[2001/4/16]

自分がほんとうに望んでいるもの

 



「自分がほんとうに望んでいるもの」

 桜も散って、とうとう本格的な春到来。街を歩く女性たちの装いも目に見え
て明るいものとなり、足取りも心も軽くなったようで小気味いい。

 そして暖かくなってくるにつれ、ネットの掲示板や雑誌でも、「そろそろ恋
愛したい」とか「恋の季節」とかの文字が踊り始めるようになった。望む相手
のタイプでみると、女の子なら「優しい人が好き」、最近目に付くのが「おも
しろい人」、「自分を笑わせてくれる人、退屈させない人」だろうか。男なら、
これもやっぱり「優しい人が好き」であろうか。

 仙人が思うに、人が人を好きになるのには大ざっぱに分けて2通りあると
思う。

「〜だから、好き」と「〜だけど、好き」である。

 どっちがより恋愛パワーを持っているとしたら、やっぱり後者だと思う。
「〜だから、好き」というのは、「変態だから好き」のように、よほどの例外
者でない限り、長所が好きということだろう。「優しいから好き」「おもしろい
から好き」「家庭的だから好き」「しっかり者だから好き」「経済力があるから
好き」などのように。

 それに比べて、「〜だけど、好き」というのは短所も好きということだ。
短所「が」じゃないよ(笑)。短所「も」だからね。
「時間にルーズだけど好き」「不細工だけど好き」「お金持ってないけど好き」
「全然優しくないんだけど好き」「全然おもしろくないんだけど好き」「家庭的
じゃないけど好き」等々。これは、一見すると自分に損だよね。

 でも、恋愛に限らず、損なのにやってしまうことって本当にやりたいことだ
と思わないかい?どう考えても一見すると自分にとって損なんだけど、「なぜ
だか分かんないけど」やってしまう。この「なぜだか分かんないけど」があれ
ばあるほど、恋愛にしてもそれ以外のことにしても自分が本当に望んでいる
本物という気がするのだ。

 ただ、一部の女の人のように、風俗で働いて男に貢いでる、みたいな事例
はちょっと違うと思うけどね。あれはあれですごくワシは理解できてしまうん
だけど、今日は話が違うのでまたいつかの機会にでも。

 話を元に戻して「なぜだか分かんないけど」というのは言い方を変えれば、
「理由がない」ということだ。理由がないけどやってしまう。考えてみると、
人はいつ頃から「理由がなければ」動かなくなるのだろうか。というのも、子
供の頃は「なぜだか分かんないけどやってしまう」連続だった気がするからだ。

 周りを山に囲まれた大自然で育った仙人は、近くの小川でよくザリガニ釣り
をした。ザリガニの肉を糸で縛って水中に垂らすと驚くほど多くのザリガニが
寄ってきて鈴なりになる。100匹200匹と獲って遊んだ。ホンマに気が違っ
たように毎日獲っていたのである。ちなみにアメリカザリガニね(真っ赤っ赤
な奴)。

 だけど、別に食用として獲ってたわけじゃない。当たり前か。じゃあ、将来
立派な漁師になるため?それも違う。それならば子供仙人は、一体何のために
毎日毎日ザリガニ捕獲に狂っていたのだろうか。答えは…、「さっぱり分から
ん」のである。なぜだか分からんけど楽しかったのである。

 公園や学校の砂場で砂山をこしらえ、トンネル掘りに熱中していた頃もあっ
た。開通してトンネルの中で向こうから掘り進んできた友達の手と触れ合うと
メチャクチャ嬉し楽しかった。そんな時の友達の手の感触はちょっと妙な感じ
がしたものだ。こそばゆい様なコワイ様な、それでいて懐かしいような温もり
があった。

 でも、なぜトンネルなんか掘っていたのだろう。将来、建設会社に入社して
立派なトンネルを掘るために練習していたのだろうか。いや、違う。これもさ
っぱり分からんのである。なぜだか分からんけどやっていたのである。

 それがいつの頃からか「なぜだか分からなければ」やらなくなった。理由が
なければやらなくなった。理由がないのに、それでも動かなければならない
場合はむりやり理由を探してきてやるようになった。

 最初の恋愛の話に戻ると、「〜だけど、好き」というのは、本人にも好きな
理由が分からんということである。なぜだか分からんけど好きということだ。
理由なくやってることは、理由あってやってることよりも、よりパワーがある。

 理由があってやるというのは、裏を返せばその理由がなくなればやっている
ことの意味がなくなるということだと思う。例えば「優しいから好き」なら、優しく
なくなったら嫌いになるの?ということだ。
 
 そこまで言うと極論暴論になってしまうけど、一番大事な「自分の気持ち」を
差し置いて、「相手の気持ち」ばかりに目がいってしまう。相手の優しい優しく
ないのサジ加減一つで、こっちの立場がグラグラに揺れてしまうことは確かだ
と思う。
 それに余談だけど、人はだれか好きになったら、その人に優しくしない人間
なんていないと思うよ。ひねくれ者を除いて。

 「相手が私に優しくしてくれるから好き」というのは、「優しくするのは相手で
私は優しくされる側」のように、パッと見、こちらが主導権を握っているように
見える。だけど、実は逆だと思う。なぜなら、自分の愉快不愉快の条件設定
を相手に渡してしまってるからだ。主導権は向こうでこっちはとても受身だ。

 人間、受身でいることは楽そうに見えるが、実はすごくストレスがたまると
思う。自分がイニシアチブを取って初めて、その種のストレスからは解放され
るんじゃないかな。それは、自分の行動に納得しているから。自分が主導権
を握った上でのストレスは、むしろ快感に変わっていく。

 だが、社会、特に会社というところは理由で動く社会でもある。理由がない
予算など組まれるはずもないし、プロジェクトも押せない。対費用効果を説明
できないと絶対先に進めない。当たり前である。子供のザリガニ釣りじゃない、
砂場のトンネル掘りじゃない、会社の業績に関わってくること。ひいては自分
の評価に関わってくること。少なからぬお金が動くのだ。理由がなければおい
それとはGOサインは出せない。

 そもそも入社からしてそうである。面接の際「なぜウチの会社を希望してい
るのか?」を尋ねない面接官などいない。「いや、何となく」「自分でもわかん
ないんスよ」「理由はありません」などと答えれば、痴呆の烙印を押されて即
追放だろう(笑)。

 会社を辞める時もそう。辞める時くらい理由がなくたってイイだろう、は通
用しない。かくいう私の時も、辞めるまで3回ほど面接があった。課長、部
長、その上のクラスまであった。「なぜ?」「何が不満なんだ」「本当の理由を
言ってみろ」等等。

「全く不満なんてありません」「やりたいことがある」などと答えてもあまり
納得してくれなかったねえ。でも、ホントにその通りだから、他に言いようが
ない。

 結局、すべては安心したいんだと思う。そのために必死になって理由を探す。
人は理由があると安心する。例えば、日本のどこかで爆破テロが起こったとす
る。すぐどこかの組織から犯行声明が出される。怖いなあ。でも、ホントに怖
いのは、犯行声明が出されなかった時だと思う。テロの理由が分からないからだ。
声明が出されれば、少なくとも自分に関係があるかどうかが分かる。

 17歳の事件、幼児虐待、引きこもり。世の中、事件や事故をはじめ、あら
ゆることに対して、なぜなぜなぜの大合唱だ。とにかく早く理由を確定させて、
安心したいのである。

 だけど仙人、別に理由があることに対して懐疑的なのではないよ。
「俺はこれこれこういうことのため頑張っている」
「私は○○になりたいから頑張っている」
「私は彼(彼女)のこういうところが好き」
全然OKやと思うよ。というか、なんでワシがOK出さなアカンねん(笑)。

 じゃなくて、何事を「やるにしてもやらないにしても」、無理矢理その理由
を探す癖がつかないように努力したいなあと、自分では思っているのだ。

 理由つくりをやめるのが難しいのなら、せめてそういう自分を自覚したい
なあと思う。やりたくもないのに(好きでもないのに)、逆にやりたいのに
(好きなのに)無意識に理由を探して自分を封じ込めようとしてしまう自分を
「自覚したい」なあと。

 自分でも気付かないうちに理由をつくるのに慣れてしまう、というか、もっ
と正確に言えば、理由を「偽造」するのに慣れてしまうのが怖いなあと思うの
だ。そしてもっと怖いのが自分で偽造した理由をホントの理由だと思い込んで
しまうこと。

 だけど、かく言う仙人も理由の巣窟である会社を辞めてからそういう理由つ
くりから逃れられたかというと、そうでもないんだな、これが。

 理由をつくるのがイヤで、自分を追い込むために会社を辞めたところもある
んだけど、大借金を背負ってから雲行きが怪しくなった。

 数年前に大借金にあえいでいた頃は、「せめてこの借金が半分になればなあ。
利息も少なくなるしヒマもできて、最初の目標どおりガンガンやりたいことが
やれるようになるのになあ」と思っていた。

 が、借金が半分になった最近、こう考えていることに気付いた。「減ったと
はいえ、これだけデカイ利息払ってるのはメチャ無駄やなあ。とにかくすべて
は借金を返し終わってからやな」

 理由を探している仙人が、確かに今ここにいる。


      ☆ ☆ ☆ あとがき ☆ ☆ ☆ 

今回は恋愛の話でも書こうと思っていたのですが、変な方向に話がいってしま
いました。
仙人、話しててもよくあるんですよ、元の話が分からなくなるってことが。
メルマガでもそうなるとは…。
何だか、自分がイヤになってきますな。自戒。

 

 

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つぎ

 

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