*父の日*
(絳攸・楸瑛・黎深・奇人・邵可)


【1】

トントンと扉を叩く音に、絳攸は顔を上げることもなく答えた。
「どうぞ」
相手が室に入ってきた気配にも、仕事をする手を止めず、チラと視線を投げるだけだった。
絳攸はその視界の中に見慣れた色を捉えて、ああこいつか、と内心納得して仕事を続ける。
「失礼するよ。――今日もすごいね、君の室は」
そう言った楸瑛は、武人とは思えない優雅な藍色の衣をひらりと翻すと傍らの椅子に腰をかけた。到底歓迎されているとは思いがたい友人の態度にもめげずに話し出す。
「ねぇ絳攸、知っているかい? 明日の公休日は"父の日"と言って、父親に感謝を表す日なんだよ」
「…………」
「絳攸、聞いている? 黎深殿に何かしなくていいのかい?」
「…………今度は本当だろうな?」
いたって軽い口調でそう言った友人を、絳攸はギロリと睨んだ。
絳攸は、この友人の言葉を信じたがために"えいぷりるふぅる"では散々な目にあったのだ。楸瑛の言葉通り、黎深にウソをついてしまったが為に退官騒動まで巻き起こし、何故だか後でやたらと構われた――という経緯がある。
「ほ、本当だって」
「…………。まぁいい。それで、"父の日"とは、どうすればいいんだ?」
「そうだね。日頃の感謝を表す日だそうだから、一般的には贈り物をしたり……、といったところかな」
「なんだ、そんなことか」
それならば万が一、"父の日"とやらが楸瑛のウソだったとしても、支障はない。贈り物をするだけならば、黎深様を怒らせたり困らせたりすることもないだろう、と絳攸は思った。
「では楸瑛、明日は付き合え」
「――え?」
「黎深様への贈り物を選びに行くんだ」
"父の日"に相応しい贈り物を一緒に選んでくれ、と言われた楸瑛は、友人の意外な申し出に目を白黒させた。

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