*春のかぜ 弥生のそら*
(10万HIT企画その8)
【4】
自分の置かれている状況を分かっていてなお、それに従おうとしている幼子を見て、黎深は鼻を鳴らした。
(待つことしかできない、か……)
この幼子は、少しだけ、ほんの少しだけだが、昔の自分と似ている、と黎深は思った。
世話をしてくれていた祖母が亡くなって父である帝の元に引き取られた黎深は、暮らしぶりこそ豊かであったものの、さまざまな思惑の入り交じる宮中で孤独を感じていた。
そんな中で出会ったのが、悠舜だった。
悠舜。
黎深が禁苑でひとり琵琶を弾いていると、ときおり現れ、遊んでくれた年上のひと。
黎深はその人のことが大好きだった。
だが、かの人がすでに父のものであると知ったのはいつだったか……。
彼の人に焦がれ、けれど手に入れることもできず。幼かった黎深にできたのは、ただ禁苑でその人が来てくれるのを待つことだけだったのだ。
――今はもう、自由に会うことすら叶わない。
瞬時考えてから、黎深は手にしていた扇を懐にしまった。
「おい、お前、確か隠れんぼをしていたと言っていたな」
「…………? はい……」
「では、隠れんぼは終いだ」
「わあぁっ!?」
黎深が空いた手でひょいと幼子を抱え上げると、幼子はすっとんきょうな声を出した。
「わわわっ!?」
「残念だったな。お前は"鬼"に見つかったんだ」
「え、え、おに???」
状況が上手く飲み込めていない幼子はわたわたと身を捩ったが、黎深は幼子を下ろそうとはしなかった。
初めて抱き上げた幼子は、思っているよりもずいぶんと小さく軽く、黎深は妙なところで感動を覚えていた。
「軽いな、お前」
「えっ、えっ、えっ? お、おろしてください!! ここで待っていないと……!」
きっとみんな困ります、と暴れた幼子に、黎深はふんと鼻を鳴らした。
「ダメだ。――私が見つけてしまったからな」
本物の鬼に見つかってしまったのだから覚悟するんだな、と言い捨てた黎深は、ふと気付いて幼子に問うた。
「お前の名前は?」
「……………………コウ」
コウは黎深に引き取られ、のちに"紫の上"と名付けられることとなる。
END.
【←3】
リコラ様からのリク、「源氏物語パロディー」でした。ちなみに……
葵の上(源氏の正妻。夫婦というよりは幼なじみ)…百合
末摘花(あまりの美貌に周囲がよく人事不省に陥るため、逆にブサイクとの噂を流されている)…黄鳳珠
頭の中将(源氏のライバル)…藍雪那
とゆー裏設定もあります(笑)。

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