[2001/4/13]

実録 仁義なき戦い 健康ランド編

 



「実録 仁義なき戦い 健康ランド編」

 先日、大学時代の先輩から携帯メールが届いた。そのメールはJ-PHONE
の簡易デジカメが付いた携帯から送られており、画像が添付されていた。
浜松の健康ランドからだった。「 夕食に食べたウナギご膳 」なるタイトルと
共に、それらしき膳が写っていた。だが、画素数の非力さゆえに、実際何ご膳
なのかあまり良く分からなかった(笑)。

 しかし、時代の進歩はすさまじい。私がPCに向かっているちょうどその時、
浜松では先輩がウナギご膳に舌鼓を打ち、しかもその画像がリアルタイム
で送られてくるとは。とにかくすごく生々しく、時を共有しているリアルな感じを
受けた。

 そして、その天然モザイクがかかったウナギご膳の画像と、健康ランドとい
う言葉の響きが、仙人の青春の思い出を一気にフィードバックさせてくれた。
それは、仙人の大学1年の冬休み。あと3日ほどで新年という年の暮れのこと
だ。実家に戻っていた私は久しぶりに高校時代の仲間と会い、街の居酒屋で
しこたま酒を飲み気勢をあげていた。メンバーはY沢君という京都の同じ大学
へ行っている親友の他は、全員地元(ジモッティだっけ?)の大学だったと思う。

 その居酒屋で完全に出来上がり、メートルが上がりきった我々の「次、どこ
行こっ?」の自問自答にいち早く反応したのが、赤く充血し底光りに底光った
目を座らせた巨漢ジモッティだった。

「この前、○○健康ランドっつう所ができたんや。とにかくスケールがすごい
んや。そこ行かへんか?車なら俺が持っとる」

 その提案があるや否や、我々残りのメンバー4人は「キェーイッ」「キャキ
ャーオッ!」などの高周波の雄たけびを返し思い思いに踊った。
 たぶん、そこ行こうぜっの心意気を示したかったんやろけど、いつの世も
酔っ払いの理(ことわり)は分からんね(笑)。

 今でこそ、どこにでもある健康ランドやけど、当時はまだ珍しく、○○健康
ランドもその走りやったと思う。以下はその夜の我々の健康ランド顛末を小説
風に書き記した物です。もちろん、「小説風」というだけで実話です。

          ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 酒を飲むことは分かっていたけれど、手に入れた嬉しさからついつい愛車に
乗ってきてしまった巨漢ジモッティが、その判断ミスに気付くのにさほどの時間
はかからなかった。

 駐車してある彼の新車をバカ笑いしながら親のカタキのように蹴ったり持ち
上げたりしようとした我々に、本気で激怒した巨漢ジモッティを何とかなだめ
すかしたのも束の間、乗り込んだ車の中でまず酒弱ジモッティが吐いた。

 絹を裂くような声で発狂し、次の瞬間思考停止に陥ってしまった巨漢ジモッ
ティをよそに、我々は大爆笑大哄笑。そして「シュシュシュシュ出〜発!」の
大喚声。目の玉が石ころのようになってしまった巨漢ジモッティは、完全に
意思を失った廃人と化し、促されるまま虚ろにクラッチをつないだ。

 発狂人どもに操られ翻弄されたジモッティ車は、途中の深夜酒屋で背負える
だけの弾薬(ウィスキー、焼酎、ウォッカ5本ずつ)を買い込み、奇声嬌声泣き声
怒号を進軍ラッパに、あらゆる喜怒哀楽を撒き散らしながら、現代のノルマンディ
上陸作戦を遂行すべく、敵の最重要拠点○○健康ランドへその帆先を向けた。

 ランドへ上陸するや否や、先を争うように裸身軍神狂身となった我々は、ウ
ィスキー弾を小脇に抱え、第一殲滅目標、「大浴場」へと突撃していった。

 そして、浴場でまずウィスキーを各々ラッパ飲み、その後カランの水を喉に
流し込んで胃の中で水割りを作ったあげく、チ○ポ振り乱して踊り狂い、湯舟
に飛び込んで潜水という、もはや酒乱になること自体が目的のような乱心を
皮切りに、その夜の第二ラウンドのゴングを己が手で鳴らしたのだった。

 「なんじゃーっ、お前らはー!ナメとったらアカンぞー!」

 地元の屈強な男達に浴場を叩き出された私達は、その怒りの捌け口を、屈強
な男達にゲロ爆弾を浴びせ掛けるという計画に求めた。酔っ払いに理由はなく、
あるのは目的だけだった。そのためには、その材料を生成すべく、胃に新たな
弾薬を詰め込まなければならない。

 自分たちのロッカーに隠していた焼酎弾薬を片手に、酔客が舞台でカラオケ
などに興じている大広間に舞い戻った我々は、テーブルの下に各々の焼酎弾
を隠し、完全にトンデしまい在らぬ方向を向いてしまっている目で酒の肴や生中
を注文した。

 仲居が運んで来た生中に飛び掛った我々は、欠食児童さながらにビールジョ
ッキを空にし、テーブルの陰でその空ジョッキに自分の焼酎弾を注ぎ込んだ。

「カンパーイッ!」の絶叫が大広間を切り裂き、くつろいでいる湯治客が眉間
にしわを寄せ、仲居や大広間マネージャーが目配せで我々を監視対象とする
合図を送り合ったちょうどその時、Y沢君がバネ仕掛け人形よろしく飛び上がり、
口を押えて走り出す。

「させるかっ!」
功を焦る我々も、口からゲロの糸をひく先陣兵に続く。

 大広間出口までの我々の進軍跡には、豚足やら枝豆、ひっくり返されたジョ
ッキや湯呑みなどが物言わぬ屍となって散らばり、物言える湯治客の怨嗟の
咆哮がいつまでも止まなかった。

 空(くう)に体当たりするかのように廊下へ転がり出たY沢君は、屈強な
男どもが待つ浴場ではなく、アスロック魚雷さながらにゲロ航跡を引きながら、
一直線にトイレへと驚速雷進!

雷速のあまりの速さと自身の気持ち悪さにうめく我々が、おっとり刀でトイレ
へ駆けつけ見たものは、Y沢君の口噴水を浴び茫然自失としているアロハ着用
のハゲおやじの横で、笑顔で倒れている先陣兵の姿だった。

 ハゲおやじが正気を取り戻す前に傷兵を皆で担ぎ上げトイレを出ると、仲居
数名と大広間マネージャーが口角泡を飛ばしながら、廊下を走り向かって来る。
すでに何回も食っている泡を食った我々は、蜘蛛の子のように散り逃げた。

 Y沢君と共に、誰も使っていない小広間に潜入、積み上げられている布団群
の後ろに身を隠した私は、ノミ取りまなこで各部屋を槍改めしている敵よりも、
横で間断なくお好み焼きを作り続け、絶叫している戦友に背筋を凍らせた。

「仙人〜!風呂行って、アイツラ、ぶっ殺そうぜっ!ゲロ攻撃やーっ!」
「Y沢っ!シーッ!見つかるっ!」

 まわりを吐寫物で光らせた口を手で覆うことに躊躇した私は、布団をY沢
君の上からおっかぶせた。

 「いたっ!ここにいたっ!」

 仲居にアッサリ発見された私とY沢君は、情け容赦なく布団塹壕から引き
ずり出され捕虜となった。ジュネーブ条約での捕虜の取り扱いに関する取り
決めなどハナから無視した大広間マネージャーの拷問に耐え切れず、仲間
の素性を吐いた我々は、次々と捕虜となり連行されてくる戦友とともに判事
と検察官しかいない軍事裁判で再度の出入り禁止を裁決され、酷寒の駐車
場へと叩き出された。

 深夜の茫々とした駐車場で、冷たくなってピクリとも動かないY沢君を除
く我々全員は、そのままトランス状態に入り、踊り唄い、そして吐いた。石の
ような目をしていた巨漢ジモッティにもいつのまにか生気が戻っていた。

 そして半時ほどのち、踊り唄い吐き疲れ、糸の切れたマリオネットのように
大地に崩れ落ちた私は大の字に横たわり、「くそー、煮るなり焼くなり勝手に
しろや!」と、もはや誰についているのか分からない悪態をついた。とっくの
昔に煮られ焼かれていることに気付くはずもない我々であった。

 ふいに沈黙と静寂があたりに満ちた。自分の呼吸音が他人ごとのように聞こ
えてくる。まわりのシンとした空気が、呼吸に合わせて波の満ち引きのように
寄せては返す。冷気がゆっくりと全身に染み渡っていくのが分かる。ものすご
く気持ちよく、そして心地よかった。

 真冬の澄み切った空気の上にある星空は、怖いくらいにキレイだった。それ
まで、こんなに生々しい星空を見たことはなかった。見ているという感覚では
なく、自分が宙に浮き星屑の中に漂っているような気がした。

「くそー!なんで、こんなに星がキレイなんやー!」

 突然息を吹き返したY沢君が叫んだ。皆、何も答えなかった。沈黙こそが
その答えだった。

 結局、我々は朝まで駐車場にいて、そして、帰途についた。

 それからメンバー全員、測ったように風邪をひき、新年を棒に振った。
ディズニーランド、サンリオピューロランド、ランドにゃ色々あるけれど(ど
根性ガエルか(笑))、健康ランドに行って、これほど不健康になって帰ってく
る輩も珍しいだろう。

 松の内の病床の中で、私は誰かが言った「不健康なことは、健康な体じゃな
きゃできない」という言葉を何の脈絡もなく思い出していた。そう、本当に、
何の関係もないのだけれど。


☆ ☆ ☆ あとがき ☆ ☆ ☆ 

人の一生の間には、確かに祭りのような時期があるようです。(ホントか?)
熱に浮かされ、空騒ぎなどしてしまう時期。
みなさんはどうですか?

 

 

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つぎ

 

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