魔法使い☆潔

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魔法使い☆潔1 2002年4月10日up

「御手洗、大丈夫か?」
万里の長城から帰ってきてから1週間というもの、御手洗はほとんど眠ってばかりいた。時々夢遊病のように起き出しては、買い置きしていたコンビーフの缶詰をクルクルと開けてむしゃむしゃと食べていた。パンやその他の食事をすすめても、ほとんど食べずに、「マンゴージュースを買ってきてくれ。」と言うだけだった。そして、マンゴージュースをしこたま飲むと、また寝室へ閉じこもってしまうのだった。時々部屋のドアを開けて様子を見ても、ベッドの中でただ寝息をたてていた。
あまりにも様子が変だったのと、くしゃくしゃの髪の毛に隠れて見えないあの稲妻型の傷が気になって、たまりかねて御手洗の部屋へ入ってみた。声をかけても返事がない。ちょっと肩をゆすってみた。うーん、とかすかにうなって寝返りをうった。すると、何かの灯りがポッとともった。
なんだろうと振り返ってみると、御手洗のパソコンが勝手にたちあがりはじめていた。DOSの画面につらつらと文字が並び、徐々にウインドウズが起動をはじめた。そして、起動時のメッセージがあらわれた。
『俺は眠いんだ!』
私は面食らってしまった。まさか、御手洗がわざわざ仕込んでおいたのだろうか?
「み、御手洗、でももういいかげん起きたらどうだ?具合が悪いんだったら、病院へ行った方がいいし・・・。」
『病院は嫌いだ!』
私は再び面食らってしまった。パソコンに勝手に文字が浮かび上がってくる。しかし、質問には答えてくれるようなので、もう少し話し掛けてみることにした。
「御手洗、今夜の夕食は何が食べたい?」
『温泉玉子とマンゴージュース。』
「来週の宇宙温泉旅行には、何を持って行きたい?」
『ビキニパンツと望遠鏡。』
これはおかしい。御手洗は普段、ビキニパンツなんかはいていないはずなのだが・・。
「君は僕に、ダイアゴン横丁で魔法の杖と白いふくろうを買って、3/4番線からホグワーツ行きの汽車に乗り、グリフィンドール寮に入ってニンバス2000で空を飛べというのかい?!」
突然大きな声で叫んで、御手洗がベッドに起き上がった。ぜいぜいと荒い息をして、こめかみから汗がふき出していた。私はあまりに面食らって、ベッドの脇にしりもちをついてしまった。
「ああ、石岡君。なんだか変な夢をみていたようだ。」
御手洗はまっすぐ前の空間を見つめながらそう言った。
「なんだか、とてつもなく長い夢をみていたような気がするんだ。あれ、ビキニパンツって・・・?」
御手洗が、パソコンの文字を見て、不思議そうに言った。
「石岡君、僕のパソコンで何かしていたかい?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
「ああ、おなかがすいた。久し振りにKandy Streetにでも食べに行こうか?」
なんだか、いつもの御手洗に戻ってきたような気がする。
「でも、その前に、石岡君の入れた紅茶が飲みたいな・・・。」
私は急いで紅茶の準備にとりかかった。御手洗は、まだ少しフラフラとしながらも、食器棚から紅茶のカップを取り出そうとした。しかし、手が滑ったのか、カップを床に落として割ってしまった。
「ああ、御手洗!それはマイセンじゃないか!!」
私は慌てて駆け寄った。御手洗は呆然とした様子で立ちつくしていたが、すぐにカップを片付けようとしゃがみこんだ。
「うちに、マイセンなんて高級品があったのかい?」
「ああ、前になんだかの授賞式で、副賞としてもらったんだ。」
「そんなに大事なものだったのか・・・。」
御手洗がうつむいてカップの残骸をじっと見つめた。すると、残骸たちがふわふわと浮き始め、みるみる元のとおりにくっついていった。そしてすーっとテーブルの上に移動した。
「み、御手洗!何をしたんだ・・・。」
御手洗はボーっとした目で、きれいに元通りになったカップを見つめていた。しかし、すぐに我に返り、私の顔を見つめた。
「石岡君。僕は魔法使いになってしまったみたいだ。」
魔法使い?それでは、やはり、あの光線を浴びたせいで・・・。
「どうやら、ブラックサターンのビームには、不思議な力があるみたいだね。やはり、あれを浴びて、普通のままではいられなかったみたいだ。」
御手洗は少し難しい顔をして、考えていた。
「とにかく、僕はまだ意のままに魔法を操れるわけではないみたいだ。何か、魔法の杖のようなものがあった方が、力がもっと出せるような気がする。何か、杖になりそうなもの・・・。」
御手洗は急に私の髪の毛を掴んで、軽〜く4〜5本をいっぺんに抜いた。
「痛いっ!」
私は思わず叫んでしまったが、御手洗はそんなことはおかまいなしに抜いた私の髪の毛を見つめていた。
「これを、杖の中に入れよう。杖の本体は、確かワールドポーターズへ行く途中に桜の木があったはずだ。あの枝を一本、折ってこよう。」
御手洗はパジャマのままで出かけようとしたので、私は慌てて引き止めて着替えさせた。

To be continued・・・


魔法使い☆潔2 2002年4月24日up

御手洗一人で行かせるのも不安だったので、私は仕方なくついていくことにした。御手洗はルンルン気分で、スキップでもせんかばかりに軽い足取りで歩いていく。空は少し曇っていて、海からのちょっと生暖かい強風が頬を乾燥させていった。御手洗の髪も風になびいて、時々稲妻型の傷が、そのくしゃくしゃの髪の隙間から覗いているようだった。
歩道橋を渡りしばらく行くと、横に少し入る道がある。もう少し行けば、通りの真ん中にも早咲きの種類の桜がぽつんと一本あるが、その横道の突き当たりに立っている桜は、満開時にはランドマークロボ(?)をバックに薄桃色の花を咲き誇っていた。今は若葉の緑色である。
「うーん、どの枝がいいかな・・。なるべくまっすぐなのがいいな。」
御手洗は枝を物色した。
「御手洗、枝なんか折ってもいいのかな。」
「いいさ。魔法がもっと使えるようになったら、元よりも立派な枝をたくさん生やしてやるさ。なんなら、もう一度花を咲かせてやってもいい。よし、あの枝にしよう。ちょっと届かないかな。」
御手洗は私のことを、もの欲しそうな目で見つめた。
「まさか、肩車でもさせようって言うんじゃないだろうね。」
御手洗は、尚ももの欲しそうな目で見つめる。その内、人差し指でも口にくわえそうだ。
「わ、わかったよ。肩車すればいいんだろ。」
私は観念して、肩車をしてあげることにした。御手洗は嬉々として、私の肩に足をかけた。私はよろよろしながら、御手洗を乗せて立ち上がった。
「み、御手洗、はやくしてくれよ。もう、もたないよ。」
「石岡君、もう少し右だよ。」
御手洗がやっと枝を握った時、私は力尽きて倒れた。御手洗はしばらく片手で桜にぶら下がっていたが、自分の重みで枝をパキッと折って、見事に着地した。
「よし、この枝を削って杖にするぞ。」
御手洗は尻餅をついている私を助け起こしもせず、さっさと家に帰ろうとした。私はぶつぶつとつぶやきながら、ズボンの尻をはたいて立ち上がった。

家に帰ると御手洗はまた部屋に閉じこもり、魔法の杖の作成にかかった。私は最近の御手洗の奇行に付き合っていた疲れと先程の肩車の疲れとで、夜の9時前には寝てしまった。朝までぐっすり眠って目を覚ますと、すぐ目の前に御手洗の顔があった。
「わー、なんだよ、脅かすなよ!」
「出来たよ、石岡君。素晴らしい出来栄えだ。」
御手洗は得意げに魔法の杖を私の前に突き出した。私は無知なので、何調というのかわからないが、ヨーロッパの建築のような上品な模様に削られ、先の部分には馬車道ロボらしきものが彫られていた。
「おー、なかなかじゃないか。君は彫刻の才能もあったんだね。」
「さっそく、魔法を試してみようと思うんだ。まず何からやってみようか。」
御手洗と一緒になって、しばらく考えていた。
「とりあえず、昨日のマイセンみたいに、何かを浮かせてみたらどうかな。」
「例えば石岡君とか?」
御手洗が杖を一振りすると、ベッドに腰掛けていたお尻がむずむずとしてきた。しかし、いきなり一人の成人男性を持ち上げるのは無理なのか、さっぱり浮かび上がることはなかった。御手洗はだんだんタコのように顔が赤くなり、ついに諦めたのか、ふーっと息を吐いた。
「石岡君、ダイエットが必要なようだね。」
「そういう問題じゃないだろ、もっと軽いものから浮かせてみろよ。」
「そうだね。ハガキなんかどうかな。」
御手洗はレターラックの中から、一枚のハガキを取り出した。どうやら、昔レオナから貰った、どこだか外国からの絵葉書のようだった。
「石岡君、こんなもの後生大事にとってあったのかい?まあ、いいや。まずはこれを浮かせてみよう。」
御手洗はハガキをベッドの上にのせると、またもや杖を一振りした。ハガキはかさかさと音をたてて揺れ、ほんの数センチほど持ち上がってあっという間に落ちた。
「うーん、どうも駄目だなあ・・・。もしかしたら、呪文か何か必要なのかもしれない。呪文、呪文・・・。」
御手洗は右の眉を吊り上げたまま、かたまってしまった。私にしても、呪文なんか思いつくわけがない。
「イシオカタピオカカルボナ〜ラ!」
御手洗がわけのわからない呪文を唱えた。すると、ハガキは勢いよく舞い上がり、天井にぶつかって落ちた。
「おお、すごい!」
「よし、次は石岡君だ。」
「や、やめてくれよ。天井にぶつかるのはごめんだよ。」
御手洗は渋々諦めてくれた。
「よし、石岡君、外へ出てみようぜ。」
御手洗は今にも飛び出しそうだったので、私はあわててパジャマから着替えた。

To be continued・・・


魔法使い☆潔3 2002年5月19日up

「石岡君、とりあえず桜の修復に向かおう。」
御手洗は魔法の杖を振り振り、海風に向かって歩いていく。
「桜はデリケートなんだ。はやく治してあげないと、そこから腐ってきてしまうからね。」
だったら、桜なんか使わなければ良かったじゃないか。
馬車道は人通りが途切れることはないが、いつもそうたくさんの人が歩いているわけではない。御手洗が奇妙な行動をしていても、さほど気にとめる人もいない。しかし、毎年5月9日のアイスクリームの日には、何千人もの人が無料のアイスに群がって並ぶ。いかにもOLさん風の人達がほとんどなのだが、どこにそんなにOLさん達が隠れていたのかと、目を疑ってしまうほどだ。

枝を折られても、相変わらずいきいきと新緑に包まれている桜の木を見て、二人で安堵した。しかし、御手洗が折った枝の元の傷ははっきりと見えている。御手洗はひとつ深呼吸をして、魔法の杖を振りかざした。
「イシオカタピオカカルボナ〜ラ!」
御手洗が杖を振り下ろしたが、桜には何も起こらない。その代わりに、側に落ちていた石ころが、勢いをつけて遠くに飛んでいった。
「それは物を浮かせて飛ばすだけの呪文なんじゃないか?」
御手洗はしばらくしげしげと杖を眺めていたが、すぐに新しい呪文を考え始めた。
「うーん、桜を治す呪文、癒しの呪文・・・。なあ、石岡君、僕はいちいち新しい呪文を考えなければいけないんだろうか?」
「呪文の本でも見つければ、話は別だけどね。それにしても、よく物を浮かせる呪文がすぐに思いつけたよね。気長にやっていれば、思いつくんじゃないの?」
「そうだなあ・・・。呪文の本か。どこかにあるような気はするんだが・・・。イシオカタピオカカルパッチョ!」
御手洗が突然呪文を思いつき、魔法の杖を勢いよく振り下ろした。すると、折れた桜の枝がするすると伸びてきて、更にみるみるうちに新緑の葉が消えて代わりにつぼみが現われ、一斉に花が開いて満開になった。
「す、すごいね、御手洗!」
「ま、ざっとこんなもんだね。それにしても、いちいち悩むのは嫌だな。やっぱり呪文の本が欲しい。物を探す呪文、呪文・・・。」
御手洗は再び呪文を考え始めた。私は季節はずれの桜を眺めながら、これはこれでいいんだろうかと少し悩んだ。
「イシオカタピオカカメル〜ン!」
御手洗が杖を振り下ろすと、目の前に黙々と煙のようなものが現われた。その煙の中に、なにやら星のようなものがいくつも浮かんでいて、中には天の川のようなものも見えた。その中の一つの星が赤くきらめいている。そこに向かって矢印が現われ、『Hakone星雲Begonia星Tyoukokunomorionsenhikyou』という文字が浮かんできた。
「これって、今度行く宇宙温泉がある星だよね。」
煙は数秒で消えてしまった。
「そうだね、とても都合の良いことにね。宇宙温泉に行ったら、このTyoukokunomorionsenhikyouに行って、呪文の本を探そう。」
御手洗は更にいきいきとして目を輝かせ、これから始まる冒険に、胸をワクワクさせているようだった。私は何事もなく、無事に帰ってこられればいいがと、そればかり不安に思っていた。

To be continued・・・


魔法使い☆潔4 2002年6月16日up

「だから〜、大きさから言っても設備から言っても、ランドマークロボで行くのが当たり前だろう?横浜一の宇宙パイロット、この西園寺君麻呂の運転で、快適な旅を・・・。」
「な〜にが横浜一だ。横浜二位のただの金持ちのくせして!お前の趣味の悪いピンクのロールスロイスで、ASKAちゃんを轢き殺しかけたのを忘れたのか?」
え?轢き殺しかけた?いつ?
「あれは僕の運転手のベッカム君が危うく彼女を轢くところだっただけだ!」
あさってに迫った宇宙温泉旅行を前に、直前になってじたばたと準備に追われていた。仲の悪い西園寺と御手洗がなかなか話し合いの場を持たなかったせいもあるが、何しろ御手洗はやんごとない事情でいつにもまして普通の状態ではなかったので、みんなに会わせるのを、何より私自身が躊躇していたせいもある。
しかし、まあ、西園寺はただの天然馬鹿だし、大器君は超マイペース人間だし、里美ちゃんは私が説明すればちゃんとわかってくれるので、心配するのは無用だったのだが・・・。
いまだどちらのロボで宇宙温泉に向かうのかも、決まってはいないのだった。
「あ、メールだ。」
どこかで聞いたことのある、往年のアイドルグループの曲の最後の部分だけが抜粋された着メロが響くと、大器君がズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「大器君、高校生のくせにもう携帯電話を持っているのかい?この金持ちの僕でさえ、初めて携帯を持ったのは・・。」
「西園寺さ〜ん、今時携帯持ってない高校生の方が、珍しいですよ〜。」
どさくさにまぎれて旅行のメンバーに入れた里美ちゃんが、西園寺と御手洗の言い争いにあきれきった様子で言った。
「みなさん、今K太郎さんからメールがきて、宇宙温泉には政府が用意した宇宙船で行くようにとのことです。」
大器君が西園寺の言葉など全く耳に入っていない様子で、さらりと言った。
「K太郎さんからメールが来るの?すごいね、いつの間にメルトモに?」
「メルアドの交換は、今や常識ですから。」
「政府が用意した宇宙船?なんでそんな?」
「馬車道ロボもランドマークロボも、オフィスビルですからね。Hakone星雲まででも片道2日はかかるんですよ?会社を根こそぎ休みにするわけにはいきませんからね。」
私は、以前月へ行った時の、ASKAちゃんの会社の社員さんたちの恨みがましい目を思い出した。
「なるほど。それは仕方がないな・・。それで?その政府の用意した宇宙船っていうのは?」
「横須賀の戦艦ミカサです。」
「えー、あれも宇宙船なの?!」
「すご〜い、ヤマトみた〜い!」
「食料ももろもろの荷物も、全部用意してくれているようです。身ひとつで行けばいいみたいですよ。」
「いやー、至れり尽せりだね。」
私と大器君と里美ちゃんは素直にうかれていたが、御手洗と西園寺は、面白くない様子だ。

「ところで、御手洗君。」
西園寺が妙に真剣な顔で切り出した。
「何か、素晴らしい力を身につけたらしいね。」
私は思わずギクリとした。
「ああ、魔法が使えるようになったんだ。」
私があわてて制する前に、御手洗はこともなげに言った。
「なんでだよ〜、ずるいじゃないか〜!僕も魔法が使えるようになりた〜い!」
天然馬鹿の西園寺は、単純にうらやましいだけなのだった。
「君も、ブラックサターンの性転換ビームをあびれば、魔法が使えるようになるかもしれないよ。」
「女性になっちゃう可能性もありますけどね。」
「う〜ん、そのリスクはでかすぎる・・。」
西園寺はぶつぶつとつぶやきながら、考え込んでしまった。
「でも、問題なのは。」
大器君がどこから出したのかわからないチーズたらを口にくわえながら言った。
「宇宙温泉旅行をねたんでいるブラックサターンが、いつ襲いかかってくるかわからないってことですね。」
私は忘れていた恐怖が一気によみがえった。
「なあに、この御手洗潔の魔法があれば、ちょちょいとやっつけて差し上げることが出来るでしょう。」
御手洗は魔法の杖を軽〜く振った。杖の先からボワッと炎が噴出して、みんなは思わず「ウォ〜!」と歓声をあげた。

To be continued・・・


魔法使い☆潔5 2002年8月4日up

「それで?波動砲はどうやって撃つんだ?」
西園寺のとんちんかんな質問を無視して、横須賀の自衛隊のお兄さんはミカサの操縦法をたんたんと説明していた。
「なるほど。ロボットに比べたら非常に単純だね。西園寺君、君にも楽々操縦できるだろう。」
「だから〜、そんなことより波動砲は・・・。」
「御手洗、頼むから君が操縦してくれないか?」
「僕も、その方がいいと思います。」
「賛成!」
不満げな西園寺を制して、御手洗が第一操縦者に決まった。
「Hakone星雲までは約2日間かかります。銀河系を出たあたりで自動操縦に切り替えてお休みください。非常時には、戦闘モードに切り替えてください。」
自衛隊のお兄さんは、顔色ひとつ変えずに言った。
「せ、戦闘モード・・。」
「何かあった時には、非常無線でご連絡下さい。最寄の銀河パトロールにつながります。」
「戦闘モードになったら、波動砲が撃てるのかい?」
「細かいミサイルは積んでいますが、大きな武器はありません。波動エネルギーで飛んでいるわけではありませんから、波動砲もありません。戦闘モードになると、一応心ばかりのバリアに覆われます。」
「こころばかりの・・?」
「はい、気休め程度です。」
自衛隊のお兄さんは、説明し終わると、無表情で敬礼をひとつして船を降りていった。
「むしろ、馬車道ロボで行った方が、安全だったかもしれませんね。」
「ま、僕の魔法の力で、なんとかするさ。」
御手洗は口笛吹きながら、荷物を自分に割り当てられた部屋に運んでいった。その後をシルバーが追いかけていった。西園寺の猫、エヴィータちゃんは、操縦室の隅で昏昏と眠りこけていた。その両脇に、西園寺の忠実なるしもべの黒人さんたち、サミュエルとモーガンが立っていた。

それぞれが準備を整え、いよいよ出発の時がきた。馬車道ロボが出立する時の衝撃を思って身を硬くしていたが、案外とオートバイが走り出す程度の振動しか感じないのだった。大気圏を突破する時には多少のGがかかったが、すぐに快適な船旅となった。
「里美さん、この程度じゃ全然平気でしたね。」
「うん、もっと衝撃がくると思ってたから、拍子抜けしちゃった。」
「エヴィータちゃんも、おとなしいもんだね。」
一応、ペット用のカプセルに入れられたエヴィータちゃんは、何もなかったかのように眠っている。
「エヴィータちゃんは、いつもランドマークロボに乗りなれているからね。こんなの衝撃のうちに入らないさ。」
シルバーもカプセルの中でおとなしいものである。
「それにしても、きれ〜い!!やっぱり地球は青かったのね。」
船室の小さな窓から見える地球は、相変わらず青くて美しかった。

「そろそろ、木星に一番近くなる。」
しばらくして、御手洗がポツリと言った。
「来るとしたら、そろそろですかね。」
大器君が、珍しく緊張の面持ちで言った。
「く、来るって、やっぱりブラックサターン・・・?」
「可能性は高いね。」
みんな、それまで楽しげに談笑していたのが、一気に静かになった。みんな息をつめて窓の外をうかがっていたが、暗い宇宙空間には何も見えなかった。
「来る・・・。左舷後方!」
御手洗が叫ぶと、後ろの方にかすかに光が見えてきた。すると、正面のモニターに、あのとんがり頭のスキンヘッドの顔が現われた。私は思わず「ヒャァッ!」っと情けない声を出してしまった。
「ミカサの諸君、久し振りね。とはいってもほんの2週間ぶりか。まさかこのまま、簡単に宇宙温泉へ行けるなどと、思ってはいなかったろうね。」
いつの間にか、窓の外は数機の戦闘機に囲まれていた。
「ふ、来ると思っていたよ、ブラックサターン。」
御手洗は余裕の笑みを浮かべていた。
「一応、戦闘モードにしておきますね。気休めですけど。」
大器君が戦闘モードのボタンを押した。気休め程度の薄い黄色のバリアが船を覆った。
「ホホホホ・・・。そんなバリアなど、役に立たないのはわかっているでしょうに。今ならまだ遅くないわ。宇宙温泉のチケットを渡してもらおうかしら?」
「なにおう、これでもくらえ!イシオカタピオカカルボナーラ!!」
御手洗が杖を振り下ろすと、一機の戦闘機が、遥か宇宙の彼方へ飛んでいった。
「すごーい、御手洗さん!」
「うーん、そっちがその気なら、総攻撃を仕掛けるまでよ!」
窓の外の戦闘機が一斉に放射を始めた。心ばかりのバリアは、一瞬で砕け散った。
「み、御手洗、銀河パトロールに連絡を!」
御手洗は一機づつしか戦闘機を吹っ飛ばせないらしく、必死に杖を振り下ろしていた。
「うわあ、ミサイルが船本体に当たり始めましたよ!」
大器君は必死になって、無線を操作していた。西園寺を見ると、頭を抱えてうずくまり、サミュエルとモーガンが心配げに語りかけていた。
「石岡先生、私はどうすれば!?」
里美ちゃんが請うような目で私を見た。
「うう、考えるんだ、どうすれば・・。」
「ホーッホッホッホ、おとなしくチケットを渡しておけば良かったものを・・。うっ、何?!」
一瞬、明るい閃光が走り、数機の戦闘機が吹っ飛ばされた。見ると、いつの間にか現われた大きな戦艦が、レーザー光線を撃ってきたのだった。
「み、御手洗、あれは・・・。」
「宇宙海賊だ!」
その大きな戦艦の先に、ドクロ模様の旗がはためいていた。風のない宇宙空間でどうして旗がはためくのかと思っていたら、細かい紐がたくさん出ていて、何かの動力でではためかされているらしかった。
「きー、あんたは誰?!」
「私はキャプテンイワサキ。宇宙温泉に行けないASKAちゃんの依頼を受けて、この船を護衛に来ました。」
ブラックサターンの代わりに、モニターに見るからに体育会系の女海賊の姿が映った。
「去るが良い、ブラックサターン!無駄に死人を増やすでない!」
再び閃光が走り、数機の戦闘機が宇宙の藻屑と消えた。
「覚えてらっしゃい、キャプテンイワサキ!この仕返しは、必ず!」
ブラックサターンたちは脱兎のごとく引き上げていった。
「ありがとう!キャプテンイワサキ!」
「礼には及ばない。貴君らのピンチにはいつでも駆けつけよう!」
キャプテンイワサキはモニターから消え、海賊船は大きく迂回して去っていった。
「しかし、ASKAちゃんの知り合いなんですかね、女海賊が・・。」
「うーん、彼女は不思議な子だからね。生霊の声や妖怪の声を、普通に聞いていたりするからね。宇宙海賊に知り合いがいても、不思議はないかもしれないね。」
ASKAちゃんって一体・・・?と思いながら、まだまだ旅は続くのだった・・・。

To be continued・・・


魔法使い☆潔6 2002年9月15日up

「石岡君、起きたまえ!Hakone星雲が見えてきたよ!」
ミカサが銀河系を超え、ぐっすりと睡眠に入っていた私を、御手洗は容赦なく揺り起こした。
操舵室に入ると、目の前に楕円形に広がる美しい星雲が見えた。振り返って見た銀河系も美しいと思ったが、Hakone星雲は霞がかかったようにぼんやりと輝いていて、まるで夢をみているかのような美しさだった。
「まるで、温泉の湯気に覆われているみたいですね。」
大器君が銀色のペットボトルのような容器から、コーラらしきものをストローですすりながら言った。
「まるで、おとぎ話の世界みたいですね、先生!お姫様とか出てきそう!」
里美ちゃんが珍しく乙女チックなことを言った。王子様でなくて良かった・・・。
「もうすぐ、Begonia星です。宇宙温泉に入るには、チケットが必須ですからね。みんな、一緒に中に入ったら、全員揃わなければ、再び外に出ることも出来ないそうです。」
大器君が、政府に貰った、宇宙温泉観光ガイドを読みながら言った。

ミカサは霞がかった星雲の中を飛行し、程なくバスクリンのような緑色の美しい星に着陸した。広い宇宙船の駐船場があり、半分くらい既に埋まっていたので、私達が止めた場所から宇宙温泉の入口まで、かなり歩かされた。やっと入口に辿り着くと、ものすごい数の軍隊が入口脇や門の上にひしめいていた。温泉の上空には、軍隊のヘリがパタパタと何機も飛んでいる。
「み、御手洗、これ程とは・・・。」
シルバーもさすがに怯えたように御手洗の足に擦り寄り、エヴィータちゃんは西園寺の顔を引っ掻こうとして、慌ててサミュエルとモーガンが押さえつけていた。
「さあ、みんな揃っているね。一人も欠けてはまずいからね。」
御手洗は宇宙温泉のゴールドチケットをひらひらさせて言った。

一行は2列に並んで、先頭の御手洗に続いて入口へ向かった。空港の入口のように金属探知機があり、荷物は脇のベルトコンベアに乗せて、X線写真を撮るようだった。私と大器君が何度か探知機にひっかかって、私は時計とベルトを、彼は腰にぶら下げていたチェーンを外して、ようやく通ることが出来た。大器君のリュックに入れていたスナック菓子の匂いを嗅ぎ付けて、見たこともない毛むくじゃらの、変わった姿の犬のような生物がバウバウと吠え立てた。おかげで大器君はリュックの中身を、全部出して細かくチェックされる始末となった。
シルバーとエヴィータちゃんはノミチェックのようなものをされて、エヴィータちゃんは係りの人を何人かやっぱり引っ掻いた。西園寺とサミュエル、モーガンは意外と何もひっかからずに、涼しい顔で通り抜けた。やっとチケットの確認をするまでに、1時間近くかかってしまい、御手洗はイライラと立ったまま片足を貧乏ゆすりしていた。

宇宙温泉に入ると、まるで日本の温泉街のような風景が広がっていた。旅館がメインストリートの左右に立ち並び、本物の湯気があちこちから立ちのぼっていた。周りは自然も豊かで、緑の中にいくつか川も流れているようだった。空にはぼんやりとした太陽のようなものが二つ浮かんでいた。
「とりあえず、Himesyara屋にチェックインしなければね。入り放題のYu-Topiaは、ほら、あそこのでかい建物だよ。」
メインストリートの奥に、ひときわ大きい、ひとつだけ近代的な建物がそびえたっていた。正面の看板に大きく「温泉ランドYu-Topia」の文字が見える。
「しかし、なんで日本語が書いてあるんだい?」
「ここはね、見てもわかるとおり、日本の温泉地をモデルにしているんだ。いわゆるファッションなんだよ、日本語はね。」
よくよく見ると、様々な宇宙人が歩いていた。みな、一様に、日本の浴衣らしきものを着ていて、なかなかに不気味だ。
御手洗は入口で貰った宇宙温泉の地図を見ながら、私に言った。
「石岡君、こっちがTyoukokunomorionsenhikyouだ。」
御手洗は地図の端の方を指差していた。
「今日はとりあえず、Yu-Topiaにでも行って、ゆっくりしよう。明日の朝、呪文の本を探しに出発しようじゃないか。」
「えー、本当に行くのかい?僕は里美ちゃんとゆっくりしてたいよ。」
「御手洗さん、何のことです?どこか行くつもりなんですか?」
「そうだな、大器君の方がよっぽど頼りになりそうだな。どうだい、ちょっと奥地に冒険に行かないか?」
「えー、冒険ですか?ワクワクっすねえ!」
「えー、冒険?!楽しそう!私も行く行く!」
「御手洗君、まさか僕を置いてくつもりじゃないだろうね。そんな楽しそうなところへ。」
里美ちゃんや西園寺までも、たちまち行く気になってしまった。
「しょうがないなあ、みんな、はぐれるんじゃないぞ!石岡君、君だけお留守番するかい?」
「わかったよ、僕も行けばいいんだろう!」
こんな何があるかわからない他の星にまで来て、ただでさえ行きたくない森の奥地へなど、どうして行かなければならないのか、私はわからなかった・・・。

To be continued・・・


魔法使い☆潔7 2002年10月17日up

Yu-Topiaには本当に様々な温泉があり、東京ドームいくつ分かと思うほどの広さがあった。
入口は男女別になっているが中は一緒になっており、混浴と言えど水着着用なので、まるで温水プールに来たような気分だった。
うたせ湯、濁り湯、ジェットバス、露天風呂、泥風呂、薔薇風呂、酒風呂、ミルク風呂・・・様々な風呂に加えて、サウナや温泉プール、滑り台やウォータースライダーまであった。
里美ちゃんと大器君は滑り台やウォータースライダーに夢中で、滑り台がこわい私は全然相手にされなかった。仕方がないので、露天風呂に入り、そこから見える森や川の素晴らしい景色を眺めていた。
御手洗はどこにいるのやら姿が見えなかったが、これだけ風呂がたくさんあると、探し回るわけにもいかなかった。西園寺はまるで遊園地にでもいるようにはしゃぎながら、順番に風呂に入って回っているようで、それについて回っているサミュエルとモーガンは、とっくにのぼせてその黒い肌をほんのり赤く染めていた。
私は一時間ほどで風呂から上がり、Himesyara屋の御手洗と大器君と一緒の部屋に一足先に戻った。里美は一人で部屋を取るしかなかったが、寂しいのでシルバーを連れて行くと言ってきかなかったので、御手洗と軽い喧嘩状態になった。しかし、私の援護もあって、結局里美が勝ち、御手洗は静かな怒りの矛先を、私に向けて睨んでいた。まあ、御手洗のことだから、すぐにケロリとしてくれるだろうと踏んで、さほど気にもしなかったが・・・。
二つあった太陽は、15分程の間をあけてひとつづつ沈んでいき、辺りは真っ暗になったが、同時に街には淡い灯りが灯り、ホタルがたくさん飛んでいるような幻想的な世界が広がっていった。大器君が興奮しながら戻ってきて、「いやあ、温泉って楽しいですね!!」と言いながら、タオルで頭をがしがし拭いていた。
「もうすぐ夕飯ですから、大広間へ行きましょうね。」
「御手洗は見なかったかい?」
「あれ、まだ戻ってきていないんですか?そういえば、Yu-Topiaでも一度もみなかったかも・・・。」
「先生!シルバー見ませんでした?!」
里美ちゃんが色っぽい浴衣姿でいきなり入ってきた。
「え?シルバーもいないの?まさか、シルバーを連れてどこかへ行ったんじゃ・・・。」
「あー、いい湯だった。」
御手洗がシルバーを連れて、何食わぬ顔で帰ってきた。
「御手洗、どこへ行っていたんだよ!!」
「え?ああ、ペットと一緒に入れる別の温泉に行っていたんだよ。シルバーだって温泉に入りたいもんな〜。」
「へえ、そんな温泉もあるんですね。ここって一体いくつ温泉があるのかなあ。」
大器君はまたガイドブックとにらめっこしはじめた。
「そろそろ、食事に行きましょう!御手洗さん、寝る時はシルバーは私の部屋ですからね!」
里美はこわいものなしに強く言った。御手洗は珍しく、しゅんとした顔になった。

Begonia星の料理は、日本の温泉とさほど変わりがなく見えた。しかし、よくみると魚の色や模様がみたこともないものだった。はじめは食べるのに抵抗を感じたが、大器君が平気な顔で食べながら、「おいしいっすよ。ちょっと食べたことのない味がするけど。」と言うので、みんな少しづつ箸をつけ始めた。刺身も鍋も、ちょっと違和感のある味だったが、それ程まずくもなく、かといってそれ程うまいわけでもなかった。
酒だけは地球の日本から輸入しているらしく、普通の日本酒の味がした。大器くんが平気で飲もうとするので、あわてて止めた。「いいじゃないっすか、この星でも年齢制限があるんですか?」と不満げだったが、「お酒は二十歳になってから。」と里美が全部取り上げてしまった。代わりに、これもまたみたことのない銀色のフルーツのようなものから搾り取ったジュースを、着物を着た青い髪の宇宙人の仲居さんが持ってきてくれた。
「うーん、不思議な味がする・・・。」
さすがの大器君も複雑な顔をするような飲み物らしかった。

軽くよっぱらって部屋に戻り、疲れもあってすぐに眠ってしまった。翌朝早く、御手洗に叩き起こされた。
「ほら、石岡君、起きたまえ!Tyoukokunomorionsenhikyouに行く時間だ!!」
大器君は寝ぼけ眼で既に着替え、まるで冒険に行くのを見越していたかのような迷彩柄の軍隊用ズボンにカーキ色の帽子を被っていた。御手洗もベージュの冒険隊のようなベストに帽子を被っている。
私は仕方なしにゆるゆると自分の荷物を探し、チノパンにチェックのシャツを取り出して着た。
隣りの部屋に泊まっていた西園寺とサミュエルとモーガンは、これまた寝ぼけ眼ながらもきちんと着替えて出てきた。西園寺は珍しく、アディダスのジャージ姿だったが、サミュエルとモーガンは相も変らぬダークスーツ姿だった。それでも、靴だけはナイキのスポーツシューズだった。
里美ちゃんの部屋に行くと、まだ起きたばかりらしく、しばらく身だしなみを整えるのに待たされた。御手洗はイライラし始めたが、シルバーを与えると途端に機嫌が良くなり、朝っぱらからしこたまじゃれあっていた。
里美はTシャツにホットパンツ姿で現われた。見た目には嬉しいのだが、足を切ったりしないかと、ちょっと心配になった。
旅館に弁当を頼んでおいたらしく、一人一人、弁当入りのショルダーバックと水筒を渡され、まるで本当の探検隊みたいだった。御手洗は意気揚揚と、「それでは、しゅっぱーつ!!」と叫んで旅館を出た。まだ、二つの太陽が、やっと片方姿を現したところだった。

Yu-Topiaの裏をまわってしばらく田舎道を行くと、森の入口にTyoukokunomorionsenhikyouと看板が出ていた。しばらくは、狭いながらも道らしい道が続いているように見えた。御手洗はシルバーを連れて、大股にどんどん進んでいく。ついで大器君と里美ちゃんが、その後を息を切らし気味に私が、そして西園寺一行が続いた。ところどころ、岩肌のようになっていて登りづらかったが、徐々に山を登り、森の奥へと進んでいった。時々、温泉が出ているところから、湯気があちこちにのぼっていた。みると、変な彫刻がたくさん建っている。入浴も出来るようだった。それらが「彫刻の森温泉秘境」と名のついた理由なのだろう。

しばらく行くと、御社のような建物が建っていて、道が二手に分かれるところへ出た。一行はどちらに進むべきなのかしばし迷い、とりあえずここらで水筒の中身でも飲みながら休憩を取ることにした。
水筒の中身は、なんと夕べ大器君の飲んでいた銀色の飲み物だった。なんとも形容のしがたい味がしたが、意外と喉越しは良く、潤った。
突然、金色の光が御社の方から差し込んできた。背を向けていた一行が驚いて振り返ると、御社の扉が神々しく開いた。金色の光の中から、赤い髪の一人の青年が現われた。
「え?hideさん?」
大器君が別の意味で驚いて言った。
「皆さん、地球からいらしたのですね。」
良くみると、hideさんと呼ばれたその青年は、体が半分透き通っていた。
「hideさんって、あの、X−JAPANの?どうしてこんなところにいるの?」
里美ちゃんが大器君に向かって言った。若い二人以外には、何のことやらさっぱりわからない。
「皆さん、こちらにはどのような訳があっていらしたのですか?」
「魔法の呪文の本を探しに来たんだ。」
御手洗が落ち着いた声で言った。
「ああ、魔法の書ですね。それなら、黄泉の国を抜けて行かなければなりません。しかし、黄泉の国は非常に迷いやすく、その上悪い魔法使いがたくさん住んでいます。もし、私の願いを聞いてくださるのなら、私が魔法の書がまつられている魔法の館まで案内して差し上げましょう。」
私達は、思わず顔を見合わせた。
「その、願いとは?」
「実は、私が地球で亡くなった時に、何人か後を追って自殺を図ったファンの方がいらっしゃいます。ほとんど私が三途の川まで迎えに出て、救出してお戻ししたのですが、お一人だけお救いすることが出来なかった方がいらっしゃいます。彼女は自殺者の森を彷徨っている筈です。私は自殺をしたわけではないので、自殺者の森には入れません。この分かれ道を右へ行けば黄泉の国、左へ行けば自殺者の森です。彼女は私と同じ赤い髪をしています。どうか彼女を探し出し、黄泉の国まで連れ出して欲しいのです。そうすれば、彼女は私と共に天国へ行けるでしょう。」
三途の川?自殺者の森?何やらにわかには信じがたい話だ。
「その自殺者の森で、我々が迷わずに出てこられるとでも言うのかい?」
意外と冷静に、御手洗は言った。
「この金の水を持って行って下さい。この水は無限に出て、決して消えることはありません。この水を撒きながら、進んで行って下さい。」
hideさんは、赤い紐のついた瓢箪のような入れ物を差し出した。
「なんだか、御伽話みたいですね。」
大器君がそれを受け取り、ごくんとつばを飲み込みながら言った。
「いいでしょう、その代わり、必ず魔法の書が手に入れられるように願いますよ。」
「お約束致します。それでは、黄泉の国でお待ちしております。」
hideさんはわずかに唇の端で微笑んで、こちらを向いたまま後ろに下がり、御社の扉はパタンと閉まった。
辺りは森の木々の間からわずかに射す光だけで、再び薄暗く静かになった。
一行はしばらく、ぽかんとしたままその場を動けなかった。

To be continued・・・

魔法使い☆潔・魔界の城編へ続く


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