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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第6話 史上最大の逆襲 生ある"もの"たちの反撃 その1

 地球より離れること300万光年の彼方。
 ウルトラの星、通称・光の国。
 その輝く惑星の周辺宙域では今、熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 光の国・宇宙警備隊司令部。
 司令であるウルトラの父が腕組みをして、戦況を映し出すモニター群を見上げている。
 報告が届く。
「――敵の艦艇の数は数十万隻。全天を押し包み、這い出る隙もありません」
「キングジョー、クレージーゴン、ガメロット、ナース……その他、宇宙のあちこちで強奪されたり、行方不明になったと報告のあったロボットで構成された軍団の数は、十万体を超えているものと思われます。ただ、報告の数とは全く計算が合いませんが」
「……宇宙警備隊隊員でも苦戦したというロボットが、十万以上……勝てるのか」
 司令部の気温がすうっと下がった。
「――逆に言えば、ロボットしかいないということだ」
 深く静かな、全く動揺を感じさせない声でそう告げたのは――ウルトラの父。
「多彩な特殊能力を持っていたり、飛び抜けて強大な力を持つ怪獣や星人はいない。強敵であるのは間違いないが、倒せぬ相手でもない。敵が強かろうと焦るな。恐れるな。焦りや恐れは敵の思う壺となろう」
 ウルトラの父の力強い言葉と声は、その場にいる者たちに限りない安堵を与える。
 たちまち、一度下がった気温はすぐに戻った。
「全宇宙に散ったウルトラ兄弟からの連絡はどうか」
「今のところありません」
「勇士司令部は?」
 光の国を守る、もう一つの組織。
「宇宙保安庁とともに、南天において一大攻勢をかけています。北天はこちらに任せると」
 静かに頷いた父は、マントを翻して手を突き出した。
「もう一度言おう。戦士たちよ、恐れるな。全宇宙の希望と信頼が、君たちの背中を支えているのだ。決して負けてはならない」
 その声が届いたかのように、戦果報告が上がってきた。
「タロウ教官率いる部隊が、北天座標ST19・AR73・T46にて戦艦100隻からなる敵先行艦隊を殲滅! 被害なし!」
「銀河共和同盟より通信。傘下の惑星が星間機械文明連合を名乗る勢力の攻撃を受けていると! 戦争状態を宣言しています!」
「レオ、アストラが北天座標FI197・NI53・SH28にてロボット軍団相手に戦闘開始! ……凄い勢いで撃破してゆきます!」
「ザタン星で大規模な戦闘確認! 星間機械文明連合軍に加え、ザタン星人自らの開発した兵器に襲われている模様!」
「ヒカリ、メビウス隊がそれぞれ接敵、戦闘開始! 北天座標ST20・AR07・T48です」
「レオ、アストラの戦闘宙域へ進攻の素振りを見せた敵援軍へ、マックス、ゼノン隊が横撃!」
「敵左天展開部隊の背後より、応援部隊到着! ――アンドロメダ支部のメロス隊長です!」
 次々と飛び込んでくる報告に一つ一つ頷きながら、ウルトラの父は心の内に呟く。
(……ウルトラマン、セブン、ゾフィー、エース、80。そして、地球で戦うジャックよ。この戦いの趨勢は、諸君らにかかっている。頼んだぞ)

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 地球――日本。
 天より降り注ぐ光弾は留まるところを知らず、その数は刻一刻増加の一途をたどり、被害は押しとどめようもなく広がってゆく。
 既に関東を中心に、相当な範囲の町並みが無残な瓦礫と化していた。場所によっては、消火作業中にさらなる着弾を受けたところもあり、都会も地方もなく降り注ぐ殺意の塊に、市民は恐怖のどん底へ突き落とされていた。


 東京――フェニックスネスト屋上。
 ひたすら天に向けて射撃を続けるヤマシロ・リョウコも、さすがに疲労の色が隠せずにいた。腕の細かい震えも止まらない。
 放つ光撃が外れる。外れる。外れる。表情が歪む。外れる。外れて、狙っていない別の目標をかすめる。
「……くっ、ミオちゃん! ゴメン!」
 謝りながら撃った一矢は、これもまた目標を逸れて虚空に消える。
『謝らなくていいから! ……辛いなら、代わるわよ? 射撃には自信ないけど……』
 珍しくしおらしげなシノハラ・ミオの通信に、ヤマシロ・リョウコは額に汗を浮かべ、苦しげな顔つきながらもにんまり頬を緩ませた。
「いいよ。まだそれでもミオちゃんよりは上手いはずだから。でも……正直、限界は近いよ。なんか、次の手を考えてくれなきゃ――」
 そのとき、あらぬ方角から飛んできた光弾が正面滑走路脇に着弾した。
 激しい爆風と爆音を叩きつけられるように受け、短い悲鳴をあげてよろけるヤマシロ・リョウコ。
 それを、シロウが支えた。さらには飛んできた小石や礫を素早く叩き落して彼女を守りきる。
「……あ、あんがと」
 シロウの左腕に抱きとめられて、シロウを見上げながら――それでもなお、銃口は天を睨む。
「礼はいい」
 漂い流れてきた土煙を空いた右手で断ち割るように引き裂いて、空を睨み上げるシロウ。
「それより、無事ならさっさと続けろ。さっきから見てると、敵の数は増えてんのに命中率が落ちてんぞ」
 その叱咤に、ヤマシロ・リョウコは痛々しささえ漂う笑顔を浮かべた。
「へっへー、弱音は吐きたくないけど……ちょっと腕がね。こんだけ上げっぱなしだと、さすがに――」
「右腕だな? 任せろ」
 シロウの右手が仄かな光を放つ。その手はトライガーショットを握る右手から、徐々に下腕、肘、上腕、肩、そして首へと這い撫でるように上がってゆく。
 その動きにつれてヤマシロ・リョウコは暖かい力を感じた。
「あ……ん……」
 腕の張り、肩の凝り、関節の軋みが消えて楽になってゆく。
 震えが――止まった。
「――これでどうだ?」
「すごい……すごいすごい! 治っちゃった、治っちゃったよ!?」
 はしゃぎながら立ち上がるヤマシロ・リョウコ――そこへ、新たな光弾が着弾した。
「いいから! 驚くのも喜ぶのも後にしろ、さっさと撃て!」
「うん! ありがと! 頑張るよ、シロウちゃん!」
「おう、疲れてきたら俺に言え! その姿勢のまま、治してやらぁ!」
「わかった。たのむね! ……よぉぉし、INSERT COIN! ゲーム、CONTINUE! 全部撃ち落してやるかんねっ!!」
 天を指して突き上げられるトライガーショット。
 シルバーシャークGは再び牙を剥いて吼え始めた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 フェニックス・ネスト、ディレクション・ルーム。
「ヤマシロ隊員の命中率が再び上昇。……って、何? この命中率。たった今、限界が近いって言ってたんじゃ――」
 シノハラ・ミオが目を丸くしていると、脇に置いておいた携帯電話が彼女を呼んだ。
 ヘッドセットを外し、携帯を耳に当てる。
「もしもし、ミオです」
『こちらリュウ。名古屋のキングジョーは仕留めたぜ。けど、空からの攻撃で名古屋の街にも結構被害が出ちまってる。リョウコのやつ、大丈夫なのか?』
「ええ……でも、敵が日本上空に集まってきてます。数が多すぎて、もう彼女の腕を以ってしても処理し切れていません。多分、このままだと彼女の体力が先に尽きるのではないかと……。なにか、別の手を打たないと」
『サコミズ総監は? ミサキさんはなんて言ってる?』
 シノハラ・ミオはちらりとミサキ・ユキの姿を見やった。ディレクション・テーブルに着いて、次々寄せられるGUYS地上部隊の報告を受け、新たな指示を下している。
 トリヤマ・マルのコンビはついさっき、広報対応のために出て行った。
「サコミズ総監は総監室にこもりきりです。ミサキ総監代理はまず、やれることを、と」
『……つまり、今んところ打つ手無しってわけだな。わかった。ミサキさんの言うとおり、まずはやれることをやろう。次の指示を頼む』
 頷いて、さっと画面上の新規侵攻状況を確認。アイハラ・リュウが担当する中部北陸方面の敵の情報を探査する。
「G.I.G。……隊長、富山湾にガメロットが降下した模様です。向かって下さい」
『G.I.G。――ガンウィンガーはこれより富山に向かう』
 アイハラ・リュウの通話が終わった直後、また携帯電話が震えた。
『もしもしミっオさーん。高知のナースは倒したよ〜! メテオール無しで〜。褒めて褒めて〜』
 暗い空気に染まりつつある中で、その声だけは脳天気なまでに明るい。
 シノハラ・ミオは思わず苦笑していた。
「はいはい、えらいえらい。それより、次は広島です。そのまま北上してください」
『敵は何?』
「キングジョーです。……十分気をつけてください」
『G.I.G。――ミオさんのために、頑張る。んじゃ、ガンブースターはこれより広島に向かいま〜す』
 通話が切れるや、今度はクモイ・タイチから連絡が。
『こちらクモイ。仙台は片付けた。釧路へ向かっている――上空からの爆撃がかなり激しいが、ヤマシロ隊員は無事なのか』
 出るや否や、相手の確認もせずにまくし立てるクモイ・タイチ。
「ええ、大丈夫よ。今はね。ただ、隊長にも言ったけど、日本上空に侵入してくる敵の数が、もう彼女の能力を――いいえ、シルバーシャークG一基で対応できる状況を超えてる。全部を防ぐのは不可能だわ。それに、彼女も体力的にもきつくなってるみたいだし……」
『そうか。……彼女で防げないのなら、誰でも防げはしない。むしろ、この程度で済んでいることを褒めるべき、だな。わかった。釧路が済み次第、一旦帰投する。その時に交代するから、それまでは保たせるように伝えてくれ』
「わかったわ。……あの、クモイ隊員」
 つい、シノハラ・ミオは呼び止めていた。
『なんだ?』
「いえ、その……今、聞くことでもないのだろうけど……」
『……釧路まではまだかかるな……。なにか不安があるなら、付き合おう』
 あら、とシノハラ・ミオは薄く微笑んだ。言い方はいつも通りにぶっきらぼうだが、いつもはない気遣いのようなものが感じられた。
「隊長からまだ詳しい話は聞いてないけれど、GUYSを辞めようとしたって本当なのかしら?」
 答えはすぐには返らなかった。
『……………………そうだな。事実から言えばそうだ。だが、仲間や現状に不満があったわけじゃない。まあ、そうだな。スタンドプレイヤー特有の気の迷いとか気まぐれだったと思ってくれればありがたい』
「本当に?」
『ああ。……シノハラ隊員にはプロフェッショナル意識が低い、と怒られそうな話だ。もう隊長たちに怒られたから、これ以上は勘弁してくれ』
「ふふっ、確かにその口調だと反省してるみたいね。じゃあ、勘弁しておいてあげる」
 失笑気味の笑みを浮かべて、一つ大きく息を吸い込んだ。胸の内にうずくまっていたクモイ・タイチへの不信を新鮮な空気で洗い流す。
「それじゃあ、プロフェッショナルらしく仕事の話に戻りましょう。釧路で戦闘中の、CREW・GUYSイーストロシア隊の状況について伝えます」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「長官、妙な通信が」
 オペレーターの言葉に、ロボット長官は顔をしかめた。
「妙な、とはどういう意味か。情報伝達は正確に行いたまえ」
「失礼しました。これまでほぼ閉鎖状態にあった、地球の防衛部隊専用と思われる電波帯域が使用され、音声データが放たれております」
「その電波とは、防衛戦力のコントロール奪取プログラムを送り続けている電波の帯域か」
「その通りです」
「発信場所は?」
「例の弓状列島中央付近、現地では『オオサカ』と呼称されている地点です。音声データにウィルス等プログラムの混入は認められず。純粋な音声データのみです。再生しますか?」
「うむ」
 たちまち、スピーカーから男のものらしい声が流れてきた。
『うわ〜、えらいこっちゃ! やってもうた!』
『なんやなんや、なにをしてもうたんや』
 答えた男の声は、地球人が聞けば先に発言した男より少し年かさと判別しただろう。
『あのデカブツ倒すための超スーパーウルトラデラックスハイパーエクセレント必殺武器を、戦車の中に置き忘れてしもたんや』
『え〜、そらアカンがな。なんでそんなことになってもうたんや』
『それが、急に攻撃受けてあわててもーてやな』
『そら防衛軍兵士の言い草やないで。ほんで、それ今どこにあんねんな』
『それがなー、阪神高速13号線の法円坂出口の辺りやねん。もいっぺん言うで? 阪神高速13号線の法円坂出口の辺りやねん』
『そーかー。せやけどお前、それほっとくわけにもいかんやろ』
『あー、まーしゃーないわなー。取りに行こかー。ほっとくわけにもいかんしなー』
『はいはい。せいぜいあのデカぶつに食われへんようにしーや。って、あかんで。これお前、ガイズの専用回線やないか。早よ切らな、怒られるがな〜』
 そこで通信は切れた。
「――通信内容は以上です」
 地球人の日本人、それも関西人が聞けば一発で下手な小芝居と断じるであろう、男二人の棒読みじみたやり取り。それをロボット長官はマジメくさった表情で頷き頷き聞いていた。
「なかなか興味深い通信だな」
「といいますと?」
「どうやら、奴らがPdnKJタイプやBndCGタイプの装甲を貫くのに使う兵器を放置してしまった、ということらしい。愚かな話だ。これだから忘却の機能をデフォルトで所持する有機生命体は……。その電波発信地点より最も近い場所で稼動している機動兵器はどれか」
「BndCGタイプが活動中です。――電波発信源のハッキング開始」
 数秒して、オペレーターのモニターに防衛軍のヘルメットが描き出された。
「頭部防護装甲内部の小型通信機のようです。より高次のネットワークへのリンク機能は切られているか、そもそも存在していないようですが、データメモリー領域があります。――ハッキング完了。マップらしき情報を入手」
 メインパネルにその情報が表示された。それはオオサカの地図。
「画像上の文字情報検索……衛星映像との照合…………現地『オオサカ』のマップと判明。先の音声データ内における地名と思われる単語と照合中……『ハンシンコウソクジュウサンゴウセン・ホウエンザカデグチ』……ここです」
 オオサカ中心部を真横に貫いている高架道路の一箇所に、ポイントマークが表示された。
「ここに敵の陸上専用機動兵器、通称『センシャ』と思われる物体があります」
「うむ、間違いあるまい。では、BndCGタイプに命じ、それを回収させるのだ」
「了解」
 オペレーターの指がコンソール上を這い踊る。
 ロボット長官は腕を組んで満足げに頷いていた。
「くくく、回収した兵器サンプルを解析し、我らが物としてしまえば、もはやこの惑星に用はない。全てを灰にしてくれよう」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 大阪。
 大阪合同庁舎4号館前の、阪神高速13号線法円坂出口付近。
 襲っていた京セラドームを放置したまま飛翔したクレージーゴンは、そこへ着陸した。
 想定外の圧倒的な重量に乗りかかられ、崩壊した大阪合同庁舎4号館。その瓦礫を巨大なハサミで押しのけて、阪神高速を覗き込む。
 ぽつんと置かれた一台の戦車。
 クレージーゴンは胴体正面下部のシャッターを開けると、右の大バサミを使って掻き込むように戦車をその中へ格納しようとする。
 そこへ、イサナ操縦のシーウィンガーが飛来し、攻撃を仕掛けた。
 ビークバルカンとウィングレッドブラスターを正面からばら撒くも、クレージーゴンの右手大ハサミに防がれ、一発たりとも届かない。
 シーウィンガーは淡白にも、その一撃だけでクレージーゴンの上空を通過し、大きく旋回してゆく。
 その間に目的を達し、戦車を体内に格納してしまったクレージーゴンはその動きを止めた。
 両腕両足を機体内に格納し、胴体下部から白い煙を噴き出し、空中に浮かび――

 その姿勢が、不自然に傾いた。 

 奇妙な放電が、シャッター上部の口と目に見える透過装甲部分に走り、次いで装甲表面にも走る。
 ジェット噴射は途中で途切れ、クレージーゴンは傾いたまま阪神高速の上に落ちた。高架を押し潰し、無様に傾いたまま、橋脚に身体を預けて動きを止める。その装甲表面に放電が走るたびに、人間の痙攣を思わせる動きでビクビク震えている。
 やがて――正面シャッターがひとりでに開いた。
 そこから黒煙と激しい火花が噴き出してくる。
 次いで、戦車が砲塔の先から白煙をたなびかせながら出現した。
 通信帯域全域に向けて、下品な笑い声が響き渡る。
『ぬははははははははは、どや! 腹ん中から砲弾食ろうた気分はっ! 名づけて、オペレーション・一寸法師! こんな初歩的な手に引っかかりやがって、頭の悪いことやのぅ!! かっかっか――関西人なめんなや、クソ宇宙人どもがぁっ!!! そぉらそら、これはお土産やっ!』
 地面に降りた戦車の砲塔がきりきりとクレージーゴンの内部を向き、轟音一発、砲弾を撃ち込んだ。
 たちまち爆炎と歯車らしき破片が飛び出し、クレージーゴンの巨体に激しい振動が走る。上がったままだった格納口のシャッターも、その爆圧で内側から大きくひしゃげる。
 格納口上部の透過装甲が内側から爆発した。その反動なのか、巨体を預けていた橋脚が折れ、クレージーゴンは仰向けに倒れてしまった。
 それでもまだ機能は生きているのか、一旦格納した手足が出てきた。
 その特徴的な巨大ハサミを振り上げ、戦車に向かって振り下ろす。
 戦車はその超信地性を生かし、細かく動いてその攻撃を危うく躱しつつ、クレージーゴンから離れてゆく。
『クジラ野郎、後は任せたで!』
『クジラじゃねえ、イサナだイサナ! ――メテオール解禁! パーミション・トゥ・シフト! マニューバ!』
 機体の通信装置を介さぬ、ヘルメット同士の短距離通信。
 天頂方向から真っ直ぐ降下してくる青の機体が、金色の輝きを大阪の夜空に放つ。
 それは天より舞い降りる金の流星。救いの主を象徴する輝き。
 イナーシャルウィングが開き、クレージーゴンの額から放たれた光線が『ファンタム・アビエイション』の作った残像を貫く。
『――スペシウム・トライデント発射!!』
 主翼下のトランスロードキャニスターが伸展し、先端が開く。
 そこから3発×両翼で計6発のスペシウム弾頭ミサイルが放たれた。
 ミサイルは開けっ放しのクレージーゴン格納口へ飛び込み――クレージーゴンは内側から溢れ出すスペシウムの爆光に包まれた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙空間某所。

 暗がりの中に、いくつもの計器類が明かりとして浮かび上がる空間。
「オオサカでの回収が失敗? あの通信は策略だったというのか」
「はい」
「有機生命体の分際で、我々を欺いただと!? むぅぅ……おのれ! その罪、許しがたい。地表で活動している全機動兵器をオオサカへ集結させろ! その地域のあらゆる生命体を根こそぎ殲滅するのだ!!」
「命令受諾、コンピューター確認。――長官、コンピューターもこの弓状列島の防衛施設の破壊を最優先課題に挙げており、戦力の集結命令に同意しています」
「当たり前だ。我々を欺いた愚かなる者どもに、無慈悲なる裁きを下すのだ」
「了解しました。――命令変更、実行開始」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 日本。GUYSジャパン総監執務室。
 総監執務室にはひっきりなく報告と連絡が入ってきていた。
 日本各地に散ったCREW・GUYSメンバーの状況確認だけでなく、基地全体の状況、避難等にあたっている地上部隊の状況、日本全体・世界全体の被害、それに各地各支部の意向・動向、敵の動き、総本部との連絡・会議……戦術レベルの指揮はミサキ・ユキとディレクション・ルームに任せているため心配してはいないが、現場の活動には自ずから限界がある。
 戦略面において彼らを支援するのが、自らのなすべき仕事だとサコミズ・シンゴは心得ていた。
 それでも、状況を切り開く鍵が見えない。
 地球全土における被害状況としては、エンペラ星人のときより悪いと言える。にもかかわらず、ウルトラ兄弟の応援がないのは、先だって敵が宣戦布告で触れていた通り、光の国もそれどころではない状況にあるのだろう。
 ウルトラマンジャックが宇宙で戦ってくれている、という報告だけが唯一の明るい材料か。
 とはいえ。
 宇宙も地上も圧倒的に分が悪い。
 宇宙で戦っている者たちも善戦してはいるが、圧倒的戦力差を押し退けるまでには至っていない。
 地上でもライトンR弾頭弾を使用しているCREW・GUYSは活躍しているものの、その救援が届かぬ場所では敵ロボットの蹂躙になすがまま。
 正直、一支部で取れる対応には限界がある。
 GUYSチャイナやイーストロシア、アラスカ、オーストラリア、オーシャンの協力を得ているとはいえ、各支部からの砲撃だけでは頭上を覆い尽くす艦船を払い除けるだけの一手にはなりえない。
 現状、これ以上打つ手はない。
 サコミズ・シンゴはデスクの上に置いた拳を、強く握り締める。
 無力感――遙か昔、太陽系の果てでゾフィーと出会い、地球は人知れずウルトラマンたちに守られていた、と知った時に一瞬よぎったあの気持ち。
 自分達はまだ守られている、か弱い存在に過ぎなかったと思い知らされた、あの時の気持ち。
(……そうだ。これは地球の戦争。今、宇宙で戦ってくれているウルトラマンたちのためにも、共に戦っている我々が諦めるわけにはいかない。。考えろ、考えるんだ)
 サコミズ・シンゴの苦悩は眉間の皺となって深く刻まれていた。
 直近に砲弾が着弾したのか、激しい爆音と振動に執務室は揺れた。
「……直撃は避けているようだけど、いつまで持つか……直撃を受ければ、さすがにこのフェニックスネストも――」
 不意に、サコミズ・シンゴの眉間の皺が消えた。
 少し考えて、ディレクション・ルームを呼び出す。
『はい、こちらディレクション・ルーム。……サコミズ総監? なにか御用でしょうか?』
 画面に出たのはイクノ・ゴンゾウだった。状況の悪さは認識しているのか、やや表情が硬い。
 サコミズはいつもの見る者を和ませる柔和なスマイルを浮かべて答えた。
「忙しいところ、悪いね。ちょっと見せてほしいデータがあるんだ。それと、ミサキさんは今そっちを外せるかな? 手が空くなら来てほしいんだけど」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 宇宙。
 メトロン星人率いる船団は、完全な包囲網の中にあった。
「周囲に展開する敵艦艇はおよそ500隻、ロボットは百体以上!」
「現在、台湾南西約150kmの上空! ですが、これ以上日本上空へは近づけません! それに、自殺行為です!」
「ミステラー部隊合流! 左翼の防衛につきます!」
「地球からの高射砲撃、続いていますが命中精度は落ちています!」
「地球上空全域から、日本上空に敵艦艇続々侵入しています! 防空砲撃が間に合っていません、爆撃が地表に届いています!」
「アテリア部隊収容! 救護班急げ! 一人も死なせるな!」
「敵拠点指揮艦に侵入したペガッサ部隊、反撃を受けて撤退開始! ここも総合指揮艦ではないと報告が――おい、ペガッサデルタ、ペガッサデルタ! 応答せよ、ペガッサデルタ!」
「今、ペガッサ部隊の撤退援護に、近くにいるバルタン部隊の介入を要請した! 間に合ってくれ!」
「白兵戦闘に移行したバルタック部隊、さらにキングジョー3体、クレージーゴン2体を凍結させて活動停止させました!」
「メシエ船が撃沈! 右翼の防衛線が崩れます! 誰か、穴を埋めろ! ファンタスのロボフォーが侵入してくる!」
「左翼のザンパ船団、突出するな! ロボフォーの餌食になるぞ!」
「――組合長! バルタン部隊総指揮官より通信です!」
 艦橋の真ん中で、両手を後ろに回し、まるで置物のようにじっと立っていたメトロン星人は、右手を上げてその声を受けた。
 たちまち、メインパネルにバルタン星人のバストアップショットが映った。いつもの笑い声が響き渡る。
「見つけたかね?」
 しかし、バルタン星人は首を振った。
『全ての拠点指揮艦を探査した。残念ながら、この船団の中にこの船団全域を統括指揮する総合旗艦は存在しない』
 艦橋がざわつく。
 メトロン星人は慌てた風もなく、頷いた。
「なるほど。となると、地球でも昨今流行りのネットワーク・コンピューティングとか、グリッド・コンピューティングと呼ばれているような方式なのかね?」
 各拠点の指揮艦に乗せたコンピュータ同士をネットワークで同期させ、全体を一つのスーパーコンピュータとして扱う方式――だとすれば、中心指揮艦艇は必要なくなる。しかし空間的広がりが有限狭隘な地上でならともかく、宇宙を航行する戦艦の艦隊を指揮するには、その形態には大きな弱点がある。
 船団からはぐれたり、何らかの原因で船団が分割され、お互いにデータの同期を取れなくなった場合、それだけそれぞれの集団・艦船の指揮能力は、ネットワークに参加できる艦船の数に比例して下がってしまう。
「私の考えでは、それはないと思っていたのだが……」
 バルタン星人は頷いた。
『ファンタスはともかく、第四惑星のシステムは地球で考えても旧式の部類に入る。一応連中の拠点指揮艦のシステムを一通り調べてみたが、君の予想通り、いまだに中央管理式のネットワーク構成だ。どこかに彼らへ指示を下しているコンピュータが存在している』
「その位置は? まさか、彼らの母星・第四惑星ではないだろうな?」
『それはない。あるとすればこの宙域だ。それは間違いないが……位置特定にまではまだ至っていな――』
 突然、通信画面がぶっつりブラックアウトした。
「何事だ?」
 通信管制の方を向くと、オペレーターが悔しげに首を振った。
「通信元の第四惑星戦艦が、別の第四惑星の戦艦にバルタン部隊総指揮官ごと撃沈された模様。今の通信波を異常と受け取られたようです。バルタンの安否は不明」
「ふむ……宇宙忍者がそう簡単にやられるとも思えん。大丈夫だろう。それより、今の情報を地上に送ってやれ。ウルトラマンから、としてな」
「地上へ……ですか?」
 不思議そうな表情の犬顔のオペレーターに、メトロン星人は大きく頷いた。
「共に戦っているのだ。情報の共有は当然。それに……ここは我々が住む遙か以前より彼らが住んでいる場所で、我々の同胞により幾度となく侵略を受けてきた場所だ。守ることにかけての経験と情熱は、我々の数段上をゆくだろう。我々の気づかぬ何かに、彼らなら気づくかもしれない」
「はい」
 力強く頷いて地上への通信を送り始めるオペレーター。
 それに背を向け、再びメインパネルに映る戦闘状況に目を向けたメトロンは、誰にともなく呟いた。
「そうとも。私は……見てきたのだ。四十年もの間な。追い詰められた地球人が編み出す知恵というものを。科学的にも思考能力的にも、彼らより格段に進化しているはずのメフィラスや我々でさえ驚かされる、その知恵こそが――彼らの最大の武器。そしておそらくはこの戦いを勝利へと導く、鍵なのだ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 日本。GUYSジャパン総監執務室。
 ディレクション・ルームとの映像回線を開き、イクノ・ゴンゾウからデータのレクチャーを受けていたサコミズ・シンゴは確信を以って頷いた。
「……やはり、ウルトラマンも正体不明の宇宙船団も、日本上空の敵陣が厚くて近づけてはいない、か。予想通りだね」
『サコミズ総監? このデータがなにか……?』
「イクノ隊員、フェニックスネスト・フライトモードへの展開を準備しておいてくれないか」
『!?』
 画面の中のイクノ・ゴンゾウは明らかに驚愕していた。
『総監、お言葉ですが……この状況で飛ぶのですか!? それは――』
「ああ。わかっているよ。けど、とりあえず準備だけ頼めるかな? ボクもそっちへ行くから、詳しい作戦内容はその時に説明する」
 まだ逡巡が消えないイクノ・ゴンゾウに固い決意を秘めて頷く。
 すると、イクノ・ゴンゾウも、一息ついて頷いた。
『G.I.G。フライトモードへの展開準備を開始します。変形は総監がおいでになったあと、でよろしいですね?』
「ああ。もう少しヤマシロ隊員に粘ってもらいたいしね。……頼む」
 回線を切ったサコミズ・シンゴは、すぐに総本部のタケナカ総議長へのホットラインをコールした。
 待つほどもなく、画面に総議長が現われる。
『――ああ、さこっち……ごほん。サコミズ日本支部総監。丁度よかった、今連絡を取ろうとしていたところだった』
 サコミズ・シンゴは怪訝な顔をした。
 タケナカ総議長の表情がやや硬い。何かを決定した顔つきだ。
「なんだ? なにかあったのか?」
『いや、こっちの話は後でいい。そっちの話を先にしてくれ』
「わかった。……そっちでも把握していると思うが、敵艦隊が日本上空に集結しつつある」
『うむ』
「日本支部のシルバーシャークGと周辺支部の援護砲撃だけでは正直、手が足りない。そこで、フェニックスネストをフライトモードで離陸させ、フェニックス・フェノメノン(主砲)で敵艦隊を攻撃しようと思う。ついては、その援護を各支部に――」
『すまん。サコミズ総監。君のその作戦は、総本部としては許可できない』
「え?」
 旧友の裏切りとも言えるようなその発言に、サコミズ・シンゴは顔色を曇らせた。
「しかし――いや。なにか策があるんだな?」
『そうだ。サコミズ総監、これよりGUYS総本部参謀室立案の作戦を説明する。フェニックスネストは、その核となる。すまないが、黙って聞いてくれ』
「総本部の作戦……」
 画面の向こうで旧友が頷く。
『そうだ。地球を救う、乾坤一擲の作戦だ』


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