*季節を纏う、白*
(キリリク3553)
【7】
「…………工部はどこだ……」
書翰を抱えた絳攸は、回廊で立ち尽くしていた。まだまだ宮城に慣れていない絳攸は案の定迷子になったのだ。
これでは楸瑛との昼食は無理かもしれない。そしてきっと「どうして私が厩番を終えるまで待たなかったんだい?」と二つ年上でお節介な同期及第者から責められるのだろう。
だがそれは嫌だ。これは何が何でも早く府庫に帰らねば、と絳攸は決意を新たにした。
「よし、こっちだ! こっちに行こう!」
と言った瞬間、ぽんと肩を叩かれて振り向いた絳攸は飛びあがるほどビックリした。
「わぁっ!」
「おや、驚かせてしまったかな」
驚いたのもそのはず、絳攸の肩を叩いた男は、仮面を被っていた。
それもただの仮面ではない。形容するならミナミボラボラ鳥がつぶれたような、派手な彩色と大胆な細工の、一度見たら忘れられないような仮面だった。
驚きつつも絳攸は相手の衣装と佩玉をすばやく確認した。上官。そう判断して、丁寧に礼を返す。
「いい、おもてを上げなさい」
「――すみません、少々取り乱しました」
まだドキドキしながら、絳攸はゆっくりと仮面男を見上げた。
仮面のせいでくぐもってはいるが、この声どこか聞き覚えがある気がする、と思った。
「君は李絳攸くんだね」
「は、はい」
「私は黄奇人という。……黎深の友人だ」
そういえば、仮面のご友人の話を聞いたことがある。この方がそうか、と絳攸は素直に納得した。
「初めまして、黄官吏。李絳攸と申します。平素から養父がお世話になり、ありがとう存じます」
「いや、世話をしているのは、わた……、いや、確かに、私の方が黎深に、非常に非常に、非常〜に世話になっている」
他人と入れ替わるのはややこしいな、と思いつつ、奇人(中身はもちろん黎深だ)はそう言った。
「絳攸くんはどこへ行こうとしているのかな」
「ええと、工部と五監と刑部と戸部に」
「それはずいぶんと大変だな。よし、私が案内をしよう」
「え、ええ? 黄官吏にそんなご迷惑をお掛けするわけには!」
「君のことは黎深からよく聞いている。また迷子になって困っているのだろう?」
「う……っ」
いくらご友人だからって勝手に人の弱点をバラさなくてもいいじゃないですか黎深様…、と思いつつ、相手は親切で言ってくれているのだろうから、と絳攸は大人しく頷いた。困っているのも事実だったからだ。
「ではまずここから一番近い刑部に行こうか。戸部は最後にしよう」
そう言った奇人(くどいようだが中身は黎深だ)は、勝手に絳攸から書翰の半分を取り上げるとさっさと歩き出す。
それを慌てて追いながら、絳攸はこの歩き方どこかで見た気が……、などと思っていた。
だが、連れ立って歩く仮面男と白い進士服の少年状元は、それはそれは目立っていた。
それ以降、絳攸の噂話に「少年状元は、紅官吏のみならず黄官吏とも関係が!」という余計な一言が加えられたのは言うまでもない。
END.
【←6】
3553Hitの青維さまからのリク、「絳攸の新進士時代のお話」でしたー。が、リクの主題とちょっとずれてしまった気がします…すいません……。

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