BSD物語
Vol. 04 A decisive battle in the Arctic Ocean
ノルウェーの原潜狩りを終え、無人のフィヨルドを選び入り口で停泊。奥の方では攻撃されたときに逃げ場がないからだ。交替で不寝番を行い夜明けを迎えた頃、一羽の鳩がやってきた……
こんな所に鳩? と思ったが、くちばしに真っ赤な封筒をくわえていた。RFC1149準拠のハトは舳先に止まり、メールを受け取った後も其処に止まっていた。返信を待っているのだろう
真っ赤な封筒に入っていたのは古風にのっとった見事な挑戦状だった。
告 マダガスカルから発し此処までたどりついた戦士よ
汝の戦歴見事なり
此処に我が名誉と最強の戦艦の座を掛けて
北極点Dポイントにて待つ
この手紙は貴君への手袋の代わりなり
挑戦を受け取られるのならばこの鳩に返答を渡されよ
「格好いいですね〜」
「受けとらなきゃ卑怯者扱いか?」
「それ以上に……掲示板では私たちはアラシ扱いです」
「??? なんでまた」
「ゲーマーからしてみれば、いきなりキャンペーンに出てきた極道な装備を持ったプレイヤーです。リークされたかどうかは分かりませんが掲示板での主流は『改造データを使ってまで参加しているプレイヤーがいる。メーカ公認で袋叩き!』というところです」
「それが逆に潰されたと?」
「だからこその挑戦状でしょう。公衆の面前で叩きつぶすっていう宣言ですよ」
「まさかこっちがアラシ扱いとはなぁ……普段と立場が逆じゃないか」
「じゃあ、アラシらしく『バ・カ・メ !』と挑発の返事でも送りますか?」
「挑発まではしなくて良いけど挑戦を受けるって穏便にメール出して。どのみち逃げられないんだし」
ネットゲームのチャンピオンが操る「ナハト・シュトラール」……
出発前に確認した緒元は「冗談だろ?」と思わずつぶやくほどの装備だった。100.0cm45口径砲 1門
50.8cm60口径砲15門
超怪力線照射装置 1基
γ(ガンマ)レーザー砲 1基その他諸々……
巨艦巨砲主義の頂点だった大和の主砲が46cmの45口径、副砲口径で既に大和を追い越している。船体長に至ってはこちらの倍は有ろうかというサイズだ。頭を抱える管理人にレイナが声を掛けてきた
「大丈夫です。100.0cm砲には欠点があります〜」
「聞かせてもらえる?」
「100.0cm砲ともなると発射時の反動は船体の横方向では支え切れません。こちらのレールガン同様艦首方向に固定されていると見て良いでしょう。それに装填速度の問題もありますからしっかり回避すれば何とかなりますわ」
「そう願わないと……γ(ガンマ)レーザーはこっちに搭載しているのと同じ物かな?」
「そうですねぇぎりぎり相手も実用化に間に合ったと見るべきでしょう」
「テロ組織じゃ実用化は無理だったんじゃないのか?」
「プレイヤーの使っているPCに分散処理させるみたいですね〜 でも、こちらのように光学兵器満載の上で一斉斉射って芸当は無理なはずですわ」
「100.0cm砲をかいくぐりながら光学兵器とレールガンを一気に叩き込むのが上策?」
「今更小細工は効かないと見た方が良いでしょう〜」
正面を避ける。それを頭に叩き込み、覚悟を決めて勝負に挑んだが……!
「100.0cm砲塔旋回します!」
「砲塔固定式式じゃなかったのかっ! 」
「おかしいですね〜」
「レイナっ!機関全速!!」
「全開まわしま〜す」
タービンが限界回転数ぎりぎりまで回る。47.8ノットは伊達じゃない!
特大の水柱が立つが命中弾は無し、尽く避けて見せた「狙いは良くないようです〜」
「散布界が異様に広い?」
「あれだけ散布界が広いと精密射撃は不可能ですね。常に移動していればまぐれでもない限り当たりません」
「奴が搭載している光線砲ぐらいならダメージは負わないな!?」
「はい! こちらの電磁防壁で96%は防げます!」
「よし、レールガンの零距離射撃で決着付ける! 艦首をナハト・シュトラールの舷側にぶつけるぞ! 総員対ショック!」ナハト・シュトラールから砲弾が次々と飛んでくる。100.0cm砲の直撃こそ喰らわなかった物の副砲の50.8cmの直撃をα(アルファ)レーザー砲塔に喰らい使用不能になった。こちらも生き残った兵器群で攻撃を仕掛けるが兵装の多様さと数では向こうの方が多い!押され気味になるものの……ついに鈍い音と共に艦首がナハト・シュトラールの舷側にめり込む!!
「今だ! 零距離射撃開始!!」
「了解! 電磁防壁最大出力!! 零距離攻撃開始!!!」
ナハト・シュトラールも砲塔を旋回させ零距離攻撃をしようとするものの……
100.0cm45口径砲の砲身は100.0*0.45=45m
50.8cm60口径砲の砲身は 50.8*0.6 =30.48m此処まで懐に入られては打ちようがない! ナハト・シュトラールは使用可能なバルカン砲やγ(ガンマ)レーザー砲で必至に応戦する。衝撃とレーザーと爆発音が周囲を覆いつくし、空気は帯電しプラズマが飛び交う。間断無い攻撃が続く中、ついに数度目のレールガン斉射でナハト・シュトラールはその動きを停止した。
「やったか……?」
「敵艦内の動力停止を確認、ナハト・シュトラール沈黙しました」
「ネットゲームの方はどうだ?」
「チャンピオンが敗れて大混乱になっています……あ、対戦サーバが停止しました。番狂わせに怒ったプレイヤー達がクレームメールを大量に送信しています。トラフィック過剰でしばらくはまともに動かないでしょう」
「テロ組織本体を叩くなら今を置いて他にということか?」
「ネットゲーマー達は動けません、今こそ決着の時です!」
流氷がちらほらと見え始めた氷塊の向こうにテロ組織の秘密基地である島が見えてきた。甲板に上がりレイナと共に戦場を眺める
「この辺りは海面が凍結していなきゃおかしいんじゃないか?」
「あの島は最近の火山活動で出来た島です。地熱で氷が溶けているようです〜」
「浮かんでいる流氷でダメージはどれくらいくる?」
「そうですね、普通に航行している分でも舳先が痛みますし、ましてや高機動すれば相当な物になります。砕氷船じゃありませんからバルジの強化もしていませんし」
「避けるのはほとんど無理と言うことか……」「爆撃機及び戦闘機・攻撃機急速接近! いそいで戻ってください!」
ティナの艦内放送にCICへ滑り込む。レーダーに写った機影は以前のジブラルタル海峡に増して多い。アルウスやムスペルヘイムの比じゃない! 既に迎撃を開始しているが回避機動を満足に取れていない。対艦ミサイルや魚雷を既に数発喰らってしまっていた。
「ご主人様、あまり良い状況とは言えません。短期決戦でお願いします」
「分かった。湾内に突入、最終決戦だ!」火山活動で出来たカルデラ湖が海と繋がって出来た湾内にテロ組織が盗み出した最終兵器「ヴォルケンクラッツアー」が隠されているのは残存組織や調査から判明していた。湾内に突入したとたん猛烈な迎撃を受けるが……本命がいない。それどころか雑魚を除くと大きな氷山が有るだけだった
「なんだあの氷山は?」
「氷山にしては大きいですね」
「それ以前に北極海の氷じゃない。あの形じゃ南極海の氷だ!」
「南極から流れ着いたとかかなぁ?」
「メイル……それは流石に無理があるぞ?」
「氷山空母ハボクック……氷山戦艦なら不沈戦艦なり得ています。」
「内部に高温部位があります、冷却がうまくいっていないようですね」
「ティナ、レールガンで攻撃、ヤツの氷の鎧を引きはがせ!」数度のレールガンの斉射で氷が崩れ、ヴォルケンクラッツアーは白煙からその巨体を現した。100.0cm砲こそ搭載していないが艦首にあるのは……こちらと同じレールガンだ!
「何時の間に完成させやがった!」
「『作成を断念』自体が偽情報でしたか……」
「今更引き下がれるかっ! 全兵装攻撃開始!!」
攻撃を開始したが、互いの電磁防壁で光学系兵器は弾かれ威力が減衰。決め手のレールガンは砲身が固定式の為、射撃有効範囲が限定される。互いが回避機動をとるため千日手状態になった。「いちかばちか相打ち覚悟で射界にはいるか…!?」
「待ってください、まだ手はあります。レイナさん、火器管制を第2兵装室へ!」
立ち上がり、ティナはそう叫ぶとCICから走っていった。第2兵装って?
総合管制制御板の火器管制表示に新たなる兵装が表示される。その名は……
「ねこレーザー」
額に汗をかきつつ嫌な予想をレイナに確認する
「れいな、ひょっとしてもしかするとこれっててぃなのだいきょうどれーざーってことはないよね?」
「その通りです〜 流石にそう何発も撃てませんから最後の切り札にしていたんです〜」
甲板上のケースが外れ小型のレーザー発振器が姿を現し攻撃を開始する。艦外カメラは「ねこレーザー」が敵の電磁防壁を打ち破り、敵の艦首を歪めるほどのダメージを与える様子を映し出した。これでレールガンは使えまい!「今だ! 総攻撃!!」
近接防御用のバルカンやパルスレーザーまで動員してヴォルケンクラッツァーを叩きのめす。ヴォルケンクラッツァーの艦首は徐々に傾きだし、その傾斜は目で見ても明らかに分かる程となった。既に浸水が止められなくなっているようだ。こちらも満身創痍だがどうやら勝ったようだ……
疲労困憊した様子のティナがブリッジに戻ってくる。みんなに感謝の声を掛けようとしたそのとき、再びヴォルケンクラッツァーが動き出した!
「まだ動けるのかっ!」
「全兵装残弾残りわずかですっ!!」
「レイナ、この艦の核融合炉は爆発しても放射能は漏れないな?」
「はい、重水素でのレーザー核融合炉です。放射性廃棄物は皆無です〜」
$ su
passphrase? ********************************
#「総員直ちに脱出せよ。本艦はこれよりヴォルケンクラッツァーと共に自爆する。」
「マスターはっ!?」
「最後まで残る。操舵は僕じゃないと出来ない」ティナが……いや、全員がこちらを振り向く
「いやですっ!マスターが残るなら私たちも残ります!」
「聞こえなかったのか? 総員脱出せよ。これは『root』命令だ」
root 命令には彼女たちは従わざるを得ない……
これはネコミミUNIXメイドがいかなる事が有ろうと守らねばならない鉄則だ。
例えそれが如何なる内容であっても……彼女たちが退艦したのを艦外カメラで確認する。僅かな人員のために用意された救命ボートは最後の一隻を残し射出された事を示すサインがついた。
厳重に封鎖されているキングストン弁を開放する。開いた弁から海水が艦内に流れ込んでくる。自沈までそう時間はない。機関を全開にしヴォルケンクラッツァーの土手っ腹へ回り込み、艦首からぶつかってゆく。二つの船は×の字を描くような形でぶつかり、もはや引きはがすことは不可能な状態までめり込んだ。
双艦の各所で誘爆が始まる。Zeroは発射の度に弾丸を作成していたがヴォルケンクラッツァーは普通の船と同様火薬庫があるらしい。時折ひときわ大きな爆発が敵艦中央から聞こえる。この分だと爆沈だな。急いで最後に残った救命ボートとへ走るが……衝突のショックでレールが壊れたらしい。僅かに動いただけでそれ以上海面へ降りる様子がない!
もはやこれまでか……と思った管理人に走り寄ってきた人影があった。
ティナだ!!
「ご主人様! こちらです!!」
「ティナ! 退艦していなかったのか!?」
「ご主人様の安全を確保せずに退艦するわけにはいきません!」見ればレイナが操る救命ボートが接近していた。Zeroの喫水線もかなり傾き、その最後を迎えようとしていた。互いの救命具を確認しティナと共に海に飛び込む。船までの十数メートルが非常に長く感じられる。北極海の寒さが骨までしみ通り、ボートへ引き上げられた頃にはすっかり冷え切っていた。振り返ると、ヴォルケンクラッツァーはスクリューを天に向け海面下へ没しようとしていた……
いつの間にか眠り込んだらしく次に目が覚めたときはレイキャビク(アイスランド)の病院だった。軽い凍傷と体力の消耗でしばらくの入院を余儀なくされ、体力を回復し退院に至ったのはそれから暫くしてからのことだった……
屋敷に帰ってきたのは既に夏も終わろうかという頃だった。
長らく留守にしていた為、屋敷のあちこちに埃がたまっており、まず大掃除と洗濯から始めなければならなかった。ようやく落ち着いてリビングでみんなと紅茶を飲む。平穏な一日がこれほどありがたいとは……テロ組織はその後自然壊滅。アメリカや欧州各地で検挙が続いた。かの某M社の子会社はネットゲームのサーバダウンによるユーザ離れを止めることが出来ず、ティナが潰すまでもなく倒産。某M社は子会社を切り離すことで連鎖倒産を免れた。某M社は黒幕だったのか? それは未だに謎となっている。
国連はアメリカ主導の元、抑止力としての常設国連軍を設置。これにEUとロシアが加わり一大勢力となったが、内部で意見がまとまらずまともに稼働していない。まぁ暴走するより遙かにマシか
しみじみ平和を感じていた管理人の目に見慣れないボトルシップが目に入った
暖炉の上に飾られた大振りなボトルの中に有ったのは……かの日々をすごしたZeroの精巧なミニチュアだった。
「ティナが作ったの?」
「私とレイナさんとで作ったんです」
「戦艦のボトルシップってのはすごいけれど……どうやって作ったの?
大体写真や設計図のデータは全部抹消したんだろ?」
「簡単です〜 実物をファイル圧縮の要領で縮小してから瓶内でその大きさに解凍、
瓶内で修理したんです〜」
「メイルもね、細かいところは中に入って修理したんだよっ♪」
かくして、屋敷には世界最強の戦艦“試作光学戦艦Zero”が暖炉の上に飾られることとなった。世界がまぁまぁ平穏な中、その姿は何時までも瓶の中にあったという。
たまに電脳世界で見かけたという幽霊船情報もあるが偽情報なので読者に置かれては信ずることのない様に此処に重ねてお願いする物である……ってメイル! これ書き終わったら乗るからちょっと待ってくれ〜 引っ張るな〜
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あとがき
こんにちは。「管理人」ことYen-Xingです。10000HIT記念小説、いかがだったでしょうか? 仮想戦記と言うにはあまりに破綻しておりますので火葬小説どころか水葬小説のような気がします。設定等盛大に破局を迎えておりますが笑って許していただきたいです
今回の元ネタは既に気がつかれている方もあるかと思いますが光栄の「鋼鉄の咆吼」がモデルです。PC版とPS2版が出ていますがPC版が概ね基本です。なお、この小説独自の設定もありますのでこの小説の記述を信用してゲームを進めると大変なことになります(笑)
最後になりましたが此処まで「Yen-Xingのあばら屋」が来れたのはひとえに皆様のおかげです。ここに厚くお礼を申し上げます。
もしお暇なら一行でもうれしいので感想など頂ければ幸いです。