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2005年夏、リアプロの夏
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(2005.7.4) |
ちょうど一年前、当サイトで「リアプロが赤丸急上昇中」というコラムを書いたが、 私はその頃からリアプロに目をつけていた。 リアプロの歴史については先のコラムを読んでいただくとして、 リアプロの長所をもう一度整理しよう。 1.大画面を安く インチサイズが大きくなるにつれて二次関数的に価格が上がる プラズマ・液晶に比べ、投映方式を取るリアプロはコストの核は共通で 筐体とスクリーンだけ変えればよいので、コストアップのカーブが緩やか。 50型後半くらいから特にコストパフォーマンスの高さが際立つ。 2.低消費電力 リアプロの消費電力は200W程度であり、同サイズのプラズマ・液晶よりも少ない。 例えば65型では、プラズマは635W、液晶も619Wにもなる。 電気代が安く、発熱も少ないので冷房も弱く済み、家庭にも地球にも優しい。 1年前の時点では、50型プラズマと比べても圧倒的な安さになるだろうと期待 されていたが、プラズマの急激な値下がり、海外と異なりデジタルチューナー が内蔵されたり、市場規模が異なることなどによるコストアップによって 50型程度のコストパフォーマンスはやや落ちた。
リアプロの弱点も整理しよう。 1.画質 わずか数センチ角の画面を拡大投射する仕組み上、明るさの不足というのが 起こりやすい。部屋を暗くしないと使えないといった製品も過去にあった。 それから視野角。スクリーンの背後からの光を透過させる仕組み上、 液晶と同じく画面を斜めから見ると暗く見えるといったことが起こりやすい。 2.奥行き 背後から投射するという仕組み上、プラズマ・液晶のような薄さは実現できない。 しかし、壁掛けしない限りは設置スタンドが必要であり、 結局設置面積では両者に大差はない。 特に日本の家庭に多いと言われる「部屋の角設置」スタイルとは親和性が高い。 3.使い勝手 リアプロは光源にランプを用いる。このランプの寿命が一般に 5000時間程度で、公称6万時間を謳う液晶・プラズマと比べて短い。 ただしランプを交換すれば新品とほぼ同じ状態に戻る。 交換用ランプは15,000円程度するが、消費電力が小さいため 電気代とトントンくらいにはなるだろう。 また急激にランプ光量を変化させると寿命が 縮まるため、緩やかに光量を変化させなくてはならない。 そのため、電源オン時に画像が出るまでに数十秒の時間が必要で、 電源オフ時にもクールダウンのための時間が必要となる。
さて、リアプロ6機種の比較に行こう。 上で長所・短所を整理したが、短所がどれだけ目立たないか、 長所がどれだけ伸びているか、を念頭において見ていこう。 要は明るくて視野角が広くて奥行きが小さくて安けりゃいいんです。 では安い順に見ていこう。価格は価格.com、直販のものはその価格である。
設計は日本で行うが、生産は全て海外メーカーに委託することで 低価格化を実現しているバイ・デザインのリアプロ参入モデル。 52型で30万円というインパクトのある価格を実現している。 デバイスはDLP方式、1280×720画素の単板式である。 奥行きは約44cm、消費電力は180W。 本機はデジタルチューナーを内蔵しない。 地上デジタルに対応するためには別途チューナーが必要となる。 デザインは洗練されていて、なかなか良い。 さてその映像。開口率が高く、明るさを稼ぎやすいDLP方式とは 思えない暗さ。メニューで輝度をMAXに上げても少し物足りない。 さらにコントラスト感が全くなく、黒も締まらず色も薄い。 おまけにスクリーンの映り込みが激しく映像が見づらい。 残念だが、本機の映像は全く評価に値するものではなかった。 気になっていた人は、価格に惑わされずに絶対に一度見るべきである。
プロジェクター市場では業務用・家庭用ともに高いシェアを持つ三洋。 特に家庭用の低価格液晶プロジェクター「Zシリーズ」は高い評価を得た。 そのノウハウを生かして、本機でリアプロに参入した。 デバイスは1280×720画素の透過型液晶パネル。 光学系などは「LP−Z2」と共通のものが使われているそうだ。 奥行きは約40cm、消費電力はやや高い278W。 本機もデジタルチューナー非内蔵タイプ。 デザインは平面を強調したソリッドな雰囲気。 電源オフ後4分以内であればすぐに電源が入る機能を搭載。 さてその映像。明るさはもう一歩欲しいか。 少し明かりを落とせばコントラスト感が出てきそうだ。 画素構造が少し目立つが、適正距離を取れば目立たなくなる。 視野角はちょっと狭い感じがした。
2004年5月にリアプロを国内発売、リアプロブームの火付け役となったエプソン。 プロジェクターで実績のある液晶パネルを使い、直販スタイルで安価に提供する 戦略を取った。ただし実機を見られる場所が限定されるのが難点。 本機は従来機種の欠点を解消し、地上/BS/CS110°デジタルチューナーを 内蔵、プリンターを外した。デバイスは1280×720画素の液晶パネル。 奥行きは約41cm、消費電力は198W。 デザインはちょっとゲタのあたりが冴えない感じがする。 本機には交換用のランプが1つ付属している。 ランプ寿命は約6000時間程度で、交換用のランプは16,000円。 1回交換分がタダだし、何より取り寄せの手間が省けるのは助かる。 さてその映像。一般的なリビングで見る限り、まずまずの明るさが得られて いると感じた。ただ57型よりも47型の方がやはり映像にパワーがある。 コントラストは良く取れていて、黒が締まって色の発色も良好。 液晶の割に画素構造があまり目立たないのは、スクリーンでうまく 光が拡散されているからだろうか。視野角も、適正距離を取って 少し上下左右に動く程度ではさほど気にならない水準。 リモコンのボタンが大きく、数も少ないので扱いやすそうだった。 バーチャルサラウンドやTruBassもついている。ただスピーカー自体はチープ。
独自デバイス「D−ILA」を武器に2004年7月に北米市場に参入、 国内発売が待ち望まれていたビクター。今年5月に国内参入を果たした。 本機は普通の液晶テレビと同じように、一般の家電量販店に行けば 展示されている。当たり前かもしれないが、これはリアプロとしては 初めてと言ってよく、実際に実機を見て購入でき、アフターケアも 安心な近所のお店で購入できるというのは、消費者の立場からは 非常にありがたいことである。 デバイスは「D−ILA」という独自の反射型液晶、1280×720画素である。 奥行きは約47cm、消費電力は198W。 地上/BS/CS110°デジタルチューナーを内蔵、液晶・プラズマで 好評の映像処理エンジン「GENESSA」を搭載、 音のビクターらしい「きき楽」機能など、フル装備の内容。 デザインは洗練されており、下部のブルーのイルミネーションがきれい。 さてその映像。圧倒的な明るさである。映像に命が吹き込まれている という表現がぴったりである。開口率が高いD−ILAを生かしている印象。 コントラストも高く、白が伸びて黒が映える。発色も鮮やか。 重箱の隅をつつく見方をしなければ、プラズマかと思ってしまうくらいだ。 スクリーンの映り込みが非常に少なく、見やすいのも特筆される。 もともとの光量に余裕がある分、視野角も広い。適正距離を取って 少し上下左右に動いても、見え方の変化はほとんど気にならなかった。 あえて弱点を挙げるならば、映像が動いた部分で砂をまいたような ノイズが散見される。D−ILAがデジタル駆動デバイスであるという 点に起因することであろうか。デジタル放送のブロック歪も他と比べて 少し目につく感じがした。まあ61型の画面を1mの距離で見て評価するのも ナンセンスで、適正距離を取ってみればさほど気にならないのだが。
昔はリアプロと言えば三菱、という位のリーディングメーカーであった。 民生用のプロジェクターも、他社が撤退するなかで途切れることなく 製品を投入してきており、三菱のこだわりを感じる。 デバイスはDLP、1280×720画素の単板式。 奥行きは約50cm、消費電力は190W。 デジタルチューナーは内蔵しない。 交換用のランプが1個付属するのは嬉しい。 本機は直販ではないものの、実機を展示している店は少ない。 さてその映像。開口率が高いDLPだが、明るさは不足気味。 前面のスクリーンの写りこみもかなりあって、 印象に残る映像ではなかった。 間接照明程度の明るさの場所で見てみたい。
日本のリアプロ市場を、長い間一人で背負ってきたソニー。 他社が力を入れる前から、グランドWEGAというシリーズを投入、 根強いファンを獲得していた。 本機のデバイスは「SXRD」という独自のもので、 ビクターの「D−ILA」と同じ反射型液晶。 パネルは1920×1080画素のフルHDタイプ。 地上/BS/CS110°デジタルチューナーを内蔵する他、 S−masterデジタルアンプを使った強力スピーカー、 XMB(クロスメディアバー)による快適GUI、 本体の仕上げも金属がふんだんに使われていて、まさに贅沢。 奥行きは約63cm、消費電力は361W。 画質最優先でガラススクリーンを採用したことで本体が124kg、 専用スタンドも87kg、合わせて200kgを超えるヘビー級。 70型というサイズ、150万円という値段からしても、 本機を買うことができる人は少ないだろう。 さてその映像。少し暗い部屋で見たのだが、もの凄い映像だった。 高いコントラストで、黒がグッと締まって、色も鮮烈、 画素構造はほとんど見えず滑らかで、視野角もかなり広い。 プラズマ、液晶以上なのでは?と思うほどの完成度の高さ。 少なくともリアプロでは一番の高画質を実現している。 ただスクリーンはガラスなので、やや映り込みがある。 家電量販店の店頭では、印象はやや落ちるだろう。
さて、仮にリアプロを買うとした場合に、私がイチ押しなのは やはりビクターだ。全く申し分のない明るさ、 映り込みがなく高いコントラスト感で映像を映し出す。 機能もフル装備で、いい意味で「普通のテレビ」として使える。 何より、近所の量販店で買えるという安心感は大きい。 次点はエプソン。一般的なリビングでは不足することは ないと思われる明るさを確保し、コントラスト感もまずまず。 交換用のランプもついて、安価によくまとめていると思う。 バイデザイン、三洋、三菱は間接照明程度の部屋でないと 良さが見えてこないだろう。そして3社ともデジタルチューナー が非内蔵となっている。逆に、部屋を暗くできて、 ケーブルテレビで視聴する人にとっては思わぬお買い得モデルに なる可能性がある。 ソニーはいろんな意味で別格だ。QUALIAではなく WEGAシリーズとしてリアプロを出したらどんな製品が 出てくるのか、ビクターとどっちが勝つのか、興味津々だ。 今回は6機種を比較したわけだが、リアプロは面白い。 何が面白いって、各社に差があるから面白い。 リアプロの短所を理解した上で、長所に目をつけて買うのも 人によってはかなりオイシイ選択となり得ると思う。 |