく「気にしい」でもあった。そんなバランスの
取れ方具合一つとってみても、もろ私好みで、もう長所から欠点まで愛しくて
愛しくて仕様がなかった。何をしていても何を喋っていても彼女のことばかり
を考えていた。

 毎日が苦しくてせつなくて、理由を見つけては飲み吐き脱いでいた。
まわりが飲み吐き脱ぎ好きなのだから、理由などいくらでも見つかった(笑)。

 だが、この時はまだ告白するとかは考えていなかった。もうあまりに好き過
ぎて、現実的なことがあまり頭に浮かばなかったのである。

本当の意味での初恋だったのかもしれない。

 そんな折、サークル恒例の野郎コンパが開催された。野郎コンパとは読んで
字のごとく、女の子を一切排除したサークルの男構成員だけでするコンパであ
った。女の子がいてもムチャクチャなのに、その最低限のタガが外れたコンパ
の常軌の逸しようは筆舌に尽くしがたいものがあった。

 まあ、その詳しい有様についてはいつかの「実録」にでも書くとして、その
野郎コンパには一つのイベントがある。それは、興が乗ってきた中盤、自分
がサークルでどの女の子を狙っているのか、または好きなのか、正直に皆
の前で発表しなければならないというものであった。

 これは結構スリリングでおもしろいコーナーだった。自分の好きな女の子は、
他に誰が何人くらい狙ってるのかイヤでも知ることになるし、普段あまり喋っ
たことのない先輩の意外な女の子の趣味が明らかになったりして、盛り上がり
に盛り上がるのだ。

 告白させた、お気に入りの女の子の名前コールでイッキをさせるのはもちろ
んだが、硬派で有名な先輩が「好きな女の子がいない」などとたわ言を言えば、
「女好き!女好き!」コールでイッキ飲みをさせ、彼女がいるにもかかわらず、
その名ではなく新入生の女の子の名前など言う輩には、「人でなし!人でな
し!」コールのイッキをさせた。まあ、とにかくイッキさせたいんやろうね(笑)。

 私は当然、そうそう彼女の名前はNちゃんって言うんだけど、「全裸は見ら
れたけど、Nちゃんが好きやあーっ!」ってぶちかました。すると周りから
「全裸!全裸!」とか「チ○ポ見たい!♪チ○ポ見たい!♪」コールが巻き起
こったので、「当たり前のように」裸踊りをした。この頃には既にもう裸になって
も何の感慨も湧かんようになってたね(笑)。

 で、最後には誰がどの女の子をどうとかいうのはどうでもよくなるくらい、
座がムチャクチャになってコンパを終えるのだけど、今考えてもさっぱり訳分
からん集団ヒステリーであった。

 余談であるが、同日か同時期に開催される「女の子コンパ」は別の意味で、
さらに凄まじいらしい。それはコンパの間中、もくもくと粛々と歯に衣着せぬ
男会員批評が繰り広げられているらしいのである。しかも好きな男はもちろん
嫌いな男まで発表するというのだから身の毛もよだつ

 普段ふりまいている可愛らしい仮面を脱ぎ捨て、一人の女性(にょしょう)
に立ち戻る瞬間であった。女はその体に菩薩と夜叉を相住まわせていると
いうが、その夜だけは全員が夜叉になる、それが女の子コンパの正体であり、
真実らしかった。ああ、恐ろしや。

 そう思うと、野郎コンパで好きな女の子の名前を発表して、イッキ飲みして、
服脱いでる我々男っつうのは、本当につくづくアホでガキで子供やね。

 それはさておきその野郎コンパ以後、私の中である感情が、というか、
その感情「だけ」が日々押えきれないほどに膨れ上がっていっているのに
気付いた。

 それは「彼女のことが好き」というクリアにして単純な気持ちであった。

 それまでも彼女には胸張り裂けんばかりだったが、付き合うとか恋人に
するっていうのは、自分にとってどうもリアルな感じが持てなかったし、
カレシはいるしで、彼女に対しての自分の気持ちの「持っていきよう」みたい
なものが、どうにもビシッと決まらず、どこを見て歩けばいいのか分からない
霧の中を、めくら滅法歩いているようなシンドさを味わっていたのである。

 だが、野郎コンパで「彼女が好きやあー!」と宣言することによって、彼女
が好きという余りにもシンプルな「真実」が、ただ当たり前のように目の前に
あったことに気付いたのである。

 で、もう、付き合うとか付き合わないとか、カレシがいるとかいないとかの
枝葉がすべて取れてしまい、ただ単純に彼女に「Nちゃんのことが好きです」
と伝えたいだけの、ただそれだけさえ伝えられれば満足というか、それだけ
しか伝えたくない私がいたのである。

 今から思えば野郎コンパでの宣言は、皆に宣言したのではなく、自分の
中の、深い深い場所に向かって吠えていたんだと思う。

 そして、学園祭も無事終わり、迎えた12月。街がクリスマス色に落ち着か
なくなる頃、電話を前にソワソワと落ち着かない私がいた。

 「クリスマスに誘っても、断られるよなあ」「うまいメシ屋を見つけたって
ことにするか。そんなうまいメシ屋ってあったっけ?」「映画に誘う。って、
ありきたりやなあ」

 他の女の子なら何でもない「誘う」ということが、こと彼女となると普通が
普通でなくなり、もうほとんど軽いノイローゼ野郎(笑)であった。

 そんなかんやで、ああでもないこうでもないと電話を前に自問すること3
日間、ダイヤルを回しても(この時代、もちろん携帯なんてない)すぐに受話
器を下ろしてしまうことを何回も繰り返す私は、プライドは高いくせに臆病と
いう若者特有の資質を持った、クチバシの黄色い青二才に過ぎなかった。

 だが、とうとう4日目の夜、そんな状況に耐えられなくなってしまい、1度も
かけていないにもかかわらず、すっかり覚えてしまった彼女の電話番号を
決死の思いでダイヤルし、呼び出し音を待った。

 自分の心臓の音が冗談みたいによく聞こえ、1度2度と大きく深呼吸した。
彼女が電話に出たら自分はとんでもない事を口走り出すのではないかと、
自分に対して恐怖するくらい、舞い上がっている私がいた。

 ハタチの誕生日を1週間後に控えた19歳の仙人の、一世一代の珍冒険の
火蓋が切って落とされようとしていた。

次号に続く。


☆ ☆ ☆ あとがき ☆ ☆ ☆ 

なんか「実録」シリーズって(勝手にシリーズとしてしまってますが。笑)、
単なるお下劣になりそうでヤバイ。次号は修正せねば。

で、考えてみれば、初めて登録してくださった方にとってみれば、この回が
このメルマガの、ひいては私の第一印象になってしまうのですね。うーむ…。

 

 

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つぎ

 

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もくじ           表紙