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EDF関西!! 邂逅編  イカれる三人の関西人


 昼下がりの道頓堀、戎橋。
 白を基調に赤と黄色のデザインをあしらったツナギを着た男が二人、欄干に腰を預けて談笑していた。
 20代前半の茶髪の優男と、30代ほどの右目をまたいで傷の走る男。
 二人の着用している地球防衛軍――EDFの制服はかなり目立つ。実際、周囲を歩く人々は彼らを視界に捉えると、一様に驚いた表情を見せた。
 服装が珍しいわけではない。その服を着て、重そうなヘルメットをかぶったままタコ焼きをぱくついている姿が珍しいのだ。
 少なくとも5月17日の世界同時侵略以前では見られなかった光景だった。
「ん〜うまいのぉ、瀬崎」
 傷の男が、口の中のタコ焼きを飲み込んで、つくづく幸せそうに言う。
 瀬崎と呼ばれた茶髪の優男は嬉しそうに一つ、口に放り込んだ。ほふほふほふほふ、と何度もすぼませる口から白い湯気が立ち上る。
「ほんまに。任務サボって食うタコ焼きって、おいしいですねぇ。昔では考えられまへんな、こんなこと」
「大きな声では言えんけど、侵略者様様ってか?」
「ぷぷぷっ、井上はん、そらぁゆうたらあきまへんでぇ」
 大声で笑い、お互いの肩を叩き合う二人のEDF隊員を、通行人は失笑しつつ通り過ぎてゆく。
「おいおいおいおい、瀬崎、井上。これ見たか、これ」
 橋の向こうからメガネをかけた隊員が新聞を片手に走ってきた。
「おぉ、小野、どこへ行っとったんや。自分の分のタコ焼き、冷めてまうど」
「あ、おおきに。――いや、そんなもんよりこれや、これ。えらいこっちゃ」
「あ〜ん?」
「なになに、なんです?」
 二人は差し出された新聞を覗き込んだ。その間に小野は欄干に置かれた自分のタコ焼きを取って、一つ口に放り込む。……ほふほふほふほふ。
 新聞の一面にはでかでかと二足歩行型の超巨大生物の写真が載っている。
 井上が顔をしかめた。
「なんや、夏の怪獣映画の予告かいな。なんでそんなもんが一面なんや」
「もっと報道するもんあるでしょーにねぇ。ボクらの活躍とか、ねぇ?」
「つーか、こんなモン作っとるところがまだあったんやな。太秦か?」
「そういや、京都はまだ無事やったっけか。この戦い終わったら、黄門様も再開するんでしょうかね?」
「ワイは暴れん坊将軍の方が好きやなぁ。2代目吉宗の――」
「あほう」
 小野は新聞を取り返して二人の額をはたいた。
「何の話をしとるんや。ほれ、ここよぉ見んかい。東京モンがその怪獣を倒しよったんや。たった一人でな」
「はぁ?」
「アホ抜かせ。何を言うとるんや……なになに」
 瀬崎と井上は額をくっつけるようにして覗き込み、記事を読み始めた。
『……港から上陸した侵略者の生物兵器、超巨大生物【ソラス】をEDF隊員の一人が、独力で倒した。この隊員について、EDF極東本部臨時司令部は戦時中の情報につき、詳細は公表できないとしている。なお、この画像は神奈川朝陽放送が流したものであるが、そばにあるビルと比べてもその巨大さがわかる。推定身長40m、口から火炎放射を吐くのはまるでゴジ……』
「……なんですのん、これ」
 瀬崎の呆れ声に、井上も首をかしげる。
「いや、嘘書くにしても、もう少しましな書き方っちゅうもんがあるやろ。こんなもん、リアリティもクソもあらへんがな」
「それが嘘とちゃうみたいなんやな」
「はぁ? どういうこっちゃ」
「さっきこの新聞買うた店で、テレビがこの話題流しとったんや。だいたいやな、この新聞かて堅いことでは有名な朝陽新聞やしな。なんにせよ、東京はえらい騒ぎみたいや」
「……せやけど、いくらなんでもこらぁありえまへんやろ」
 井上と顔を見合わせた瀬崎が言うと、井上も続けて相槌を打った。
「せやせや。怪獣上陸っちゅうだけでも嘘臭いのに、それを一人で倒すやなんて、ハリウッドの映画でもようやらんで」
「まさに事実は小説より奇なり、っちゅー奴やな。せやけど、問題はそことちゃう」
 きらりん、と小野のメガネが光を弾いた。
「そことちゃうて……何が問題ですのん」
「ええか。信じられん話やが、こうして写真付きの記事になっとるっちゅーことはや、少なくとも侵略者の連中が蟻やUFOの他に、怪獣【ソラス】っちゅう切り札を持ってるということや。それが東京に上陸したんや」
 まあ、そうやなぁ、と井上は同意する。
「で、東京モンが――ホンマは何人でやったんかはかは知らんけど――その【ソラス】を倒した、っちゅーのも記事になってる以上、ほんまのことやろ。今、EDFがここまで嘘臭い嘘記事をバラ撒く意味あらへんしな」
「なるほど、話が嘘臭いだけに逆に信憑性があるっちゅうことですね」
「せや、井上がゆうたように、嘘はもっとうまくつくもんや」
「で、何が問題やねんな」
 井上は残ったタコ焼きを頬張った。瀬崎も食べつつ小野の話に聞き入る。
「東京モンはな、英雄を作ろうとしてるんや。……こすっからい連中の考えそうなこっちゃで」
「英雄、でっか?」
「そんなもん作ってどないするんや」
「きまっとる。戦後の日本復興のイニシアチブを東京が取るつもりなんや」
「はぁ?」
「何でそこに話が飛ぶねんな」
「ええか、連中は怪獣倒せる戦力があることを誇示したんや。それがたった一人の人間やとしてや、その英雄様が何か言いよったら、みんなそいつの言うこと聞きよるんちゃうのか? 何やゆうても世界を救う英雄様やさかいな」
「それのどこが問題やねんな。ワシらには関係あらへんやんけ。そいつがなんやろーと、ワシ言うこと聞く気あらへんで」
 井上は食い終わったタコ焼きの容器を、背後の道頓堀川に投げ捨てた。
 なにしてまんねんな、という瀬崎の怒声を聞き流して続ける。
「小野、お前気にし過ぎやて。んなもんかまへん、かまへんがな。元々東京モンは目立ちたがりやさかいな。目立たせたったらええねん。どーせ張り切りすぎてそのうち墓穴掘りよるて」
「あほんだら」
 ギラリ、と小野のメガネが光を放った。コワモテの井上が、そのにじみ出るような威圧感に思わず息を呑み、わずかに後退る。
「自分、それでも関西人か。悔しないんか。東京モンだけにええかっこさせてよぉ。……だいたいやな、今東京は焼け野原なんやで。そら、大阪もけっこうやられたけど、あっちほどやないはずや。何せこっちには、EDFの兵力はほとんどあらへんかったさかいな。せやから今がチャンスなんや」
「チャンスて、なにが」
 胡散臭そうに聞き返す井上の鼻先に、小野の拳がぐっと突き出された。
「太閤はんの夢再び、やないかい。大阪遷都や。東京になーんにもなくなった今こそ、大阪が日本の首都になるんやっ!!」
「おおっ、そうかっ!! そんな――」
「……結局、小野はんが戦後のイニシアチブとりたいんやないですか?」
「何が悪いっ!!」
「あ、開き直った」
「商都大阪、人情の都大阪、食い倒れの町大阪、お笑い首都大阪、ザ・関西・オブ・ザ・関西大阪、ザ・大阪・オブ・ザ・大阪大阪、何はともあれ大阪、何が何でも大阪、大阪ゆうたら大阪、とどのつまり、ここ大阪こそが日本の首都に相応しいんやっ!!」
「母音が来るときは『ザ』やのうて『ジ』……」
 瀬崎の控えめな突込みを圧して、小野は手で新聞を叩いた。
「関西人代表として、この東京モンの動きは看過できんっ!! 我々歴史の闇に沈みし者どもが、今ひとたび太陽の輝きをつかむためには、奴らの出鼻を挫く、ドでかい花火を上げんとアカンのやっ!!」
「……オレらいつのまに歴史の闇に沈んだんや」
「どでかい花火てなんですねん」
 突っ込みを諦めた瀬崎が最後の一個を口に放り込み、ほふほふしようとして、途中でやめた。
「……んん〜、冷めてもうた……」
 タコ焼きの舟をビニール袋に入れ、手首から提げながら話を続ける。
「大阪遷都の話は置いといても、怪獣を一人で殺ったなんちゅう話題を超える活躍ゆうたら、何があります? 母船を墜とすぐらいとちゃいまっか?」
「せやかて、あれ衛星軌道上やろ? さすがにそれはどうにもならんで」
 井上は首を横に振った。
 瀬崎は自分の腰に帯びた拳銃を見下ろして、ため息をついた。
「そうやなぁ。そもそもボクらの装備かて、旧式やしねぇ。東京では新兵器をバンバン開発して、バンバン実戦に投入しとるそうやないですか」
「そらまあ、開発研究所は向こうにあるからのぉ。EDF極東本部の臨時総司令部も、帰ってきたウルトラマンのMATみたいな海底基地やて話やしー……」
 井上もため息を漏らし、瀬崎と二人してがっくり肩を落とす。
「ボクらの司令部は大阪城やしねぇ。ゆうたら歴史的リサイクルやけど」
「地球には優しいわな」
 わははははは、と力なく笑う。
 その時、再び小野のメガネが、ぎらりと光った。
「……怪獣生け捕りとかどうや」
「はぁ?」
「生け捕りて」
 瀬崎と井上は酢でも飲んだような顔つきになった。
「あらゆる生物は殺害より捕獲の方が遥かに難しい。お前ら、ゴキブリ潰したことあっても、捕まえたことあらへんやろ」
「いや、あんなモンそもそも捕まえようっちゅう気にならん、ちゅーのは横に置いといてもやな」
「置いとくんでっかいな、井上はん」
 二人の掛け合いを無視して、小野が危なげな笑みを浮かべた。
「ククク、東京モンにはできん芸当……関西人は、金はのうても知恵がある!! オレらは、太閤はんの時代からお上に頼らずにきたんやっ!! 今こそその意地を見せたるときやっ!! 怪獣を生け捕りにしたるんや!!」
「無茶言ーなや。だいたい、あーんなでかいもん――おおおっ!?」
 大きく腕を広げた井上の上げた叫びに、井上の視線の先をつい目で追った二人も、絶句する。
 道頓堀川の向こう、崩れ落ちた阪神高速環状線の高架橋の間から見える巨大な影。ビル並の身長の何かが、重々しくゆっくりと動いている。
 三人はほぼ同時に目をこすった。何度か目を瞬かせる。
「あああああああアレ、ソレとちゃいますんかっ!?」
 瀬崎が小野が手にした新聞と影を交互に指差した。
「あああああああアレやアレ、コレやんけ!!」
「ななななんでソレがあんなとこにおるんやっ!! いや、その前にこの辺の人らを避難――」
 井上が慌てて周囲を見渡したが、もはや周囲に人影はなかった。
「だぁれもおれへんがな!?」
「なんやぁ!? 誰ぞ教えてくれたらええのに。みんな冷たいなぁ」
「言うとる場合か。何でお前ら今まで気ぃつかへんかってん!? ……井上、瀬崎!! さてはお前ら、司令部との回線切ってたんか!?」
「いや、サボっとるのばれたら司令とかうるさいし、瀬崎と示し合わせて切っとったんや――て、そういう小野はどないやねん!」
「お、オレも実は……いやいやいや、オレはお前らが回線あけてると思うてたから、切っとったんや!」
 かなり離れているにもかかわらず、ずずん、と腹に響く振動が伝わってきた。
 途端に三人は黙り込んだ。一様に背筋を冷たい汗が伝う。
「……ボクらアホやなー」
 瀬崎の呟きに、井上の眉が釣り上がった。
「しみじみ言うな、アホー!」
「とりあえず回線開こや。状況わからんとどうにも――」
 小野の提案に従い、全員一斉にスイッチを入れる。
 途端に切羽詰った声が聞こえてきた。
『……こちら奥村!! ダメです!! 我々の旧式装備では【ソラス】に歯が立ちませんッ!! このままでは部隊が――ぐわあああああああ』
 三人は同時に巨大な影に視線を向けた。
 【ソラス】と思しき影は、足元に向けて火を吐いていた。
『奥村、奥村ーッ!!』
『奥村部隊、反応が消えました。……ソラスは東へ移動を続けています』
「……なんや、えらいシリアスなことになってますなー」
 瀬崎のとぼけた反応。
 井上も思わず呟く。
「どーでもええけど、オペのねーちゃん、なんでこないに冷静なんや」
「それこそホンマにどーでもええ。お前らわかってるんか? 奥村はんの部隊がやられてもうたんや。非番の連中除けば、大阪に残ってる部隊ちゅーたら……」
 井上と瀬崎は顔を見合わせた。
「……ワイらだけか」
 お互いに背筋に寒いものが走ったことをアイコンタクトで伝え合う。
 そんな二人に、小野は悪魔の笑みを浮かべて傲然と言い放った。
「そういうことや。覚悟決めぇ」
「覚悟決めぇ、て……」
 二人はもう一度顔を見合わせた。井上の傷がぴくぴくっと引き攣っている。
「ちょお待て、覚悟てなんやねん!? どないするっちゅーねん!!」
「決まっとる。アレを捕まえる。それができへんのやったら、ぶっ飛ばす」
「無茶言うなーーー!! あんなモン勝てへんて!! 絶対無理やって!!」
「せやせや、蟻とちゃいますねんで!? 怪獣でっせ!? ゴジラでっせ!? 口からぼーって火ぃ吐いてますで!? 無理や、無茶や、無謀や、無茶苦茶やっちゅーねん!!」
「東京モンは倒したぞ」
「いや、それは……」
 途端に二人の勢いが削がれた。
「ええか、これはチャンスやんけ! カモがネギしょってきてくれよったんや!! これは太閤はんか、楠正成か、はたまた天満宮か、ビリケンか、阪神タイガースのお引き合わせなんや!! ここでやらんで、どこでやるんや!! オレはな、オレは勝ちたいんやっ!! ネバーネバーネバーの、もいっちょネバーのサレンダーやっ!!」
「カモネギて」
 顔を引き攣らせたままの井上が振り返り見る。
 土煙を上げて一歩また一歩迫りくる巨獣【ソラス】。まだビルの彼方とはいえ、その巨体から発される圧倒的な迫力、死と破壊を暗示する威圧感は、こわもての井上をして股間を縮こまらせるに十分だった。
「……ワシにはアレがカモにも、ネギしょってるようにも見えん。むしろあいつにとってワシらの方が……」
「いや、ほんで阪神タイガースてなんですねん」
「2003年以来13年間優勝してへん怨念やんけ。……今年は調子よかったんや。連中が来んかったら、今ごろ4番浜中が500号打って、セ・リーグ爆走しとったはずなんや」
「……あー、井上はん。そろそろ行かんと、ここも危ないんとちゃいますか」
 ぎりぎりと拳を握る小野を無視して、瀬崎は井上に声をかけた。
「せやな。ほな、行こか」
 井上も調子を合わせて歩き出す。
「こらこらこらこら、待て待て待て待て」
 慌てて小野が二人の肩を引っつかむ。
「天下のEDF隊員ともあろうものが、そんな簡単に尻尾を巻いてどうする」
 そのメガネが狂気をはらんでギラリと輝く。
「放してー!! 男と心中はいややー!!」
「女やったらええんか、瀬崎」
「蟻に溶かされんのもいややけど、怪獣に焼き殺されんのもいやじゃー!!」
「まぁ聞け、井上。オレかて、全く策無しに言うてるわけやない。あのデカブツを捕まえる方法が一つ、あるんや」
「……なんやて?」
「ほんまでっか?」
 小野の手を振りほどこうとしていた二人が、途端に抵抗を止めた。
「まーかせなさーい」
 薄気味の悪い笑みを浮かべる小野。
 そのとき、3人のヘッドホンにオペレーターの声が入った。
『……あ、北川司令。行方不明だった井上、瀬崎、小野隊員の反応が――今、道頓堀の戎橋にいるようです』
「あ、バレた」
 瀬崎の呑気な声に、井上も続ける。
「そら、通信のスイッチ入れたからなぁ」
 小野だけがそそくさとヘルメットを脱いでいた。
『……このっ、馬鹿ものどもぉ!!!
「うわっ!」
「ぐおっ!」
 密閉されたヘルメットの外にまで聞こえるほどの大音声が、井上と瀬崎の耳をつんざき、二人はのけぞるようにして戎橋の上に崩れ落ちた。
「……あー、小野です。司令、聞こえまっかー?」
 ヘルメットはかぶらず、マイクに口だけ寄せて話す。
『小野っ、貴様ら所定の位置に着きもせず、いったいそこで何を――』
「えー、申し訳ありまへん。通信機の故障らしいですわ。あるいは敵の電波封鎖やったんかもしれまへんけど……ようやっと復旧したみたいですなぁ」
『嘘をつくなっ!! だいたいなんで道頓堀なんだっ!! パトロールのルートからも外れて――』
「お叱りは後で。今の急務は奴を何とかすることとちゃいますか?」
 言わずもがなのことに、通信の向こうで歯軋りしている気配が伝わってきた。
 小野はヘルメットをかぶりながら、悶絶していた二人にジェスチャーで立ち上がるよう促した。
 ややあって、北川司令の感情を押し殺した声が流れてきた。
『……――その通りだ。そこから見えているんだな』
「え〜え、そらもうはっきりと。まだ倒壊した阪神高速の向こう側ですけど」
『なら、諸君に命令する。奴を足止めしろ』
「あ、足止めぇ?」
 瀬崎が不思議そうに聞き返した。まだ怒鳴り声の衝撃が残っているのか、足元がふらついている。隣で井上も首を振っている。
 瀬崎の疑問を、小野が引き取って続けた。
「……司令、足止めっちゅーことは――」
 小野のメガネがきらりと光を弾いた。
「ああ。……東京に救援を打電した。東京で奴の同類を倒した隊員が、開発された新兵器ともどもバゼラートでこちらに向かっている。3時間弱で着くそうだ。その後はそいつに任せる。諸君らはそれまでの時間稼ぎだ」
「な……そらないで、司令!!
 小野は欄干を叩き、マイクに噛み付かんばかりの剣幕で抗議した。その眼差しは遥か彼方の【ソラス】を睨みつけている。
「東京モンにそない簡単に頭下げるやなんて、あんた、関西人のプライドはないんかっ!!」
『ないっ!! ……あるわけなかろう。私は鎌倉生まれの港区育ちだ』
「な、なんやそら」
『下らん御託はいい。市民の命と財産が灰燼に帰す瀬戸際なんだぞ! 関西人のプライドなどとほざく前に、EDF隊員としてのプライドを発揮しろ!! いいな、EDFの勤めを果たせ! 救援が来るまで、奴を足止めしろ! 以上だ!!』
 マイクが叩きつけられるような音とともに、通信が切れた。
「か、関西人は芸のためなら女房も泣かすんでっせ!! 関西人のプライドを舐めたらあきまへーん!!」
「やめとけ小野。……意味わからんし、もう切れとる」
 井上が半泣きの小野の肩を叩いて、首を横に振った。
「第一、向こうの方が正論や。ワイらEDF隊員やねんから」
「正論がなんやっ!! 無理を通せば、道理は引っ込むもんやっ!!」
「いや、そらそうやけどやな」
「こーなったら、何が何でもあの関東モンの司令に一泡吹かせたる。……井上、瀬崎、やるどっ!!」
 怒りに燃えて靴音も荒く歩き出した小野に、井上は首を傾げた。
「なんや、主旨がだんだんずれてきとるな、アイツ」
「もーどーでもえーですわ……」
 瀬崎は絶望のどん底に落ちた態で、がっくり肩を落としていた。
「今日が僕の命日になるんかなぁ」
「縁起でもないこと言いなや。……こっちまで気が滅入るわ」
「ごちゃごちゃ言うとらんと、早よエアバイクに乗れ! ミッション・キャプチュード開始やっ!!」
 小野は戎橋交番前に止めておいたエアバイクに跨った。
 井上、瀬崎もすぐに追いついて来る。
「ミッション?」
「きゃぷちゅーどぉ?」
「詳しいことは行きながらや。回線明けとけや」
 小野はスロットルを開き、尻を振りながら走り出した。
 井上、瀬崎も慌ててバイクに跨り、その後を追って走り出した。



* お詫び
  当作品の章題に誤りがありました。
  正しくは『イカれる三人の関西人』ではなく、『イカれた三人の関西人』でした。
  ここに訂正し、お詫び致します。

  それでは、引き続き物語をお楽しみください。


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