上方浪曲ニュース最新号
2003.8
「晴れ姿奈良丸ぶし」口演前に
松浦四郎若、墓前で技芸向上祈願

 浪曲の父、二代目奈良丸吉田大和之丞のエピソードを綴った新作「晴れ姿奈良丸ぶし」を、口演することになった松浦四郎若は、八月十二日、岸和田市流木の大和之丞の墓に詣り、墓前に額ずいて口演の成功と技芸の向上を祈願した。墓参には、大和之丞の娘である春野百合子、台本を執筆した芦川淳平が同道、共に四郎若の名演を祈った。
 作品は、明治四十年、大阪中座出演の雲右衛門と関西きっての人気者二代目吉田奈良丸の対決を軸に、奈良丸の生涯と人となりを綴ったもので、夢と希望に燃えてこの芸に取り組んできた奈良丸の浪曲人の誇りある姿を示し、現代の浪曲人にこの先人のスピリットを受け継いで、時代にアタックする活力を取り戻して欲しいという願いを込めて書かれたもの。国立演芸場の大衆芸の脚本募集で優秀作に選ばれた。
 この作品を手がけることになった松浦四郎若は、プロになる前は松浦道場で奈良丸節を唸っており、入門後も、晩年の三代目奈良丸、四代目奈良丸、一若ら先輩らに可愛がられてきたことから、吉田家とのゆかりも深い。何よりも浪曲の父とも仰がれる巨匠の生涯を語るだけに「光栄この上ありませんが、今日浪曲があるのも先生のお陰と思えば、その人を語ることは自分にとっては誠におこがましく身が引き締まる思いです」とはなしている。
 九月二十三日午後三時から東京国立演芸場で発表公演が開かれる。また、十二月六日の大阪国立文楽劇場師走浪曲名人大会でも口演を予定している。

88歳の天龍三郎五十分の長講
澤孝子五十周年の会に出演

 現役最高齢の天龍三郎が、今年も澤孝子の会出演のために上京、「三河屋甚兵衛」を五十分にわたって長講し、元気なところを見せた。
 天龍三郎は、広澤菊春の実弟であることから、澤孝子にとっては芸の上の叔父に当たる。このため新作に挑むこの会で、門人たちにしっかりした芸に触れさせておきたいと、毎年ゲストに招いている。年々年を重ねて、今年は孝子の会が十五回目、澤孝子が芸道五十周年、そして天龍三郎が満八十八歳と三重の喜びの節目となった。
 公演は八月十七日品川六行会ホールで開催され、地方の後援会がバスで大挙来場するなど熱気むんむんの超満員。ロビーには大小数十の祝い花が立ち並ぶ中、開演した。
 澤恵子が落語浪曲「大山詣り」、順子が「雨月物語・浅茅が宿」と、いずれも大西信行作の新作に挑んだあと、天龍三郎は八十五歳の藤信初子の三味線で登場。浪曲史上最高齢の現役コンビによる「三河屋甚兵衛」の口演は、興が乗ったのか、長講五十分に及び、観客も笑いと感動で釘付けになった。
 口演後天龍は「こんなに汗かいたのは久しぶりでした。しばらくやってないと忘れたのか、ちょっと抜かしたところがありました」とまだやりたりなかった様子。元気一杯の八十八翁だった。
 天龍のハッスルに、トリの澤孝子も負けじとばかり、大西信行作の新作「十三夜」を四十五分間の長講で語り、五十周年の節目に精魂込めた浪曲を聴かせた。
 なお天龍三郎は、十月六日から八日迄の芸術祭参加の一心寺寄席に出演、伊達騒動を続き読みするとのこと。
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