冥途 of the DEAD
・第十五話 : Mission complete
「ごほっごほっごほっ。なんて煙だ」
「マスター!?」
目の前で塵に分解され崩れ落ちたゾンビVH、再生が始まらないのを確認していたティナ達に背後から声を掛けた。
「一体何時こちらに?」
「ほんのついさっきだ。何せ其方のなおなおさんが電子ロックのキーナンバー一瞬でランダム変更してくれたから解除に時間が掛かってね」
苦笑しながらもティナ達のステータスを確認する。左腕が肘から先喪失している以外にも破損パーツが多い。かなりの苦戦だったことが分かる。しかし……
「ティナ、左腕は一体どうした?」
「その……再生機構がどうしても停止できなかったので、つい、内部潜入させて探査と破壊のマイクロモジュールに組み替えてしまいまして……」
……
…………
………………
「ちょっとまったぁ!!!?」
探査と破壊のモジュール、言い換えるなら即席でワームを作ったと言うことになる。しかもティナ謹製さぞかしエグイ物だろうとは容易に想像できる。大方、発動するまでステルス、ダミーパーツを纏って発動、一旦セキュリティシステムに攻撃されるとダミーパーツを身代わりに破壊された振りをして遅延発動、セキュリティシステムの解析データを元に本体が動き出す2段構えのエグイ代物だろう。
「で、モジュールの処分は出来て居るんだろうね?」
「はい、つい先ほど全モジュールの自然死を確認しました」
当たり前である。これはVHT-Virusの元になったウィルスとそんなに変わらない危険な代物である。これ使ったのが世間にばれたら……かなりヤバイ
みしっ!
みしみしっ!!
みしみしみしっ!!!
「何の音だ?」
「忘れたのか? この屋敷自体もう限界だって……」
「じゃあ、この音って……崩壊音」
「そのとーり」
「……お先に失礼します!」
「あ! ずるい!!」
誰がまっさきにとびだしたのか……
我々が、機能が回復した従業員用地下通路から屋敷敷地外へ脱出するのと屋敷が完全倒壊するのはほぼ同時だった。
「ふぅ……漫才で死ぬところだった」
「それは洒落になりませんね」
「さて、いい加減管理者権限解除するか……の前に。ティナ、左手貸して」
「はい?」
差し出された左肘、シーリングされているため内部モジュールは見えない状態になっているが其処に端末を繋ぐと屋敷のバックアップサーバに接続、通信帯域一杯を使ってバックアップからデータの書き戻しを行う。
「どう?」
「簡易版ですか?」
「流石にフルセット版は今のところ必要ないだろう。簡易版でも必要以上に機能付いているからさしあたっての問題はないと思うけど」
「まぁ、確かに。兎も角状況終了って事で宜しいですか?」
「OK,事後処理はまだまだあるけど状況終了って事で」
「一件落着か」
「あ〜〜〜っ!?」
「何ですか一体!?」
「ステージまで時間無いんです!!」
「今何時ですか!?」
「17:50!」
「移動と着替え考えるとギリギリ!?」
「ティナ。このまま従業員通路突っ走ってステージ袖までエスコート、ゲートはクラックして強制開放!」
「ラジャー!!」
バタバタとティナとP-canのなおなおが走り去る足音を聞きながら私はその場に崩れ落ちた。
「マスター、観客席に向かわなくて良いのか?」
「流石にさっきの今じゃあ無理だ。それに、ライブ録画も有るんだろう?後で公開されるの見るよ」
「まぁまて、ちょっとレイナに切り替わるぞ」
「は?」
私が確認するより早く、ポケットからいつもの赤いメイドキャップを取り出し被ると目を閉じて数秒、其処には荒事担当「ミレイ」ではなく、データベース管理担当「レイナ」が立っていた。
「通信回線お借りしますね……ゲートウェイとポートの設定がこうで〜、暗号用のコードは業務用のA-130ですか〜標準的ですけど、ブルートフォースアタック使えば数時間で複合出来てしまいますよ〜」
「といいながらリアルタイムで複合化しているのは何処の誰ですか(^^ゞ」
なんとレイナは、会場の通信に割り込んで全カメラのデータを横から傍受開始、掛かっている暗号もリアルタイムで解読するという無茶をはじめた。
「さすがはレイナ、なんつー芸当を」
「がんばったご主人と皆さんにこっそりプレゼントですわ、あとで屋敷のサーバ内にこっそり保存しておきますのでご安心を」
「を、何とか間に合ったみたいだな」
録画用のカメラではなくセキュリティ用の館内カメラには、幕が上がる1分前にギリギリ着替えて化粧直しも間に合いメンバーに合流したなおなおの姿が写しだされていた。
しかし……わずか10分でよくぞまぁ間に合わせた物だ(^^ゞ
そんなわけで、今回のテーマパーク訪問は予想だにしなかったドタバタの末、幕を下ろしたのだった。
数日後……
公式サイトによる告知ではテーマパークのMirrorhouseで事故が発生、当日テーマパークにいた人には保証として1dayチケットがもれなく配布されることになった。Mirror-house自体は技術的再検証が必要と言うことで再建せず別のアトラクションが設置されるらしい。
アイドルユニット「P-can」は何事も無かったかのように活動を続けている。メンバーが人間でありながらVHアカウントを使っている件に関してはその後何処の事務所もしていると言うことらしく別段話題にもならなかった。
その後、御礼の手紙が届いたがその差出人と内容については伏せることにする。
我々に関しては無罪放免、恐らく事故を無かったことにしたいテーマパーク側が何らかのアクションを起こしたのだろう。調べようと思えば調べられるし、実際ティナが事後調査したけれど、デイリーレポートで「向こうサイドが処理しました」と、特に報告しなかったところを見るとこのままで良いのだろう。
忘れないようにlogをまとめた後、レイナが会場でこっそり傍受してくれた動画を鑑賞しているところへ、きっちり外出用の出で立ちで武装したティナが現れた!
「デートのやり直しを要求しますっ!!!」
「……そ、そーくるか」
その様子は、また機会が有れば記したいと思う。