上方浪曲ニュース最新号
2001.8
 青い目の豪州娘、浪曲に泣く
 三原佐知子豪州公演から凱旋

 三原佐知子と曲師の中川加奈女が、オーストラリアではじめての浪曲公演を行い、大成功をおさめて意気揚々帰国した。
 これは七月十六日からメルボルン大学で開催された世界中の語り物芸能の研究者らによる国際口誦芸能学会(ISFNR)の招きによるもので、学会の記念コンサートとして一般市民にも開放して二個所で「日本の語り芸・過去と現在」と題して開催された。
 第一回公演は、十七日モナシュ大学レリジャスセンターでのランチコンサートで、日本語および日本文化への関心が強い当大学の学生および教職員約二百名が来場し、三原の「母恋あいや節」を字幕の助けを受けて熱心に鑑賞した。午後の授業時間に食い込んでの公演だけに、予め主催者から途中退席者がでることを了解して欲しい旨ことわりがあったが、観客は終演まで全く席を立たず、中には涙ぐむ学生もいた
 第二回公演は、十九日メルボルン大学メルバホールで、一般市民を対象に有料で実施された。ホールは同大学音楽学部附属の約四百名収容の本格的クラシックホールで、学会参加各国研究者、現地日系市民、オーストラリア人、合わせて三百人ほどの入場者があった。芦川淳平の約十五分間の解説の後、三原は「グッドイブニング・レディース・アンド・ジェントルメン!」と俄覚えの英語で挨拶し、日本でやるのと全く同様に「三味線やくざ」を語った。英文翻訳の字幕により、半数以上の日本語が分からない観客も内容を理解できたようで、時として笑い声や拍手も起こり、気をよくした三原は絶好調の出来栄え、出弾きの中川も観客の視線にこたえて掛け声も鋭く冴えた音締めを聴かせ、終演後は観客総立ちの喝采が送られた。公演は現地ラジオ局によって録音された。
 学会では浪曲に関する研究発表も行われ、学習院大学・兵藤裕巳教授、国際日本文化研究センター・真鍋昌賢講師、浪曲親友協会の芦川淳平がそれぞれ英語で研究発表をし、浪曲を学術的研究の俎上に載せる第一歩をしるした。学会の総括ディナーではISFNR会長でエルサレム大学のガリ・ハッサンローケン会長から「昨日のプリマドンナの熱唱は素晴らしかった」と特に謝辞が述べられ、公演責任者であるモナシュ大学日本文化研究センターのアリソン時田所長に功労の花が送られた。
 三原ら一行は約一週間メルボルン市に滞在し、関係者やメルボルン市民との親善交流を深め、七月二十四日帰国した。
 これまで海外に紹介される日本の芸能文化は、言葉の壁から視覚的なものや楽器音楽に限られていたが、字幕などの適切な補助設備を設けることで、語り芸についても充分に感動を伝え得ることを、今回の試みが証明した。日本の優れた芸能が海外で評価を受けることによって、身近にいてその価値に気づかなかった日本人が再び注目するきっかけを作ることが出来たと言えよう。

 三原佐知子オーストラリアアルバム

 天龍三郎、澤孝子の会に上京
 八十六歳で新作掛合いに挑戦

 七月二十九日東京国立演芸場で開催された澤孝子の会に、天龍三郎が出演、澤一門に混じって、八十六歳の年期の入った貫禄の芸を聴かせた。この会は、澤孝子が毎年開催しているもので、一門の作品発表の場でもある。三郎が澤の師匠菊春の弟ということで、既に亡い師匠に代わって是非と請われ出演したもの。
 澤恵子が「千両ミカン」、澤順子が「糸車」、澤孝子が新作の「河童の親子」と、大西信行脚本の新作揃いの中で、三郎は「松前の江戸出府」で味わい深い円熟の芸を披露した。
 また、最後には孝子と掛合いによる森鴎外の「じいさんばあさん」をじっくり聴かせた。これはかつて孝子が浪花家辰造と掛合いでかたった物の再演で、昨年大阪で三郎の「吃又」の素晴らしい出来栄えに感激した孝子がぜひこの作品を一緒にやりたいと望んで実現したもの。三郎は敢えて新作という気負いも感じさせず、台本にしたがって淡々と語り、渋い味わいを出していた。

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