*お散歩日和*
(10万HIT企画その3)


【4】

「こんなんで本当に絵入りのりんごができるのかなー」
花や亀、鶴などをりんごに描きながら、譲葉は首を傾げていた。幼い玖琅はきゃっきゃ言いながら無邪気にりんごに絵を描いている。
「できるに決まってる! 絵付きのりんごが上手くできたら、貴陽の兄上にお送りするのだ!」
「って、きみが描いてるの、絵だけじゃないじゃん……」
譲葉がふと振り返ると、邵可、邵兄上、黎深、などと書いてあるのはまだいいとして、兄上愛、邵黎など、色々書きまくっていた。
譲葉はこれから収穫までこのりんごたちの世話をしてくれる果樹園の人たちを少々気の毒に思った。
かくいう譲葉もドサクサに紛れて「馬鹿黎深」りんごを作ってしまったのは内緒だったが。
気の利く家令が持たせてくれた昼食を食べ、またせっせとりんごに絵を描き――……。一区画分のりんごにラクガキし終わったのは、もう陽も暮れようという頃だった。
「よし! これだけあればいいだろう。これで兄上はりんごを食べるたびに私のことを思い出してくださるに違いない!」
「……上手くできたらね……」
黎深の墨に汚れた指を拭ってやりながら、譲葉は溜息混じりに呟いた。
「何か言ったか」
「いいえ何も。もう陽も落ちるから、そろそろ帰らないと――って、あれ、玖琅は……?」
黎深の指を拭き終わり、次は玖琅、と振り向いた先に、玖琅はいなかった。
「玖琅ならさっき樹の根本で昼寝しているのを見たぞ」
「ああそう、それなら……って、黎深! そのまま放ってきたの!?」
「気持ちよさそうに寝てたからな」
「信じらんない!」
しれっと言い切った黎深を無視して、譲葉は玖琅を探し始めた。いくら昼間暖かかったからといって、陽の傾きとともにだんだんと外気は下がってきている。小さい子供が外で寝ていたら風邪を引きかねない。
「玖琅、玖琅〜?」
心配するほどのこともなく、玖琅は探し始めてすぐに見つかった。黎深の言うとおりすぅすぅと寝息を立てている。
「よかった玖琅……」
寝入った玖琅を譲葉が抱き上げようとすると、それを遮るように手が伸ばされた。
思わず譲葉が振り返ると、ムッとしたような表情の黎深と目が合う。
「玖琅ばかり構うな。お前は私の側付きだろう」
「僕の仕事は紅兄弟の子守なんだよ。…………黎深?」
譲葉を遮ってみずから玖琅を抱き上げた黎深に、珍しいこともあるものだと譲葉は首を傾げた。
「…………お前より私の方が力が強い」
「……背は低いけどね」
「ふん、そんなこと言ってられるのも今だけだ。帰るぞ」
「あっ待ってよ黎深、筆置きっぱなしじゃん!」
玖琅を背負ってスタスタと歩き出してしまった黎深のあとを、譲葉は慌てて追いかけた。


数か月後、黎深のもくろみ通り綺麗に模様の染まったりんごが収穫され、そののち「絵入りりんご」は縁起の良い贈答品として紅州名物となった。それを送った貴陽の邵可からも珍しく返事が届き、黎深はしばらく浮かれていたという。
ちなみに、まだら模様に赤く染まったりんごを手にして「黎兄上のお顔です〜」と周囲に見せて回った玖琅を見て、黎深は「だからアレを連れて行きたくなかったんだ」と呟いたとかなんとか。

END.
【←3】
reki様からのリク、「黎深がまだ小さい頃の紅本家の小説」でした。邵可がいない間はチビちゃんたち3人で仲良くわいわいやってるといいな……、と、こんな感じになりました。

【キリリクTOPへ】
【TOP】
(C) asakawa itsuki
all right reserved.