漢方薬

漢方薬のすすめ

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漢方薬のすすめ


 身体に穏やかで、しかも安全、それでいてしっかりした効き目のあるのが漢方薬です。
おおみや診療所では出来るだけ漢方を使用して治療することにつとめています。
私達の発行している「診療所だより」に毎号、漢方の話を連載しております。

05年1月
麻黄湯(まおうとう)
比較的頑健な人用の風邪薬です。葛根湯ではちょっと弱いかなという人によく用います。風邪の初期に用いるとよく効きます。また、寒気(さむけ)が強く発熱と一緒に筋肉痛や関節の痛み、腰の痛みを強く訴える人にもよく効きます。ふだんから鼻炎があって風邪をひくと鼻がつまって口で呼吸をしなければならないという人にもいいようです。もし自然に汗が出るという人は東洋医学的には虚弱な人なので麻黄湯は強すぎますので飲まないでください。成分は麻黄、杏仁、桂皮、甘草という、いたって単純な構成です。感冒、インフルエンザだけでなく関節リュウマチ、喘息などにも適応があります。


05年2月
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
 この薬は急激に起こる筋肉のけいれんに用いられます。急激に起こる筋肉痛の代表は「こむらがえり」でしょう。気温の低いところで筋肉作業をしているときによく起こります。
 気温の低いところでの筋肉作業は水泳や登山、ハイキングです。しかし夜間、睡眠中や起きがけに起こす人も大変に多いものです。暖かい布団の中でなぜ起こるのかはよく分かっていません。こういう人は夜、就寝前にこの薬を一袋ないし二袋服用すると、こむらがえりが起こらないようです。
 筋肉の急激なけいれんのもう一つの代表は「しゃっくり」でしょう。しゃっくりは横隔膜のけいれんです。これも苦しいものです。先日、このしゃっくりが一週間続いている94才の方にこの芍薬甘草湯を処方しましたところ、一回の服用でぴたりと治まってしまいました。これには家人もびっくりしましたが私もびっくりしました。こむら返りに効くのだからしゃっくりにも効いても不思議ではありませんがあまりにもよく効きました。
 成分は至って単純です。「芍薬」と「甘草」が等分に入っているだけです。漢方は即効性はないなどと巷では言いますが、どうしてどうしてこの芍薬甘草湯は素晴らしい即効性をもっています。そして西洋薬では考えられない神秘の力をもっているようです。


2005年3月
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
 花粉症に漢方薬を使い始めて10年になります。最もたくさん使用している薬は「小青竜湯」です。この漢方薬は殆どの花粉症の患者さんに効果があります。最初の経験は西洋薬はいやだという患者さんにこの小青竜湯を投与したのがきっかけです。効果はてきめんでした。西洋薬につきものの眠気は全くないのに花粉症の様々な症状をピタリと抑えてくれるのです。
 当時、トリルダンという西洋薬(私も随分と使いました)が心臓死をもたらすという記事が新聞を賑わしていました。花粉症ごときで命を落としてはたまったものではありません。そういう時期でしたから私は積極的に小青竜湯を使いました。そしてこの小青竜湯は多くの患者さんに支持されました。支持された証拠に花粉症の時期にだけ小青竜湯をもらいに来る患者さんがたくさんいるのです。一度、小青竜湯の効き目を知ると他の薬は怖くて使えないのでしょう。花粉症にステロイドホルモンの注射をする方がまだまだおりますがステロイドホルモンの注射は大変危険なものです。そのまえに一度、小青竜湯をを試してみてはいかがでしょうか。


05年5月
当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)
 疲労しやすく、血色のすぐれない人で、下腹部痛、生理痛、痔疾痛などの訴えのある人に使います。足腰が冷える、足腰が痛む、冷房病でつらいなどという人にもよく効きます。
 当帰芍薬散がその代表的な薬ですが、それよりも衰弱や疲労感が強く、強い痛みの人によく効くようです。
 更年期障害のある方、ご高齢の方にも使用します。不思議なことにこの薬を飲み始めてから花粉症がすっかり治ったという患者さんがおられました。今年のひどい花粉の時期にも全く症状がなかったそうです。証(適応症))があえばいろいろな身体の不具合を一挙に治すのでしょう。ここが漢方薬のおもしろいところです。
 成分は至って単純です。小健中湯(昨年11月号)の膠飴(こうい・水飴)の代わりに当帰(とうき)を加えたものです。すなわち芍薬、桂皮、大棗(なつめ)当帰、甘草、生姜(なまのしょうが)です。


05年6月
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
 万病に効く人参、養命酒の養、そして栄える湯。いかにも効きそうな名前です。名前のとおり、この薬は体力の弱っている人によく使う薬です。病後の疲労、食欲不振や衰弱、息切れやせてきた、等です。病後でなくても何となくだるい、食べたくない、眠れない、手足が冷える等という方に用います。ビタミン剤やサプリメントのような使い方をしても構いません。
 中国の宋時代の「和剤局方」という古い本に載っている薬です。いまだに使われているのはよく効くからでしょう。
 成分は人参(ニンジン)黄耆(オウギ)当帰(トウキ)地黄(ジオウ)白朮(ビャクジュツ)茯苓(ブクリョウ)芍薬(シャクヤク)桂皮(ケイヒ)陳皮(チンピみかんの皮)遠志(オンジ)五味子(ゴミシ)甘草(カンゾウ)の12薬草よりなっています。


05年7月
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
 越婢湯という胃腸の薬に白朮というむくみをとる薬を加えた薬です。下肢にむくみがあり皮膚に発疹がでたり、小便の出が悪く口が渇く、下肢の力の弱くなった人に用います。
 整形外科医は諸関節の痛みによく効くといっています。内科的には腎炎、ネフローゼ、慢性湿疹などに使用します。主成分は石膏(天然の硫酸カルシュウム)です。それに抗アレルギー薬として用いる麻黄(まおう)、生の生姜、棗、甘草、白朮、の6種です。石膏や麻黄を用いてるというところがなかなかおもしろいと思います。天然のカルシュムですから整形の医者が使いたくなるのも何となく分かります。リュウマチの方にもよく用います。


05年8月
小健中湯
 昨年の11月号で88歳の女性の下痢に劇的によく効いた症例を紹介しました。今回は38歳の若い女性に劇的に効いた症例をご紹介します。
 彼女の訴えは夜間、排尿の回数が異常に多くて眠れず、つらくてしようがないというものでした。一晩に5 回も6回もトイレに行くというのです。1時間か1時間半に一回です。これでは眠れません。昼間も尿の回数が多いので旅行の時は本当に困るとのことです。そこで私はこの人に小健中湯を投与してみました。驚いたことに三日目頃から尿の回数が減り2週間目には一晩に1回だけになったのです。よく眠れるようになったことは言うまでもありません。しかしもう一つ驚くことがあるのです。それはこの薬を飲むようになってから足の裏のほてりがすっかりなくなったといのです。それまでは特に夏になると足のうらがほてってあつくてあつくて、これもまた不眠の原因だったというのです。ほてるものですから足を冷たいところ冷たいところと始終、足を移動していたとのことです。夜間の頻尿(何回も排尿すること)はなくなるし、足のほてりはなくなってぐっすり眠れるようになったと喜んでいます。もちろん昼間の尿の回数も減りました。尿の回数の多い方、足がほてってお困りの方、一度試してはいかがでしょうか。


05年9月
乙字湯
「痔」という病気も多いものです。やまいだれの中に寺という字が「痔」です。お寺のお坊さん方に多かった病気でしょうか。消化管の一番末端の肛門の疾病です。いぼができたり、脱肛(直腸が飛び出てくる)したり、出血したり、疼痛をともなったりします。
 昔も今もつらい疾病です。漢方薬 にも様々な痔疾の薬があります。「乙字湯」はその中でも代表的なものです。この薬は体力が中程度で、痔があって便秘するものによく用いられます。激しい症状はないが痔の痛みがある人にむくようです。大黄(だいおう)という下剤など6つの成分でできています。この薬は江戸時代、水戸藩の軍医、「原 南陽」という人が作ったものです。
 水戸藩といえば黄門様。そこで肛門の薬を作ったのでしょうか。みなのものしずまれしずまれー。これをみよ。この薬をなんとこころえるか。乙字湯であるぞよ。痔の痛みもきっと鎮まるでしょう。


05年10月
 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
 少し弱々しい女性のための代表的な漢方薬です。がっちりした体格の女性には向きません。漢方では虚症と呼ばれるタイプのかたのためのお薬です。足腰が冷える、疲れやすい、貧血気味である、お小水が近い、月経痛、月経不順、めまい耳鳴り、動悸、かたこり、頭重感のある人などが対象です。不妊症、習慣性流産癖のある人に投与して大変に喜ばれたことが何度もあります。妊娠中にも服用できます。安産の薬、安胎薬としても評価のたかい薬です。基本は若い女性ということになっています。小学生くらいから服薬可能な薬です。疲れやすい、内気、無気力、精神不安、不眠の方にもいいようです。
 立てば芍薬、座れば牡丹ということばがありますが、成分に芍薬の花の根がつかわれているところが いかにも女性の薬を思わせます。ほかに当帰(せり科)など全部で6種からなっています。


05年11月
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
 前月号ではきゃしゃな女性のための代表的な漢方薬、当帰芍薬散 について述べました。今月号ではもう一つ、女性のための代表的な漢方薬について述べます。
 この薬は割合に体力のある人で、冷え性、のぼせ、便秘がち、かたこり、頭重患、めまいなどがあるような場合に用います。また漢方の美肌剤としても有名で薏苡仁(よくいにん・はとむぎ)とよく併用します。女性のための体質改善薬として長期に使用します。冷えのぼせ、便秘、月経困難、かたこりなどの症状がとれ、皮膚が白くなって垢ぬけしたようになると教科書には書いてあります。これには芍薬(しゃくやく)だけでなく、牡丹(ぼたん)も使われていますからまさに女性のための漢方でしょう。立てば芍薬、座わればぼたん、歩く姿は百合の花。残念ながら百合は使われていません。そのかわりに桃の種などが入っています。


05年12月
加味逍遙散(かみしょうようさん)
この薬も女性薬の代表格です。疲れやすく、手足がだるい、かたこり、頭痛、めまい、不眠、いらいらする、午後になるとかーっとして上半身があつくなるような症状の人に用います。このような症状は更年期の際によく起きますので更年期障害の方にしばしば処方されます。その他、便秘症、胃の不快感、自律神経失調症などなどさまざまな症状に使います。血圧が高いといわれているが西洋薬には抵抗があるとお思いの方はこの加味逍遙散を高血圧の薬として服用してみるのも一つの方法でしょう。加味逍遙散という名の「逍遙」というのは「不定愁訴(なんだかはっきりしない訴え)」という意味です。どうもなんだか身体がはっきりしないという方は一度使ってみるとよいでしょう。成分は当帰、芍薬などの他に乾燥させた生姜、牡丹皮(牡丹の花の根っこの皮)、山梔子(くちなしの実)、薄荷など11種の成分で構成されています。


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