題名 電子カルテは紙カルテを上回るか
はじめに
電子カルテ(以下電カル)という言葉が身近なものになってきました。各種の雑誌で特集が組まれています。その殆どが電カルの持つ利点を大きく取り上げています。
それを見るたびに「ほんと?」という私の動物的懐疑心が蠢くのです。そしてまたまた一言いってみたくなりました。またまたというのは「環境整備のないままのカルテ開示には反対である。」日本医事新報No.4022-2001年5月26日を指しています。カルテ開示賛成の意見が世の中を席捲している中、この開示に反対であると言う一文には大きな反響がありました。その大きな反響をもう一度、「電カル」でみてみたいという思いで書いてみることにしました。どうぞご容赦下さい。
さて各種雑誌の電カルの記事には利点が数ページで展開されていても、不利な点・欠点はわずか数行しか書かれていません。インターネットで「電子カルテ」と打ち込むと11万5千件ものサイトが現れました。さらに「電子カルテ 欠点」と打ち込むと3200件ほどのサイトが現れました。欠点を正直に記載しているサイトもたくさんあります。おもしろいので是非みてください。それでも、全体としては欠点の部分の記載はわずかです。大部分は成果,利点で埋められています。しかし医師会で大々的に取り組んだが成果は全くなく、撤退した話も聞きます。病院で取り組んだが思うように機能していない話も多々あるようです。
そこで、利点が大きく報道されている今日ですが、「敢えて」その不利な点、欠点を述べてみたいと思います。 雑誌の電カルの記事は殆どがコンピューターに非常に詳しい先生方がお書きになっています。ご自分でコンピューターを組み立てる、ソフトも開発するという、コンピューターを知らないものにとっては「おたく」とも思える人たちが率先して電カルを採用しその優位点を述べておられます。その人達にとっては電カルはいとも簡単な事なのでしょう。
しかし大半の医師はコンピューターをほんの少ししか知らない素人です。両手でキーボードを操作できたとしても、キーボードを見ないと打てない先生達が殆どでしょう。デジカメで写真は撮影するが、それをコンピューターに取り込むことができない先生達も多いでしょう。インターネットをしたこともない先生もおられます。ドラッグを薬だと思ったり、マウスをネズミだと思っている先生もいるでしょう。クリックに左右差があったり、ダブルがあることも知らない先生もおられるはずです。そういうコンピューターの初級クラスの先生方が日本の医師の大半ではないでしょうか。そういうDrが日常的に使う道具としては電カルはかなり難しい道具だと思います。
さて、この文章を書くに当たって私自身のコンピューターの実力の程度を述べておきます。そうして、この程度のコンピューターの知識の持ち主が書いている文章だとご理解下さい。「コンピューターには6年ほど前から親しんでいる。ブラインドでキーボード が打てる。文字は相当早く?打てる。一分間に60字強。パワーポイントはできない。時々トラブルに見舞われ、職員に助けてもらう。自分のCDを作れる。デジカメをコンピューター上で多少操作出来る。画像を送れる。インターネット、eメイルを日常的に行っている。3年間、関連病院でオーダリングシステムを使用し、一年前から週に一度、電カルを使用している。その電カルは電カル使用初日に20分早く出勤して、ちょっといじっただけだったがその日の診療には全く支障はなかった(自慢!!)。しかしちょくちょく分からなくなり看護師を呼び出す。」 ざっとこんなものです。全くの初心者ではないでしょう。初心者に少々毛が生えた程度と言うところでしょうか。コンピューターに精通している上級者ではないことだけは確かです。これが私のコンピューターの実力です。そういうコンピューター初級者が書いた「電カル」記事だと思ってください。しかしこの程度のコンピューター能力の医師が書いた電カルの記事が非常に少ないのです。ここに問題があるようです。
○電カルの欠点
1.紙カルテに比して記載には圧倒的に時間を要する
時間の短縮にならないことは電カルの記事を書くようなコンピューター上級者のDr達も多数指摘しています。従って、これは私の独りよがりではありません。ただ文章を書くだけなら確かにキーボード操作は手書きより速く、きれいに書けますが、残念ながらカルテはただの文章ではないのです。
一時間に10人か15人ほどを診るならば電カルでも何とか対応できるでしょう。しかしいつも10人か15人とは限りません。時には20人も30人も診なければならないことがあります。20人以上を電カルで対応したことはありませんから正確なことは言えませんが、とても対応できないと思います。
イ。所見の記入
電カルを導入したら紙カルテにボールペンで書くよりも遙かに速く、ワンタッチで所見が書けて、処方が書けて、指示が書き込まれると思っているDrがおられるかもしれませんがそれは全くの誤解です。紙カルテに手書きで書く方が遙かにスピードが速いものです。
遙かにです。そしてキーボード操作は両手を使います。患者さんの顔をみないでキーボードを操作し、訴えををうんうんと聞いていますので患者さんは不安になります。ブラインド操作で患者さんの顔を見ながら打っていたとしても患者さんとしては手を休めて私の話を聞けよと、不満に思います。味気ない診察になると指摘しているDrもおられます。
次に診察所見を打ち込みます。手書きならすらすらと書けるでしょう。電カルはそうはゆきません。そこで電カルにはいろいろな便利な手法が用意されています。
それでもその便利なシートを呼び出すにも、そのシートにレ点をつけるにも、マウスの操作を繰り返さなければなりません。
絵を描くにもキーボードとマウスの操作が必要です。手で描くように簡単にはゆきません。
手で描いたものをスキャナーで読み込む方法もありますが、それでもキーボードとマウスの操作を何回も繰り返さなければなりません。
ロ。処方の記入
所見を記入したら投薬内容を記入します。紙カルテではいとも簡単です。
しかし電カルではそうはゆきません。薬の名前をシートから選んで画面上に並べてゆくのが処方の記入です。そしてそれをどのように服薬させるのか、何日分投与するのか、みんなキーボードとマウスの操作が必要です。
所見の記入はいろいろな工夫で相当速く出来ますが、処方はどんなに工夫してもスピードは速くなりません。速くするには一人一人にあったオーダーメイドの薬ではなくレディメードの薬を大量に用意しておくことでしょう。この点を「さじ加減の消滅」と題して嘆いているDrも多くおられます。今までどおりに投薬するつもりならば紙カルテの5倍は時間を要すると言っても過言ではありません。5倍どころか時には20倍も30倍も時間を要すると思って間違いありません。
診察が終わって診察室を出て行く時に「あ、先生、腰が痛いので湿布も下さい」などと言われたら目も当てられません。一度、閉じた患者カルテをもう一度マウスの操作で開けなければなりません。そして2度、3度とクリックして処方を呼び出して、訂正をしなければなりません。それでもすぐに自分で訂正出来るときはよいとしなければなりません。自分で訂正できず、薬局を電話で呼び出して、訂正のある旨を伝えて、初めて訂正がきくという場合もあるのです。このように薬局や会計の業務が済む前に患者さんが「湿布を下さい」というのはまだ救われます。薬局に処方が回ってしまった、会計が済んだと言うときが大変です。その時には既に次の患者さんを診察しているのです。この患者さんのカルテを一旦閉じて、再び当該のカルテを呼び出すか、診察中の患者さんの診察が終わってから初めて訂正しなければなりません。訂正はボールペンのようにはゆきません。ボールペンなら5秒でしょう。しかし電カルはそうは簡単にはゆきません。マウスとキーボードの操作を数回繰り返す必要があります。どんなに速くても一分はかかるでしょう。
そこで私は診察が終わると患者さんに冗談まじりに、いつでもこう言います。「いいですか、もうこれでおしまいですね。薬の変更はないですね。後から言ってもだめですよ」
そう言ってもしばしば、薬の変更が発生するものです。そのたんびに、薬局に電話したり、それはそれは大変な思いをするのです。そこで時には親しい患者さんならば「ちょっと、悪いけれどその薬、次回にしてくれる?」などと患者さんにお願いする事もあります。
紙カルテなら変更は簡単です。追加も簡単です。「貼り薬も入れておいてくださいね、あそうそうこの間の目薬もお願いします」と言われても「わかった!!」で済みます。ほんの数秒で「貼り薬も目薬」も紙カルテ上に記載されてしまいます。
とにかく電カルにとって処方が最も時間のかかる作業です。そして最も繁雑な作業でしょう。注射や点滴なども事情は同じです。処置の記載も面倒です。
ハ。検査。レントゲン、心電図等々
この検査の指示も大変なものです。心電図を例にとってみましょう。紙カルテなら「EKG」と2秒で書いてしまいます。しかし電カルはそうはゆきません。生理検査のシートを呼び出して心電図をクリックをして終了なり、確認の欄をクリックして、元のページに戻って初めて検査の指示ができあがります。最低でも10秒はかかるでしょう。検査の追加も厄介です。基本的には前項で述べた処方の変更と同じことが起こります。「あ!CRPも追加しておけば良かった」と思っても後の祭りです。実際にCRPを追加するには相当の覚悟が必要です。あきらめた方が精神的にはいいようです。診療した後で、患者さんから「先生、どうせ検査するならコレステロールもみておいてくださいネ」と言われるのが大変です。診察は一時ストップします。ストップしたくなければ「もうだめだよ」と言うか、聞かない振りをします。
CRPもコレステロールも紙カルテなら簡単です。3秒で終わるでしょう。
そして今回の診察は終わりました。次に来診した時に、この検査結果を見るときには、またまた画面上で数回、クリックしなければ検査結果に到達できません。
紙カルテのようにパラパラと紙をめくってすぐに検査結果が現れるのとはわけが違います。心電図の所見の記入も、胸部のレントゲンの所見も打ち込まなければ残りません。
そこで病院の医師は検査をすると面倒な作業が残るので検査をしなくなります。
薬は出さない、検査はしないでは二重の経営的損失でしょう。
2.過去のデーターがなくなる。
新規の開業時に電カルを導入するのは至って簡単です。過去のデーターがないからです。しかし10年、20年と診療している医療機関が電カルに変更したときは大変です。
過去のデーターの殆どすべてが新しい電カルには移行されないからです。もちろん殆どすべてと言わなくても大事な部分だけでも移行出来ればこんなに素晴らしいことはありません。しかし過去の、紙カルテのデーターを電カルに移行させるには膨大な時間を要しますから通常は行いません。データーの移行は全くの手作業だからです。キーボードで打ち直す作業です。スキャナーで移したとしても膨大な作業量です。しかしスキャナーで移したのでは加工は出来ませんから、大抵は死んだデーターになってしまいます。
過去のデーターがないままの診療は疲れます。
家族背景も、趣味も、既往歴もなにもかもないのです。この腹の傷は何のオペだったか分かりません。家族はいるのかいないのか、薬のアレルギーはあるのかないのか、その他諸々、いままでならば紙カルテに書いてあった事がすべて無くなるのです。もう一度、聞き直すこともできないことも多々あります。10人や20人ならいざしらず百人、二百人の患者さんの事はそう沢山覚えているわけにはゆきません。みんな紙カルテに書いてあるのです。それを知らずに、はじめから診療をするのは大変です。そこで私はいつでも過去の紙カルテをそばに置いて診療しています。そうしないと、釣りの好きな人には「どうです、最近、つれてますか?」などという会話はなりたちません。また、5年も10年も前に入院した話を患者さんがしても「そうそう、たいへんだったね」という相づちも打てないことになってしまいます。
3.一人医師ならいいのですが・・
病院といいうところは多くの医師が出入りします。パートの医師一人一人にきちんと電カルを覚えてもらうのはなかなか大変なことです。折角電カルに慣れた医師が都合でこれなくなり、友人の医師を代行に送り込んできたときはまたまた大変です。しかし病院というところは、こういう医師の交代は日常的にあるものです。そこでパート医師とのトラブルも計算しておく必要があります。
4.いろいろな紙類の保存
電カルになってもいろいろな紙類が必要になってきます。他院からの紹介状、他院からの手術報告書、写真類などなどたくさんあります。この保存をどうするかが問題です。大抵はデジカメで撮って貼り付けるか、スキャナーで読み込むかしていますが、なかなか見にくいものです。その他、傷病手当の書類、各種診断書、証明書などなど沢山の紙類が診療の中では発生します。これらをどこにどう保存するのか。見やすく、そして引き出しやすくしておく必要があります。その他問題はたくさんありますが、これらをクリアしないまま電カルだけが一人歩きしているようです。
5.疲労の増大
疲労の増大を上げているDrも多くいます。紙カルテは斜め下を向いて見ていますが、電カルでは画面を正面において見ます。これは疲れる姿勢です。肩こり、腰痛との戦いと題して述べておられるサイトもあります。画面凝視による眼精疲労、キーボード、マウスの操作で腱鞘炎などなど。もう、労災ですね。
6.入力ミス
入力のミスは手書きのミスより始末が悪いようです。電カルでは診療の全体像がつかめない上に過去の患者データーが見えません。そこにきれいな活字で出てくるので信用してしまうのです。これも多くのDrが指摘しています。このミスを防ぐ手だてはなかなかないようです。
7.視認性の悪さ
これは圧倒的に悪くなります。紙カルテでは一瞥するだけで数ヶ月分の患者さんのデータが目に飛び込んできます。しかし電カルは原則、一項目、一頁ですから数回前のことは同じ画面では分かりません。
血圧を測りながらちらちらとカルテに目をやり、前回から数回前までの血圧値をチェックします、同時に前回の投薬内容、患者さんの家族背景や趣味の欄など幅広く目を通します。
こういう幅広い見方を紙カルテでは誰もが自然に行っています。また行うことが出来るのが紙カルテです。電カルでは数回前の血圧は何回かマウスをいじるかキーボードを叩いて初めて出てきます。数年前の初診時の血圧値を見ることは紙カルテでは簡単です。さっと頁をめくればよいのです。一秒で出来ます。電カルではそうはゆきません。
紙カルテでは胸の写真のスケッチ、胃レントゲンのスケッチ、心電図などがきちんと経年的に記載されていれば一瞥しただけで数年分が目に飛び込んできて、今回の写真、心電図の異常が分かります。電カルでは絶対にこうはゆきません。
その他、病名や病歴もパラパラめくれば膨大な情報が目に飛び込んでくるのが紙カルテです。紙カルテがきちんと整理してあれば視認性の良さは抜群です。視認性の良さは診療の能力、質を上げます。(日本医事新報No.3557 p.92参照、私のカルテに対する考え方が掲載されています)。
処方、処置も視認性のよい紙カルテなら過去の情報がすぐに分かります。
「先生、ほら、前にもらったつけ薬(外用薬)、あれ下さい」などと言われても、紙カルテならパラパラと捲りながら「前にもらったと言ったっていつなの?○○?3年前だよ。」と言いながらもすぐに見つかりますが、電カルでは決してこういう芸当はできません。
視認性の悪さは殆どのDrが指摘しています。私はこの視認性の悪さが電カルの最大の欠点であり、使いにくさだと思います。
8.セキュリティー・個人情報保護法案との関係。
アメリカのペンタゴンの中にでさえハッカーは容易に入り込んでゆきます。住基ネットが荒らされた、○○大会社の顧客名簿が数万人分流れているなどというニュースは毎日、新聞を賑わしています。厳重に管理されている公的機関、大会社でさえこういう状態です。小さな病院、医療機関なんかのデーターはすぐにでも漏れてしまうのではないでしょうか。
それを承知してか承知しないでかは知りませんが、たいした勇気だと思います。情報の漏洩は外からだけではありません。顧客名簿などの漏洩は殆どが内部の者の犯行と言われています。紙カルテは外に持ち出すには嵩張りすぎます。持ち出せたとしてもせいぜい数百人分でしょう。しかし電カルの情報は数万人分の情報が小指ほどのUSBメモリーに収まってしまいます。大量に、しかも瞬時に盗まれるところにこの電カルの怖さが潜んでいます。盗まれた情報でゆすられたり、損害賠償を求められたらと思うとぞーっとします。
さまざまなウイルスが世界を駆けめぐっています。システムを壊す事はもちろん,知らない間に情報だけが盗まれるというウイルスも出てきました。どんなに対策を講じてもいたちごっこです。敵の方が二枚も三枚も上だと思って間違いないでしょう。
9.システムダウン
システムがダウンしたらどうなるのでしょうか。専門的知識の多いDrならたちどころに直すでしょうが、一般のDrにはそんな真似はできません。電カルは機械です。機械に故障はつきものです。システムダウンはいつでも起こります。そしてどこにでも起きます。
これが一番忙しい診療時間帯に起こったらどうなるでしょう。院内の混乱は想像以上のものがあります。これは殆どすべての電カル導入院が経験しています。大病院で起こったならばDrはただウロウロしていて、他人を非難していれば事が足ります。対処はエンジニアが行ってくれます。しかし一人所長の開業医クラスでおこったらどうでしょうか。ウロウロは同じでも他人を非難できません。自分が悪いのです。非難の目はDrに注がれます。しかし直してくれるエンジニアはそばにいません。もうまったくお手上げでしょう。顔面蒼白、心臓はパクパク。自身がシステムダウンしてしまうでしょう。
10.電カルの利点と言われていますが・・・
イ。数々の統計がとれる
いろいろな統計はコンピューターですから瞬時にとれます。そういう統計を必要としているのならば電カルは非常に有用です。しかしたいていの場合、あれも出来るこれも出来ると買った各種の電気製品が、そういう複雑な機能は殆ど使わずシンプルなものだけしか使わなかったという経験は誰にでもあるでしょう。電カルの、あれも出来るこれも出来るという機能はそれと似ています。自分がその統計処理機能がどうしても必要ならば電カルは素晴らしいものになりますが、各種の統計が瞬時に出来るということだけに目を奪われるのではなく、自分がその統計を必要とするかどうかが重要です。その統計を取ることが電カルの使いにくさを上回る利点ならば電カルは有用な機器となるでしょう。
しかし開業医の場合、統計を取るだけなら、レセコンにちょっと機能を付け加えればいろいろな統計はとれます。統計がとれるということが使いにくさを上回る利点にはとうていなれないでしょう。
ロ。血液検査結果がグラフ化出来るなどなど。
電カルを導入すると検査結果がすぐにグラフ化されるなどいうことをうたい文句にしている業者がいます。たしかに検査センターとオンラインで結ぶと検査データーが色々画面上で加工できます。表化したり、グラフ化したりと便利なものです。私はこの機能を電カルなしに10年来使用しています。なにもこの機能は電カルに限ったものではないのです。この機能にだけ特化した簡単なパソコンを導入すればそれでよいのです。検査センターによっては無料で導入してくれます。自前で導入してもさほど費用はかからないでしょう。
ハ。待ち時間が短くなる。
そんなことはありません。これも多くのDrが指摘しています。患者さん一人にかかる診察時間が延びることは電カルを自由自在に操れる人達が書いている各種の「電カル特集」にもたくさん出てきます。これは考えたらすぐに分かるはずです。このことは私だけでなく正直な多くの電カル愛用Drが証言しています。待ち時間は決して短くなりません。それどころか長くなるのが現実です。
ニ。事務量が減る、事務作業が速くなる、薬が速くなるなど
これは当たり前です。医師がその分を診察室で加重労働しているのですから。
本来事務員がするべき仕事を診察室内で医師がすること、これがオーダリングシステムであり今の電カルなのです。結局は電カルの導入でどこが良かったかというと医師以外の他職種の事務量が減るという事です。医師の労働が減るのではないということです。むしろ医師の労働が過重になるのです。そして患者さん一人に対する時間が長くなり、医師一人あたりの患者数が減るのです。
医療経営は医師がいかに沢山の患者さんを診るかということにかかっているというのに、その医師に加重な労働を負わせて経営の合理化だというのは少しおかしいのではないでしょうか。病院ならば医師に気持ちよく働いてもらって、沢山の患者さんを診てもらうことが健全経営に最も有利なのではないでしょうか。それを無視して、医療事務、薬局の事務量を減らすために電カルを導入するというのは解せません。親方日の丸の医療機関なら分かるのですが民間の病院、診療所までもが電カル、電カルと、電カルに乗り遅れまいと騒いでいるのはどうしたものでしょう。
ホ。病診連携に役立つ
すべての医療機関がネットで結ばれれば病診連携は確かにスムースになるでしょう。
しかし今、病診連携が悪くて日常の診療に困っている病院、診療所がどれだけあるでしょうか。私などは全く困ったことはありません。電話、ファックス、手紙で十分に事足りています。利用しない「病診連携」の機能は今は必要ないのではないでしょうか。
ヘ。家族がカルテを見ることが出来る。
時には自分のカルテや家族のカルテを病院外で見たい人もいるでしょう。しかし、そういう人は1000人か1万人に一人ではないでしょうか。殆どの人は外部からネットでカルテを見ようとは思わないでしょう。そういう必要性はほとんどないと思います。
僅かな人が自分のカルテを病院外から見ていることを電カルの優位性に上げていますが、少々やりすぎではないでしょうか。紙カルテ以上の優位性がなかなか見つからないので、何かないかと苦し紛れに書いている感がします。また、ネット犯罪者に道案内をしているような気がします。
ヘ。その他、患者サービスの増大
その他いろいろ機能を上げて患者サービスになることを強調していますが、どれも殆ど患者サービスにはならないように思います。
こう見てくると、電カルはいったい誰のためのものでしょうか。
待ち時間は長くはなるは、医者は顔を見てくれないは、薬は電カル用の約束処方ばかりだし、患者さんにとっては一つもメリットはないようです。
医師にとってのメリットは?うーん・・・。肩は凝るし、目は疲れるし、患者からは怒られるし、システムは高いし・・・。学会発表時に統計を取るには便利だが、近頃は学会で発表することはないから必要はないし・・・・。そんなものに高いお金をかける必要があるのかしら?うーん!!どうも多くの医師の味方ではないようです。
そうなると・・・・・?コンピューター会社のものでしょうかね。そうなんです。医療という巨大なマーケットに対するコンピューター会社の戦略が電カル導入ではないでしょうか。
おわりに
コンピューターの発達は素晴らしいものです。それは医療の現場を大きく変えました。医療機器の殆どがコンピューターで動いています。レセコンは事務の現場に革命をもたらしました。夜遅くまでかかっていた仕事がたちどころに出来てしまいます。これはもう驚きです。しかしカルテに応用された電カルはどうでしょう。とてもとてもカルテに革命をもたらしたとは言えないでしょう。それはコンピューターがまだまだ未発達な道具だからではないでしょうか。私達は今のコンピューターをものすごく発達した機械と思っていますが、飛行機に例えるとジャンボ機が空を飛ぶ現代からみると今のコンピューターの世界はまだまだ大正時代の複葉機の時代だと思います。決してジャンボ機の時代ではないと思います。複葉機が飛んでいた時代はそれでもすごいすごいと思っていたでしょうが、現代のジャンボ機を知っている世代からみると複葉機は飛行機の初期の時代のものです。一部の人の趣味の世界、おもちゃの世界でしょう。よく落ちるし壊れるし、興味はあっても怖くて、一般の人は乗りたいとは思わなかったでしょう。その一般の人が乗りたいとは思わない機械に、アナログの権化とも言うべきカルテを作らせようとしてもそれは無理というものではないでしょうか。そしてそういうものなのに乗れ乗れと勧誘するのはおれおれ詐欺ならず、電カル詐欺ではないでしょうか。詐欺には気を付けましょう。え?もう引っかかったって!お気の毒さまです。
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