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サーチライト<プロローグ>
By.天羽
飲み屋でいい気分になるまでイルカと酒を酌み交して、カカシの頭脳はアルコールを認識してはいたが、まだ理性がなくなるほどではなかった。だが景気付けには充分で、微酔い加減での帰り道、酔ったふりでカカシは動きを大仰にした。
ゆっくり歩いても、一緒にいられる時間はあと五分ほど。酒の勢いと、あと五分という思いがカカシを動かした。
「酒が入るとこれくらい寒くてもちょうどいいですね〜」
「そうですね。桜の命も延びますし」
にこやかに笑うイルカも、機嫌はよさそうで、それだけでなんだかこちらまで嬉しくなってくる。
「あ〜あれれ?」
ふらついて見せたら、案の定面倒見のいいイルカは、とっさにカカシの腕を掴んでくれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、すみません。う〜ん、イルカ先生。このまま引率してくださいよ〜」
何気なく笑いながら、手を繋いだ。
自然だっただろうか?
たったこれだけの動作に、こんなに緊張してるなんて、きっとイルカは知らない。
カカシより体温の高いイルカの掌。
そこから流れこむ暖かなものは、純粋に温度だけではなくて。多少訝しがられたとしても、手にしたかった。
たとえ、一瞬だけでも。
そうして、酔っ払いの戯れ事として、流してもらえればそれでいいと思ったのだ。
何一つ禍根を残さずに、いつもに戻れたらそれでいい。
失いたくない時間が、空間が、確かにあるから。
今だけはこのままで……。
これぐらいならルール違反にはならない筈だと思いながらも、カカシはこっそりイルカの表情を窺った。
その笑顔が常と変わらぬ柔らかさを湛えていて、泣きたくなるほど安堵した。
「珍しいですね。カカシ先生がそんなに酔うなんて」
弱すぎることも強すぎることもなく、けれど確かにイルカの指先からはカカシの指先を捉えるための力が感じられる。
イルカらしい暖かな力だ。
繋がる指先から、想像以上の暖かさと優しさが流れこんできて、カカシの一部まで優しくなれたような錯覚さえ得られる。まるで、互いの感情まで交錯するかのようで、嬉しくもあり、怖くもある。
それでもこの手を、離したくない。
このまま、家まで連れていってくれないか、なんてことまで考えてる。
失敗したかもしれない。
なにも残さずになんて、すむわけがない。
もっと、もっと欲しくなるだけ。
「ん〜足にきましたかねぇ〜」
へらへらと笑い、いつもの調子でとぼけてみる。自分の体内に影分身がもう一人いるような感覚だ。
一人はさっきから手の感触だけに集中して、泣き笑うような顔で葛藤しているのに。ずっと。
これ以上は、簡単には望めない。
共に過ごす心地いい空間を、イルカの暖かさを、失いたくないと思うなら。
確率の悪い賭になんてでられない。
だから、それ以上を識りたいと望みながら、あと一歩を踏み出せないでいる。
どこかで大切すぎるものを、そんな存在を、おそれているのかもしれない。
極自然に離れてゆく指先を、追いかけることすらできず、掌に残された感触さえすぐに消えてしまうのだけれど。
今は、ただ、その掌の温度だけを識っている――
prologue end
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漫画化してもらった「サーチライト」のプロローグの小説版。
漫画の方がもっといい雰囲気なんですけどね〜
最初は小説のつもりで書いていたので一応アップしておきます。
update 20030106
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