*季節を纏う、白*
(キリリク3553)


【1】

きゅ、きゅ、と沓を磨く音が室に響いていた。
沓を磨いているのは白い服をまとった少年だ。
その少年は、宮城にいることと白い服を着ていることから新進士に間違いないのだが、進士としてはいささか若すぎた。
もちろん歳若い官吏は他にもいる。だが、そのほとんどは親の七光り・資蔭制を利用して入朝したものがほとんどである。
それなのに、この少年は国試を、しかも首席で及第したという。状元及第ともなればどんな年でも少なからず注目を浴びるというのに、この少年は史上最年少で状元になってしまった。おまけに八草の姓を持たぬままで、だ。
朝廷中の好奇心を浴びるのは仕方のないことと言えよう。
事実、今も少年の前には数人の官吏が順番待ちをしている。沓磨きというのは口実で、小状元を見にきている者がほとんどだ。中には正面切って少年を罵倒する者、嘲笑する者もいた。
だが少年は、どんなときも無表情に、ただひたすら沓を磨いていた。
きゅ、と最後の一拭きを終え、少年は一度も顔を上げることなく目の前の官吏に叩頭する。
「……終わりました」
「うむ」
鷹揚に頷いた官吏は、沓乗せ台から外すふりをして少年の顎を沓で持ち上げた。列に並んだ官吏たちから笑い声が上がる。
「…………っ」
無理に顔を上げられた少年は、声を出さずに顔をしかめた。
官吏は沓で少年の顎を支えたまま、値踏みするようなねっとりとした視線を少年の顔に絡みつかせる。
「やっとご尊顔を拝めましたな。ほう、さすがは最年少状元殿だ。まだまだ女のようにか細い。しかも綺麗な顔をして、色も白く、瞳はまんまる。これではあの紅官吏が可愛がるのも道理といえよう。なぁ?」
ぐっと瞳を閉じた少年に、さもありなん、と同意する官吏たちの声が聞こえた。
少年がそうしたのは、決して悔しさや悲しさからではない。そうでもせねば睨みつけてしまうからだ。官位がすべての朝廷で、新進士が上官を睨みつけるなど言語道断である。
きつく瞳を閉じてしまった少年に、彼を仰向かせた官吏はフンとつまらなそうに鼻を鳴らして室を出て行った。
それに頭を下げて見送って、少年はまた次の沓へと取り掛かる。
「よろしゅう頼むぞ、状元殿」
頭上から話しかけられて、こういうのが一番困ると思いつつ、少年は無感情な声音で答えた。
「はい。精一杯磨かせて頂きます」

【2→】
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