終章 TALK OF RAVENS
アレックス=シェイディ記す。
……あれから四ヶ月がたった。
刻一刻と変わる戦況の中で、行方不明になった一人のレイヴンズ・アーク所属オペレーターのことは、人々の記憶の片隅にも残っていないらしい。ま、そんなもんだろう。
未だに、奴がしようとしていたことが成功したのか、失敗したのか、ナービス領には伝わってこない。
アーク所属レイヴンに、明らかに『強化人間』と思われる奴はいまだにいるし、戦場でアザルタイプの無人機と出会ったこともない。
まして第三企画局がどうなったかなど、俺の知るところではない。
(とはいうものの、気にはなっているので情報屋に調査させているが)
ミラージュは今のところ、いつも通りに傲慢な振る舞いを改めてはいない。
クレストは本社と現場が分裂しているようだ。
キサラギは相変わらず怪しげな動きをみせている。
ナービスは虫の息。
O.A.E.は役立たずのままだ。
つまり、押しなべて世の中何も変わっていない。
俺は、ようやく17位になった。
世間では、回避には優れているが攻撃面でムラのあるレイヴン、と評されているようだ。ほっとけ。
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ラルフ=ファエラ記す。
計画は予定より少し遅れ気味。レイヴン・シュミレーターの方はすぐに完成したんだけど。名づけて、『ナイン・ブ(検閲削除)
最大の問題は、ここがあまりに辺鄙な森の中にあるということ。
もっとも、辺鄙なおかげで一切の邪魔が入らず、研究がはかどっているのでいいといえばいいんだけど……必要資材搬入にタイムラグがあるのが痛いなぁ。何とかならないだろうか。
現在、ここには【はぐれ】、【稲妻】、【霧影】など五人のレイヴンが所属しているが、仕事自体はコーテックスから回してもらっている状況だ。まあ、この辺は【はぐれ】さん達の名前が効いているらしい。さすが伝説のレイヴン。
もっとも、向こうではコーテックスのルスカ支部、という認識らしい。いいけどね。今は。
そういえば、アレックスがランク17位に上がったと聞いた。微妙な位置だ。よく頑張ってると褒めていいのか、まだそんなものかとけなしていいものか。
もう彼との接点はないのだが、やはり気になる。私の担当したレイヴンの中で、一番手のかかった彼。
なるほど、手のかかる子ほど可愛い、とはこういう気持ちのことを言うのだろうか。
『可愛い』という形容詞からは10万光年ほど離れていそうな男だったけど。
……これは誰にも話していないんだけど。
多分、この組織が暴走した時、どういう形であれ、止めてくれるのはアレックスのような気がする。
だから、彼はここを離れた。組織に取り込まれないために。
そんな見方は穿ちすぎだろうか。
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ラシュタル・G・ナインソード記す。
計画は順調に進行中。
かつての上司、ローランド元中佐との接触にも成功。元【軍】所属の『強化人間』六名が、ここルスカに集まっている。
いずれも、人間に戻れるという希望に魅せられている。彼らに絶望を味合わせぬよう、この命をかけよう。頼むぞ、ラルフ=ファエラ。
第三企画局については、今のところ動きをつかめない。
何度か【はぐれ】達とともにナービス領へ遠征したが、アザルタイプの無人機が動いている気配はない。どうなっているのか……。
聞いた話では、ミラージュはレイヴンズ・アークにちょっかいを出して逆に基地を一つ壊されたとか。
また、レイヴンズ・アークに潜り込んでいた隠れ専属と買収幹部も追放されたとか。
こちらに関わっている暇はないということなのだろうか。自由に動けない身がもどかしい。
いずれにせよ、いつか決着はつける。今は、ひたすら牙と爪を研ぐだけだ。
最近、シェリスとよく話す。
彼女はナービス領へ戻りたがっているようでもある。いや、ただ懐かしんでいるだけか?
その辺の女性の感情の機微がわからないのが、私の悪いところだとエクレールさんにもからかわれた。ひょっとして私は世間で言う、鈍い奴なんだろうか。よくわからん。カレンがいれば、聞いてみるんだが。
ともかく、責任感が強い彼女シェリスは、他の三人のまとめ役として日々頑張っている。そのため、私にしか愚痴をこぼせないようだ。
もしこの身体が生身に戻れたら、一度ナービス領へ戻ろうと約束した。かなり喜んでいた。
そうだな。カレンとエリックの墓にもお参りしなくては。
そうそう、アレックスに会いに行けば、彼は驚くだろうか。
彼が――そうだ。彼が、より強くなっていることを望む。戦場で背中を任せられるぐらいに。彼はそこまでいける男だ。
アレックス=シェイディ。いつか、借りは返す。待っていてくれ。
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【はぐれ】記す。
ラルフ=ファエラに今のところ暴走の兆しなし。
ミラージュ第三企画局捕虜四人組にも、逃走の兆しなし。こちらは少し意外ではある。
ラシュタル以下、計七名の『強化人間』はやや浮かれ気味の気配はあるが、こちらの指示に素直に従う。ただ、やはり『強化人間』の機能に頼りがちで動きが画一的である点の修正は難しいようだ。生身に戻った時が思いやられる。
かつてのミラージュMT乗り達は、なんたらブレイカーとかいうラルフが開発したACシュミレーターで腕を磨いている。いずれ、彼らにもACを提供しなければならない。そろそろスポンサーを本格的に探す頃合だろう。
現在、ここはフォグシャドウ、エクレールを揃えた陣容だが、仕事がない。情報の入手も難しい。これは早急に手を打つべき問題だ。
ここをラシュタルとラルフに任せるという手を考えているが……まだ早い。少なくとも、ラシュタルが真のリーダーとして過去と決別する必要がある。
ラシュタルが連れてきた【軍】のローランド元中佐は人格的に信用していいと判断するが、【軍】の考え方が染みついている。レイヴンを采配するには力不足だ。
ここを拠点にナービス領へも手を広げる予定だったが、その実現にはまだもう少し時間がかかりそうだ。
……ったく、当分引退は無理だな。やれやれ。
追記。
いずれ、ここは世界の動きの中心となる。そんな確信がある。
ラルフ=ファエラの物言いになぞらえて言えば、進化の原点、もしくは革命の発火点。
だが、私にはその先の世界が見えない。これが年を取ると言うことなのかもしれない、と最近思う。エクレールには笑われたが。
どちらにしろ、世代交代の時期にきているのは確かだ。……簡単に譲り渡すつもりはないが。
願わくば、彼らの戦いが私の息子や娘に平穏を与えんことを。
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メール着信。
『依頼主:不明
依頼内容概要:秘密施設殲滅
契約金 :××××××
成功報酬:××××××
作戦領域:ナービス領内ヌクレオ地区山岳地帯
依頼内容詳細:以前調査を依頼された、ミラージュの秘密基地の場所が
判明した。場所はナービス残党が立てこもっているヌクレオ地区の採掘場
に程近い山岳地だ。
近づくと、物凄いECMが常時働いているので逆にわかりやすいだろう。
残念ながら、警備状況などはさすがにわからなかったが、聞いた話では
警備は全て無人化されているとのことだ。
とにかく、予想より規模の大きな施設らしい。もし行くのなら、充分気をつ
けたまえ。
最後に。最近、命の危険を感じている。悪いがこれ以上は力になれない。
君が私に預けたクレジットは、事前の約束通り、情報料を差し引いた上で、
契約金と成功報酬という形で返す。君がこの情報を元に何をするにせよ、
もう私とは無関係だ。このメールも読んだら即座に削除してくれ。
ではな。』
メール>削除>『このメールを削除しますか? はい・いいえ』>『はい』
『削除しました』
削除済みフォルダ>空にする>『削除済みフォルダの中を空にしますか? はい・いいえ』>『はい』
メール作成>宛先>グローバル・コーテックス ルスカ支部>表題>来い
奴らのねぐらを見つけた。場所はナービス領内ヌクレオ地区山岳地帯。
目印は高出力のECM。来るなら来い。俺は行く。 A・S
メール送信>送信完了
メールブラウザ終了。
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「……オペレーター、出撃するぞ。ゴミ掃除だ。『ペイル・ホース』のB装備。準備しろ」
REVOLUTION:EVOLUTION 完
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