*冥護攻防*
(10万HIT企画その5)
【4】
吏部尚書室を辞した楊修は、まっすぐ自らの席へと戻った。隣の席はもちろん、楊修が研修を仰せつかっている李絳攸だ。
楊修の姿を見るなり、絳攸は笑顔で迎えてくれた。
「楊修様。お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
あんな鬼上司と退治した後では、姿を見るだけで心が和む。楊修にも自然と笑みがこぼれた。
だが今日は、そんな絳攸の隣(本来楊修の席だ)に来客があった。意外な人物の姿をみとめ、楊修は眉を上げる。
「おや、陳殿?」
それに陳と呼ばれた官吏は軽く頭を下げ、そそくさとその場を後にした。
「では私はこれで……」
「はい、どうもありがとうございました、陳官吏。せっかくお誘いいただいたのにすみません。皆様にもよろしくお伝え下さい」
その言葉に楊修は首を傾げつつ、それまで陳が座っていた席に腰を下ろした。不思議に思いながら絳攸に問いかける。
「絳攸。陳殿と話していたのか?」
陳官吏は、無口で無愛想、仕事はそこそこできるが面白みのない堅物男として吏部では有名だった。仕事以外では滅多に口を開かず、楊修も彼が誰ぞと歓談している様などついぞ見たことがなかった。
「はい」
「……何かに誘われたのか?」
「ええ。今夜、吏部の皆で酒楼に行こうかと思っているのでよかったら一緒に、と。お断りしてしまいましたが」
「酒楼? 吏部でか?」
楊修は、そんな話は聞いていなかった。今のこの吏部で、何人も連れだって遊びに行けるとも思えない。おおかた「皆も誘ったのだが都合が悪くなったらしくてな」とでも言って2人切りになる気だったに違いない。
楊修は心の中で舌打ちをした。
「それにしても絳攸。よく陳殿と話せたな」
「そうですか? よくお話になりますし、色々と教えていただきますよ」
楊修は彼と、仕事上最低限必要な言葉以外交わしたことはない。
そういえば、と楊修はあるウワサを思い出した。
「……絳攸、その、陳殿のことを紅尚書に話したことは?」
「え? 確か、吏部でのことを聞かれた際に話しました。吏部はとても面倒見のよい優しい先輩方が多いと」
もちろん楊修様をはじめとしてです!、と言ってくれた絳攸に笑顔を返して、楊修はさすが、と呟いた。
陳官吏は次の除目で地方勤務になるというウワサは、どうやら本当らしい。
「ところで絳攸、きみは陳殿のことをどう思う?」
「親切な方ですよね。楊修様がお留守で困っていると、よく助けて下さるんですよ」
邪気なくにこにこと笑ってそう言った絳攸を見て、やはり彼にはもう少し"普通"を教えた方がいい、と再認識した楊修であった。
END.
【←3】
美沢様からのリク「楊絳(+黎深vs楊修)」でした。楊絳というよりは、親ばか対決みたくなってしまいましたが……。大変遅くなりまして、すみませんでした!

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