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地球防衛軍4SSシリーズ・オープニングストーリー


 ストーリー0.それぞれの終戦

 西暦2018年初頭、東京郊外にてEDF陸戦歩兵部隊がマザーシップを撃墜。
 地球外生命体フォーリナーによる侵攻は幕を閉じた。

 『空が墜ちた』。

 後に報道がそう伝えたマザーシップの墜落を、ある者達は戦場の内外から直接視認し、またある者達は別の戦場における戦闘中に伝えられ、またある者達は報道番組にて確認した。
 その光景を目の当たりにした者達のうち幾人かは、その8年後に再来したフォーリナーとの戦いに身を投ずることとなる。

 ―――――― * * * ――――――

 その時、レンジャー42は、決戦の地へと押し寄せる巨大生物の群れを押し留める作戦に参加していた。
 作戦参加チームの一つ、レンジャーチーム42隊長として攻め寄せていた群れをあらかた片付け、マザーシップ撃墜の報を耳にした時、既にその戦場に立つ仲間はわずかだった。チームの隊員もほとんどが命を落とし、自身のアーマーも尽きようとしていた。
「……ストーム1……あなたの真似は最後までできませんでした」
 仲間達とともに守り抜いた背後の戦場――今は墜落した大質量のおかげで、土砂が黒煙のようにもうもうと立ち昇っている方角を見やりながら、呟く。
 その視線の先で、かつて一度だけ同じ戦場を駆け抜けた『英雄』が、ミッションに挑んでいたことは知っている。そして恐らく、この戦果は彼がそこにいればこそ、のはずだ。
「あなたのように戦えれば、僕も少しは……と思っていたけれど。やっぱり、あなたは『英雄』だ。誰も、あなたに届かない」
 レンジャー42の参加している作戦領域における最後の一体が駆逐され、ミッションの終了を告げる声が通信に入る。
 EDFの、地球人の勝利を高らかに宣言する通信に、生き残りの陸戦兵連中が雄たけびを上げて応えている。
 しかし、レンジャー42はそんな高揚感を感じることもなく、ただ大きくため息をついた。
「……さぁて、生き残った。次は、あいつを探さなきゃ」

 ―――――― * * * ――――――

 その時、少女はわずか10歳だった。
 まん丸な敵母船が火を噴いてゆっくりと落ちてゆく。
 そんな光景をテレビ越しに見て、泣き咽びながら抱き合う母と祖母の姿に、どうやら自分達は助かったのだとぼんやり思った。
 避難所の中の閉塞していた空気が緩み、そのことによる安心は感じたが、大人達が感じている解放感は少女の中にはなかった。
 そもそも巨大生物や、フォーリナーの侵略兵器の数々だって、間近に見たことはなかったのだ。命の危険に対する危機感もないまま、もう命の危険はないのよと言われても、ああそうなんだ、以外のどんな感想が沸いてくるというのか。
 少女はその時、繰り返される敵母船の墜落シーンを一心に見つめながら、思っていた。

 次は、あたしがあれを落としたいな。

 そう。
 その時確かに、少女にはその『ゲーム』は、自分の持っている携帯ゲームのソフトのどれより魅力的に見えていたのだ。

 そして7年後。
 少女は、EDFの入隊志願受付を訪ねる。
 あたしも遊びたい――その思いを心の芯に宿したまま。

 ―――――― * * * ――――――

 自分をこんな身体にした連中の親玉が、墜ちる。  

 その映像を見た日から数日、女はただ呆けて過ごした。
 人類が勝った。それは嬉しい。
 かつて自分が参加していたEDFの仲間達が、命を懸けて得た勝利だ。嬉しくないはずがない。
 けれど、右腕と右足を失い、右の顔から腿に至るまで醜いケロイドの残るこんな女に――いや、生殖機能を失った自分は、もはや女ですらない。こんな半端な存在に、この先を生きてゆく意味があるのか。
 見たかったものは見た。
 もう、思い残すことはない。

 そう考えた女は、それからの日々をいかに死ぬべきか考え続けることに費やした。
 彼女が、他の似たような境遇の自殺志願者と違っていたのは、ただ死ぬだけのことにさえ前向きであろうとしたことだろう。
 世を儚んでではない。もう自分の役目を終えたから、退場したいのだ。
 だが、ただ死ぬだけではいけない。元EDF隊員として、この血の一滴、肉の一片、骨の一欠片までも、これから先の人類社会のために役立てて死にたい。この先の社会を担う子供が産めない以上、最低限それだけは。
 それが彼女の願いだった。

 しかし、実際片腕片足の人間ができることなどたかが知れている。
 長い療養生活の中でリハビリを続け、家具や福祉用具にすがって立ち上がることは出来るようになった。
 車椅子から立ち上がり、義肢と杖で庭を歩き回れるまでにもなった。
 それでも、身を寄せている遠縁の親族の家の周囲にある山野を駆け巡るまでにはならなかった。
 物事には限度がある――そう言ってこれ以上の回復を否定する医者や縁者に、なせばなると笑い飛ばしてリハビリを続ける日々。

 だが、正しいのは彼らだった。
 先へと進めない。
 機能回復の限界。
 その壁は分厚く、高く、広く――表向き一心にリハビリに取り組みながらも、女は途方にくれていた。
 社会の役に立って死ぬ以前に、まず社会へ復帰できない。
 いつの間にか、人類が勝利してから既に数年が立とうとしていた。
 世界が徐々に復興を加速してゆく中で、彼女はまだフォーリナーの残したものと戦っていた。

 その報せは、新たな絶望への道しるべか、それともがんばり続けた彼女への神の福音か。
 ある時、一人のEDF関係者が彼女の居場所を突き止め、とある情報を持ってきた。
 フォーリナーの再襲来を予期しているEDF陸戦部隊は、戦力強化の一環として新兵器の開発を行ってきた。
 そこで造られた強力な火砲や近距離格闘戦装備はしかし、その重さや反動により従来の陸戦歩兵では取り扱いが物理的に不可能であるため、隊員の筋力や活動をアシストするパワーフレームの開発も行われることになった。
 そして、そのバリエーションの一つとして、四肢を欠損した隊員の義肢としてパワーフレームを使用し、動作を機械的に補助することで、戦力として再配置できないかという研究がなされているという。
 理由の一つは、先のフォーリナーとの戦いで大幅に減った構成員を補うべく、肢体不自由者となりながらも今だ闘志を失わぬ者を戦力とするため。
 今一つは、今後の再侵略における戦闘で四肢を失おうとも戦いを続けられる手段を確立し、兵力の損耗率を下げるため。
 彼女の元へやってきたEDF関係者は、そうした思惑も説明した上で、彼女にそのパワーフレーム開発の被験体としての参加を提案した。
 女は一も二もなく飛びついた。
 それこそが自分の求めていた死に場所だと思ったから。
 そして、その話を持ってきたEDF関係者が、彼女の愛する人だったから。





 地獄の底でもがいていた女は、自らさらなる地獄へ落ちる。




 ―――――― * * * ――――――

 落ちてゆくマザーシップを見る男の瞳には、特段の感慨の色はなかった。
 ただ冥く虚ろな眼差しで、地面に吸い込まれてゆく銀の球体を見つめ続けている。
 そこは決戦の地の作戦領域外ぎりぎり。
 自分のいつもの定位置。
 そして、今回挙げた戦果もいつものごとく。
 リロードが終わった狙撃銃を肩に構える。
 そして、引鉄を引く。
 衝撃。リロード。照準。射撃。
 機械のごときリズムと正確さで標的を捉え、弾丸を放つ。
 敵の旗艦が沈み行く中で、彼が何を狙い、狙撃しているのか、誰も知らない。
 そして、彼がそこにいることさえ、恐らくは誰も知らない。

 男はただ、作業を続けた。

 ―――――― * * * ――――――

 その船が墜ちた時、彼はまだ高校生だった。
 その時抱いた感慨は、周囲の大人と同じ解放感だった。
 これでまた平穏な日々が戻ってくる。
 高校に戻り、退屈な授業を受けながら、連れや友人と楽しく日々を送り、未来に不安と夢を抱いて生きてゆく。
 そんな平穏で、当たり前で、退屈で、安心できる人生が戻ってくるのだ、と。

 しかし、人類文明を終わるか否かのふちまで追い詰めた侵攻の爪痕は、少年のそんなささやかな夢を打ち砕く。
 自宅はかろうじて無事だったが、高校の建物は崩壊していた。再建の目処はなし。(その後、同じ地区の他の高校数校と統合され、校名すら消えた)
 教師も生徒もその多くが死亡したか行方不明。
 生きていた人達も、もはや勉学どころではない。
 社会を支えるための歯車になる教育を受けていたはずなのに、社会を作り直す一員に加えられていた。
 気分的には「なにを言っているのかわからねーと思うが、俺にもなにをされたかわからない」だったが、そんな冗談を言える相手も雰囲気もなかった。
 結局高校はその時点で卒業したものとみなされ、働きに出ることになる。
 家族の要望もあったし、ニートとか引きこもりとかの許される世情でもなし、そしてそもそも少年はそれほどナイーブではなかったので、「まあみんなが働いているんだし、がんばるか」程度の認識で職を求めた。
 幸い、職にあぶれることはなかった。
 戦前のような定職に就けることはさすがになかったが、日雇いであれなんであれ、社会は人手を求めていた。
 少年が青年となり、幾多の職を渡り歩いてたくさんの人と出会い、嫌なことも楽しいことも見てきた。
 家族の稼ぎと自分の稼ぎで、戦後の酷い時期ではあったがなんとか生活はできた。

 しかし。
 沁みついた考えというのはなかなか払拭できるものではない。
 「この先」を考えたとき、安定した職に尽きたいと考えたのはやはり、戦前の公務員志向が根本にある。
 そして、家族もそう考えた。

 ちょうどEDFが隊員の大規模募集をかけていた。
 EDF=公務員=安定。
 侵略者は撃退された。っていうか、一番強い親玉を倒されたんだからおめおめ戻ってきたりはしないだろう。
 巨大生物だって、その一年後にはアリゾナで最後の一匹が倒され、駆除終結宣言が出たはずだ。
 じゃあEDFに就くのが今後の人生、一番安定するんじゃね?
 ……家族も、当時つきあっていた彼女もそう考えた。

 そうして彼は、EDF入隊志願受付の窓口の前に立つ。
 時は西暦2025年5月17日。
 その一月半後に、彼と家族と彼女は青ざめることになるのだが――それはまた別のお話。

 ―――――― * * * ――――――

 再び、地球防衛の日々が始まる。





地球防衛軍4SSシリーズ・オープニングストーリー 「ストーリー0.それぞれの終戦」 おわり

ストーリー1へ続く


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