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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第10話 闇と光の間に……番外編 (あるいは第二期への伏線)

 宇宙空間。
 はるか眼下に地球を見晴るかす軌道上。
 暗黒色のローブ姿の人物が漂っていた。その身体は紫色の炎のようなものに包まれている。
 フードの陰に隠れた眼差しが見つめるは、日本。
 地球の陰に入ったばかりのそこから、さらに黒い闇の粒子が煙のように一筋、立ち昇っている。
『……ふむ。倒されたか。しょせん人工的に作られた闇の因子が仲立ちでは、これが限度か』
 ひぇひぇひぇ、と笑う声はしわがれている。
『(――やはり、背後で糸を引いていた者がいたか)』
『む!?』
 深く空間に染み入るように響く声に、フードローブの男は振り返った。
 そこに佇む人影――みすぼらしいボロのローブに、フードを目深にかぶっている。
 それは、時と空間の狭間でレイガが見た、未来のレイガの姿そのままだった。
『……何者』
『(それはこちらの台詞だ。……この世界に無用の争いをもたらす者、汝の名を名乗れ)』
 暗黒色のローブ男は、肩を揺らして笑う。
『わしに決まった名などない。様々な世界で、様々な者が様々に名づけておるわ。暗黒と呼ぶ者もおれば、影と呼ぶ者もおる。また、恐怖と名づけた者もおれば、死と名づけた者もな。同様に、絶望、負、悪意、悪魔、魔物、虚無、闇……お主が呼びたいように呼ぶがよい。して……お主は誰ぞ!!』
 マントが翻り、黒い粒子の竜巻が発生する。紫色の炎が逆巻いてそれを包み、ボロいローブ姿の男に襲いかかった。
 男はすんでのところで身を翻し、躱したもののローブに炎が燃え移った。
 素早く脱ぎ捨てられたローブの中から現われたのは――
 銀の身体に黒の腕と足。腹部に大きなベルト、眼は赤く、頭部は王冠めいた形状、口許に豊かな髭。肩に金色のプロテクター。そして、風のない宇宙空間でも優雅に翻るマント。
『おお!? ……おおおおっ!!??』
 暗黒マントは、その姿に怯んだように大きく後退った。
『その姿……知っておるぞ。この世界のウルトラ族を束ねる長にして、光の意志の体現者。並ぶものなき神のごとき者。その名を……ウルトラマンキング!!』
『(左様)』
 正体を暴かれたウルトラマンキングは、愛用の輝くマントを一振りして腕を組み、深々と頷いた。
『ぬぅう……さては、貴様か。幽冥の獄につなぎし若き光の戦士を解放したのは』
『(それも、左様。自らの愚行ゆえに命落としたならばともかく、何者かの企みとあらば捨て置けぬ。あの若者にはまだ、大いなる可能性があるゆえな)』
『くっくっく……なるほど。されば、貴様が相手とあらば作られし闇ごときに勝てるはずもなし。得心いったわ』
 声を潜めて含み笑う。
 ウルトラマンキングは全身に威厳と気迫をみなぎらせながら、じっと暗黒マントを見据えている。
『(そういう貴様は……この世界の者ではないな? 何処より来たか)』
『何処より……か。クク、我々はどこにでもおり、どこにもおらぬ。我々を求める思いがある限り、いつでも、どこにでも現れ、世界を絶望に染めてみせようぞ』
 そうして差し出した掌に、先ほど放った黒い竜巻が生まれる。
『(なにゆえ、そのような無体を働く)』
『それこそが我が存在理由ゆえ。あらゆる並行世界から、貴様らウルトラマンを抹殺してくれる』
『(なるほど……話し合いは無駄のようだな。ならば、まずこのウルトラマンキングが相手となろう!)』
 腕を広げるや、マントがはためき踊る。
 暗黒のローブ男も両腕を広げ、それぞれの掌に暗黒粒子の竜巻を生み出す。
『くくくく、この世界には闇の物質、れぞりゅうむという便利なものがある。まずはそれにて貴様を闇に喰ろうて――』
『ジェアアッ!!』
 水平に揃えた両手を前方に突き出し、放つ光線――キングフラッシャー。
 かつて、宇宙魔法使い・怪獣人プレッシャーを葬った(※ウルトラマンレオ第26話)必殺光線は、暗黒ローブ男の投げ放った闇の竜巻を蹴散らし、そのまま本体に直撃した。
 たちまち紫色の炎が剥ぎ取られ、闇のローブが消えてゆく。
『ぐ、ぐおああ……さ、さすがはウルトラ族の長。……だが……我々は消えはせぬ。……我々は何度でも強い怪獣を呼び寄せる。……人の心を絶望に包み……全ての並行世界からウルトラマンを消し去ってくれる……』
『(……………………)』
 消えゆく相手をじっと見詰めるウルトラマンキング。
『……消えぬぞ…………我らは……』
 恨みがましい声を残し、完全に消え果てた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 しばらく、相手の消えた虚空を見据えていたウルトラマンキングは、ふと地球へと目を転じた。
『(……若き戦士たちよ。これより更なる試練が待っているであろう。だが、私は信じておる。諸君が闇の侵略などに屈することなく、輝かしき光に満ちた未来をつかみ取ることを)』
 腕組みをして頷いたウルトラマンキングは、そのまま姿を消した。


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