*夕日色の雫*
(キリリク4000)
※原作:心は藍よりも〜時のお話です


【1】

吏部に奇跡が起こったのち、絳攸は久方ぶりに邸に帰った。
だが、家人に「おかえりなさいませ」と言われて門をくぐったところで、諸々の理由でフラフラとしていた絳攸はふと気がつく。
「あ、今日はもう自邸に帰ってもよかったのか……」
紅家の新年準備、そして新年の宴などでここしばらく母屋暮らしだったから、ついこちら――養い親の住まう母屋に「帰って」きてしまった。
一度きてしまった以上、引き返すのも……、と思いつつ絳攸が邸の扉を開けると、そこにはにっこりと笑った養い親の姿があった。
「遅かったな、絳攸」
満面の笑顔が凶悪な表情に見えるのは、彼の特徴でもある。
黎深に迎えられた絳攸は、ついうっかりとはいえ、母屋に足を向けてしまったことを今更ながら深く後悔した。
(いや、「イマサラ」だから「後に悔いる」なのか……)
頭のどこかでそう思いながら、絳攸はどうにか顔に笑みを貼り付かせる。
「た、ただいま戻りました、黎深様」
「せっかく私がくだらない仕事を片付けてやったのに、さっさと戻って来なかったのはなぜだ? んん? まぁ新年だから、お前がハメを外したい気持ちも分からなくもないが」
口調も表情も柔らかいが、養い親は絶対に怒っている。
そう感じて、その理由を察した絳攸は絶対に逃れられない運命を悟った。
(いやでもあれは、ついつい無意識に! というか府庫で会ったのだって偶然で!!)
と言おうと口を開きかけた絳攸は、ピシと突きつけられた閉じた扇にそれを封じられる。
「一体どこをほっつき歩いていたのかは知らないが、これから私の室に来なさい。少し話がある」
にっこり笑ってそれだけ言うと、黎深はスタスタと奥へ歩いていってしまった。
知っているくせに、と内心毒づきつつ、絳攸は慌ててその背を追いかけた。

【2→】
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