線香花火

By.天羽ひかり

  

<Side Kakashi> 

 真夏の夜。
 任務帰り、野原の真ん中で、カカシは身体を投げ出すようにして寝転んだ。
 ここはもう木の葉の里の中だというのに、家に急ぐ気にもなれずにいる。
 もう少し早くに帰ってこれたなら、イルカに会いにいけたのに。
 既に月は中天をまわり、西へ傾きかけている。いくら親しくなったとはいえ、この時間ではどうしようもない。
(報告書書くの、面倒だなぁ……)
 溜息をつきながら、カカシは振り翳すように腕を上に伸ばした。
 指の隙間から射し込む月の光が、カカシの顔に斑模様をつくっていた。
 伸ばした腕をそのままに、戯れのように指先へ意識を集めていく。
 震えるように宿るちからのかけら。
 パチパチと、ちいさな音が響く。
 意味もないチャクラの放出。
 小さな花火のようだと、ぼんやり思う。
 パチパチという音が、そう、線香花火のそれによく似ている。
 やがて、尽きていく、小さな炎の命の行方。
 尽きていくと知りながら燃え続ける、派手さも鮮やかさもない炎。ただその命は、気長に見てやれば驚くほど長い。
 そして一瞬で消えていく鮮やかな花火からは得られないある種の感慨を残す。
 ちいさな命のような花火だ。
 今、カカシの指先に戯れのように仄かに光るチャクラは、いつ消えるともなく瞬きを繰り返している。
 パチパチと弾けるような音だけが、静かな野原にひろがっていた。
 いつまでも続きそうだと感じ、永遠の夢を求めるように半ば祈りながら、カカシはゆっくりと目を閉じた。



<Side Iruka>

 夜中、ふいに目が覚めた。あきらかに、暑さのせいだった。
 ぐっしょりとかいた寝汗が不快でイルカはシャワーを浴び、浴室から出る頃には、すっかり目も冴えていた。
 到底しばらくは眠れそうもない。
 溜息をひとつ。わかっている。
 いま、ここにいないひとの存在が、気になっているのだ。
 どうあっても眠れそうにもなくて、イルカは浴衣姿で外へ出た。
 真夜中だというのに温度はさほど下がっておらず、体表面は暑さを訴えてくる。それでも、僅かに風があって、室内よりはだいぶいい。
 あてもなく歩きながら、イルカは静かに月を見上げる。この形は、上弦の月といっただろうか。青白い光に、どこかかのひとを思いおこし、そんなことを思う自分に苦笑する。
 すっかり毒されている。
 なかば諦めにも似た感を抱きながら、決して不快ではない。
 不思議なものだとぼんやり思う。
 カカシに対する感情の一つ一つが、たとえ淡いものでさえ酷く鮮やかに記憶に残る。
 まるで世界を統べる色であるかのように。
 微かに苦さを含む笑みが、イルカの唇を象る。
 こうして、会えない時に会いたいと願っていること自体が、自分の中で珍しい感情だ。きっともうだいぶ昔に忘れてきたもの。いとおしい、とそれでも思う。どこか夢のように。


 暫く歩くうちに、里外れの野原まで来ていた。
 ふいに、気配を感じた。
 こんな時間に誰が、と思う間もなく反射的に気配を消して足音もたてずに進む。
 里内とはいえ油断できない。まして今は、忍服ですらないのだと思いながらも、殺気もなにも感情は感じられない。あえていうなら、どこかからっぽな印象。

 そうしてイルカは、気付いた。 
 野原に灯る青銀の、儚く美しい光。
 どこか幻想的な光景の中心にいるのは、あのひとだと直感した。理屈ではなく。
 ああきっと、地上の星はこんな色をしているに違いない。
 見る者をひきつけてやまないその光は、孤高で、派手さはないのに、際立って美しい。
 あのひとのチャクラは、こんな色をしているのか。
 パチパチと、微かな音が聴こえる。
 小さな花火が弾けるように。

「きれいですね」
「い、イルカ先生?」
「ああ、そのままでかまいません」
 身を起こそうとしたカカシを止めて、イルカは眩しげにその指先を見つめた。
「線香花火のようですね」
 にこやかに笑ったイルカを、カカシは呆気にとられて見やった。
「……イルカ先生って、やっぱり変わったひとですね。俺のチャクラが綺麗だなんて」
 複雑な顔でイルカは反論する。
「……カカシ先生にだけは言われたくなかったですね」
「あ、ひどいな、イルカ先生。だって、ひと殺しのチャクラを、きれいだなんておっしゃるから」
 ただ事実を告げただけという様子のカカシの声が、胸に痛かった。自虐的な響きさえなく、淡々としたいつもの口調で。
「……そんな言い方は、しないで下さい」
「ほんとうのことです」
 色のない眼差しが、どこか遠くを見ているような気がする。
「カカシ先生……」
「きれいなっていうのは、きっとイルカ先生のチャクラのような色のことをいうんですよ。ま、俺は何度も見てないけど、でもそう思います」
「……アナタのその俺への妙な固定観念はいつできたんです?」
「さあ、いつでしょう。初めて見たときじゃないですか?」
「……最初から?」
 甚だ疑わしいといわんばかりのイルカの声音に、カカシは苦笑して付け足した。
「これでもホンモノを見抜く目ぐらいはあるんです」
「夢を、みすぎですよ」
 イルカは、苦笑する。
「そうだとしてもいいじゃないですか、一緒にいる間くらい夢を見せて下さいよ」
「花火のように、ですか?」
「そう。短い時間の儚い夢です。かわいいものでしょう?」

 青く仄光る指先が、段々とその光を淡いものへと変えていく。
 弾けるような音も小さくなってきていた。
 消えていく――。
 目が離せないまま食い入るようにカカシの指先だけを見つめていた。
 きれいな光を惜しみながら、最後の明滅まで見届けようと。
 ひときわ美しく、指先が輝いた気がした。

「あっ……」

 息を呑む。
 カカシの指先の光が、その顔までも照らしだす。
 最後の一瞬の輝きに、カカシはうっすらと笑って間延びした声で終わりを告げた。

「ハイ、オシマイ」

 云うなりカカシは強くイルカの腕を引いた。
 姿勢を揺らすこともなく起きあがって、ふらついたイルカを抱きしめる。

「カカシ先生?」

 口づけは、青銀の残像を封じ込めるように瞼へ落とされた。
 そっと優しいしぐさで。
 瞼の裏で、光が踊る。
 優しく儚い、美しい光だ。カカシがどう云おうと、きれいなものは、きれいだ。
 この指に、殺されるならそれもいい。
 酔狂めいた考えが浮かんで、イルカは小さく笑った。

「……イルカ先生?」

 問いかける声音に軽く首を振って、イルカは云いそびれていた一言を漸く云った。

「おかえりなさい」

 ENDE

 

 

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 なにも考えずに書き出した話は、やはり何も残らずダメダメ文になっちゃいました。
 風邪引いてるせいか、なんだか頭からっぽでまとまりませんし。珍しくも面白くもない駄文でゴメンナサイ。
 もうちょっといい雰囲気に仕上げたかったんですが、失敗失敗。
 季節ものだし、とりあえずあげときます(^^;)>こんなのばっかり。

 update 20020817