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コロラド無宿異聞   〜赤き荒野に風は走る〜

 

 赤い大地を風が走る。
 遥かな太古より偉大な精霊達が、大空の彼方から母なる大地へと送り続けてきた生命の息吹き。それが赤い砂塵を巻き上げている。
 無窮の天地の狭間で全ての生命は光り輝く。
 天に輝く太陽。遥かに連なる山々。緑なす広大な草原。涼しげな小川のせせらぎ。轟然と走るバッファローの群れ……そして、大地と同じ色の肌を持つ人々。
 彼らの生きるその世界は、完全なる調和を保っていた。
 彼らは必要以上を望まず、万物に対し畏敬の念を持って接した。
“自分達は世界の中で他の万物と、精霊達との関わりにおいて生かされている。決して自分だけで生きているわけではない。自分達が世界に無理をさせなければ、世界もまた自分達に無理を強いることはない”
 彼らのそんな生き方は、決して彼ら自身の手によって破られることはなかった。

 ある時、世界の果てのさらに向こうにあるという大地から、白い肌の人々がやって来た。
 彼らは、天地の万物は、自分達と自分達を創った聖なる父のものであると言い、赤き肌の人々から全てを奪い始めた。
 彼らは神を装う悪魔の如く狡猾で、灰色熊(グリズリー)より残忍で、竜巻のように情け容赦がなく、卑劣な手段を尽くすことを厭わなかった。
 赤い人々の世界は、あっという間に破壊されていった。
 世界と共に生き、世界の調和を何より愛した人々は、その世界が破壊されたとき、生きる術も目的も失ってしまった。
 しかし彼らにはまだ、侵されざる最後の聖域があった。
 彼らの誇り高き魂には荒ぶる精霊達や、偉大なる父祖達の怒りと悲しみが宿っていた。
 たとえこのまま滅びるのが運命だとしても、その誇りは、魂だけは、譲り渡すわけにはいかなかった。その最後の聖地を守るために命を懸けて彼らは戦った。
 赤き大地はさらに赫く、紅に彩られた。
 白き人々はその大地を『アメリカ』と名づけ、そこに生きていた赤き人々を『インディアン』と呼んだ。



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