馬車道ロボ1 ハツユメ 2001.12.25
「石岡君、起きて、はやく起きたまえ!」
御手洗に叩き起こされて、寝ぼけ眼で時計を見ると、まだ夜中の2時半だった。状況が全くつかめず、ベッドに半身を起こしたままボーっとしていると、御手洗が私のクローゼットから何やら洋服を出してきてベッドの上に放り投げた。
「さあ、はやくそれに着替えて!」
御手洗が何かものすごく急いでいるようだったので、仕方なく洋服に手を通すと、何故かレーシングスーツのようなオレンジ色のつなぎだった。こんな服、持っていたかなと不審に思いながらも、股から首まである長いジッパーを上げた。
「さあ、はやく、地球の危機なんだ!」
地球の機器?何のことを言っているんだろうと思いながらも、御手洗に促されて部屋を出た。見ると、御手洗も同じオレンジ色のつなぎを着ている。ペアルック?ますますわけがわからない。
何やら頑丈そうな靴も履かされて、外へ出ると真冬の冷たい風が頬を刺した。御手洗はずんずんと歩いて、馬車道の中でもひときわ異彩を放つ風貌の日本興亜損保ビルへ向かっていく。下は隣りの歴史博物館に合わせたレトロな外観だが、上を見上げると全面ガラス張りの近代的な建物だ。
御手洗は日本興亜損保ビルに迷わず入っていったので、私もあわてて後を追った。
エレベーターに二人で乗りこむと、御手洗は7階のボタンを押した。
「おい、御手洗、一体何があるって言うんだよ。」
「いいから、黙ってついてきたまえ。」
7階のドアが開くと、外観とはちょっとイメージの違う、いかにも古いビルという感じの廊下に出た。今時珍しいような、ダイヤル式の空調が、廊下の壁についている。タバコの臭いが染みついているようで、鼻につく。廊下のすぐ左側のドアを開けて、御手洗は中へ入っていく。私も後を追おうとすると、そこには女子トイレの文字が書いてあった。
「おい、御手洗、ここは女子トイレじゃないか。」
「いいんだよ、石岡君、はやく君も入ってきたまえ。」
私は渋々ドアを開けて中に入った。すると、そこには世にも奇妙な光景が繰り広げられていた。
まるで異次元への入り口のような、暖められた空気のような渦巻きが、デローンと目の前に浮かんでいた。じっと見ていたら、確実に目が回ってしまいそうだ。その横に御手洗が立って、私のことを待っていた。
「やっぱり、ASKAちゃんの言ったとおりだ。ここがコックピットへの入り口だった。さあ、石岡君、準備はいいかい?」
ASKAちゃん?誰だろう、それは?コックピット?何のことだろう?
「御手洗、一体これは・・・。」
「さあ、石岡君、時間がないんだ。地球のためだ、もう行くよ。」
御手洗は無理矢理私の背を押して、渦巻きの方へ導いた。私は驚いて抵抗したが、御手洗にドン!と背中を押されて、渦巻きの中へ吸い込まれていった。
「わああああああああ!!!!」
私は真っ暗な空間の中を、回転しながら引き込まれるように飛んでいった。ハッと気が付くと、何かのコックピットの椅子に座らされていた。ドンっと音がして横を向くと、御手洗が隣りの椅子に着地していた。
「さあ、シートベルトを締めて!」
私は言われるままにベルトを探って、ガチャンとロックした。御手洗もベルトをし、何やら目の前に並んだわけのわからないボタンを、目にもとまらぬ速さで押した。
「戦闘モード!」
御手洗が叫ぶと、ウイーンと音がして機体が動き始めた。シェイドのようなものが開いて、夜の馬車道の風景が、目の前に開けてきた。ガクン、ガクン、と時折機体が揺れ、目の前のガラスから下を見下ろすと、なんと巨大な腕が見えた。もっと下には足もついている。巨大ロボだ!
「御手洗、これはどういうことなんだ、何故僕達はロボットに乗っているんだ?」
「石岡君、今、地球に向かって、巨大な隕石が飛んできているんだ。これをくい止めなければ、地球は衝突の衝撃で、ばらばらに砕け散ってしまう。僕らがそれを防がなければ、僕らの愛する人々は、みんな死んでしまうんだよ。」
巨大な隕石?何か、どこかで聞いたような・・・。
「さあ、石岡君、行くよ!馬車道ロボ、発進!!!」
馬車道ロボ?何か、もっといいネーミングはないのか?
「わああああ!!なんで、僕らが行かなくちゃならないんだ?なんで僕なんだ?」
「石岡君、往生際が悪いぞ!男らしく腹を決めたまえ。」
ズドドドド・・・という地響きと共に、巨大ロボは持ち上がり、暗い宇宙に向かって飛び出した。すると、遠くでジリリリリ・・・という、なにかベルの音のようなものが聞こえ、ハッと気づくと、私は自室のベットの上に、汗をぐっしょりかいて、起き上がっていた。
なんだったんだ?夢?
ふとクローゼットの方を見ると、扉からオレンジ色のつなぎのズボンが、はみ出していた・・・。
To be continued・・・
馬車道ロボ2 テプラ誘拐事件 2002.2.14
それは、清々しい冬の朝のことだった。
いつものように紅茶を入れ、朝食はクロワッサンとハムエッグにでもしようかと冷蔵庫に手をかけた時、例のオレンジ色のつなぎが視界をかすめた。
思わずびくっとして、冷蔵庫のドアにぶら下がったまま、ずるっと片足を前に投げ出し、しりもちをついてしまった。
「おはよう、石岡君、いい朝だね。」
「み、御手洗、そ、そのつなぎは・・・。」
「ん?なんだい?ああ、ちょっと馬車道ロボのメンテナンスに行こうと思ってね。何しろ、馬車道ロボは日本最古の戦闘ロボットだからね。いろいろガタがきてるんだよ。」
御手洗は、平然とした顔をして、紅茶をポットからカップに注いだ。
「ば、馬車道ロボって、あ、あれは夢じゃなかったのか?!」
「何を言ってるんだい、石岡君、ああ、そういえばこの間は宇宙に出る前に君は気を失ってしまったんだっけ?おかげで僕は、一人で隕石を処理しなければならなかった。まあ、あれくらい、僕一人でも充分だったんだけどね。それより、朝食はどうなっているんだい?」
私は、呆然としながらも、立ち上がって律儀に冷蔵庫から卵とハムを取り出した。
「に、日本最古のロボットって、他にもロボットがあるとでもいうのかい?」
御手洗は呆けた顔で、こちらを見た。
「石岡君、まさか君、何も知らないんじゃないだろうね?」
「何も知らないって、何をだよ?」
御手洗は、あーっとうなりながら、目頭に手を当てた。
「君は平和な人だね。毎日、日本興亜ビルやランドマークをみていて、あれがただのビルディングでないことくらい、気づかなかったのか・・・。」
「え、ランドマークも、ひょっとして・・・。」
「当たり前だよ、ランドマークタワーや都庁は、最新型の戦闘ロボットさ。あれは規模が大きすぎて、一人や二人じゃ扱えないけどね。」
「えー、じゃあ、池袋のサンシャインビルなんかも、ロボットに変身するのかい?」
「何を言ってるんだ、石岡君。あれはどう見てもただのビルディングじゃないか。」
私は持っていたフライパンを、危ういところで取り落とすところだった。
「ど、どこがちがうんだよ〜。」
「とにかくね、石岡君、日本の文化の発祥地は、ここ、馬車道だって事さ。馬車道には日本で初めて出来たものがたくさんあるんだよ。アイスクリーム、街路樹、ガス灯、写真館、日刊新聞、乗合馬車・・・。」
私は思わず、馬車道のガイドブックを目でさがしてしまった。
「さあ、はやく朝食にしよう。それから、君もはやくつなぎに着替えるんだ。」
結局、僕も行かなければならないのか・・・と思いながら、フライパンに卵を落とした。
それにしても、昼間、オレンジ色のつなぎのペアルックで外に出るのは、ちょっときつかった。
「御手洗〜、せめて昼間はこのつなぎはやめようよ〜。だいたい、日本興亜ビルだって、昼間は人が働いているだろ〜。」
「大丈夫だよ、石岡君。ちょっと外を見てみたまえ。」
御手洗が玄関を開けて外に出たので、渋々後から顔をのぞかせた。
「ほら、馬車道は今、大々的に工事中なんだ。つなぎを着たお兄さんなんて、たくさんいるよ。」
確かに、ブルーやパープル、グリーンのつなぎを着たお兄さんたちがたくさん働いていた。
「なるほど、言われてみればそうだね。で、でもさあ、馬車道ロボの入り口って、確か女子トイレじゃあ・・。」
「大丈夫だよ、石岡君。メンテナンスはコックピットの中からするんじゃない。他に入り口があるらしいんだ。だから、ちょっとASKAちゃんに聞きに行かなくちゃならない。」
「そうそう、ASKAちゃんって、一体誰なんだい?」
御手洗は奇妙に左の眉を吊り上げて、小首をかしげて私のことを見下ろした。
「ASKAちゃんはね、君が小説に書く程のこともない僕らのたわいない日常生活を、世界中に向けてインターネットで発信してくれているんだよ。気が付かなかったのかい?」
「え、僕らの日常生活って・・・。」
「例えば、君と里美ちゃんのデートとか・・・。」
「え〜、なんで、そんなこと、世界中にって、どういうことだよ〜!!」
「まあ、それは冗談として、ASKAちゃんは日本興亜ビルで働いてるんだ。」
動揺している私を残して、御手洗はズンズンとアパートの階段をおりていった。
「まずは、ASKAちゃんに会わなくちゃならない。」
御手洗は、平然としてエレベーターのボタンを押した。
「ASKAちゃんって、何の仕事をしているんだい?」
「石岡君、ここは日本興亜損害保険のビルだから、日本興亜ビルって呼ばれているんだよ。保険を付保しているに決まっているじゃないか。もっとも、ここにはステーキドームやその他のテナントも入っているけどね。」
「でも、仕事中に訪ねていってもいいのかい?」
うーん、とうなりながら御手洗が固く目をつむった時、ピンポーンと音が鳴って、エレベーターが開いた。
「まあ、アポなしだけど、なんとかなるさ。」
そんないいかげんな、と思いながらも、エレベーターに乗り込んだ。
この間の女子トイレと同じ階に着き、ピンポーンという音と共にエレベーターが開くと、何やら女性の金切り声が聞こえてきた。
Mナベ「あー、テプラさんがない〜!!!」
ASKA「ほーっほっほっ、テプラさんは私が誘拐したわ!!」
Hヤマ「テプラさんを返しなさい!!!」
Kノ「テプラさんは、私達マリングループが頂いたわ!」
Sモト「何を言ってるの、テプラさんはみんなのものよ!」
何やら5人の女性達が言い争っていたが、御手洗はずかずか割って入って行った。
「ASKAちゃん、やめなさい。」
テプラさんを抱えた女性から取り上げて、御手洗が言った。
「だって〜、御手洗さん、テプラさんは1個しかないんだもん〜。」
「だから、みんなで仲良く使いなさい。どうしてももう1個欲しかったら、買ってあげるから。」
「本当?御手洗さん大好き〜」
「というわけだから、石岡君、テプラさんを買ってASKAちゃんに届けてあげなさい。」
「な、なんで?僕が?」
「宜しくお願いしまーす!!!」
5人の女性達に頭を下げられてしまった。
「そうそう、ASKAちゃん、例のメンテナンスに来たんだけど・・・。」
「あ、それだったら、1階の駐車場側の管理人室に行ってください。おじさんに話してありますから。」
「わかった。石岡君、行こう。」
「・・・ねえ、あれがうわさの・・・。」
「やっぱり、素敵ねえ・・・。」
「石岡君も、想像どおりねえ・・・。」
女性達のひそひそ声に送られながら、またエレベーターに乗り込んだ。
「あ、石岡さん!」
ASKAちゃんに呼び止められた。
「また、遊びに来てね!」
手を振る彼女に、私があいまいな笑みを浮かべると、エレベーターのドアは閉まった。
「良かったね、石岡君。すべて丸くおさまって。」
「いったい、何だったんだよ〜。」
「今はね、どこの会社も不景気で、テプラさんをいくつも買えないんだよ。」
そういう問題か・・・。だいたい、テプラさんって・・・。
「ね、こういうたわいのない事件は、ASKAちゃんがホームページで読者に伝えてくれるんだよ。」
事件とすら呼べないじゃないか、と思っている間に、エレベーターは1階に着いた。
To be continued・・・
馬車道ロボ3 遥かなる万里 2002.3.9
その日、大器君がついに病院を退院するというので、御手洗と二人でM病院へ来ていた。
「もうほとんど普通に歩けるようになったね。」
「はい、おかげさまで松葉杖ももう必要ありません。まだ、以前のように走ったりは出来ませんし、リハビリにもしばらく通うことになりますけれど、それでも学校に行って部に顔を出せるだけでも楽しみなんです。」
「そうか、バスケットの試合に出る時には、呼んでくれよ。」
「本当に、お世話になりまして・・・。」
大器君のお母さんも、嬉しそうに涙ぐんでいる。
「ところで大器君、ちょっと相談があるんだけど。」
御手洗が唐突に言った。
「はい、なんでしょう?」
「君、巨大ロボの乗組員にならないかい?」
「み、御手洗、なんでそんなことをこんな場所で・・。」
「巨大ロボ?」
大器君もお母さんも、戸惑った表情をみせている。
「いやあ、大器君はただ、一緒に馬車道ロボに乗ってくれればいいだけなんだ。どうせ、この石岡君も、操縦なんて何も手伝えないんだしね。でも、馬車道ロボに乗れば、一瞬でアメリカまでも飛んでいけるんだよ。いずれ、宇宙にも連れてってあげられるんだけどなあ・・・。」
「え、アメリカ?本当ですか?」
「一瞬でアメリカに・・・。」
二人はにわかに目が輝き始めている。
「ちょっと、御手洗、どういうことなんだよ?だいたい、僕もしっかりメンバーに組まれているみたいだけど・・・。」
「何をいまさら言っているんだい?君はどこまでも僕と一緒だろ?」
「ど、どこまでもって・・・。」
ちょっと赤面してしまった。
「あのね、今度万里の長城で、戦闘ロボ対戦型すごろく大会が催されるんだよ。」
「はあ?すごろく大会?!」
3人は同時に口を開けたまま固まってしまった。
「それにエントリーするには、乗組員を最低でも3人登録しなければいけないんだ。」
「はあ、3人ですか・・・。」
大器君はちょっと考えて、
「いいですよ、僕、乗ります。その代わり、僕がアメリカへ行ったあかつきには、時々日本へ帰るのに、迎えに来てもらえませんか?」
と言った。
「まあ、それはいいわ!それならしょっちゅう、帰ってこられるし・・・。」
お母さんも、すっかり乗り気になってしまった。
「よし、決まりだ!石岡君、実は戦闘ロボには、動物を一匹乗せてもいいんだ。もちろん、シルバーを連れて行くからね。いやあ、楽しみだなあ!」
御手洗は病院の廊下をスキップしはじめた。すっかりシルバーは自分の犬扱いである。
「君達、そんな遠足気分で大丈夫なのかい?」
突然、話し掛けられて振り向くと、濃紺のスーツに派手な色彩のネクタイをした背の高い男が、包帯を巻いた左手をこちらに指差すように突き出して立っていた。
「あ、お前は、西園寺君麻呂!!」
御手洗は、まるでカンフーのような構えをして、その西園寺なる人物をにらみ返した。
「いかにも。あんな馬車道ロボのようなオンボロロボットで、この西園寺君麻呂が操縦するランドマークロボに勝てるつもりでいるのかな?」
「ランドマークロボって・・。やっぱりランドマークタワーも戦闘ロボだったのか?!」
「そう言ったじゃないか、石岡君。この男は横浜で2番目に金持ちなんだよ。1番は、ASKAちゃんのお母さんのお友達がお嫁にいった家だけどね。」
「それを言うなー!!いずれ1番になってやるさ!!とにかく、世界貿易センターロボが出場しない今年こそ、我がランドマークロボが優勝をするのだ!」
西園寺は左手をぐるぐる振り回し、ほどけかけた包帯もぐるぐると回った。
「ちょっとお見受けするに、おけがをなさっているようですが・・・。」
私は遠慮がちに話し掛けた。
「ああ、これはマイスゥイートハニーのエヴィータちゃんとじゃれあっている時に、ちょっと爪が当たっただけだ。」
「飼い猫のヒマラヤンにひっかかれたんだとさ。」
「とにかーく、優勝して宇宙温泉の宿泊券を手に入れるのは、この西園寺君麻呂だ!」
「なにおぅ、この御手洗潔が新たにチューンナップした馬車道ロボが、初優勝を飾るのだ!!」
二人の間に火花が散った。ふと振り返ると、大器君親子が待合室のソファーで平和そうに缶ココアをすすっていた。
To be continued・・・
馬車道ロボ4 フラ〜イミトゥザム〜ン♪ 2002.3.10
「石岡君、僕は月に土地を買ったんだ。ついては1ヵ月後のすごろく大会に備えて、合宿を組もうと思う。」
午後のTea Timeを楽しんでいたら、またも唐突に御手洗は言った。
「合宿って、つ、月に土地を買っただって〜?!」
御手洗はオレンジペコを飲みながら、「このシナモンロールおいしいね。どこの?」と言った。
「それは、ケンタッキーで買ってきたんだ。いや、それよりも、月に土地を買ったって・・。」
「石岡君、この間のスマステみなかったのかい?月の土地が1エイカーたったの20ドルで買えるんだよ。しかも、インターネットで気軽にね。」
「か、買ったのかい?」
「うん、簡単にね。」
御手洗は、大きなビニール袋から、ごそごそと宇宙服のようなものを取り出した。
「そ、それ、僕らが着るの?」
「いや、これはシルバーの宇宙服さ。特注で作ったんだよ。君と大器君のはとっくに出来上がってるよ。大器君のはでかいんだこれが。君のはまた、クローゼットにかけておいたからね。」
げ、気づかなかった・・・。
「そんな、大器君はまだ足が完治していないんだよ。月で合宿ったって・・。」
「だから、リハビリも兼ねて行くんだよ。月の重力は地球の6分の1だからね。足に負担をかけないで、バスケットだって出来るさ。行ったら、さっそくバスケットのコートを作るつもりだよ。それにね、すごろく大会に優勝すれば、宇宙温泉に行けるんだよ。それこそ、彼の足にはいいさ。」
はー、なるほどね。なんだかまともな話に思えてきた。
「そ、その宇宙温泉って?どこにあるんだい?」
「もちろん、宇宙だよ。Hakone星雲、Begonia星にある、Himesyara屋っていう旅館に泊まって、Yu-Topiaっていう温泉ランドで温泉入り放題なんだよ。楽しみだろ?」
は、はこねせいうん?そんなの、聞いたこともない・・いや、ある意味聞いたことありすぎな気が・・・。
「とにかくね、あの君ちゃんにだけは負けられないからね。シルバー!宇宙服を試着しよう!」
「ワン!」
と言って、シルバーが御手洗の部屋から飛び出してきた。
「ちょっと、御手洗、いつの間にシルバーを連れ込んでるんだよ。」
「シルバーの飼い主は、海外出張が多くてね。」
御手洗はいそいそとシルバーに銀色の宇宙服を着せた。カプセルから覗くシルバーの顔が、なかなかに愛らしい。
「うーん、シルバー、いい男だぞ〜。本当に何を着ても似合うなあ〜。」
御手洗はシルバーに抱きついて、カプセルをなでなでしている。
「何を着てもって、まさか他にも何か着せたことがあるのかい?」
「この間は、チャイナ服を着せて中華街を散歩したんだ。」
「・・・そんなことをして、よく飼い主は怒らないね・・・。」
「いや、飼い主がコスプレマニアなんだよ。」
シルバー、君の周りには、まともな人間はいないのか・・・。ひかりちゃんと一緒に、相模原に行くか?
「明日から、2泊3日だからね。夕方、宅急便で宇宙食がNASAから届くから、リュックに詰めておいてくれ。僕はシルバーと、大器君のところへ打ち合わせに行ってくるから。」
打ち合わせって・・。僕はどうせ除け者なんだ。宅急便の番でもなんでも、していてやるよ〜。
次の日は、金曜日だった。馬車道ロボは、昼間は日本興亜ビルなので、お仕事中は動かせない。よって、社員が退社するのを待って出発し、日曜の夜中までに帰ってこなくてはならなかった。
「まったく、まだ仕事が終わってないのに・・。」
「休日出勤、出来ないっすよ〜、どうしましょう?」
夕方、ぶつぶつ言いながら、社員が出てきた。
「あ〜、御手洗さーん、がんばってきてね〜。」
ASKAちゃんも、手を振り振り帰って行った。
「みんな、迷惑そうじゃないか?」
「な〜に、少なくともASKAちゃんは残業しない主義だからね。迷惑には思っていないさ。」
いや、それ以外の社員さんの痛いような視線の方が、怖いんですけど・・。
「御手洗さん、やっとバスケットが出来るっす〜、楽しみですね〜。」
僕らとお揃いのオレンジのつなぎを着た大器君が、網に入ったバスケットボールを抱いて、ニコニコしながら立っていた。その横で、何故か日の丸の旗を持った彼のお母さんが、「良かった良かった・・。」と言いながら、また涙ぐんでいた。
「さあ、そろそろ出発だ!」
御手洗は意気揚揚と、シルバーを連れて日本興亜ビルのエレベーターへと向かっていった。
日本興亜ビルの管理人さんと大器君のお母さんが、「ばんざーい!ばんざーい!」と言って手を振り上げた。
「お母さん、行って来ます!」
大器君も元気良く答えて、エレベーターへ向かった。私は仕方なく、食料の入ったリュックと宇宙服の入った大きなスポーツバッグを持って、最後にエレベーターへ向かった。
例の女子トイレの穴からコックピットへ入ると、この間は気づかなかった、別室への扉があった。
御手洗は荷物を持って、その扉を開けた。
「石岡君、大器君、こっちが合宿中の君達の部屋だよ。」
扉を入ると、狭い廊下の左右に、いくつかの部屋があった。
「風呂も、ユニットバスだけど、各部屋についているからね。こっちの部屋がミーティング&リビングルーム。食料はこっちに持ってきてくれ。」
うーん、本当に合宿所のようだ。
荷物を置いて、コックピットへ戻ると、一人一人操縦席に座って、シートベルトをしめた。
また、御手洗は目にもとまらぬ速さで操縦ボタンを押した。すると、日本興亜ビルは馬車道ロボに変形をはじめた。
「わー、すごいっすね〜」
大器君はすっかりはしゃいでいる。シルバーは、御手洗の操縦席の脇に置かれた小さな犬小屋のようなカプセルの中で、おとなしくしている。
やがて、馬車道ロボに変形し終わり、夕暮れの馬車道が見渡せた。
下の方で、大器君のお母さんが、日の丸の旗を振っている。
「さあ、行くよ。馬車道ロボ発進!」
御手洗の掛け声と共に、ゴゴゴゴゴ〜っと地響きをたてて、馬車道ロボが浮き上がった。はやくも失神しそうになる私に向かって、御手洗は言った。
「石岡君、これくらいでまた失神していたら、すごろく大会でもたないぞ。何しろ、対戦型すごろく大会だからね、同じマスに止まったら、その相手の戦闘ロボと戦闘をして、勝たなければならないんだ。戦闘中の衝撃といったら、こんなものじゃないぞ。」
「うわー、ワクワクっすね〜。」
大器君、ワクワクって・・・、そんなサバイバルなすごろく大会だなんて、聞いていないぞ〜!!
っと思う間に、馬車道ロボは発進し、またも私は気を失った・・・。
「石岡君、着いたよ。月だ。」
御手洗に揺り動かされて、私はようやく目を覚ました。
「石岡さん、だらしないっすよ〜、地球がものすごく綺麗だったんですから〜。」
やっぱり地球は青いのか、と思いながら、シートベルトをはずした。
「よし、まずは腹ごしらえだ。ディナーにしよう!」
ミーティング&リビングルームへ向かって歩を進めると、非常に体が軽くなっているのに気づいた。
「軽いっすね〜、さすが月っすね〜。」
「ははは、これならよっぽどゴールは高くしないと、全部ダンクシュートになっちゃうね。」
「ワン!」
狭いながらもテーブルと4つの椅子が並んでいた。それぞれが椅子についた。シルバーが、残った椅子に乗っかった。
「3人で、どうやってバスケをするんだい?」
「僕と大器君でワン・オン・ワンをするから、君はシルバーと、審判でもしていてくれ。」
はいはい、どうせ僕にバスケは無理でしょうよ。
御手洗が、食料を出して、レンジのようなものに入れて、ボタンを押した。
「宇宙食って言ってもね、最近はいろんなものが出来てるんだよ。ほとんど、レトルト食品と一緒だね。今夜は新製品の、カレーうどんを食べよう。月は重力があるからね、苦労しないで食べられるよ。」
チン!と家の電子レンジのように鳴って、あたたかいツユなしのカレーうどんが出来上がった。
おそるおそる食べてみると、案外これがおいしかった。
それから、約2日間、合宿はとても楽しかった。本当にセッティングしたバスケットコートで、大器君は御手洗と、とても楽しそうにプレイしていた。私もシルバーと走り回りながら、時折ビッグジャンプをして楽しんだ。自分の体とは思えないほど、高く飛べた。地球は、青くて、とても綺麗だった。馬車道ロボの、戦闘訓練はちょっと怖かったが、だんだんと衝撃にも慣れてきた。
日曜の夜になると、まだ帰りたくないと思ってしまった。
それでも、馬車道ロボは返さなくてはならない。
「楽しかったですね〜。また来ましょうね。」
「もちろんだよ、ここは僕が買った土地なんだからね。そのうち、家も建てようよ。」
「いいかもしれないね。」
「ワン!」
シルバーも楽しそうにないた。今度は気絶しないで、地球まで帰り着いた。
To be continued・・・
馬車道ロボ5 サターンの陰謀 2002.3.10
「先生、私も宇宙温泉行きたい〜。」
里美ちゃんがすごろく大会を明日に控えた我が家に来て言った。
「連れて行ってあげたいのは山々なんだけどね、なにしろ、馬車道ロボは戦闘ロボットだろ?僕だって2度も気絶したくらいだからね。女の子を乗せるわけには、いかないよ。」
「僕は最初から気絶しませんでしたよ。」
大器君が明日の荷物を整理しながら言った。
「そりゃあ、大器君はスポーツで鍛えているからだろ?体が違うもの。」
「気絶するのは、石岡君だけだと思うけどね。」
御手洗がシルバーの毛繕いをしながら言った。
「ひどいな〜、あれが宇宙に飛び立つ時は、すごいGがかかるもの。なんの訓練もなしに、宇宙へは連れて行けないよ。」
私は夕食のパスタをゆでながら言った。
「先生、野菜も食べた方がいいですよ〜、サラダでも作りましょうか〜。それだったら、私も訓練する〜。」
「里美さんだったら、訓練なしでも大丈夫だと思うけどなあ。若いし。」
どうせ、私は運動不足の中年ですよ。
「そういえば、大器君、すっかり足、良くなったみたいですね。」
「はい、まだ50メートル6秒台でしか走れませんけどね。」
「えー、すごーい!私、一番速い時でも、7秒8くらいだった〜。」
「そりゃあ、女の子とは違うもの。」
私は、何秒で走れたっけ・・・。
「プロの運動選手を目指すんだったら、5秒台は当たり前だからね。もう少しだね、大器君!」
「はい、がんばります!」
普通の生活をするには、充分すぎるくらいだな。
「ところで〜、すごろく大会って、どのくらい参加があるんですか〜。」
御手洗がシルバーに、銀色のリボンを結ぼうとしたので、思わずリボンを取り上げた。
「何をするんだよ〜、うーんとね、毎年まちまちなんだよね。多い時で、30体くらいかなあ。」
「へえ〜、そんなに戦闘ロボってあるんですねえ。」
「世界中でいったら、いくつあるかわからないほどだよ。規模も色々あるしね。北朝鮮なんて、いくつ作っているか、まったく見当がつかないよ。」
そう考えると、恐ろしい。
「とにかく、けがしないでがんばってきてくださいね。戦闘って、ミサイルとかも使うの?」
「いや、ミサイルや光線、ソードなんかの武器類は禁止なんだ。空も飛んじゃいけないしね。まあ、ジャパーニーズ"相撲"みたいなもんだね。倒れて肩が地面に着いたら、負けなんだ。」
「へえ、じゃあ、ロボットが壊れたりはしないのね。」
「まあ、多少壊れる可能性はあるけれどね。世界ロボット救護隊がメンテナンスに控えていてくれるから、すぐに治してもらえるよ。」
人は?人はけがしないのか?
「いやー、ワクワクっすねえ。先生、パスタ、のびてませんか?」
「あー、忘れてた!」
アルデンテとは程遠くなってしまった・・・。
翌日、またも日の丸の旗を持った大器君のお母さんと日本興亜ビルの管理人さん、そして里美ちゃんとASKAちゃんが見送りに来てくれていた。
「先生、おみやげね〜。」
「おみやげって言っても、万里の長城で何か売っているかなあ・・・。」
「シルバー!!」
甲高い声がして、息を切らせたひかりちゃんが現われた。後ろから、もっと息を切らせたお父さんがついてきている。
「良かった、間に合いましたね。」
「ワン!ワン!!ワン!!!」
シルバーが嬉しそうに、ひかりちゃんに抱きついて、ひかりちゃんごと倒れてしまった。
「危ないよ、シルバー!」
御手洗が、嫉妬の目でその光景を見ている。
「シルバー、がんばってきてね。」
シルバーは、何もしないと思うんだけど。あ、それは僕と大器君も一緒か。
「いやあ、ひかりがどうしても見送りに来るってきかないもんで。」
「元気になったみたいだね、ひかりちゃん。良かったよ。」
「今度、マリアのところにも遊びにきてね、シルバー。」
「マリアちゃんは、犬種はなんなんだい?」
「ゴールデンリトリバーです。」
御手洗の目が、にわかに輝いた。
「わかったよ、御手洗。今度、相模原に遊びに行こうね。」
「石岡さ〜ん、そろそろ行かないと〜。」
大器君が手を振っている。
「先生、がんばってね!!」
「シルバー、がんばって!」
「大器〜、ファイトよ〜!」
「御手洗さ〜ん、ガンバ!」
私たちは、黄色い声援を受けて、馬車道ロボへ乗り込んだ。
万里の長城へ着くと、たくさんの戦闘ロボでひしめいていた。
「すごい数だね、これだけ戦闘ロボが集まると、恐いくらいだね。」
エントリーのために、馬車道ロボを降りると、その戦闘ロボたちの大きさに圧倒される。
まるで、大都会のビル街にいるようだ。
「御手洗、ちょっと話があるんだが・・・。」
「うん?おのれ西園寺!!」
御手洗が反射的に身構えたが、なんだか西園寺の様子がおかしい。
「御手洗、一大事なんだ。あそこを見てくれ。」
西園寺の指差す方を見ると、どこかで見たことのあるような戦闘ロボが立っていた。
「あれは・・、池袋サンシャインビル?!そんな馬鹿な!!」
「なんだよ、サンシャインは戦闘ロボじゃないって言ってたじゃないか。」
私は、いつか小馬鹿にされたのを思い出した。
「いかにも。元々は戦闘ロボットじゃなかったのさ。しかし、闇の組織、ブラックサターンが、戦闘ロボに改造していたんだ。」
「ブラックサターン!?あの、ブラックサターンが?!」
「なんなんだい、その、ブラックサターンって?」
「土星に本拠地を構える、悪の組織さ。見たまえ、その向こうを。都庁ロボがいるだろ?あれは日本政府の防衛用ロボットで、こんなイベントには普通、参加しないんだ。しかし、ブラックサターンの気配を感じた政府が、都庁ロボを送り込んできた。」
御手洗は、うーむとうなった。
「それで、首相や都知事が来ていたんだね。」
「え、首相?!どこどこ?!」
「石岡君、都庁ロボは、首相や都知事が普段操縦しているんだよ。つい最近までは元外相も乗っていたんだけど、今回は首相のタレントの息子と、都知事のお天気お兄さんの息子が一緒に乗るみたいだね。」
「御手洗君、気象予報士と言っておあげよ。」
見ると、話題のJr.達の顔も見える。
「わー、すご〜い!!サイン欲しいなあ!」
「やめなよ、大器君、政治家のサインなんて。」
「違いますよ〜、K太郎さんのですよ〜。クラスの女子に、自慢出来るんだけどなあ〜。」
「いいよ、行っておいでよ。それより、って言うことは・・。」
「おそらく、僕らにも協力の要請が来ますよ。みんなで、サンシャインロボを倒さなければ。」
「なるほど、今回は手を組まなければならないってことか。」
「いかにも。」
二人の瞳がキラリーンと輝いた。西園寺の足元には、毛並みの良いヒマラヤンが寄り添っていた。
To be continued・・・
馬車道ロボ6 決戦! 2002.4.6
「ワン、ワワワン、ワン!」
シルバーがにわかに吠え立てたので、振り返ると、いかにも怪しい、スキンヘッドでとがった耳の三人組がいた。
「あれ、もしかして・・。」
「ああ、ブラックサターンのようだな。」
服装はエメラルドグリーンのつなぎを着て、変装しているつもりなのかも知れないが、あの耳ではどうみても宇宙人ではないか。
「ブラックサターンって、地球人じゃないのか?」
「うーん、ある星雲から地球にひそかに移住してきている宇宙人と地球人のハーフっていうところかな?」
「い、移住って、地球に宇宙人が住んでいるのかい?!」
「石岡君、メン・イン・ブラックっていう映画をみなかったのかい?」
御手洗はさして興味もなさそうに、シルバーの毛を手櫛でとかし始めた。
「え、だってあれはあくまでも映画だろう?」
「石岡君、まったく根拠のないところから、物語は生まれてこないんだよ。」
うう・・、言っていることが理解できない・・・。
「君の小説だって、僕らに起こったことをそのまま書いているじゃないか。」
そう言われればそうだけど・・。
「ソロソロ、BOSS!」
たどたどしい日本語が聞こえて、背の高い黒人の二人組がやってきた。
「あれー、どこかでみたような・・。あ、馬車道の入口にある洋服屋の前にいつも立っている黒人さん達だ!」
「私は貿易会社もやっているんですよ。あの店はUSAから直輸入した洋服を扱っていてね。彼等は一応、うちの社員なんですよ。そろそろ、ロボに乗り込まなければならない。とりあえず、サンシャインロボを倒すまでは協力して戦いましょう。もちろん、その後は私達のランドマークロボが、優勝させていただきますがね。」
「その言葉、そっくりお返ししましょう。」
西園寺と御手洗との間に、ニヤリとした笑いが飛び交った。
「さあ、あたくしたちもそろそろ。」
「そうですわね、お兄様。」
不気味な甘ったるい声がしたのでびっくりして見てみると、なんといかにもごっつい風貌の、ブラックサターンたちの声なのだった!
「み、御手洗、ブ、ブラックサターンって・・・。」
「ああ、性別もハーフなんだ。」
「ホホホホホ・・・。」
不気味に笑いながらこちらをチラリと見て、ブラックサターンはサンシャインロボの方へ消えていった。
「石岡さーん、K太郎さんのサイン、もらっちゃいました〜!!」
サブいぼをたてている私のことなど知らずに、幸せそうな大器君が、どこから調達したのかわからない色紙をヒラヒラさせながら走ってきた。
「ところで、ブラックサターンの目的は、いったいなんなんだい?」
操縦席に座り、いつもよりも念入りにシートベルトをチェックしながら、御手洗に聞いた。
「宇宙温泉だよ。宇宙温泉っていうのはね、かなり厳重に警備されていて、ごく少数の選ばれた者達しか入れないんだ。だから、この大会は非常に人気が高いんだけれどね。ブラックサターンは突然変異の少数民族なんだが、特殊な能力を持っているんだ。素っ裸の人間にサターン念力ビームを浴びせると・・・。」
「浴びせると?」
「その人間は性転換してしまうんだ。」
げげっ、性転換?!
「そして、徐々にブラックサターン化し、最終的にはブラックサターン一族になってしまう。ブラックサターンは宇宙温泉に行き、様々な宇宙人たちをブラックサターン化して、ゆくゆくは宇宙全体をのっとろうと考えているのさ。」
「大変じゃないか!!」
思わずいきんで立ち上がろうとし、シートベルトが喰い込む痛みに跳ね返されて、操縦席に貼り付き、車に轢かれたカエルのようなポーズになってしまった。
「あれー、石岡さん、どうしたんですか〜?」
MDウォークマンのイヤホンをはずして、大器君が言った。
「大器君、何を聴いていたんだい?」
御手洗は私のことなど意に介さずに聞いた。
「XJAPANです〜、ASKAさんがくれたんです〜。首相もファンなんですよね〜。」
「さあ、石岡君、いつまでもそんな格好をしていないで、ちゃんと座りたまえ。そろそろ始まるんだからね。」
私はおとなしく「はい。」と言って、きちんと座りなおした。
周りをあらためて見渡すと、小さな馬車道ロボに比べて、みんな遥かに背が高い。
「御手洗〜、これは俺達不利なんじゃないか?どう考えても、戦闘で勝てるとは思えないよ〜。」
「大丈夫だよ、でかければいいってもんじゃない。小回りのきく馬車道ロボにも、勝機は充分あるさ。」
「ワクワクっすね〜。あ、あの斜めに傾いているロボットは・・?」
「ピサの斜塔ロボだよ。最近、やっとメンテナンスが終わったんだ。何しろ、古いからね。最初はあれを狙っていくか。」
あれまでもがロボットだったのか・・・。
「僕達の順番は、41チーム中29番目か・・・。大器君、他のロボたちの順番を覚えているかい?」
大器君は何も見ずにスラスラと答え始めた。
「確か、ブラックサターンは16番目、西園寺は21番目、都庁ロボは39番目ですね。ピサの斜塔ロボは26番目だったと思います。」
「さすが大器君、若い頭脳をフルに発揮しているね。じゃあ、石岡君、1番をひいたのは何ロボだったか覚えているかい?」
「えーっと、1番は、えっとー・・・。」
「オペラハウスロボだよ。ほら、そろそろ開始の時間だ。ファーストダイスが振られるよ。」
わりと横幅はあるが上背のない戦車型ともいえるオペラハウスロボが、12面のサイコロを持ち上げて振り下ろした。
「おー、いきなり10を出したよ。僕だったら、ちゃんと軌道と力配分を計算して、12を出すことができるけれどね。ちなみに石岡君、このコースは全部で何マスだったか覚えているかい?」
「えーっとー、100マスくらいだったっけ・・・。」
「222マスですよ、石岡さん。」
「石岡君、いくら何もする必要がないとはいえ、もう少しこの大会に興味を持ってくれたまえよ。大器君をクルーに選んでおいてよかったよ。最後はぴったりを出さないとゴールできないんだ。僕ならどんな数字も思いのままに出せるから、問題ないけどね。」
御手洗が自慢気に語っている間に、次のエンパイアステートロボがダイスを振っていた。
「あ、10を出しましたよ!」
「ふーむ、エンパイアロボはオペラハウスロボを潰しにかかるつもりだね。」
10マスめのところで、エンパイアロボとオペラハウスロボの戦闘が始まった。
エンパイアロボの方が遥かに大きいが、いかんせん戦車型のオペラハウスロボは攻撃を受けてもひっくり返らず、足に猛タックルをくらったエンパイアロボの方がバランスを崩して後ろに倒れてしまった。
「ほらね、石岡君、小さくても負けるとは限らないんだよ。」
ちょっと待て、オペラハウスロボの肩はどこにあるんだ?!
「僕達もがんばりましょうね!!」
大器君はニコニコ顔で、いつのまにか取り出したバター風味のポップコーンを食べていた。
次々とロボ達がダイスを振っていき、一巡目には我々日本勢は同じマスには止まらなかった。御手洗は、11を出したピサの斜塔ロボを狙って11を出し、最初から傾いているピサの斜塔ロボをなんなく倒した。結局、一巡目で12マス全部に1ロボづつ残って、41あったロボ達は一気に12ロボに減った。
「石岡君、このすごろく大会は2順目以降が勝負なんだよ。」
御手洗は余裕で鼻歌まじりに言った。
「大器君、他のロボ達は、今どこに止まっているかね。」
「ブラックサターンは8番目、西園寺は9番目、都庁ロボは12番目です。」
大器君は飲んでいたペプシコーラを脇に置いて、またも暗記していたかのように答えた。
「うーん、さすが脳の皺の数が違うね。ということは、都庁ロボが暫定1位ってことか。さすがに抜かりがないね、首相は。ま、ある意味、サンシャインロボを倒さなくても、先にゴールしちゃえばいいって事だからね。」
「なんだ、その作戦があったんだ!だったら、何も戦わなくてもいいじゃないか!」
御手洗と大器君が、えーっという風に顔をしかめて、一斉に私の方を見た。
「それは男らしくないんじゃないかな。」
「そうですよねー、男らしくないっす。」
なんだよー、宇宙の平和を守るのが先決だろ〜。
「それにね、石岡君。50マスめを超えると、普通のすごろくと同じようにトラップが仕掛けられているんだ。先に早く進んでも、トラップにひっかかっては意味がないのさ。むしろ、後から進んで、トラップの位置を確かめるのが、利口かもしれないね。」
なるほど、一筋縄ではいかないって事か。
「さあ、2順目が始まるよ。」
再び、10マスめにいたオペラハウスロボがダイスを振り、2順目が始まった。
6を出して14マスめに止まったブラックサターンの後に、西園寺達のランドマークロボが首尾よく5を出して、サンシャイン対ランドマークの戦いが始まった。戦闘中でもゲームは進められるルールらしく、次々ダイスは振られていく。大きさもそんなに変わらない2つのロボは、なかなか決着がつかない。すぐに馬車道ロボのダイスを振る順番になった。
「君ちゃん、苦戦しているようだな。よし、石岡君、大器君、加勢しに行くぞ!」
「え、三つ巴の戦いもありなのかい?」
「もちろんさ、生き残るのは1ロボだけだけれどね。」
御手洗は、簡単に3を出し、14マスめに進んだ。サンシャインロボとランドマークロボはがっちりと組んでいたので、馬車道ロボはサンシャインロボの左足に組み付いた。サンシャインロボは少しよろけたもののすぐに立てなおし、結局3つのロボが絡み合ったまま、なかなか決着がつかない。
「うーん、しぶといな、サンシャインロボ!」
「御手洗さん、どうにかならないんですかね。」
「うーん、これ以上の馬力は出ないな・・・。もう少し改良が必要だったかも・・。空を飛んで良ければ、高速移動では馬車道ロボにかなうものはないんだが・・・。」
と、その時、横からものすごい衝撃がかかり、3つのロボットは一気に横倒しになってしまった。
『はい、ご苦労様です。サンシャインロボ、ランドマークロボ、馬車道ロボは失格でーす。』
大会事務局のアナウンスが聞こえた。
「な、なにが起きたんだ・・・。」
御手洗がえいっとレバーを引いて、馬車道ロボを立てなおすと、そこには都庁ロボがパンチを繰り出した格好で立っていた。
「や、やられた・・・。」
どうやら、後からこのマスにきた都庁ロボに、三体ともいっぺんに倒されたらしかった・・・。
「く、くやしいわあ〜、お兄様ぁ!!」
大会は都庁ロボの快進撃で、そのまま優勝されてしまった。表彰式では、おかまのブラックサターン達の、気味の悪い悲鳴が響いていた。
「あ〜あ、宇宙温泉、行きたかったですね。」
「まあ、仕方ないさ。宇宙の平和が守られただけでも良しとしよう。温泉だったら、箱根にでも行けばいいさ。」
ああ、温泉か。しばらく行っていないなあ。
「良かったら、私の経営しているリゾート温泉にでも招待しましょうか?もちろん、有料で。」
西園寺が嫌がるヒマラヤンのエヴィータちゃんを、無理やり抱きかかえながら話し掛けてきた。戦闘で傷ついたのか、エヴィータちゃんにひっかかれたのか、頬にばんそうこうを貼っている。
「結構だよ、君に頼んだら、法外な額の請求書が来そうだからね。」
「あれ、御手洗さん、K太郎さんがこっちに来ますよ。」
首相のJr.のK太郎さんが、こちらに向かって歩いてきていた。
「どうも、皆さん、ご苦労様です。」
爽やかな白い歯を見せて笑いながら、丁寧に挨拶をしてきた。私たち一同も、思わず頭を下げた。
「父が、優勝特典の宇宙温泉の宿泊券を、皆様に差し上げたいと申しておりまして・・・。」
「え、本当ですか?!」
「ええ、私達はもともと、この大会に優勝することを目的にしてはおりませんでしたし、皆さんのご協力により、宇宙の平和を守ることが出来たのですから、宇宙旅行には是非、皆さんに行ってもらいたいと・・・。」
私達は、思わずほころんだ笑顔で、顔を見合わせた。
「その代わり、お二方、仲良くしてくれなければいけませんよ。」
御手洗と西園寺に向かって、K太郎さんは言った。
「いや、我々も大人ですから。」
「そうですよ、元々仲が悪くなんかありませんよ。」
二人はわざとらしい笑みを浮かべて、握手をした。双方、かなり力を入れているらしく、握手した手がぶるぶると、笑顔と共に揺れていた。
と、その時、宿泊券を持ったK太郎さんに向かって、ブラックサターン達が襲い掛かってきた。
「その宿泊券をおよこし!!」
「危ない!」
御手洗がとっさにK太郎さんをかばい、ブラックサターンを突き飛ばした。しかし、ブラックサターンは眉間の間から、エメラルドグリーンの光線を出し、それが御手洗の額に当たった。
「うわぁ〜〜〜!!!!」
御手洗は苦しそうにうめいて、額を押さえながら転げまわった。すぐさま首相のSPと思われる者達が駆けつけ、ブラックサターン達を取り押さえた。
「御手洗さん、大丈夫ですか!?」
「み、御手洗〜!!!」
あわてて御手洗に駆け寄ったが、すぐにハアハアと荒い息をしながらも、御手洗は立ち上がった。
「ああ、驚いた。あれが性転換ビームか。しかし、裸じゃないから大丈夫だろう。何も失っていないみたいだし。」
私は思わず、御手洗の股間を見てしまった。
「良かった、どうなるかと思いましたよ〜。心臓に悪いっす。」
「ま、とにかく、温泉には仲良く行こうじゃないか。」
西園寺が、驚いて逃げて行ったエヴィータちゃんに気づきもせずに言った。彼の会社の社員である黒人達が、エヴィータちゃんを捕獲しに走っていった。
ふと、御手洗の額を見ると、稲妻のような形の傷が出来ていた・・・。
魔法使い☆潔に続く・・・
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