*少しでも ちょっとでも*
(絳攸・楸瑛・邵可)
【4】
「この書は絳攸殿の筆ですね?」
「あ、はい。何か間違っていますか?」
「いいえ、そういったことではありません。――ご自分でお気づきではないですか?」
「?」
もぐもぐごっくん、と最後の一口を嚥下して、絳攸は頷く。なんだろう、と身体中から疑問を浮かべたような絳攸に、邵可はやさしく微笑んだ。
「いえね、懐かしいな、と思いまして。絳攸殿の筆は、黎深とそっくりですね」
「……え…っ?」
思ってもみない指摘を受けて、絳攸はきょとんとした。
「字は黎深から習ったのでしょう? 師に似るのは当然ですが、それにしても絳攸殿の書は黎深のものにとてもよく似ています。よく、練習しましたね」
そう邵可に言われ、絳攸はかぁっと頬を染めた。
絳攸は幼い頃、黎深の書いてくれた手本を、それはもう穴があくほど観察し、そっくりに書けるようになるまで何度も何度も練習したのだ。そうすることで、少しでも養い親に近づけるのではないかと思って。
邵可にそれを見透かされたような気がして、絳攸は照れた。
赤くなった友人を見て、楸瑛はにやにやと笑う。
「へぇ〜」
「な、な、なんだ楸瑛! 気持ち悪い笑い方をするなっ!!」
「だって絳攸、君があまりにかわいらしい反応をするから」
「かっ……、かわいいなんて二度と言うなっ!!」
「おや、『美しい』や『綺麗』の方がよかったかい? でも君はまだどちらかというと『かわいい』だと……」
「何の話をしてるんだ! 俺は女じゃない! そんな形容嬉しくない!」
そんな少年たちのやり取りを、邵可はにこにこと笑いながら聞いていた。彼は、楸瑛殿の兄君たちと黎深もこんな風に言い合っていたな、などと懐かしく思い出していた。だが、当初の目的だった書物を棚から取り出すと、その場からすぅっと出ていってしまう。
「誉めているんだよ、絳攸」
「うるさい! お前、頭に花でも咲いてるんじゃないのか!?」
後に残った二人は、お茶がすっかり冷めるまで喧々と言い合っていた。
END.
【←3】
絳攸の筆跡は黎深様似だといいな、と思って書きはじめたお話なんですが、なんだかただの進士話?みたいな……(笑) しかも双花にもなりませんでした…。
そういえば邵可様は、楸瑛のことを「藍将軍」と呼ぶなぁ、と思いまして。「楸瑛殿」じゃないですよね。ずっと姓読みなのかしら? と、あんな感じ(藍進士)にしてみたんですが……、な、なんか余所余所しい……。ごめんね楸瑛(笑)

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