*千変万化*
(黎深・邵可)


【3】

急に思ってもみなかった相談をされ、邵可は珍しくも一瞬ほうけた。
「きゅ、及第するとは思ってましたが、状元、とか、史上最年少、とか、嬉しい誤算がいっぱいで……っ。しかも、藍家の弟を抑えての状元ですしっ、その……」
嬉しすぎて、と呟いた黎深に、絳攸殿は状元及第したのか、と邵可は思った。それではこの弟がこんなに喜ぶのも無理ないかもしれない。
「普通でいいんじゃないかな……。一緒に喜んであげればいいじゃないか」
「でも! 普通でいられる自信がありません!!! それに、史上最年少状元及第ごときで一緒に浮かれるなど、親としての威厳がなくなります!!!」
「そう言われてもねぇ……」
普段が威厳たっぷりすぎるのだから(ハタからは威圧しているとしか取れないほどだ)絳攸殿本人にもたまには甘いところを見せてあげればいいのに……、と邵可は思ったが、口には出さなかった。
極端から極端に走る弟は、邵可が一言「絳攸殿を甘やかせ」と言ったらトコトンまで甘やかすだろう。だがそれはきっと、絳攸にとっては少々気の毒なことになるに違いない。
「……やっぱり私は『普段通り』でいいと思うよ。ところで黎深、君、仕事は?」
今は、もうすぐ昼になろうかという時刻だ。休憩にはまだ早い。通常ならば各部署にて仕事をしているべき時間である。
「――帰ったらやります」
「じゃあ今すぐ帰りなさい。吏部の皆様にご迷惑をお掛けしてはいけないよ」
「…………」
「返事は、黎深?」
「…………はい、あにうえ……」
先ほどの嬉しそうな表情とは打って変わってシュンとしてしまった黎深を府庫から追い出しつつ、邵可はふと気になっていることを訊ねた。
「そうだ黎深、君は絳攸殿に何をあげるつもりなんだい?」
「……秘密です」
「おや。私にも教えてくれないのかい」
「――そのうち分かります。アレに会ったときにでも」
では失礼致しますと言った黎深は、それまでのデレデレ笑顔とは打って変わり、ハラリと扇を翻して自信たっぷりな能吏の表情で室を出ていった。


それから数ヶ月後、進士式で絳攸を見かけた邵可は、おや、と思った。
白い進士服に身を包んだ絳攸の、色素の薄い髪の間からときおりチラチラと紅い色が覗いている。
(なるほど……。あれが黎深の言っていた「及第祝い」、か。それに――)
奉天殿をぐるりと見渡すと、たくさんの野次馬たちに混じって、邵可の弟の姿も見えた。
その耳元には、やはり遠目からでも目立つ深紅の飾り。
「あの子もずいぶんと気の効いたことが出来るようになったものだ。本当に、変わるものだね、人というのは……」
そう呟くと邵可はひとつ微笑んで、その場をを後にした。

END.
【←2】
わが子の及第自慢をする黎深様でした(笑)。そのうち、黎深様が絳攸にピアスを贈ったときのお話なんかも書きたいです…。

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