身体に穏やかで、しかも安全、それでいてしっかりした効き目のあるのが漢方薬です。
おおみや診療所では出来るだけ漢方を使用して治療することにつとめています。
私達の発行している「診療所だより」に毎号、漢方の話を連載しております。
06年1月
昨年11月に越谷のサンシティにて医師向けの漢方薬講座を開きました。その時のまとめの文章をご披露します。医師向けの新聞に掲載したものですが皆さんにも十分に参考になると思います。
「初心者のための漢方薬講座」のまとめ。研究会要旨。(一部加筆)
・漢方薬は安全でしかも効果あり
漢方薬は2000年という長きにわたって処方されてきた実践医学である。多くの人により試され続けて、安全でしかも効果のある薬だけが残ってきた。昨今の10年や20年足らずの薬とは比べものにならないほどの多くの臨床実験、臨床経験を重ねている。まさにEBM(科学的根拠に基づく医療)に基づく薬である。
・漢方薬は即効性と体質改善性の二面あり 漢方薬をゆっくり効く、体質改善薬程度に思っている人が多いがそれは大きな誤解である。漢方薬を実際に処方してみるとそれはすぐにわかるはずである。「麦門冬湯」という薬は咳に対して即効性をもつし、「芍薬甘草湯」という薬は下肢のけいれん、こむら返りなどの痛みに即効性をもっている。他にも即効性のある薬はたくさんある。勿論、西洋薬にはない体質改善は得意とする分野である。
・感謝の度合い大
あちこちの医療機関でさじを投げられた患者を救う可能性を多く秘めている医学と言うことができる。10年間子宝に恵まれなかった人が「当帰芍薬散」で無事に妊娠出産した、毎夏、夏ばてで苦しんでいた人が「清暑益気湯」という薬で元気になり、魔法の薬だと喜んだ例など、西洋薬では考えられない著効例がたくさん生まれるおもしろさをもっている。
・まず「葛根湯」で試してみよう
漢方薬をまだお使いでない先生はまず「葛根湯」から初めてみることを勧める。「葛根湯」を風邪薬として覚えるのではなく、葛根湯証(葛根湯が身体に合う体質)として覚えることが大切である。そうすると風邪には勿論、肩こりにも、中耳炎にも、湿疹にも、花粉症にも使えるようになる。
・漢方薬は一剤が原則
漢方薬を2剤も3剤も、時には4剤も5剤も投与されている例がある。これは全く漢方薬をしらない先生の処方と言っても過言ではない。知ってて使っているなら「経営にはよく効く」でしょうが患者さんにはを全く効かないはずである。是非とも一剤投与の基本を守ること。
06年3月
葛根湯加川きゅう辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)
(きゅうと言う字はくさかんむりに弓です)
今年も花粉症の季節が巡ってきました。私は花粉症に「小青竜湯」を投与します。ほとんどの方がよく効くとおっしゃいます。事実、この季節になると、昨年の「小青竜湯」を下さいと診療所を訪れる患者さんがたくさんおられます。私は「小青竜湯」を使用しますが、「葛根湯加川きゅう辛夷」の方がよく効くという先生方もおられます。そこで今回は「葛根湯加川きゅう辛夷」についてお話しします。この薬は名前のとうり「葛根湯」という漢方薬の代表のような薬に川きゅうと辛夷を加えた物です。漢方薬の教科書には、蓄膿症や慢性鼻炎などによく用いる。頭痛、肩こりなどの症状に加えて鼻がつまる、鼻汁が出るなどの症状によく効くとあります。「葛根湯」も花粉症によく効きますから「葛根湯加川きゅう辛夷」もきっと効くと思います。
辛夷(しんい)はこぶしの花のつぼみで民間薬では蓄膿症、鼻炎、頭痛、歯痛に使います。川きゅう(せんきゅう)はせり科の植物で補血強壮鎮痛剤で、血行をよくして頭痛を治す効果があります。花粉症でお困りの方、ご相談下さい。
06年4月
柴胡桂枝湯
感冒(風邪)がこじれて長引き、なんだかけだるく、汗をかき微熱が続くようなときに用います。この薬は小柴胡湯という薬と桂枝湯という薬の二つをあわせた処方になっています。小柴胡湯は胆石や肝臓障害、膵臓炎などに用い、桂枝湯は体力のない人の風邪薬としてしばしば使います。そこでこの薬は少々体力のない人が上腹部の症状を訴えたときにもよく用います。食欲不振だとかみぞおちが痛い、左右の上腹部の痛み・違和感などに効果があります。
ある時、風邪薬として投与したところ風邪よりも長年の右上腹部の重い感じがとれたと喜んでおられた方がいました。この方はエコーで調べたところ胆石がありました。成分は柴胡という植物を中心に人参、生姜、なつめ、甘草など9種が含まれています。中国のもっとも古い教科書、傷寒論に載っている歴史ある薬です。
06年5月
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)
色白で少々太り気味、いわゆる水太りのような人で、身体が重い、むくみやすい、などという訴えがあるときに用います。またこのような人の腰の痛み、膝の痛み、下肢の痛みなど、あちこちの痛みによく効きます。中年後の女性で運動不足があり、少々肥満し、あちこちの痛みのある人は一度、お試し下さい。最近、この薬で膝の痛みがすっかりよくなったという方がおられました。成分は防己、黄耆など6種で構成されています。中国のもっとも古い漢方薬の教科書に載っている薬です。2000年来、廃れずに現代まで処方されているということはこの薬が葛根湯と同じくよく効くからでしょう。
06年6月
五積散(ごしゃくさん)
ちょっとひ弱な感じのする人で、下腹部の痛み、腰の痛み、あちこちの神経痛、膝などの関節の痛みを訴える時に用います。寒冷や湿気で痛む時によいというので最近では冷房病の際にもよく用います。また冷たいものを食べて起こる腹痛や下痢、食欲不振にも用います。関節の痛みの薬ですから肩こりにも用います。五積散というのは体内に鬱積した五つの病毒、すなわち気、血、痰、寒、食の病毒を治すという意味でつけられました。私は主に腰や膝の痛みなどあちこちの痛みを訴える方に使用しています。しかし、更年期障害や、感冒、慢性胃炎、不眠症等々、もっとたくさん処方されてもいいような漢方薬だと思います。処方は複雑で、16種もの生薬が使われています。