*春雪*
(黎深・絳攸・楊修)


【4】

回廊を歩いていた黎深は、少し先で佇む人影に気づいて声を掛けた。
「どういうつもりだ、楊修」
「どういうつもりとは?」
「アレに近づくとはどういう了見だと聞いている」
「心外ですね。私はただ府庫で資料を閲覧していただけですよ」
くすくすと笑った楊修は、懐から鎖のついた眼鏡を取り出すとスッと掛けた。途端に表情が一転する。
本来の楊修は決して凡庸な平官吏などではなく、隅々から才気迸る覇気に溢れた青年だった。
「ウソつけ。お前が今府庫で調べなきゃならん資料なぞないはずだ」
「おや、バレちゃいました? でもあなたが"書を読むために"府庫へ行くよりも珍しいことじゃないと思うんですがね。私は意外と読書家なんですよ」
春の雪でも降らなきゃいいんですが、と言った楊修は、そういえば、と言葉を続ける。
「あの子、本当にあなたの養い子なんですか? あんなに"騙されやすそう"で"少女のような子供"だとは思いませんでしたよ」
「"素直"で"可愛い"と正直に言ったらどうだ」
「………………まぁ、そう言えなくもないですが」
しれっと言い切った黎深に、楊修は苦笑する。邸に帰ったら紅黎深観察日記「好きなもの」欄に兄・姪と並んで養い子の名前も書かなければなるまい、と思った。
「お前、絳攸を気に入ったな」
「…………まあ、あなたよりは興味がわきましたね。あの歳で状元及第なら将来有望ですし。――楽しみですね。いつか吏部に来るのでしょう? 未来の吏部尚書殿」
「知るか」
「そうしたら私に研修任せてくださいね。手取り足取り、ビシバシしごいて一人前のオトナにしてあげますから」
「何っ!? そんなことダメだ! 絶対許さん!!」
「許さん、と言われても、もう決めました。あなたと違って役に立ちそうな貴重な人材なんですからね」
上がってくる日が楽しみだ、と微笑んだ楊修は、直後どこかから飛んできたみかんが頭にぶつかり、数刻ばかり昏倒していたという。

END.
【←3】
黎深様の養い子が朝廷入りしたと聞いて様子を見に行った楊修と、絳攸をそんな男と2人切りにさせないために楸瑛が帰ってくるまで府庫にいてくれる黎深様でしたー(笑)

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