初めに
接辞について
接辞とはクリンゴン語において基本であり、もっとも重要な物です。
接辞は、単独では単語として使う事は出来ません。 動詞や名詞に接続されて初めて意味を持つ事が出来ます。
・名詞接尾辞
名詞の後に置かれて、その名詞の意味を拡張します。 例えば複数形にしたり、誰の所有であるかを表したりします。
1類から5類までの26種があり、接尾辞はこの数字の順番に並べて使われます。 動詞接尾辞同様、一つの名詞に付けられる接尾辞は各グループから一つだけです。
名詞接尾辞
名詞接尾辞リスト
1類 | 2類 | 3類 | 4類 | 5類 |
-'a' -Hom -oy |
-pu' -Du' -mey |
-qoq -Hey -na' |
-wIj -lIj -Daj -maj -raj -chaj -wI' -lI' -ma' -ra' -vam -vetlh |
-Daq -vo' -mo' -vaD -'e' |
第1類
-'a'
これは拡大辞です。 接続した名詞に「大・大きい・強い・主な」などの意味を加えます。
これは見た目の大きさではなく、その規模や役割、重要度などの意味が「大きくなる」という事です。
例:"bIQ'a' " (海) ("bIQ"=水)
"SuS'a' " (強風) ("SuS"=風)
"Qugh'a' " (大災害) ("Qugh"=災害)
"vaS'a' " (グレート・ホール、大会堂) ("vaS"=ホール、会館)
"jIH'a' " (メインモニター) ("jIH"=モニター)
-Hom
これは指小辞です。 接続した名詞に「小・小さい・弱」などの意味を加えます。
例:"loDHom " (男の子、少年) ("loD "=男)
"SuSHom " (微風) ("SuS "=風)
"nuHHom " (小型武器) ("nuH "=武器)
"vengHom " (村) ("veng "=町)
-oy
これは愛情の気持ちを表す接尾辞で、人間やペットに対して使います。 日本語の「〜ちゃん」などに近い意味合いです。
例:"vavoy " (父ちゃん、パパ) ("vav "=父)
"SoSnI'oy " (お婆ちゃん) ("SoSnI' "=祖母)
"be'Homoy " (お嬢ちゃん) ("be'Hom "=女の子/少女)
第2類(複数形)
-pu'
これは複数形で、言葉を話す能力の有る者に使います。 ただし日本語同様、必ずしも複数形にする必要はありません。
なお、クリンゴン語では、これら2類接尾辞の3種が助数詞のような物です。 日本語・中国語に比べれば遥かに少ないので簡単です。
例:"tlhInganpu' " (クリンゴン人たち) ("tlhIngan "=クリンゴン人)
"ghojwI'pu' " (学生達、生徒達) ("ghojwI' "=学生/生徒)
"maghwI'pu' " (裏切り者達) ("maghwI' "=裏切り者)
-Du'
これは複数形で、身体の一部を数える時に使います。 やはり必ずしも複数形にする必要はありません。
例:"cha' nItlhDu' " (2本の指) ("nItlh "=指)
"mInDu'wIj " (私の両目) ("mIn "=目、"-wIj "(4類)私の〜(所有格))
-mey
これは複数形で、言葉を話す能力の無いものに使います。 これも必ずしも複数形にする必要はありません。
例:"loS targhmey " (4頭のターグたち) ("loS "=4、"targh "=ターグ)
"wej QumwI'mey " (3個の通信機) ("wej "=3、"QumwI' "=通信機/コミュニケーター)
"vagh veSDujmey " (5隻の戦艦) ("vagh "=5、"veSDuj "=戦艦)
-meyは言葉を話すものに使う事も出来ます。 この時には「その場にいる全ての」と言う意味になります。
例:"retlh pa'Daq puqmey " (隣の部屋にいる全ての子供たち) ("retlh "=隣、"puq "=子供)
"Haw'choH jaghmey " (敵は全員逃げ出した) ("Haw' "=逃げる/出ていく、"jagh "=敵)
クリンゴン語のcha(魚雷)、DoS(標的)、vIj(スラスター)、jengva'(皿)はそれぞれの複数形が単独の単語で表されます。(それぞれ peng 、ray' 、chuyDaH 、ngop です。)
これらの単数形に -mey を付けた時も「その場にある全ての」と言う意味になります。
例:"DoSmey yIbaH! " (全てのターゲットを撃て!) ("baH "=撃つ)
"jengva'mey ghorpu' jabwI' " (ウェイターは全ての皿を割った) ("ghor "=壊す/割る、"jabwI' "=ウェイター/ウェイトレス)
第3類(正確さ)
-qoq
正確さの表現で、「いわゆる〜」、「世間的には〜と言われている」などの意味です。
例:"HoDqoq " (いわゆる船長) ("HoD "=船長)
※相手は船長だが、話し手本人は彼の実力が船長にふさわしくないと考えている場合。
"De'wI'qoq " (コンピューターと言われる物) ("De'wI' "=コンピューター)
※ある発展途上の惑星では初歩のコンピューターが使われているが、話し手はそれをコンピューターと呼ぶのは抵抗がある、と言うような場合に使われます。
-Hey
正確さの表現で、「〜らしい」、「おそらく〜だろう」などの意味です。
例:"HoDHey" (船長らしい)
※初対面で相手の階級は解らないが、風格があり、周囲の人物に尊敬されているので船長だと推察した場合や、
また向こうから船長らしき人物が近づいてくるが、距離が有って100%船長だとは断言できない、と言う場合に使われます。
"SoSHey" (おそらく母親だろう) ("SoS"=母)
※友人の家を訪問した時、年配の女性に出迎えられたとしたら、あなたは彼女を友人の母親だろうと推測するでしょう。
-na'
正確さの表現で、「明らかに〜である」、「疑いなく〜である」などの意味です。
例:"HoDna' " (確かに船長である)
※階級章などから、その人物が船長であると100%確信している場合に使われます。
また、相手は船長ではないが、その実力・功績から船長にふさわしいと話し手が主観的に思っている場合にも使われます。
"wornaghna' " (間違いなくウォーノグ) ("wornagh "=ウォーノグ)
第4類(所有)
-wIj
「私の〜」と言う意味です。言葉を話す能力の無いものに使います。
例:"betleHwIj " (私のバトラフ) ("betleH "=バトラフ)
"vengwIj " (私の(出身の、住んでいる)町) ("veng "=町)
"paqmeyna'wIj " (間違いなく私の(複数の)本です) ("paq "=本)
-maj
「私達の〜」と言う意味です。言葉を話す能力の無いものに使います。
例:"Dujmaj " (私達の船) ("Duj "=船)
"naghbochmeymaj " (私達の(複数の)宝石) ("naghboch "=宝石)
-lIj
「あなたの〜」と言う意味です。言葉を話す能力の無いものに使います。
例:"DujlIj " (あなたの船) ("Duj "=船)
"yuQlIj " (あなたの(出身の、住んでいる)惑星) ("yuQ "=惑星)
"tajHeylIj " (恐らくあなたのナイフ) ("taj "=ナイフ/短剣)
-raj
「あなた達の〜」と言う意味です。言葉を話す能力の無いものに使います。
例:"Dujraj" (あなた達の船)
"De'raj" (あなた達の持っている情報)
"QaQ bomraj" (あなた達の上手な歌) ("QaQ"=良い、"bom"=歌)
-Daj
「彼/彼女/それの〜」と言う意味です。 (3人称の場合は)言葉を話す能力に関係なく使います。
例:"tajDaj" (彼(彼女)のナイフ) ("taj"=ナイフ/短剣)
"quvDaj" (彼(彼女)の名誉) ("quv"=名誉)
" 'ay'meyna'Daj" (明らかにそれの(複数の)部品) ("'ay'"=部品/パーツ)
-chaj
「彼ら/彼女ら/それらの〜」と言う意味です。 言葉を話す能力に関係なく使います。
例:"juHchaj" (彼らの家) ("juH"=家)
"vavchaj" (彼女達の父親) ("vav"=父)
-wI'
「私の〜」と言う意味です。これは言葉を話す能力のあるものに使います。
例:"qochwI' " (私のパートナー) ("qoch"=パートナー)
"baHwI'wI' " (私の(部下の)射撃手) ("baHwI' "=射撃手)
"wej puqloDpu'wI' " (私の三人の息子) ("wej"=3、"puqloD"=息子、"-pu' "=複数形(2類名詞接尾辞))
-ma'
「私達の〜」と言う意味です。これは言葉を話す能力のあるものに使います。
例:"HoDma' " (我々の船長) ("HoD"=船長)
"juppu'ma' " (我々の友人達) ("jup"=友人)
"jonwI'pu'ma' " (我々の機関士達) ("jonwI' "=機関士)
-lI'
「あなたの〜」と言う意味です。これは言葉を話す能力のあるものに使います。
例:"juplI' " (あなたの友人) ("jup"=友人)
"ra'wI'lI' " (あなたの司令官) ("ra'wI' "=指揮官/司令官)
"toy'wI''a'pu'lI' " (あなたの奴隷達) ("toy'wI''a' "=奴隷)
-ra'
「あなた達の〜」と言う意味です。これは言葉を話す能力のあるものに使います。
例:"ra'wI'ra' " (あなた達の司令官)
"yoH HoDra' " (あなた達の船長は勇敢です) ("yoH"=勇敢な)
"puqloDpu'ra' " (あなた達の息子達)
-vam
「この〜」と言う意味の指示代名詞です。
"
Dochvam"で「これ」と言う意味になります。
例:"pu'vam" (このフェイザー) ("pu' "=フェイザー)
"Dochvam nuq" (これは何ですか) ("nuq"=何)
"jan 'oH Dochvam'e' " (これは楽器です)
("jan"=楽器、"〜 'oH"=それは〜です(主語を"Dochvam'e' "にする事で「これは〜です」と言う文を作れます))
"janmeyHey bIH Dochmeyvam'e' " (これらはおそらく楽器です)
("-Hey"=おそらく〜/〜らしい(3類名詞接尾辞)、"〜 bIH"=それらは〜です)
-vetlh
「その〜」「あの〜」の意味の指示代名詞です。
"
Dochvetlh "で「それ」「あれ」と言う意味になります。
例:"Dujvetlh " (あの船) ("Duj "=船)
"HIqmeyvetlh " (それらの(あれらの)酒) ("HIq "=酒)
"jan 'oH Dochvetlh'e' " (それ/あれは楽器です)
"pu'meyvetlh HInob " (お前達、それらのフェイザーを私に渡せ)
("pu' "=フェイザー、"HI- "=あなた(達)〜私を(私に)(命令形接頭辞)、"nob "=渡す)
第5類
名詞接尾辞は、当然名詞の後に接続されますが、名詞が修飾語(形容詞的な意味を持つ動詞)で修飾されている場合、5類接尾辞だけは修飾語の後に付きます。
つまり、「名詞+修飾語」で一つの名詞だと捉える訳です。
例:"vengDaq " (町で) ("veng "=町)
"veng tIn " (大きな町) ("tIn "=大きい)
"veng tInDaq " (大きな町で)
-Daq
場所・位置を表す接尾辞です。 「〜で」「〜に」「〜へ」などに訳されます。
-Daq の付いた名詞は時間・場所などを表す『説明語』に分類されます。 つまり『目的語』ではなくなるので、使う接頭辞には注意が必要です。
また
naDev (ここ)、
pa' (そこ、あそこ)には
-Daq は使えません。
例:"HurDaq pejaH " (お前達、外へ行け) ("Hur "=外、"jaH "=行く)
"volchaHlIj DungDaq 'oHtaH ghew " (あなたの肩の上に虫がいます) ("volchaH "=肩、"Dung "=上)
"DujDaq " (船で/船へ/船に)
"DujmajDaq " (私達の船で)
"DujmajDaq jIjaH " (私は私達の船へ行く)
"DujmajDaq maja'chuq " (我々は私達の船で話し合う) ("ja'chuq "=話し合う/議論する)
以下の、接頭辞と -Daq の関係に注意して見て下さい。
"yuQ vIleng " (私は惑星へ旅する) ("yuQ "=惑星、"leng "=旅する)
"yuQDaq jIleng " (私は惑星上を(地表を)旅する)
"yuQvo' jIleng " (私は惑星から旅する(旅立つ))
"lupDujHomDaq jIchegh " (私はシャトルで帰る) ("lupDujHom "=シャトル、"chegh "=戻る/帰る)
"lupDujHom vIchegh " (私はシャトルへ帰る)
"lupDujHomDaq may'Duj vIchegh " (私はシャトルで(シャトルに乗って)戦艦へ帰る)
"raS vISIq " (私はテーブルを人差し指で触った) ("SIq "=人差し指を使う、指す)
"raSDaq jISIq " (私はテーブルを人差し指で指差した)
この例から、
vI- などで直接目的語をとる時は、対象に直接働きかける感覚があり、
-Daq はあくまで「その場所・空間」を示すというイメージがあると想像できます。
動詞ghoS は「行く/来る/向かう/去る」などの移動の意味を持ちます。 ghoS はその行き先・目的地を目的語で示します。
つまり、ghoS を使った場合、行き先を表す名詞には -Daq を使えず、接頭辞は「目的語=あり」の物を使う事になります。
例:"Duj vIghoS " (私は船へ行く)
"vengHomvetlh yIghoS " (お前達はあの村へ行け) ("vengHom "=村)
-vo'
「〜から」と言う意味です。
-Daq 同様、場所・位置を表す接尾辞です。
例:"naDevvo' jaH " (ここから行く/ここから去る) ("naDev "=ここ)
"yuQjIjDIvI'vo' maghoSta' " (私達は惑星連邦から来ました)
("yuQjIjDIvI' "=惑星連邦、"-ta' "=目的の達成を意味する7類の動詞接尾辞)
"DujwIjvo' nuH yIqeng " (お前達、私の船から武器を持って来い)
("nuH "=武器、"qeng "=運ぶ)
-mo'
「〜の為に」「〜のせいで」と言う意味です。 原因や理由を表します。
例:"may'mo' Heghpu' ghaH " (彼は戦いで死んだ)
("may' "=戦い、"Hegh "=死ぬ、"-pu' "=動作の完了を意味する7類動詞接尾辞、"ghaH "=彼は〜)
"QaghlIjmo' QIHpu' Dujvam " (この船はお前のミスのせいで被害を受けた)
("Qagh "=ミス、"QIH " (ダメージを受ける)
"peQ chemmo' qajollaHbe' " (磁場のせいであなたを転送できない)
("peQ chem "=磁場、"jol "=転送する、"-laH "=〜出来る/〜する能力がある(5類動詞接尾辞))
-vaD
「〜の為に」「〜にとって」と言う意味です。 これは目的や対象を表します。
例:"Qu'vaD lI' De'vam " (この情報は作戦にとって有益です)
("Qu' "=作戦、"lI' "=有益、"De' "=情報)
"batlhvaD vISuv " (私は名誉の為に戦う) ("batlh "=名誉、"Suv "=戦う)
"yayvaD 'ut toDuj'e' " (勝利の為に必要なのは勇気だ) ("yay "=勝利、" 'ut "=必要な、"toDuj "=勇気)
また「(誰)に」と言う意味で、英語の<to+間接目的語>の to の役割をします。
この時使われる動詞は nob(与える、渡す)、qem(持ってくる)、noj(貸す)、DIl(支払う)、'ang(見せる、示す)、ngeH(送る)、ghojmoH(教える、教育する)などです。
例:"jIHvaD mem yIqem " (私にカタログを持って来い) ("mem "=カタログ、目録)
"SoHvaD vagh SaD DarSeq vIDIl " (私はあなたに5千ダーセク払おう) ("DarSeq "=ダーセク(クリンゴンの貨幣))
"ghaHvaD tlhIngan Hol vIghojmoHtaH " (私は彼にクリンゴン語を教えている) ("tlhIngan Hol "=クリンゴン語)
-'e'
接続した名詞を「〇〇こそが」「〇〇だけが」と強調したり、また「〇〇は〜です」のような平叙文の主語に使われます。
平叙文では、英語の be動詞の代わりに3人称の代名詞("
ghaH "=彼/彼女、"
'oH"=それ、"
chaH "=彼ら/彼女ら、"
bIH "=それら)を使います。
例:"Dujvam HoD jIH " (私はこの船の船長だ) ("jIH "=私は〜です)
"Dujvam HoD jIH'e' " ((他の誰でもなく)私こそがこの船の船長だ)
"qabDaj SobtaH HoD " (船長は彼の顔を知っている) ("qab "=顔、、"Sob "=知る)
"qabDaj SobtaH HoD'e' " (船長だけが彼の顔を知っている)
"De' 'ut Qu' " (作戦に必要なのは情報だ)
"De''e' 'ut Qu' " (作戦に必要なのは(他の何でもなく)情報だ/情報こそが作戦に必要なのだ)
"pa'DajDaq ghaHtaH la''e' " (司令官は彼の部屋にいます)
("pa'-Daj-Daq"=彼(/彼女)の部屋で/に、"la' "=司令官)
"SuvwI'vaD nuH bIH batleH'e' " (バトラフは戦士の為の武器です) ("SuvwI' "=戦士、"nuH "=武器)
以下の例も参考にして下さい。(1行目は日本語と同じ語順になる事も注意)
"Ha'quj tuQbogh wo'rIv " (帯を身に付けているウォーフ) ("Ha'quj "=帯、"tuQ "=着る/身に付ける、"wo'rIv "=ウォーフ)
"Ha'quj'e' tuQbogh wo'rIv " (ウォーフが身に付けている帯)
"Ha'quj tuQbogh wo'rIv'e' " (帯を身に付けているウォーフ)
上の1行目と3行目は日本語訳だと同じ様に見えますが、主語・目的語にこの名詞節を使った時、3行目の場合はあくまで「ウォーフが(ウォーフを)」と、
-'e' の付いている名詞が主題化・重要化されるという違いがあるわけです。