エピローグ
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■刻まれた年輪
 木は年に一度年輪を刻むという。人に自慢できる旅行ではない。誰かの役に立つわけでもない。でもボクのこの一年間は明らかに脳のシワとして深く刻まれた。
 ある夜夢の中で、ある時電車の中でふとアジアの街がよみがえることがあるかもしれない。色彩豊かなカラー写真ではなく、モザイクのようにボケたイメージでもいい。ただそれだけで十分だ。今はそう思いたい。
 
 ―と格好つけて締めくくりたいところだが本当は…。
 
■2度と行くものか
 すごいね、がんばったね、よくやったね。 ―ただそう言ってもらいたかっただけなのかもしれない。最初は勢い、途中からは惰性で続け、つらく寂しくめんどくさいことばかり。1本だった白髪も10本近くなった。楽しいことなどほとんどなく時間とお金を無駄に使っただけだ。ボクがした旅行など全然すごくもないし、世の中にはもっとツワモノがいっぱいいる。
 変なところで意地を張り、多くの大事なところで妥協する。その繰り返し。旅行前にコせきがぼそっと「三ヶ月だな」なんていうから、くそー絶対三ヶ月以上日本には帰ってこないからななんて意地を張って1年も歩き続けてしまった。
 早く日本に帰りたい、やっぱり日本はいい国だ。それだけ。
 一人では続けられなかった。各国にネットがあり、メールや掲示板で多くの人と関わっていられたからこそ今がある。おみやげはありませんけどこの文章が代用となってくれれば幸いです。
 「ただいま!」という相手はいない。住む家も帰る宿もないのだから。東京へ向かう帰途考える、唯一の大学の友人都丸は泊めてくれるだろうかと。
 旅先で会った多くの方々にヨーロッパをすすめられました。
 トマト・チーズ・パン・ワインが好きなら、スペイン[Spain]・フランス[France]・イタリア[Italy]あたりがいいかもしれない、と。トルコ[Turkey]を起点に地中海一周というのも興味深い。物価が高いのでたくさんお金を貯めないとね。そしてこのレポもいつか遠い将来、ヨーロッパ編に続くかもしれません。
 でももう2度とこんなしんどい旅はしない。そう決めた。
 
★追記
 帰国後1年以上経過した今はなぜかアフリカへ行きたいと考えている。難民、飢餓、HIVなどさまざまな問題を抱える現場を自分の目で見てみたい。お金を貯めておそらく来年。アジアより精神的にも体力的にも厳しい生活となるだろう。現在は図書館で本を借りたりして情報を集めている。
 
■目標と挫折、新たな目標
 旅行の後半からおぼろげながら目標というものができていた。
全て陸路海路で東南アジアを全部回ってやろう!というものだ(地球の歩き方東南アジア編によると全14ヶ国)。何が楽しいのかと言われれば何も楽しくない。苦行だ。
 しかし残念ながらその目標は達成できず失敗に終わった。ミャンマー[Myanmar]には行かなかったし、シンガポール[Singapore]⇒香港[Hong Kong]⇒台湾[Taiwan]間は飛行機に乗ってしまった。挫折。
 
 2004年2月18日、約1年に渡る旅行から帰国した、沖縄。帰って来たんだ日本へ。寒い。体調はこの旅行中最悪。ひどい風邪と不眠が丸2日続いている。
 東南アジアだけでなくもっと他の地域へ飛ぶべきだった。ボクにとってアジアは予想してた通りのアジアでしかなかった。それ以上の感慨は何もない。旅行へ行く目的の一つにカルチャーショックを受けたいというのがある。ボクにとってはカルドセプトオーロラコインウィッチペインの方が上。日本でFF11PSO3をやってた方が楽しかったに違いない。
 やることが極端だとよく言われる。その通りだと思う。
 常に現状に満足できず何か新しいことをやりたい衝動がある。長髪のまま赤いGパンで就職活動したり、金髪やコスプレ、ひきこもりはまだしも海外へ一人で旅行へ出るのはやりすぎだったな、と。その行動の振幅のフレ幅はどんどん大きくなるばかり。このあとたどる道はきっと、犯罪者・性転換・自殺未遂・浮浪者のいずれかだろう。そんなボクでも付き合ってくれる友達さえいれば幸せかな。
 
 日本はお金さえあれば好きなモノが好きなトキに好きなだけ食べられる。
 日本は時間さえあれば好きなコトが好きなトキに好きなだけできる。
 不景気でもなんでもない。バイトでも一人暮しの生活ができる。本当に日本に生まれて日本人で良かった。死ぬまで暮らす国は日本だろう。でも将来のために新たな目標が2つある。
 「英語を勉強しよう!」
 「体を鍛えなおそう!」
 海外で現地の人に優しく助けてもらったこともあったので、日本で困っている外国人の人がいたらたとえつたない英語であっても手助けしてあげたいと思う。そしてちょっとした山や階段を登っただけで息切れするこの体を鍛えなおしたい。4月からジョギングを始め今のところ12日間続いている。約一年後、30歳になる前に高校生の体力を取り戻すのが目標で、1500Mで5分を切りたい。ずっと続ければできると思う。高校時代の最高タイムは4分39秒だ。
 
★追記
 目標設定後、予想通り3日坊主に終ってしまった。すでに30歳は超えているし体力も落ちている。英語への関心も薄れている。この旅行記すら停滞したままだ。日本の生活に慣れ、温かいシャワーがいつでも浴びられること・日本語が話せるという幸せが当たり前のことに感じてしまっている。帰国後はほんの小さなコトにでも感動し幸せだと感じていたというのに。また旅行に出るしかない、今はそう思っている。
 
■たびそらは幻想にすぎない
 「大切なことは、みんな旅が教えてくれる」
 これはたびそらのサブテーマでもある。しかしボクはあえて、
 「大切なことはみんなたびそらが教えてくれる。だから君は旅にでるべきではない」
 と言いたい。
 確かに海外旅行には国内にない刺激や感動があるのかもしれない。しかしその感動をすくいとれるのは一部の才能ある限られた人だけなのだ。ボクら素人が行ってもあんな写真が撮れるわけもなく、英語もできなければあんな交流もできるわけがない。
 ボクはずっとたびそらの幻影と三井さんの背中を追いかけ続けていた。いつかどこかでボクにもあの笑顔に出会えるに違いない、と。でもそれはどこにもなかった。
 三井さんの分身が今頃どこを旅行しているのだろう?と旅先からネットでアクセスし読みむさぼった。それはとても魅力にあふれ旅の匂いが伝わってくる素晴らしい内容だった。それに比べボクは…。
 比べる方が間違っている。同じ旅をしたいと考えることが間違っている。その人個人個人、自分なりの旅の楽しさを見つけることができればそれで十分じゃないか。旅行も終わりに近づきようやくそんなことに気がついた。
 やっぱボクはたびべただ。
 
(終わり)
 
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