Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編
第01章
第01話:着いた世界は一体どこだ?
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鳥の囀りと顔に射した光で目が醒める。
閃光に包まれてからの記憶が無い。
どうやら気を失っていたらしい。
体は寝台らしき物の上に毛布をかけて寝かされていた。起き上がろうとしたが、ひどい目眩と思うとおりに動かない体のせいでその場にくずれる。相当長い間寝ていたようだ。大怪我をして1ヶ月ベットに文字通り縛り付けられたことがあったが、その時と同じ様だ。急に頭を起こしたことによる胸がむかつくような感覚を側にあった机につかまり無理やりこらえ、周囲を見渡す。ようやく胸焼けが収まると、そのままふらふらと窓辺に移動して外の様子をうかがう。少なくとも自分の部屋ではなさそうだ。寝具も良く見ると化繊系のシーツではない。ベッドに腰掛け周囲を確認する。煉瓦らしい物で作られた室内は洋館の客室を思わせる。その室内には、パチパチと音を立ててはぜる暖炉があり、床には毛並みの長い絨毯が敷き詰められていた。そういえば僅かに肌寒い。窓の外から見える風景は欧州風の活気有る町並みだった。
が、何か妙だ。
町並みに並ぶ文字に全く見覚えがない。そもそもアルファベットではないし、かといって特徴有るアラビア風の文字でもアジア風の文字でもない。むろん漢字ベースの代物でもない……東欧州のどこかか? しかし、かすかに覚えているロシア辺りの文字でもなかった。
枕元に丁寧に折り畳まれた白衣を改める。何者によってか洗濯されたらしく白衣は綺麗になっていて、白衣のポケットに入っていた小物も枕元のテーブル上に並べて置いてあった。そこには左手につけていたハンドヘルドPCも並んでいた。早速装着して稼働を確認する。見慣れない物だからって水洗いされていないだろうか? 起動すると、いつもの電子音と共に内臓液晶ディスプレイに見慣れたBIOS画面が表示され起動シーケンスが流れる
CPU……OK
メモリ……OK
記憶用磁気RAM……OK
空間表示デバイス……OKシステムオールグリーン、幸い異常はないようだ。バッテリーは光発電式&生体電流式なのですぐに無くなることはないが、それでも長時間の使用は心許ない。一応電源を落としておこう。
こんこん
慌ててハンドヘルドPCの電源を切る。これはその辺にそうそう転がっている物ではないし。知らない人間が見たら仰天するだろう。枕に下へ咄嗟に隠したのとほぼ同時か? 程なく扉が開けられた。
「おお、気が付いたようじゃな。具合はどうかの」
年の頃は40〜50か? 白いひげを口に蓄え、経てきた年月を相応に感じさせる、ほりの深い男が片手にコップを載せた盆を持ち、入ってきた。灰色のローブをまとった……いわゆるファンタジーにでてくる魔法使いという形容詞がぴったりの姿だった。むしろそうとしか形容できない姿と言うべきか。
「おかげさまでなんとか」
「おぉそれは何より。わしの名前は『ガーム=ゼイン』じゃ。まずはこれを飲むと良い、お主の為の薬での、体力を回復させる薬じゃ」
手渡された陶器のコップには、危険な香りがする深緑色のぽこぽこと泡がでている液体が注がれていた。今更何事も有ろうかと一気飲みしたが……もういっぺん気を失いたくなくなるような味だった。強いて表現するならば、某旅館の裏山でとれる茸をベースに某店のワッフルと北国特産の甘くないジャムを混ぜ、異様に粘度の高いゲル状の液体を配合した上でぁゃιぃ割烹着の女性が持つ薬品を混ぜればこういった味になろうかという物だった。
「そんなにあわてて飲むとむせるぞ」
とんでもない味に苦情の一つも言ってやろうかと思い、その老人の方を見てふと気が付いた。その男がしゃべっているのは確かに日本語だ。しかし、口の動きが明らかに合っていない。クチパクが有っていない出来の悪いアニメと表現すれば早いか? 不審に思った私(以下、管理人を当分こう称する)に気が付いたガームはふと、思い出したように付け加えた。
「ふむ、やはり妙に感じるか。ここはお主にとって異世界じゃからの」
いまいっしゅん、ふぁんたじーしょうせつでありがちなことばをきいたようなきのせいだろうか?
「なに、案じることは無い。お主を呼び寄せた魔法陣が一種のトランスレータをかねておるからの」
魔法陣??
狐に抓まれたような私の表情から困惑を見て取ったガーム老人は説明を始めた。
「ふむ、これは一から説明する必要があるようじゃの。長い話になるから今は無理をせず、そこへ横になって聞くがよい」
そういって、私が寝台に入るのを確認してその男はゆっくりと語り始めた。
ここが「六門世界」と呼ばれる世界であること。
「召喚術」と呼ばれる、異なる場所や世界から聖霊や動物を召喚し使役する術があり、ガームと名乗ったその男も多少使えること。
ある時、近くの森を歩いているとき何者かが召喚される気配を感じ、その現場に行くと私が横たわっていたこと。そして、気絶していた私を屋敷まで運び介抱していたこと。
「只気になるのは、なぜお主が呼ばれたかという事じゃ。お主が呼ばれたのは何かの偶然か、さもなくばよほどの術士が禁呪紛いをつかって呼び寄せたに違いないのじゃが……お主の側に誰もいなかったところを見ると召還時に何かトラブルがあったようじゃな」
「私は元の世界に戻れるのですか?」
「非常に難しいと言わざるをえまいて。そもそもお主が見たという逆召喚陣とこちらの何者かが開いたゲートとが、偶然つながってこの現象が起きたのだと仮定すると、その召喚術士が誰かを調べねばならないからのう。何か手がかりが有れば調べることもできようが……」
「私をここへ呼び寄せた召喚術士が分かれば私は帰れるのですね?」
「うむ、そやつを見つけだし、行ったであろう召喚プロセスを調べれば何とかなるやもしれんがのぅ」
言葉を濁す。どういうことだ?
「我々の召喚術でも人間そのものは呼べぬ。呼び出すのに必要なプロセスが未だ解明されておらぬからの。超古代には有ったそうだが今現在は人間を召喚する術は失われておる。いや、あまりに危険な為、消し去られたという方が正解か。それを復活させようとしたのかもしれぬ。いずれにせよまっとうな者ではあるまいて」
「しかし、私は帰りたいのです!」
「そう急ぐな。今のお主で何ができる? お主の召喚には相当無理が起こっておる。それが証拠に召還時に発生した負荷が丸ごとお主にかかって、その為にここ3日ずっと寝ておったのだぞ?」
言われてみれば未だに頭がふらつく。
「まずはお主の体調を元に戻すのが先じゃ。まずはゆっくり休むと良かろう。」
やがて薬の効果か眠たくなってきた。ゆっくりと寝台に潜り込むと、そのまま沈むように私は眠った