漢方薬

漢方薬のすすめ

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漢方薬のすすめ


 身体に穏やかで、しかも安全、それでいてしっかりした効き目のあるのが漢方薬です。
おおみや診療所では出来るだけ漢方を使用して治療することにつとめています。
私達の発行している「診療所だより」に毎号、漢方の話を連載しております。
今年の、1月号〜8月号に掲載された記事をお読み下さい。

02年1月

小柴胡湯


慢性肝炎の薬として知られていますが副作用が問題になりました。特にインターフェロンとの併用時に副作用が多かったようです。しかし本来この薬は風邪などの急性の疾患に使う薬なのです。慢性の肝炎のように長期間服用するから副作用がでるのです。短期間の服用では決して副作用はありません。 風邪薬として使用するときは、急性期にももちろん使いますが、風邪が長引いて身体に変調をおこし全身がだるい、食欲不振、口が苦い、吐き気、めまいを起こすような状態にもしばしば用います。とくに、みぞおちの左右が重苦しく感じる風邪にいいようです。江戸時代は急性の気管支炎によく使用したようです。成分はセリ科の柴胡とサトイモ科のからすびしゃくからとった半夏,しょうが、朝鮮人参など七種の成分が使われています。

02年2月

柴胡桂枝乾姜湯


体力がなく、疲れやすい,動悸がする、息切れがするなどという、いかにも弱々しい人の風邪の後によく使用します。寝汗がとれない、微熱が続く、なかなか食欲がでてこない、咳が続くなどという症状によく効きます。この薬は前回の小柴胡湯よりもさらに体力のない人に使う薬です。成分にはカラスウリの一種、牡蛎の殻、乾燥したしょうが、柴胡などな七種の成分が含まれています。もちろん風邪だけではなく、体力のないひとのビタミン剤的なつかいかたもします。牡蛎の殻が入っているので、精神安定剤としても使います.

02年3月

大柴胡湯


風邪が長引いている、風邪の後がどうもスッキリしない、こういうときに使用する漢方はいくつかあります。私は竹じょ温胆湯や補中益気湯が好きでよく使用しますが、前回の小柴胡湯もその一つです。小柴胡湯は子供や体力のない人に使用しますが、がっしりした体格で、体力のある人の風邪の後には大柴胡湯をしようします。小柴胡湯と同じようにみぞおちの左右が重苦しいという症状の人によくあうようです。成分は小柴胡湯から、体力増強剤のにんじんと甘草を除いて、代わりにみかん科のダイダイなどの未熟果実,大黄という下剤、芍薬を加えています。もちろん風邪の後だけではなく、肥満や高血圧、便秘症の薬としても使用します。2000年の昔からある、代表的な漢方薬の一つです。

02年4月

柴胡加竜骨牡蛎湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)


二月号で牡蛎(かき=海のかきです)の殻(から)は精神安定剤に使われると書きました。今回の漢方薬は名前に牡蛎がついています。そしてこれは漢方薬の代表的な精神安定剤とされています。この薬は比較的体力のある人に使用します。驚きやすい、怒りっぽ い、眠れない、べんぴがある、血圧が高い、などの人に使います。がっちりした体格だが、案外気が小さいというタイプでしょう。成分は牡蛎の殻、竜骨(りゅうこつ=大型の哺乳動物の化石)、精神安定剤の半夏(はんげ)、柴胡(さいこ)など11種の成分で構成されています。カルシュウムはしばしば西洋医学でも精神安定剤に使います。牡蠣の殻はまさしくカルシュウムのかたまりですから、安定剤として使われても不思議はないでしょう。単独で服用しても良いし、西洋医学の安定剤と一緒に服用して,西洋薬の働きを補うようにしてもいいと思います。


02年5月号

漢方薬諸々

 漢方薬は一種類の服用が基本です.
 今回は漢方の基本についておさらいをします。まず第一の基本は、漢方は一種類で服用するということです。二種類も三種類も服薬している人がいますが、本当の漢方では決してそういうことはありません。たとえば心臓が悪くて、便秘があって、肩が凝るような人がいたとします。西洋医学はこういう場合、心臓の薬と便秘の薬と肩こりの薬をそれぞれだします。そこで最低3種類の薬になります。漢方では心臓が悪くて便秘があり肩が凝るというのをひとまとめにくくって、そういう症状に効く薬を一種類選ぶのです。それを西洋薬と同じように、心臓の漢方で一種類、便秘の漢方でもう一種類、さらに肩こりの漢方も処方するということはないのです。2種類飲んだから、三種類飲んだから、一種類より余計に効くというなら飲んでもいいのですが、そういう飲み方はその薬のどれも全く効き目のないものにしてしまうのです。高いお金を出して、そのどれもが効かない薬に変えてしまうほどばかばかしいものはありません。
 漢方を二種も三種も、時には四種類も出す医者がいます。医者も悪いのですが患者さんももっと勉強して自身を守ってください。漢方は二種も三種も同時に処方されることは原則的にはないということをぜひ覚えておいてください。
 漢方の専門医にかかっているという人がしばしば外来に来ます。どういうクスリを使っているのかと勉強のために見せてもらうと、たいていの場合二剤も、三剤も飲んでいます。時には五剤も飲んでいる人がいます。私はこういう医者は全く信用しません。信用しないどころか呆れた、ひどい、医者の風上にも置けない悪徳医者だと遠慮なく申し上げたい。何故なら漢方薬は原則一剤で使うものだからです。このことはこのシリーズでも一、二度書きました。例を挙げて説明します。
Aという漢方薬にはア、イ、ウ、エ、オと言う五つの成分が入っているとします。そしてそれぞれの成分の割合は〇.五,〇.四,〇.三,〇.二,〇.一ずつ入っているものとします。この成分の割合は漢方薬ではきわめて大事な要素なのです。アが0.5 入っているから効くのであって〇.八では絶対にいけないのです。また、イという成分は絶対に〇.四でなければならないのです。これは多ければいいだろうと〇.六にしたのでは全く効かないか、他のクスリになってしまうのです。
さてBという漢方薬は 同じようにア、イ、ウという三つの成分と、カ、キ、ク、ケ、コという五つの成分が入っているとします。合わせて八つの成分で成り立っているクスリとします。そしてそれぞれアは0.3,イは0.2、ウは0.1,カキクケコはそれぞれ〇.五ずつのせいぶんとします。
このAというクスリとBというクスリを一緒に服用したらどうなるでしょう。アの成分はおなかの中でAというクスリとBというクスリの二つが合わさって(0.5+0.3=0.8)0.8になってしまいます。本当はAのくスリではアの成分は0.5が正しいのに0.8になってしまいました。同様にBのくスリでもアの成分は0.1しかなかったのにAというクスリとBというクスリの二つを一緒に飲んだために、成分割合の量が全く違ってきてしまったのです。同様にこれはイという成分にもウという成分にも言えることです。このように二つの漢方薬を一緒に飲んだのでは全く違うクスリになってしまうのです。これでは効く薬も効くはずがありません。漢方薬の成分はそれぞれA,Bのくスリのように重複しているのです。ですから二つ、三つの漢方薬は合わせて飲んではいけないのです。ここが西洋薬と漢方薬のちがいなのです。二つも三つも出す医者は漢方薬を知らない医者でしょう。


02年6月号

越碑加じゅつ湯(えっぴかじゅつとう)

教科書には、むくみがあり小便の出が悪く、口が渇く人、足腰が弱った人の薬だと記載されています。そこで現代的には、腎臓の悪い人、心臓の悪い人によく使います。

もう一つは、関節の痛みにも効果があると記載されています。そこで漢方薬の好きな整形外科の先生方も鎮痛剤として頻用されています。実際、頑固なリュウマチの痛みが、この薬で軽減した症例を私自身も経験しています。成分には石膏が入っています。これはカルシュウムです。他に生姜、麻黄、甘草、ナツメ、じゅつ(野草のおけら。水分の代謝に効果。)等が入っています。


02年7月

五積散(ごしゃくさん)

この薬は、あまり体力のない人で、胃腸が弱く、下半身が冷え、下腹や腰、下肢などが冷えて痛む人に用います。西洋医学的な病名をつければ腰痛症、神経痛、関節痛などです。とくにこれからの季節、冷房病の人によく使われます。更年期の症状にもいいようです。処方の内容は大変複雑です。なんと16種類もの生薬が配合されています。要約すると、胃腸を整えて,血行をよくし、冷えをとり、筋肉を和らげる薬でしょう。いろいろな薬を飲んだが、何となくすっきりした感じのない人は一度試してみてはいかがでしょう。


2002 年8 月

夏の漢方薬

気温と湿度が高いのが日本の夏の特徴です。夏を元気にのりきれと言ってもやはり、人それぞれ、体力に差があります。夏を元気に乗り切れずに、夏になると文字どうりバテてしまわれる方も多くいらっしゃいます。夏ばてにならないように水分を十分に補給して、睡眠もよくとってください。「暑いですね」と挨拶されたら「夏らしくていいですね」と言うくらいの気持ちも大切です。さて、西洋医学には夏ばての薬というのはありません。しかし漢方にはちゃーんと、そういうときの薬が用意されているのです。代表格は、清暑益気湯です。読んで字の如く、暑さを清めて、気を増す薬です。この薬で大抵の夏ばてはのりきれます。そのほかにも前号で書きました五積散、もいいですね。病後の回復によく使われる補中益気湯もいいですよ。おなかをこわしたら柴苓湯もいいですね。朝鮮人参を主成分にした人参養栄湯もよく効きます。ご相談下さい.


2002 年9 月

当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)

漢方薬はほとんど婦人のためにある処方体系(治療体系)と言ってもいいほど女性のための薬がたくさんあります。この漢方もそのひとつでしょう。疲労しやすく,血色がすぐれない人で、生理痛の強い人,下腹部に痛みのある人によく用います。顔色がよく,見るからに頑丈な人には向かない薬です。虚弱な女性の保健薬、 ビタミン剤的な薬です。しかし女性だけでなく,ちょっと弱弱しい男性にも使うことがあります。痔の痛み、出血、脱肛などに用いて喜ばれることがあります。成分は芍薬や甘草,生姜,など6 つの成分が入っています。

2002 年10 月

漢方薬はなぜ効くのか(その1 )

いわゆる西洋薬も元をただせば、木の根、草の根、木の実、草の葉などの植物や、動物の骨、石などの鉱物、から作り出されました。それを今ではその中の効く成分だけを取り出して、化学的に合成しているのです。漢方薬は今でも、木の根、草の根、動物の骨、種々の鉱物をそのまま加工を殆どしないで使用しているだけなのです。それを西洋薬のように効く一つの成分だけを取り出さずにその他の成分も一緒に利用しているのです。
漢方薬と西洋薬の関係は黒砂糖と白砂糖の関係に似ています。黒砂糖は、さとうきびの汁をそのまま固めています。ですから黒砂糖の中には、甘みの成分である蔗糖だけではなく、鉄、マグネシュウム、カルシュウム、等々数え切れないほどの成分がたくさん混ざっています。そこで黒いのです。白砂糖はその中の甘味の成分だけを取り出して精製したものです。そういう意味では白砂糖は薬のようなものです。黒砂糖の甘味は複雑なまろやかな甘味です。白砂糖は強い甘味そのものです。でも、黒砂糖の方が身体によいでしょう。


2002 年11 月

漢方薬はなぜ効くのか(その2 )

前回、漢方薬は黒砂糖のようなものだと書きました。もうひとつ、漢方薬は殆どの場合1 種類の植物や、鉱物だけでは作りません。少なくても2 種類、多い場合は10 種類以上の原料を混ぜ合わせて作られています。
例えば風邪薬として有名な「葛根湯」は7 種類の植物から構成されています。主役は「葛根」という葛(くず)の根です。これは解熱作用が優れています。これに、抗アレルギー作用をもつ「大棗」(なつめ)をくわえています。
「麻黄」は汗をだし、咳を止めます。「甘草」も咳止めです。抗炎症作用もあります。「桂皮」は桂の木の皮です。解熱作用、抗菌作用、抗炎症、抗アレルギー作用があります。この他の二種も同じような作用を持っています。
これらがみんな力を併せるから西洋薬の風邪薬よりよく効くのです。おいしいスープやカレーなどが沢山の材料、スパイスで作られているのと似ています。


2002 年12 月

漢方薬はなぜ効くのか(その3 )

漢方薬には長い、長い歴史があるからです。その歴史は1 0 0 0 年、2 0 0 0 年という長い物です(中には江戸時代にできた薬もあります)。この長い歴史の中で沢山の薬が生まれました。同時に消えて無くなった薬も沢山あります。消えたのは効かなかったからです。そして現代に残っているのはいつの時代にも効果が著明だったからです。「これはよく効くよ、これはよかったよ」と言う言い伝えが、効く漢方薬だけを残しながら現代まできたのです。それも膨大な人体実験を繰り返しながらです。そこで漢方薬はよく効くと同時に安全性も高いのです。現代の西洋薬の、特に新薬と言われるものが発売と同時、発売から数カ月で危険のレッテルを貼られて消えてゆくのをみるにつけ漢方薬は素晴らしいものだとつくづく思います。

所長松本光正

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