また、雨が降ってきた。
「雨か…」
けだるい床から身体を起こすと、高窓の桟に腰掛けて、雨を見ていたらっこが振り返った。
「またらしゃが唄っているんですよ」
 らしゃが唄えば雨が降る、そう伊佐が言ったのは冗談だったのか、それとも真理だったのか。濡れたように光るらしゃの眼を思い浮かべたさそりは、それを断ち切るように勢いよく肌掛けをはねあげ、らっこの隣に座る。
確かに、階下で唄うらしゃの声がかすかに聞こえる。
 気が、めいる。
「はっ。なんだってあいつはああもしけているんだろうな、なんであんな風に唄うんだか」
 気が、めいる。
「かえりたいから、唄っているんですよ」
「どこに」
「さあ、ただかえりたいかえりたいと、泣いているように聞こえます」
 かえるところがあるのか、かえりたいところがあるのか。それはらしゃに問うたのではなく、自分自身に問うたのだ。答えは、否、だ。
「かえるところなど、あるはずないのに」
 さそりの想いに呼応したかのように、らっこはそう嘲笑した。嘲笑ったのはらしゃにではない、自分自身にだ。
 さそりはじっと、らっこが無意識に指先でもて遊んでいる首にかけた十字架を見ていた。素肌にふれると冷たいそれは、この雨より冷たいのだろうかと考えながら。
 また、唄が聞こえてきた。見るとらっこが唄っていた。誰も知らない、本人ですら知らない異国の言葉の唄。もう何度も聞いているから、さそりもそれを唄うことができた。けれども唄わなかった。ただ「やんだら起こしてくれ」と再び床についた。
 雨は、きっとやむだろう。






【解説】
 らぶらぶ節は本編とはなんら関係ありません、ですが本編で拾ったものは意地でもねじこんでいきます(笑)。というか、もう一押しでかおりちゃんに濡れ場を書かせる事ができるんじゃないかと思っています(どうやって)。
 これで手持ちの弾は全て出しました。でもそのうちまた補給されるんじゃないかと思います。

2005.06.18


既刊。