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液晶テレビの動画ボケ改善
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(2007.2.2) |
さまざまなウェブサイトでCES2007の様子がレポートされているが、 それを見ると『今年の液晶テレビのトレンドは動画ボケ低減』というような話だ。 各社がこぞって同じことをするのは毎度のことだが、 差別化とうるさく言っている割にはみんな仲良く同じことをするんだよなー。 さて、液晶テレビがボケるというのは、世間的にもまずまず認知されている ことかと思う。その理由は?と聞かれたら、 「液晶は液体と固体の中間の物質だから、変化(応答)が遅い。 だから毎秒60コマの切り換わりに液晶がついていけず、 残像が残ってボケて見える」 という答えが印籠のように用意されていて、消費者はそれにひれ伏すしか なかったのである。 その答えに基づいて、動画ボケを減らすには?と考えると、 液晶自体の応答速度を早めるのが解決になる、という流れに誰もが行き着く。 初期の液晶では20ms以上はあった応答速度が、物性の改善、 オーバードライブのような駆動方法の工夫などによって 16ms、10ms、8msと時を経る毎に小さくなってきた。 ここで疑問なのが、毎秒60コマの放送では1コマの切り換わりは約16msだ。 そうすると、応答速度が10msとかになったってことは、コマが切り換わる前に 映像が書き終わるってことだから、全然ボケないってことだよね? そう考えるのが素直な人である。 ところが現実はそうではない。10msだろうが8msだろうが、 依然液晶テレビはボケて見える。その理由が近年明らかになってきた。 ウェブ上では既にちらほら出てきている言葉だが、「ホールド表示」 という液晶テレビ特有の表示方法に原因がある。
ホールド表示とボケの関連については、ビクターのHP内に詳しい解説がある。 その補足としてブラウン管との比較も加えて、下図に示す。 この図は、紙芝居を上から見たような図である。 液晶というのはシャッターであって、背後にあるバックライトの 光を通す・通さないで明暗を表現している。 そして、そのシャッターは1フレーム中は開きっぱなし、 または閉じっぱなしなのである。これが「ホールド表示」の意味。 ホールド表示では、その輪郭を人間の目が積分してしまうせいで 輪郭部に傾斜部が生じ、これがボケとして見えてしまうのである。 ブラウン管との比較をすると分かりやすい。 ブラウン管はビームが蛍光体を叩いたときにしか発光しない。 一瞬強く“カッ”と光って、あとは暗い(これをインパルス表示と言う)。 図はその様子を表している。 この場合、輪郭部に生じる傾斜はごく僅かであり、ボケはほぼ皆無だ。 ここまでを整理すると、 ・応答速度の改善はもはやほとんど意味がない ・ホールド表示にメスを入れないとボケはなくならない ということになる。 「応答速度が8msから6msに高速化」なんて謳っているメーカーは 何の目的で言ってるのかなぁと思ってしまったりする。
液晶テレビのホールド表示に着目し、いち早く対策を講じたのは日立だ。 2002年12月発売の「W20-LC3000」に「スーパーインパルス表示」を導入している (確かこれが最初だと思う)。いわゆる「黒挿入方式」というものだ。 これは液晶シャッターを1フレーム中ずっと開けっぱなしにしておくのではなく、 1フレームの半分を閉じることで、ブラウン管の特性に近づけるというものだ。 ところがこれには問題があり、シャッターが閉じている時間のぶんだけ 画面の明るさが下がることになる。また、黒は黒のまま、明るさだけが落ちるから、 コントラストも下がることになってしまうのだ。 さらに、画面が明滅を繰り返すから、ちらつき感が出てくる。 シャッターの代わりにバックライトを消す方法もあるが、 やはり明るさは落ちるし、ちらつき感もある。 ただ、明るさと同時に黒も落ちるからコントラストは落ちない。 日立はさらに改良を重ね、現在では「フレキシブルBI」という方式に 進化させている。1枚のフレームを2枚に分割し、1枚には原画像よりも 明るい画像、もう1枚には暗い画像を割り当て、 2枚を足し合わせると原画と同じ明るさとなるように120コマで表示する。 この方法だと明るさもコントラストも落ちない。 しかし、基本的には黒挿入に近いのでちらつき感は若干残る。 また、白字幕のスクロールではボケが改善されていなかった。 なぜだろうと考えたら、元から明るい映像では、1枚目の 「原画像よりも明るい」画像が作りようがないからでは? まあ、一般に画像は中間階調が多いんだから、そこで効果があれば 大体において問題ないと言ってもいいかもしれない。
その年の11月にはビクターが毎秒120コマ表示で、バックライトの点滅に頼らず ボケ幅を50%にしたモデルを発売している。 松下は今年に入り、120コマ表示の新商品を発表しており、 CES2007でも東芝、ソニー、シャープなどがこぞって120コマ表示に 走っているようで、どうやら120コマ表示による動画ボケ低減は 大手AVメーカーの標準技術になりそうな雰囲気である。 コマ数を増やすには、2枚の元の映像からその中間のフレームを作り出さないと いけない。そのためには物体の動きを検出して映像を予測する必要がある。 その予測が下手で、中間フレームにテキトーな映像を作ってしまうと、 滑らかな動きに見えない、コーミング(スダレ状の画)が発生したり、 細かい絵柄がぐちゃぐちゃに見えたりしてしまうわけだ。 動きの検出範囲の広い狭いも重要で、範囲が狭いと速い動きについていけない。 ビクターの商品は店頭で白い文字を流しているが、確かにボケが改善されているし、 目立った破綻も見受けられなかった。
そんな話をしていると、なんかどっかで聞いたことがある話だなぁと思った。 1990年代から始まった「インタレース/プログレッシブ変換」と話が近いのだ。 MUSE方式のアナログハイビジョン、EDTV(クリアビジョン)に対応した テレビが出始めて、NTSCの信号をプログレッシブに変換して映すようになると、 その方法の巧拙で画質に差が出て、各メーカーが様々な手法で工夫したものだった。 映像がない部分に映像を作るという点では、このI/P変換とコマ数を増やす ということはやっぱり近い話になる。 I/P変換では上下ラインからの補間から始まり、方向性を検出しての補間、 さらにその範囲が上下・左右で何画素使うとか、前後何フレーム使うとかで 進化していき、東芝は「ミリオン・プログレッシブ」、ビクターは 「330万画素プログレッシブ」だのと名前を付けて売り込んだ。 今回も120コマ表示が当たり前になると、中間フレームの作り方の 違いが注目されるようになってくるだろう。 述べた通り、フレーム挿入方式は映像から動きを検出する必要があるので 演算回路が大きくなるし、フレームメモリも必要になる。 逆に黒挿入方式はこれらは必要ない。このことはつまり、 黒挿入方式のモデルの方が安価に買える可能性があるということだ。 また、映像を見ていると「ボケ」が目立つシーンというのはそれほど多くはない。 それはカメラが撮像する時に既にボケているから。 スポーツ中継などで我々が見ているボケは、カメラの撮像時のボケと 液晶のボケの両方が足されたボケなのである。 逆に、カメラに関係ない字幕、アニメ、CG、ゲームなどでは 液晶のボケがそのまま見えていることになる。 大事なことは、机上の論理だけで判断するのではなく、 自分の眼で実際の映像を見て、値段も見て、それで買い物をすること。 AVマニアとしては、各社のアプローチがどうなっているかを知ることも楽しい。 しかし、液晶が120コマ表示にしたところで、ブラウン管の完璧な 動画再現にはまだ劣る(その代わりちらつき感はあるけどね)。 やっぱり液晶テレビへの買い替えは、今使っているブラウン管 「AV−28AD1」が 壊れたら考えよう。 |