*ワガママな悪夢*
(キリリク50000)


【1】

唐突に養い親から呼び付けられた絳攸は、開口一番言われた言葉に、瞬間思考を停止させた。
「ああ絳攸。きみ、明日の女装大会に出なさい」
「……………………」
「絳攸? 聞いているのか。返事をしなさい」
「……え、……あ、あの…………?」
あまりに突然で事態がよく飲み込めていない絳攸は、首を傾げて養い親を見つめる。
首を傾げ、困った顔で自分を見つめてくるまだ幼い養い子に、その養親はにっこりと微笑みかけると、先ほどと同じ言葉を投げた。
「私は女装大会に出なさい、と言ったのだよ、絳攸」
「え゛……?」
今度は聞こえただろう、と微笑んだ彼は、いとも優雅に扇をはためかせた。絳攸の養い親である紅黎深は、大貴族の当主らしい雅さと威厳を持って絳攸を追い詰める。
「私は返事をしなさい、とも言ったはずだが」
「え、は、は、あの……」
「はっきりしなさい。私が"出なさい"と言ったら、きみの返事は"はい"だろう、絳攸」
逆らうことなどできはしない絶対的な声音に、絳攸はこくりと頷いた。否、無意識の内に頷いてしまった、という方が正しいのだが。
「………………はい…………」
「衣や装飾品は用意してあるし、化粧も女の家人に言ってある。明日は午までに会場に着くよう邸を出るぞ。――去年も出たのだから、分かっているだろう?」
「…………はい」
そうなのだ。
絳攸は実は昨年も王都主催の女装大会少年部門に出場していた。しかもダントツ一位で優勝、という絳攸にとってはまったくもって喜ばしくない(養い親にとっては大変喜ばしい)結果を残している。
そしてその副賞である"米俵百俵"は、半分は黎深の兄である紅邵可邸へとお裾分けされ、半分は紅家に遣える家人たちの食料となったのだ。
「お前のおかげで米が食えると家人たちも喜んでいる。今年も必ず優勝するように」
「――……はい」
「なに、心配せずともお前なら大丈夫だろう、絳攸。……ああ、それからもう一つ」
養い親の室を辞去しようとしていた絳攸は、楽しそうに告げた養い親の言葉に思わず顔をしかめた。
「明日は一日、ずっと大会用の衣装で過ごすように」

【2→】
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