「天声人語」は、こう書く(2006年12月24日(日曜日)付)。
 
 「…終戦の翌年というから今から60年前に、作家の太宰治からクリスマスプレゼントをもらった母と娘がいた。それは、ふたりをモデルにして太宰が書いた短編小説メリイクリスマスの載った雑誌『中央公論』だった。」
 
 小説のあらすじが紹介された後、取材によるのだろう、次のような真実が書かれている。虚実皮膜の間を縦横に行き来した太宰の、創作の秘密を見る思いがする。
 
 「小説で娘の『シヅエ子ちゃん』として出てくるのが、当時18歳だった林聖子さんだ。実際には、母の富子さんは終戦から3年後に亡くなった。やがて、聖子さんは新宿に酒場『風紋』を開く。今月、45周年を迎えた。風に吹かれて姿を変えてゆく風紋のように、時代は移り変わった。『あっという間でしたね』と聖子さん。」
 
 写真で見る太宰の風貌が頭をよぎる。なかなか、いいコラムだった。
 
 「60年前、太宰は着物の懐から雑誌を取り出して言った。『これは、ぼくのクリスマスプレゼント』。その時の、ひどくまじめな顔は、今も鮮やかに胸に残っているという。」
(2006.12)


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