*冥護攻防*
(10万HIT企画その5)
【1】
「あの、今度の公休日に外出したいと思うのですが、よろしいでしょうか、黎深様」
夕餉の途中でそう切り出してきた養い子に、黎深は無表情で問うた。まるでそう聞かれるのを予知していたかのように、逆に問いかける。
「どこに行く気だ」
「それはまだ決めていないのですが」
「決めていない? 決めずに出掛けるのか。何をしに行くんだ、お前は」
呆れたような声が降ってきて、絳攸は困ったような表情を見せた。
「え、えーと、何をするかもこれから決めるんですが……」
どう答えればよいのだろうという表情の絳攸を正面から見つめて、黎深は眉根を寄せた。
無表情から明らかに不機嫌な顔に変わった養い親に、絳攸は少々頬を引きつらせる。
「……れ、黎深様?」
「相手は誰だ」
「へっ?」
「一人で出掛けるのではないのだろう?」
「ど、どうしてですか!?」
何で分かったんだろう、という顔をした絳攸に、黎深は"不機嫌"に"呆れ"を加えた顔ではきすてる。
「やることも決まってないのに一人でフラフラ出掛けるバカがいるか。お前は迷子になるのがオチだ」
「……………………っ」
黎深は呆れ顔のまま手を伸ばし、絳攸の口元についていた米粒を取るとそれをそのまま自らの口へと運んだ。
すっぱりと見抜かれ、なお子供扱いされて、絳攸は皿に散らばっている炒飯をレンゲでもじもじとかき集めながら下を向いた。
「……だめですか?」
その問いに黎深は、はぁ、と呆れた溜息を零した。
「それは私の問いに答えてから聞きなさい。相手は誰だ」
言葉と共に出た溜息と冷たい声音から、養い親の答えは聞く前から予想できた。だが絳攸は一縷の望みを持って相手の名を口にする。
「えーと、ええと、…………よ、楊修様、です」
「何であんなヤツと」
そう言って盛大に顔をしかめた黎深は、手にしていた盃の中身をぐびりとあおった。黎深が空になった盃を差し出すと、察しの良い家人がそれに酒をつぎ足す。
無言のうちにそれを何度か繰り返した養い親に、しびれを切らした絳攸は再度問いかけた。
「…………れ、黎深様」
「なんだ」
「それであの、だめですか?」
「…………………………自分で考えなさい」
たっぷり十拍沈黙してからそう答えた黎深は、そのまま「もう寝る」と言って席を立ってしまった。
食卓に一人残された絳攸はただただ首を傾げて食後の甘味を口に運ぶしかなかった。
【2→】
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