2007年度 漢方薬のすすめ

07.1葛根湯(かっこんとう)その4
葛根湯は七つの植物からなっていると前回、書きました。葛、麻黄、生姜、大棗、桂枝、芍薬、甘草です。この七つの植物が素晴らしい調和を奏(かな)でているので す。葛(くず)という私達になじみの深いポピュラーな植物、一つをとりあげて論じても本が一冊書けるほど奥の深い、素晴らしい効能があります。麻黄(まおう)は解熱作用、生姜(しょうが)は解毒・解熱作用、棗(なつめ)は坑アレルギー作用、桂枝(けいし・にっき)も解熱・鎮静・坑アレルギー作用、芍薬(しゃくやく)はさらに坑菌作用、甘草(かんぞう)は副腎皮質ホルモン的な坑炎症作用をもっています。
これらをバランスよく含んでいるのが葛根湯です。ですから効かないわけがないのです。西洋薬のような単純な構造ではなく遙かに複雑な深遠な内容をもつ「薬」なのです。「薬」なのですとわざと書きました。「風邪薬」なのですとは書きませんでした。それは葛根湯が風邪だけに効く薬ではなく、その他さまざまな疾患に幅広く効果を発揮する万能薬的な内容を持っている薬だからです。              
                      

07.2     葛根湯(かっこんとう)その5  
   肩こりに葛根湯。
葛根湯は風邪に抜群の威力を発揮する、素晴らしい風邪薬です。しかし葛根湯は風邪だけに使用する薬ではありません。「肩こり」の薬としての方がむしろ有名であると言っても過言ではないくらい肩こりによく効きます。風邪に、この薬がよく効く方ならば一度おためし下さい。頑固な肩こりが本当に良くなったといってこの薬を希望されて来られる方はたくさんおられます。葛や生姜や麻黄などが肩の筋肉の凝りをほぐすのではないでしょうか。肩こりだけではなく、首筋の痛み、五十肩、上半身の神経痛などにも効きます。


07.3 葛根湯(かっこんとう)その6

  葛根湯を「風邪薬」、風邪の時だけ使用する薬として理解する事は正しくありませんと前回書きました。頸から上の病気によく効きますので頑固な蓄膿症(副鼻腔 炎)に使い、長年の症状がすっかり取れたと喜ばれた例があります。慢性的な中耳炎 で長年苦しんでおられた40代の女性はこの葛根湯を1ヶ月服用しただけですっかり良 くなりました。最近では花粉症の症例に、これを使う先生が多数おられます。
 医師仲 間の会話で私が「小青竜湯が花粉症にいいですよ」というと、「いやいや葛根湯も負 けず劣らずいいですよ」という先生がおられます。また別の先生は、「いや花粉症には葛根湯に川窮(せんきゅう)と辛夷(しんい・こぶし)を加えた葛根湯加川窮辛夷がベストだ」という先生もおられます。
 いずれにしても葛根湯がよく効 くという証拠でしょう。おおみや診療所では散剤(顆粒)だけではなく錠剤の葛根湯 も用意してあります。散剤が飲みにくい人は錠剤で下さいとお申し出下さい。



07.4 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
この薬も前回の清肺湯同様、呼吸器疾患によく用いられます。清肺湯が頑固な咳と痰 を伴う肺の疾患に用いられましたが、この薬は喘鳴を伴うような呼吸器疾患に用います。


喘鳴というのは呼吸が「ぜーぜー」している状態です。乾いた「コホンコホン」というような咳ではありません。ぜーぜーと肩で息をしているような状態です。気管支炎 でも少々喘息に近いような、痰が絡んでいるような状態の時に用います。小児の喘息 にもしばしば用いられます。喘息の人が急な発作を治める頓服としての使い方もあり ます。即効性があるということです。


成分はいたって単純です。麻黄、杏仁、甘草そして石膏です。石膏がもっとも多く使われています。四つの成分しかないような単純な薬は即効性にもすぐれています。

また面白いことにこの薬は痔の痛みにも用いてよいと古典には載っています。


07.5 清肺湯(せいはいとう)
咳が出るのは辛いものものです。
特に就寝中に出る咳は睡眠の妨げになって余計に苦しさを感じます。
こういう時の薬としては「麦門冬湯」がよく効きます。しかし、から咳ではなく少し痰がからむような咳でしたら今回の「清肺湯」がよいと思います。教科書には粘っこい痰が出る咳、とあります。痰と咳が目安でしょう。


味は子供用にできている「麦門冬湯」ほど甘くはありません。むしろ漢方薬らしい、大人の味です。飲みにくい方もおられるかもしれません。しかし良薬は口に苦しですから、その分だけよく効きます。


成分は麦門冬・天門冬(ユリ科)、桔梗、陳皮(みかんの皮)など十六腫という多くの植物を含んでいます。
急性の風邪の時の咳にもよいし、また、慢性的に咳と痰が続く、いわゆる「痰持ち」の方にもよいと思います。


07.6 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

  体力がなくて、疲れやすいという人に用います。ちょっとしたことですぐに疲れる、端から見ていてもこの人体力ないなーと思う人、すぐに心臓がどきどきして息切れする、なんとなく微熱があり、頸から上に汗をかきやすく、食欲もない、おへそのあたりで動悸がする、神経過敏で熟睡ができない。こんな症状のある人に用います。病名はとくにありませんが風邪を引いた後なかなかスッキリしない、大きな病気をしたあと、精神的に不安感が強い時などに用います。成分は、体力のない人に使う乾姜(かんきょう。乾かした生姜しょうが)、精神安定剤に使う牡蛎(ぼれい。海のかきの貝殻)、柴胡(芹せり科の植物)など7種類で構成されています。体力のない方の滋養強壮剤、健康保健薬、サプリメントとして使うのがよいのではないかと思います。

 

07年7月 麻子仁丸 ましにんがん

   漢方医学では便秘は健康にとってよくないものとされています。そこでいくつかの薬が用意されています。私は主にこの「麻子仁丸」を使います。便秘を訴える人の七割には効くようです。教科書には老人の便秘、虚弱者、病後で体力の低下した人の便秘に用いるとあります。そして大便は乾燥して硬く塊状となり、尿が多くて、皮膚は乾燥し、便秘の他に特別訴えの無い者に用いるとあります。しかし老人でなくても、広く一般の方が用いてもよく効きます。よく効き過ぎて困るという方もしばしばおられます。そういう方には一日三回の服用でなく、二回でもよいし寝る前の一回でもいいですよとお話しています。顆粒の薬ですから自由に量を変えられます。ここが錠剤よりもよいところです。成分は麻子仁と言う麻の果実が主成分です。その他に大黄(たで科の植物)という強力な下剤、枳実(からたちの実の未熟なもの)、厚朴(朴の木の樹皮)、杏仁(あんずの種)、芍薬(しゃくやくの根)の六腫で構成されています。いかにも効きそうですね。頑固な便秘でお苦しみの方、一度おためし下さい。

 

07.8 潤腸湯じゅんちょうとう

先月は便秘の薬として麻子仁丸をご紹介しました。続いて今月も下剤を紹介します。

潤腸湯です。読んで字のごとくとはまさにこのことです。腸を潤(うるおす)と書いて潤腸湯です。腸の中に硬い便があるのを潤す役目をします。教科書には次のように書いてあります。比較的体力のない人、老人、虚弱者などの便秘に用いるもので、コロコロしたウサギの糞のような乾燥した便を出す人に用いるとあります。皮膚は比較的乾燥し、おなかは軟弱です。前月の麻子仁丸では強すぎるかたはこの薬をおためし下さい。成分は麻子仁丸から芍薬を取り除いて代わりに桃仁(桃の種)、杏仁(杏の種)など8種類を加え11種類の生薬から成り立っています。薬に頼る前に便秘の人はまず食事に木をつけてください。

基本は植物性です。繊維の多いものを食します。菜っ葉や根菜類。白米より玄米の方が遙かに繊維が多く含まれています。牛乳や卵、魚や肉などの動物性の食品はほどほどにしましょう。そして適度な運動です。

 

2007.9 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

漢方には血圧という考え方はありません。血圧計ができる遙か昔にできた医学ですので高血圧、低血圧という概念は無いのです。漢方を現代的に考えて高血圧の治療、脳卒中の予防薬を考えてみるとまず第一はこの黄連解毒湯でしょう。この薬は比較的体力がある人の血圧の治療、脳卒中の予防薬といえます。顔が赤く、なんとなくのぼせ感がある、精神的にも少々いらいらしている人で血圧の高い人に向いています。普段血圧は低いのに鼻血を頻繁に出す人にも使います。脳卒中を起こして、その大部分が死亡するというネズミに黄連解毒湯を飲ませてみると、通常は71%も脳卒中を起こすネズミがわずか20%しか起こさなかったという報告があります。ネズミの実験ですが人間にも当てはまるといいですね。血圧は心配だが西洋薬はもっと心配だという方は脳卒中予防の保健薬として飲んでみるのもいいのではないでしょうか。成分はいたって単純でです。黄連(おうれんの根)、黄柏(きはだの樹皮)、黄芩(こがねばなの根)、梔子(くちなしの果実)の四つです。味は少々苦みがあります。良薬だからでしょう。

 

07.10  六味丸(ろくみがん・六味地黄丸)

 八味地黄丸というよく知られた漢方薬があります。昨年の九月にこの欄でも紹介しました。その八味地黄丸から附子(ぶし)と桂枝(けいし)をはずして子供用の薬にしたものです。しかし大人にもよく使う薬です。八味地黄丸を使うほどの高齢者ではないが、疲れやすく、腰が痛かったり、脚がだるかったり、根気がなかったり、耳鳴り、目の疲れ、視力の減退を感じたり、尿の勢いがなかったり近かったりと、いわゆる初老を感じる人に用います。地黄(じおう)という成分が主で山薬(やまいも)など他四つの成分で構成されています。中高年の方でなにかサプリメントやビタミン剤を飲みたいなと思っておられる方にお勧めいたします。勿論男女を問いません。子供用としてできている漢方薬ですから意外に若い人の疲れにもいいような気がします。子供の夜尿症の薬として有名です。


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