all written by Hikari Amou 

 <Side Kakashi>

 ゆるやかに、くちづけを交わす。

 なんだか夢心地のまま、触れ合っている。

 確かにこの手に、イルカの体温を感じているのに。

 ほしいものを、すべてくれるこのひとが、完璧すぎるのがいけない。




 イルカは、ワーカホリック一歩手前だと思う。
 お人よしで生真面目で、頼まれた仕事は断れなくて、すべてに手が抜けなくて。
 要領が悪いといえばそれまでかもしれないけれど。あくまでそれは、生き方への評価。
 仕事は早い方だとカカシは知っている。無駄なくそつなく何もかもこなすのだ。だから、頼りにされるのも仕方ないのかもしれないけれど。
 それにしたって、家にまで仕事を持ち込むのはどうかと思う。
「給料分以上は絶対働いてるでしょう、残業手当でるんですか?」とついつい嫌味が口をついて出てしまう。
 何を言っても、イルカは曖昧に笑うだけだ。
 困らせたいわけでもないから、結局こちらが折れる。
 イルカらしい姿だとは思うけれど、とりあえず倒れない程度にしてほしいと思う。


 今日だって少しだけ、と仕事を始めてしまえば、イルカの意識の殆どは仕事にとられてしまう。
 カカシは、イチャパラを斜め読みしていたって、意識はずっとイルカにむいている。淀みなく動くペン先の音までひろえるくらい、近くにいるから。
 だからいつも、仕事が終るとすぐに、待ちきれないようにしてちょっかいをかけにいくのだけれど。
 たまには、イルカがどうするのか知りたいと思った。何を言ってくれるのか。
 とりあえず、冷たくされることはないだろうから。
 仕事を終えて、動かないカカシに戸惑ったように視線を向けてくるイルカの動向を感じながら、知らないふりをしていた。

 当然、近づいてくるやさしいひとの気配はわかっていた。
 ただその言動を知りたくて待っていた。
 何を云うのか、待っていたのに。
 イルカは、声もなく、そっと手を伸ばしてきた。
 いきなり触れてきたその指先が、その動きが、あまりに望み通りで、おどろいた。
 溶けこむようなぬくもりをくれる。
 欲しいゆびさき、欲しいやさしさ。
 いとおしい、イルカのすべて。
 カカシのすべてを、もっていく。
 統べる、手だ。
 頭に浮かんだ考えに、ぞくりとする。


「かみさまの手、みたいですね」


「カカシさん?」

「イルカ先生の手、なんでもくれるなぁと思って」

 ほしい優しさを、愛情を、惜しみなく与えてくれる手だ。
 優しすぎるほどに優しいオーラとでもいうような静かな気が、カカシの中へゆるやかに流れこんできていた。
 大きな手が、柔らかく髪を透き続けている。
 向けられる感情の暖かさに、涙が出そうになるほど幸せだと感じた。
 いつまでも、いつまでも、このままであれたらいいのに。
 幸せすぎるのは、少し怖い。
 いつ反動がくるのか、怯えてしまう。
 幸福な時間というのは、きっと長くは続かない。
 手にした幸せの分だけ、代価の瑕は大きいのではないか。
 少なくともカカシはそうだった。
 たいせつなひととの、幸せな時間のあとには、失う悲しみが待っている。
かつて感じたあの絶望を、カカシは一生忘れられない。
それでも、今は。
 今だけは、このぬくもりを、手にしていていいのだ。
 意識もなく、微笑みが浮かぶ。
 この暖かさが自分のものだというのが、嘘みたいで。
 恍惚として告げた言葉に、けれどイルカは固まった。
 戸惑うような顔に、そっと口づける。
 それでも。
言葉もなく、イルカの動きは止まったままで。
 きっと、ほんとうに言いたかったのは、そんなことじゃなかったのだろう。とりあえず、といったていで、イルカの唇はようようと言葉を紡いだ

「……神を、信じているのですか?」
 柔らかくカカシの髪を梳きながら、イルカは複雑な表情をしている。
「い〜え、全く」
「そうですか」
「俺が信じているのは、イルカ先生。アナタですよ」
「カカシさん……」
「そうだな。アナタが神ならば、信じてもいいな」
「……なんだか変ですよ、それ」
「そうだね、」
 イルカが、困ったような、泣きそうな顔をしている。
 やさしく触れてくる手はそのままに。

「ごめんね、イルカ先生」

「え?」

「先生が悲しそうなのは、俺のせいでしょう?」

 ふるふると、イルカの首が小さく横に振られる。
 問い掛けへの返事にしては曖昧に、言葉にならないといったように目を伏せる。

「……こんな手でいいなら、持っていってください」

「くれるんですか?」
「ええ」
 イルカの声が掠れている。
 間違いなく、カカシが困らせてるのだろうけれども。それ以上なにを云えばいいのか、わからなかった。

「俺は、なにもアナタに返せないですよ?」

 だってからっぽなんです。なにもない。なにも、残せない。

「いいんです。俺はそんなこと思ってない。今、アナタがいてくれたら、それで……」

 少し、その瞳が潤んでいるような気がした。
 どう向き合っていいのかわからず、迷った末に茶化すように軽い言葉を投げかけた。

「イルカ先生、趣味悪いって云われませんか?」

「……そんなつもりはありません」

 大真面目に返ってきた言葉に、沈黙して二人して赤面する。
 仕方なく視線を逸らしながら、カカシはイルカの指に口づけを落とした。

「とりあえず、もらっときます」

   

ENDE

 

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 酷く粗い文章ですみません。唐突にイルカカネタ帳の10行ほどのこの話の原形に手入れしたくなったんですが、急いでるのがばればれな感じですね。
 
線香花火と同じ温度くらいかな。中途半端ですみませんが、考えてから時間が経ったらどうしたかったのか忘れてしまいました(^^;)。

 でもこの話は、イルカカ!っていえそうですね、やっと。今までのはどうもメンタルだけだとどれもこれもカカイルに見えるようなんで。
 私としてはどっちでもいいんですけどもね。私は本気でリバ星人なんでどっちがどっちでもじゃんけんしてても日替わりでも(笑)全然かまわないんですが、世の中そういう人の方が異端なのはよくよく存じておりますので、一応きちんとカップリングを明記しておきます(^^;)

2002.11.29 天羽ひかり